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14 相談と友人
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疲れた。
少しの気の緩みのせいで、雪久に軽く絞められた訳だが。
関係ないだろと抗議したいけれど、本気で鼻をもぎ取られそうなので口は閉めておいた。
あまり口出しをしない人だと思っていたがーーー、とりあえず約束を守って全ての誘いは断り、今は高校生活に専念している。
「最近、付き合い悪いって言われてるけど、どうしたの」
ここは学校の教室であり、正面の席に座る友人の薮内(やぶうち)は購買の菓子パンを齧りながら話す。
薮内は高校から知り合った友人であり、遊び仲間を紹介してくれた人物でもある。
そのせいで、俺が曖昧な返事で断るから、話が薮内に回ってきたのだろう。
「分かっているんだけど、そういうのは禁止になって」
「誰に……、まさか親とか? ごめん、それは悪い事を言った」
「いや、親じゃなくて、知り合いというか、知り合いより深い人のような……なんというか」
「えっ、いつのまに彼女ができたんだ」
「違う、恋人じゃない」
「嘘だぁ。急に参加しないってそういう事だろ。いいよ、隠さなくても」
「違うって、本当に知り合いで」
「じぁ、約束守る理由がなくないか。恋人でもないのに。分かった、その人に気があるんだろ」
「あっ、あるわけないだろ」
「なんか、詰まるところが怪しい」
「ちがうって」
連絡はまだ絶ったままで……あれ、バレるわけでもないのになぜ俺は大人しく従っているのだろう。飲み干した紙パックのストローを無意味に齧る。
「ほんと、なんでだろう……」
「なに、包丁持ち出されて脅されるわけ」
「そんなわけないだろ。その人にそんな物を持ち出されたら死んでいる」
「どんな知り合いだよ。まぁ、根を詰めているみたいだし、来週遊びに行くか」
「いや、そういうのは控えとく」
「大丈夫。俺しかいないし、飯も奢る」
ニコニコと笑顔で親指を立てる友人に、日常が退屈になってきていた俺は誘われるのだった。
*
遊びの当日、時刻は真上に太陽が上る頃。
場所は自宅から電車で数十分、待ち合わせは二人の銅像が立つ駅の前。
先に待っていた薮内に連れられ、向かったのはバッティングセンターだった。
金網の中でピッチャーが投げる映像共に、穴から勢いよくボールが飛び出し、たまにカッキーンという音と共に、ボールが天井に向かって打ち上がる。
「どうだ。浮気は疑われないだろ」
自慢げに金属バッドを持つ友人に、また否定すると揶揄われそうなので顔を歪めるだけに止めておいた。
無言でバットを受け取り、安全のためにヘルメットを被る。俺は、嫌な記憶が思い浮かびそうな金網の中に入っていく。
機械にお金を入れれば、先ほど見ていたようにボールが飛んでくるので見様見真似でバットを振ってみたが当たらず、金網にボールがぶつかる。
「もっとボールよく見ないと」
「分かってる」
人がやっているときは案外簡単そうに見えたが、実際は結構難しい。
あーだ、こーだと薮内にアドバイスをもらいながらも打ち続け。
何度も打球は後ろの壁に打ち当たり、前に行ったと思えば高く上がるだけで飛ばす。何度も失敗して、やっとのことで……
「おっ」
薮内の驚く声と、明らかに今までと違うバットから高らかな音が鳴り、ボールは曲線を書いて高く飛ぶ。
ボールは向こう側の壁、一番高い位置にぶつかっては明るい電子音が鳴る。そして掲げてあった電子版にホームランという赤い文字が点滅しながら浮かび上がった。
「おめでとう!」
後ろで拍手する薮内。「よしっ」と俺は手のひらを握り小さくガッツポーズをするのだった。
「意外に楽しかった」
「だろー。はい、これあげる」
薮内は自販機で買ってきたスポーツドリンクを放り投げてきたので受け取る。
「でも、あんなにはしゃぐと思わなかったけど」
隣に座りカラカラと笑う友人。
ボールを天井くらいまで高く上げてから、高揚感が収まらず熱中して打ち続けてしまい。休みなくやっていたら流石に疲れた。汗を拭きながら金網から出て、壁側に設けてあった背のないベンチに座り休んでいるところだった。
「なんかスッキリした顔しているし、連れてきて良かったよ」
「ありがとう、楽しかった」と再び薮内に伝える。
俺が悩んでいるのを見兼ねて、気晴らしに連れてきてくれた薮内。いい友人と出会えたとしみじみと実感する。
……だから、あの事を話しても別にいい気がしてきた。友人が多い薮内の口が固いこともよく知っている。
「あの、話したいことがあって。与太話だと笑ってもいいから聞いてほしい」
