19 / 54
母からの電話(斗希視点)
しおりを挟む
我慢をやめる。そう陽依に宣言してからは、あいつの傍にいる事の方が当たり前になりつつあった。というか、いつ何をしても、基本的に陽依が嫌がったり駄目っつったりしねぇからそれに甘えてる節はあるんだが。
相変わらず全身で好きだって伝えてくるし、俺が触れるたび嬉しそうに笑う。
2つも年上のくせにスレてねぇし素直だし純粋だし⋯でも、そこが可愛いって思うあたり俺も相当だな。
っつか、どう育ったらあんなまっさらな性格に育つんだ?
よっぽど親の育て方がいいとしか⋯⋯そういえば、陽依の両親の話とか聞いた事ねぇな。今度それとなく聞いてみるか。
「斗希」
日直だからと先に出た陽依を見送ったあと、時間通りに駅に向かってた俺の後ろからダチの1人が声をかけてきた。
立ち止まり待ってるとキョロキョロしながら傍まできて首を傾げる。
「あれ、彼氏さんは?」
「先に出た」
「そっか。じゃあ久し振りに一緒に行けるな」
いつものメンバーの中では比較的穏やかな性格をしているこいつはあの女の兄貴で、しばらくは同じくいつメンのいとこと一緒に別行動してた。
主にあの女のメンケアの為だけど、1人って事はまぁ落ち着んたんだろう。
改札を抜けホームへと上がり、今日は車両の後ろの方で待つ。
別に前と後ろで変わりはしねぇんだけど、何となくダチといる時はこっちってなってんだよな。
今は陽依と一緒だからほとんどねぇけど。
「他の奴ら、斗希があんまりにも彼氏さんといるから寂しがってたぞ」
「そっちは人数いるだろ」
「そういうんじゃなくて。たまには斗希とも遊びたいんだよ」
「ふーん」
陽依と向き合うまでは、陽依が嫌がっても手を出しそうになるから避けてたけど、今はどっちかっつーと離れたくねぇって気持ちが強い。
1年も彼氏らしい事してねぇどころか不安にさせてたのに、ずっと変わらずにいてくれた陽依にいろいろしてやりてぇって思ってるし。それこそデートも、色んなとこも連れてってやるつもりだ。
「っつか、学校で駄弁ってんだろ」
「それとこれとは別」
「⋯まぁ気が向いたらな」
「それ、一生向かないやつじゃないか?」
遊ぶっても適当にぶらついて適当に店に入って買い物して適当に食ってだから、学校でやってる事とほとんど変わんねぇ気もすんだけど。
休みでも陽依が家にいねぇってなんなら、考えてもいいかもな。
午後9時過ぎ。スマホを弄りながらバイト終わりの陽依を店先で待ってたら、画面が着信に変わり発信者の名前を見た俺は眉を顰めた。
一丁前に社長なんかやってっから忙しくて家に帰る暇もないくせに、時々思い出したかのようにこうして電話をかけてくる。別に親としての責務を放棄されてる訳じゃねぇからいいんだけど、こういう時の電話は決まって「デートしよ」だからタチが悪い。
息子に言う事じゃねぇんだわ。
っつか、そのせいで陽依に振られそうになったし。
溜め息をつき、通話ボタンを押して耳に当てると明るい声が聞こえてきた。
『斗希~、元気~?』
「毎回毎回聞いてくんな」
『元気で何より。ねぇ、最近家に帰ってないの? 田端さんが、家が使われた形跡がないって言ってるんだけど』
田端さんってのは隔週で来るハウスキーパーで、俺が小さい頃から世話になってる。
そういえば、おふくろがいねぇからって陽依の家に入り浸ってたせいで田端さんに何も説明出来てねぇや。
おふくろにも言わなきゃなんねぇの面倒くせぇな。
『誰かの家にいるならいいんだけど、心配してたから顔くらいは見せてあげなさいよ』
「分かった」
『で、誰の家にいるの? 裕くんたち?』
「誰でもいいだろ」
『駄目よ。どれくらい泊まらせて頂いてるのかは知らないけど、ちゃんとご挨拶しないと』
そりゃもうガッツリ泊まってるし、何ならほぼ同棲に近いけど、陽依におふくろを会わせるのはちょっと心配だな。
男同士に偏見があるような人じゃねぇとは思うけど。
「⋯⋯⋯⋯恋人の家⋯つったらどうする?」
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯恋人? 斗希に?』
俺以上に間を開けたあと、思いっきり怪訝そうなおふくろの声に息を吐く。
不意に扉の音がして視線を上げればちょうど陽依が出てきたところで、俺を見るなり嬉しそうに駆け寄ってきたけど、通話中だと気付くなり喋ってもいないのに口を押さえ足音を忍ばせて傍まで歩いてきた。
