前世が悪女の男は誰にも会いたくない

イケのタコ

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13 公園の、その後に おまけ

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……最悪だ。近づいてはいけないと分かっているのに、色々心が追いつかない。
顔を上げられない俺は、ベッドの隅で三角座りをし壁に頭を押し付けて固まっていた。
 
「良かったな、体調が悪かっただけで」
「はい……」

そう言ってベッド隣に立つのは雪久であり、この場所は雪久の部屋である。
遊びに行った帰り、気持ち悪くなった俺は公園のベンチで一休みしたから帰ろうと思っていたら寝ていたようで、公園に来た雪久に背負われここまで来た流れだ。
 
なぜ、事情を知らないはずの雪久が公園に来たのかというと、自宅に帰った陽菜が兄に見てきて欲しいと頼んだから。いらない事をしたな、と思ったのは内緒だ。
 
公園で、雪久と会話をしたのをなんとなく覚えているが内容を全く覚えておらず。
俺の意識が戻ったのは、雪久に運ばれている最中に一度吐いたことによって目が覚めた。
雪久に背負われ運ばれ介抱されている事実に、まだ覚めない頭のまま手を離せば「落ちる」と怒られた。
再び焦って肩を掴むが、雪久の肩あたりに自身のもので濡れているのを見て、一気に頭から血の気が引いていくのを感じ、悲鳴を上げ騒いだ。

「気持ち悪さ、もうないか」
「はい、無いです。汚して、騒いで申し訳ないです」
「服は変えれば良いから気にして無い。それより、親には連絡したか」
「はい、しました。回復次第すぐに帰ります」
「焦らなくても、明日の朝までいてもいいけどな」

雪久はそう言いながら汚れた服を脱ぎ、タンスから綺麗な服を取り出して着替えていく。

「いや、それはちょっと、迷惑なので」
「俺の親には許可はとってあるから、気にするな」

いっそうのこと土に埋めてくれと、汚れ一つない無地の壁を見つめていたら前髪は押し上げられ視界が明るく開けた。
視線を上げれば雪久の手が額に当てられていた、黒い瞳がこちらを見ていた。
その瞳に息が詰まって勝手に壁の隅に体が寄っていく。

「っ……」
「熱は、引いているな」

特に表情は変わることなく雪久の手が離れていく。ずっとその間、目が離せないでいた。

「で、何があったんだ。公園で一人泣くぐらいのことはあったんだろ」
「別に泣いてないです」
「ここまで、連れてきたんだ。何も無いとか、無しだ」
「あの、俺……変なこと言っていませんよね」
「…………言ってない」

溜めてから言わないで欲しい。ベッドの端に腰掛ける雪久、会話を終える気はないようだ。

「何も言ってないから、ここで話せ」
「いや、本当に何もなくて。ただ、飲んだジュースが良くなくて、気持ち悪くなっただけで」
「はっ? ジュースってなんだ。酒でも飲んだのか」
「それが分からなくて。飲んだジュースに何か入っていたぽくって……」
「盛られたのか」

徐々に目を細めていく雪久は、俺を疑っている。

「ちっ、違うから、置いてあった物を間違えて口にしただけで、そういう集まりじゃないから」
「でも、居たわけだな」
「そうだけど。ほら、もう元気だし、こういうことも一つや二つあっても、おかしくない訳で」
「二つもあったら困るんだが」

ベッドに手をついて体を俺に向けては、雪久が睨んでくるから体を小さくする。

「な、なに」
「次から、そこに行くのは禁止だ」
「―――何故。別に迷惑……かけたけど、今度は迷惑かけないから」
「そういう問題じゃない。顔も分からないほどに交友関係が広いのだろ。だとしたら、同じ奴か、それ以上が、いつ紛れてもおかしくないって事だろ」
「それはそうかもしれないけど……、俺の勝手で関係ないじゃないですか」

前にも言ったように、俺の交友関係に雪久は一切関係ない。だから、雪久に恋人がいようと婚約者がいようと、妻でもない俺に言う権利はない。
なのに、この男は

「ある。言う権利はある」

訳がわからないこと吐いては距離を詰めてきた。

「ない。俺がどうしていようがいいでしょ」
「気になるから公園まで行った。お前はどうなんだ。好きな人出来たからって、連絡を断つほど嫌いになったか」

どうなんだと、詰められても困る。

「嫌いというか……だって……好きでもないのにぐちゃぐちゃうるさい……と思う」
「……返事する前に、振ったのはお前のほうだろ」

端に逃げていたら、いつの間に電灯の光は遮られ周りは影を作っていた。
冷や汗を流しながらゆっくりと顔を上に向ければ、これでもかと眉の皺を溜めた雪久が俺を見下げる。

「もう一度言う。今後一切、そういう遊びに参加するな。俺を嫌いになろうが連絡も絶ってもいいが、これだけは守れ」

本気で怒っている。一段と低い声に背筋がザワザワと騒ぎ、身体が石のように固まる。
前世の記憶に引きずられて忘れていた。鼠と猫の関係のように、この人が生物として上位の存在だった事を。

「あんたに、恋人を作っても、誰を好きになっても関係っ」

それでも勇気を出して反論しようとしたが、雪久に鼻を摘まれた。
 
「それ以上、喋ると塞ぐぞ。ここからは言い訳はなしだ。俺はいまさら起きた事を無かったことに出来ないし、お前のことを見て見る振りも出来ない。次はその遊びとやらに行くなら、本気で着いて行くからな。いいか、分かったか」

助けてくれた人間だと思えない捕食者の顔に、避けることも逃げるも阻まれ。頭を振る人形のように、ただ、ただ頷くことしか出来ない。

「兄さん。赤橋くんの体調良くなった? 救急車とか呼ばなくて大丈夫かな」
「ああ、大丈夫だ。休んでから帰るらしい」

部屋の扉を叩く音と共に、妹の声がしてきて兄はすぐに返事をする。
膝を立てベッドから離れていく雪久。やっと腕の囲いから解放され、汚れた服を持って雪久は部屋から出て行く。
そして、抗う戦意を根こそぎ削がれた俺は思考を停止。

ーーー駄目だ。牙という、牙を抜かれた。

歩く気力もなく、次の朝に帰ることになるのだった。













おまけ


タンタンと一定リズムが、子守唄みたいで心地良くなって、喉から何かが迫り上がっきては一気に気持ち悪くなって「うっぷ」と喉が鳴る。

「おい、まさかここで吐くじゃないだろうな。吐いたら、ここで置いていくからな」

先ほどと真逆のことを言ってくる雪久に、俺は肩に回した手にさらに力を込めた。
雪久がなんとも言えない表情を向けてくるから、平気だと肩を軽く叩いて安心させる。

「なんか、楽しそうだな」
「えへへ、内緒」

そう言われて思わず、口角が上がり含んだ笑い声が口から漏れる。
それでも気持ち悪いことは変わりないので……、再び騒がしくなったのは数分後のことである。
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