「うん? なに、改まって」
俺は前世の話を何も関係のない薮内に軽く話すのだった。そして、薮内の感想はというと
「前世の記憶……何その話、面白い!」
黒い瞳をキラキラとさせて、言葉の語尾は高らかに跳ねていた。
「結構、頭がおかしい話だと思うけど。よく、信じるな……」
「嫌だって、そういう話をするタイプじゃないじゃん。幽霊話だって聞かないし、話さないから」
「幽霊話は嫌いなだけ」
「えー、面白いのに」
「面白くない。怖い話は嫌いなんだ」
「なるほど、なるほど」と腕を組み薮内は何かを確信したように頷いた。
「好きだけど、好きと伝えられないという、恋愛相談だね」
「そうじゃない。恋愛相談じゃなくて、人生相談だ。俺の人生がかかってる」
「どっちも一緒じゃん。伝えないと死ぬと困った呪いだね」
「逆。伝えると死ぬだ」
「あれ、そうだった? まぁ、俺が言いたいのは、もう少し気軽に考えてみたら。赤橋は赤橋だし、その前世とは関係ないんだしさ」
薮内の言うように、前世からの家族や使用人は出会うことはあっても、繋がっていた関係は全て断ち切られている。
前世とは全く違う所からのスタート。
「過ちがあっても前世は前世だし。友人くらいになっても許されると思うけど」
「……許されるかな」
「許される、ゆるされる。相手と話す機会があるなら少し話してみたら」
何気ない友人の言葉に感情が揺らぐ。海北に言われたことを忘れたわけじゃないけれど、少しくらい隙を空けてもいいと思えるのは逃げることに疲れてきたのか。
「何かあった時は、俺がどうにかしてあげる」
胸を張って任せろと顔を決めるが、期待はしないほうが良さそうである。すると、薮内は体をくねらせて、すこし鼻息を荒くして期待を込めたように
「なぁ、なぁ、聞きたいんだけど、もしかして前世に俺はいたわけ」
「……いや、いなかったと思う。もし、知っているならすぐに分かるから」
前世の知人に似ていると警戒した時点で俺は避けている。
俺みたいに女から男に変わっていても、これだけ近くにいれば何かを気づくけど、それもない。
薮内は前世の時は会っていないと、確信できる。
「なんだ、会えたことが運命だと思ったのに、残念」
「嘘つけ、口元がニヤついてる」
「バレたか……」
冗談混じりに話を沸かせながら、薮内は何一つ嫌な顔をしなかった。
「与太話に付き合ってくれたおかげで、ちょっとスッキリした。ありがとう」
「それは良かった。次、何かあったら任せろ」
少しの気の緩みのせいで、雪久に軽く絞められた訳だが。
関係ないだろと抗議したいけれど、本気で鼻をもぎ取られそうなので口は閉めておいた。
あまり口出しをしない人だと思っていたがーーー、とりあえず約束を守って全ての誘いは断り、今は高校生活に専念している。
「最近、付き合い悪いって言われてるけど、どうしたの」
ここは学校の教室であり、正面の席に座る友人の薮内(やぶうち)は購買の菓子パンを齧りながら話す。
薮内は高校から知り合った友人であり、遊び仲間を紹介してくれた人物でもある。
そのせいで、俺が曖昧な返事で断るから、話が薮内に回ってきたのだろう。
「分かっているんだけど、そういうのは禁止になって」
「誰に……、まさか親とか? ごめん、それは悪い事を言った」
「いや、親じゃなくて、知り合いというか、知り合いより深い人のような……なんというか」
「えっ、いつのまに彼女ができたんだ」
「違う、恋人じゃない」
「嘘だぁ。急に参加しないってそういう事だろ。いいよ、隠さなくても」
「違うって、本当に知り合いで」
「じぁ、約束守る理由がなくないか。恋人でもないのに。分かった、その人に気があるんだろ」
「あっ、あるわけないだろ」
「なんか、詰まるところが怪しい」
「ちがうって」
連絡はまだ絶ったままで……あれ、バレるわけでもないのになぜ俺は大人しく従っているのだろう。飲み干した紙パックのストローを無意味に齧る。
「ほんと、なんでだろう……」
「なに、包丁持ち出されて脅されるわけ」
「そんなわけないだろ。その人にそんな物を持ち出されたら死んでいる」
「どんな知り合いだよ。まぁ、根を詰めているみたいだし、来週遊びに行くか」
「いや、そういうのは控えとく」
「大丈夫。俺しかいないし、飯も奢る」
ニコニコと笑顔で親指を立てる友人に、日常が退屈になってきていた俺は誘われるのだった。
*
遊びの当日、時刻は真上に太陽が上る頃。
場所は自宅から電車で数十分、待ち合わせは二人の銅像が立つ駅の前。
先に待っていた薮内に連れられ、向かったのはバッティングセンターだった。
金網の中でピッチャーが投げる映像共に、穴から勢いよくボールが飛び出し、たまにカッキーンという音と共に、ボールが天井に向かって打ち上がる。
