冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました

ミヅハ

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友達

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 ブレスレットの1件から週が明けて月曜日。
 うちに制服を置くようになった斗希くんと駅に向かい、改札を通ってホームに降りた僕はいつも見えてた光景に違和感を覚えて目を瞬いた。
 いつも乗る車両の後ろ側にあたるところ。そこには斗希くんの友達がいるんだけど、今日は人数が少ない。さやかさんがいないのは、斗希くんに関わるなって言われたからだろうけど⋯他の子も2人ほどいなくて、斗希くんを待ってたのはあの日にいた子たちとは違う2人だった。
 その子たちは斗希くんに気付くと片手を上げて近付いてくる。

「はよー、斗希」
「彼氏さんもおはよー」
「お、おはよう」
「気安く話しかけんな」 

 恋人だって紹介された時から、さやかさん以外の友達はわりと気さくに接してくれる。でもそのたびに斗希くんが間に入ってこう言うから、僕は今だに自己紹介も出来てない。
 下手すればずっと〝彼氏さん〟呼びになりそう。

「相変わらずケチくさいな、お前は」
「つかさ、聞いたよ。さやかの事」
「⋯⋯⋯」
「見た事ないくらい怖い顔してんな⋯」

 僕からは見えないけど、仲の良い友達が言うんだからよっぼどなんだろうな。
 というか、さやかさんの話なら僕は聞かない方がいいと思うんだけど⋯離れようにも手がしっかり繋がれてて動けない。

「斗希の事が好きだってのは知ってたけど、さすがにあれはやり過ぎだなぁ」
「告白するとか、行動しなかったさやかもさやかだしな」
「まぁ本人もフラれるの分かってたから、言えなかったんだろうってのは察する」
「だとしたらなおさら擁護は出来ねぇよ」

 斗希くんが気付いていたかどうかは定かじゃないものの、さやかさんの言動は傍から見ても分かりやすかった。好きだからこそ、フラれて気まずくなるより友達として近くにいる事を選んだんだよね。
 その気持ちが痛いほど分かって俯いてたら、斗希くんが煩わしそうに息を吐いた。

「あいつの話はすんな」
「⋯はいはい」
「ほんと、バカだよな。アイツ」

 呟く声音に、この子たちが本当にさやかさんを心配してるのが伺える。
 僕はされた側だから何とも言えないけど、出来ればあんまり自分を追い込まないで欲しい。こんなに大切に思ってくれてる人たちの為にも。



 それから数日後。学校からの帰り、改札を抜けたところで僕は声をかけられた。
 見るとあの日にいた2人が制服姿で立ってて、どこか不安そうな様子で所在なさげに立ってる。
 どうしたんだろうって首を傾げたら、2人が一緒になって頭を下げてきた。

「え!?」
「この間は俺の妹がすみませんでした」
「妹?」
「さやかはこいつの双子の妹で、俺は2人のいとこなんです」
「そ、そうなんだ⋯」

 だから普段も遊ぶくらい仲が良いんだ。
 でも帰宅ラッシュも相俟った往来でこの状況は宜しくないから、近付いて顔を覗き込んだら2人ともビクリと肩を跳ねさせた。

「と、とりあえず頭は上げてくれる⋯?」
「あ、は、はい」
「ブレスレットの事は確かにショックだったし悲しかったけど、さやかさんの気持ちは理解出来るから。本当に斗希くんが大好きで、だからこそ知らないうちに恋人になってた僕が許せなかったんでしょ?」
「⋯たぶん」
「うん。だからね、起こした事は良くないけど、気持ちとしては仕方ないんだよ」

 好きであればあるほど、頭に血が上ってついやってしまう事もある。
 結果として、あの子は好きな人斗希くんから絶縁とも取れる事を言われてしまったのだから、充分罰は受けてると思うんだ。
 ブレスレットだってもう僕の手に帰ってはこないんだし、引き摺るより先の事を考えた方が斗希くんにも負担をかけないで済む。

「あの、聞きたかったんですけど⋯斗希とはどこで?」
「酔っ払いに絡まれてたところを助けてくれたの。その姿に一目惚れした僕が猛アタックして、斗希くんが折れる形でお付き合いが始まったんだ。最初は絶対無理だろうなって思ってたんだけどあれからもう1年も経つから⋯諦めなくて良かった」
「意外にアクティブなんすね」
「ね。自分でもびっくり」

 今考えてみれば、あの行動力は僕の人生でも稀に見るものだったかもしれない。それだけ斗希くんに惹かれて、どうしても一緒にいたいって思ったんだろうな。
 2人の強張ってた表情が緩んで肩から力が抜けた時、誰かの腕が後ろからお腹に回されて嗅ぎ慣れた香水の匂いがふわりと舞った。

「何してんの」
「斗希」
「何でお前らがこいつといんの?」
「この間の事、謝ってた」
「ふーん」

 顔を見るまでもなく斗希くんっていうのは分かってたけど、ちょっとだけ空気がピリッとしてるのはどうしてだろう。
 2人もまた申し訳なさそうな顔に戻ってるし。

「で、本人は謝罪しねぇんだ。兄貴に全任せって、いいご身分だな」
「と、斗希くん」
「今は塞ぎ込んでるから⋯」
「てめぇが悪いくせに」
「返す言葉もない」
「ま、もうどうでもいいけど」

 この子たちは悪くないのに、棘のある言葉でチクチクしたあと一瞬にして興味をなくす斗希くんには2人も慣れてるのか苦笑を漏らす。
 斗希くん、2人の事は信用してるって言ってたし、仲が良いからこそ出来るやり取りなのかな。ちょっとだけ羨ましい。

「ちゃんとさやかには釘刺しといたし、行く時間もズラすようにしたから学校以外じゃめったに会わなくなると思う」
「まぁその代わり、俺らは斗希と登下校出来ねぇんだけど」
「別に、遊びに行けばいいだけだろ」
「だな」

 さっきまでの肌が痺れるような空気はなくなって和やかな3人にホッとしてたら、1人が僕の方を向いてにこっと笑った。

「ところで、彼氏さんって名前なんて言うんすか?」
「あ、えっと⋯」
「答えなくていい」
「え?」
「おい、斗希」
「見るな、話しかけんな」
「はあ?」

 ようやく自己紹介出来るって思ったのにすぐに斗希くんに遮られて、あまついつものように背中に隠されてしまったから開いた口を噤むしか出来なくなった。
 せっかく歩み寄ってくれたのに、答えなくていいなんて。

「⋯凄い独占欲⋯」

 子供のように「聞かせろ」「無理」って言い合う2人に苦笑する僕には、もう1人の子が呆れたように零した呟きは聞こえなかった。
 それにしても、友達とこうしてる斗希くんは年相応に見えてちょっと可愛いかも。
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