「どうだ。浮気は疑われないだろ」
自慢げに金属バッドを持つ友人に、また否定すると揶揄われそうなので顔を歪めるだけに止めておいた。
無言でバットを受け取り、安全のためにヘルメットを被る。俺は、嫌な記憶が思い浮かびそうな金網の中に入っていく。
機械にお金を入れれば、先ほど見ていたようにボールが飛んでくるので見様見真似でバットを振ってみたが当たらず、金網にボールがぶつかる。
「もっとボールよく見ないと」
「分かってる」
人がやっているときは案外簡単そうに見えたが、実際は結構難しい。
あーだ、こーだと薮内にアドバイスをもらいながらも打ち続け。
何度も打球は後ろの壁に打ち当たり、前に行ったと思えば高く上がるだけで飛ばす。何度も失敗して、やっとのことで……
「おっ」
薮内の驚く声と、明らかに今までと違うバットから高らかな音が鳴り、ボールは曲線を書いて高く飛ぶ。
ボールは向こう側の壁、一番高い位置にぶつかっては明るい電子音が鳴る。そして掲げてあった電子版にホームランという赤い文字が点滅しながら浮かび上がった。
「おめでとう!」
後ろで拍手する薮内。「よしっ」と俺は手のひらを握り小さくガッツポーズをするのだった。
「意外に楽しかった」
「だろー。はい、これあげる」
薮内は自販機で買ってきたスポーツドリンクを放り投げてきたので受け取る。
「でも、あんなにはしゃぐと思わなかったけど」
隣に座りカラカラと笑う友人。
ボールを天井くらいまで高く上げてから、高揚感が収まらず熱中して打ち続けてしまい。休みなくやっていたら流石に疲れた。汗を拭きながら金網から出て、壁側に設けてあった背のないベンチに座り休んでいるところだった。
「なんかスッキリした顔しているし、連れてきて良かったよ」
「ありがとう、楽しかった」と再び薮内に伝える。
俺が悩んでいるのを見兼ねて、気晴らしに連れてきてくれた薮内。いい友人と出会えたとしみじみと実感する。
……だから、あの事を話しても別にいい気がしてきた。友人が多い薮内の口が固いこともよく知っている。
「あの、話したいことがあって。与太話だと笑ってもいいから聞いてほしい」
「うん? なに、改まって」
俺は前世の話を何も関係のない薮内に軽く話すのだった。そして、薮内の感想はというと
「前世の記憶……何その話、面白い!」
黒い瞳をキラキラとさせて、言葉の語尾は高らかに跳ねていた。
「結構、頭がおかしい話だと思うけど。よく、信じるな……」
「嫌だって、そういう話をするタイプじゃないじゃん。幽霊話だって聞かないし、話さないから」
「幽霊話は嫌いなだけ」
「えー、面白いのに」
「面白くない。怖い話は嫌いなんだ」
「なるほど、なるほど」と腕を組み薮内は何かを確信したように頷いた。
「好きだけど、好きと伝えられないという、恋愛相談だね」
「そうじゃない。恋愛相談じゃなくて、人生相談だ。俺の人生がかかってる」
「どっちも一緒じゃん。伝えないと死ぬと困った呪いだね」
「逆。伝えると死ぬだ」
「あれ、そうだった? まぁ、俺が言いたいのは、もう少し気軽に考えてみたら。赤橋は赤橋だし、その前世とは関係ないんだしさ」
薮内の言うように、前世からの家族や使用人は出会うことはあっても、繋がっていた関係は全て断ち切られている。
前世とは全く違う所からのスタート。
「過ちがあっても前世は前世だし。友人くらいになっても許されると思うけど」
「……許されるかな」
「許される、ゆるされる。相手と話す機会があるなら少し話してみたら」
何気ない友人の言葉に感情が揺らぐ。海北に言われたことを忘れたわけじゃないけれど、少しくらい隙を空けてもいいと思えるのは逃げることに疲れてきたのか。
「何かあった時は、俺がどうにかしてあげる」
胸を張って任せろと顔を決めるが、期待はしないほうが良さそうである。すると、薮内は体をくねらせて、すこし鼻息を荒くして期待を込めたように
「なぁ、なぁ、聞きたいんだけど、もしかして前世に俺はいたわけ」
「……いや、いなかったと思う。もし、知っているならすぐに分かるから」
前世の知人に似ていると警戒した時点で俺は避けている。
俺みたいに女から男に変わっていても、これだけ近くにいれば何かを気づくけど、それもない。
薮内は前世の時は会っていないと、確信できる。
「なんだ、会えたことが運命だと思ったのに、残念」
「嘘つけ、口元がニヤついてる」
「バレたか……」
冗談混じりに話を沸かせながら、薮内は何一つ嫌な顔をしなかった。
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