空いている手で首を傾げる陽依の腰を抱き寄せ額に口付ければ、目を瞬いたあと恥ずかしそうに額を押さえる。
『本気で言ってる?』
「俺がこんな冗談言う訳ねぇだろ」
『⋯そうよね⋯』
放任とはいえ親子としてはちゃんと関係築いてんだ、俺の性格くらい分かってるだろうに。
まぁそれくらいの衝撃だったって事か。
「だから、別に挨拶とかは⋯」
『近いうちに会える?』
「は?」
『斗希が選んだ子、私も会いたいわ』
「いや、会わなくても⋯」
俺が電話してるからか手持ち無沙汰な陽依は、俺のアウターに付いてるフードの紐を弄って遊び始めた。結んで解いて軽く引っ張って、邪魔をしないようにと黙ってやってる。
『次の日曜日でいい? その子、何が好きか聞いておいて』
「だから⋯」
『じゃあ日曜日にね、斗希』
「あ、おい⋯っ」
仕事でも入ったのか慌ただしく話を終え通話を終えたおふくろに若干の怒りを感じつつ、不思議そうに見上げてくる陽依を見て肩を竦めた俺は、スマホをポケットに突っ込むと柔らかな頬へと触れた。
「陽依の好きなもんて何?」
「え?」
「おふくろが知りてぇって」
「⋯⋯うん?」
当然ながら主語を抜いた言葉が伝わる訳もなく、陽依は戸惑ったように首を傾げたあと少しして「甘い物かな」と答えた。
だろうなと思いつつ、何とも素直な陽依におふくろへの怒りも薄れた俺は帰るべくまだ紐に触れていた手を握る。
とりあえず、帰って飯でも食いながら話すか。
相変わらず全身で好きだって伝えてくるし、俺が触れるたび嬉しそうに笑う。
2つも年上のくせにスレてねぇし素直だし純粋だし⋯でも、そこが可愛いって思うあたり俺も相当だな。
っつか、どう育ったらあんなまっさらな性格に育つんだ?
よっぽど親の育て方がいいとしか⋯⋯そういえば、陽依の両親の話とか聞いた事ねぇな。今度それとなく聞いてみるか。
「斗希」
日直だからと先に出た陽依を見送ったあと、時間通りに駅に向かってた俺の後ろからダチの1人が声をかけてきた。
立ち止まり待ってるとキョロキョロしながら傍まできて首を傾げる。
「あれ、彼氏さんは?」
「先に出た」
「そっか。じゃあ久し振りに一緒に行けるな」
いつものメンバーの中では比較的穏やかな性格をしているこいつはあの女の兄貴で、しばらくは同じくいつメンのいとこと一緒に別行動してた。
主にあの女のメンケアの為だけど、1人って事はまぁ落ち着んたんだろう。
改札を抜けホームへと上がり、今日は車両の後ろの方で待つ。
別に前と後ろで変わりはしねぇんだけど、何となくダチといる時はこっちってなってんだよな。
今は陽依と一緒だからほとんどねぇけど。
「他の奴ら、斗希があんまりにも彼氏さんといるから寂しがってたぞ」
「そっちは人数いるだろ」
「そういうんじゃなくて。たまには斗希とも遊びたいんだよ」
「ふーん」
陽依と向き合うまでは、陽依が嫌がっても手を出しそうになるから避けてたけど、今はどっちかっつーと離れたくねぇって気持ちが強い。
1年も彼氏らしい事してねぇどころか不安にさせてたのに、ずっと変わらずにいてくれた陽依にいろいろしてやりてぇって思ってるし。それこそデートも、色んなとこも連れてってやるつもりだ。
「っつか、学校で駄弁ってんだろ」
「それとこれとは別」
「⋯まぁ気が向いたらな」
「それ、一生向かないやつじゃないか?」
遊ぶっても適当にぶらついて適当に店に入って買い物して適当に食ってだから、学校でやってる事とほとんど変わんねぇ気もすんだけど。
休みでも陽依が家にいねぇってなんなら、考えてもいいかもな。
午後9時過ぎ。スマホを弄りながらバイト終わりの陽依を店先で待ってたら、画面が着信に変わり発信者の名前を見た俺は眉を顰めた。
一丁前に社長なんかやってっから忙しくて家に帰る暇もないくせに、時々思い出したかのようにこうして電話をかけてくる。別に親としての責務を放棄されてる訳じゃねぇからいいんだけど、こういう時の電話は決まって「デートしよ」だからタチが悪い。
息子に言う事じゃねぇんだわ。
っつか、そのせいで陽依に振られそうになったし。
溜め息をつき、通話ボタンを押して耳に当てると明るい声が聞こえてきた。
『斗希~、元気~?』
「毎回毎回聞いてくんな」
『元気で何より。ねぇ、最近家に帰ってないの? 田端さんが、家が使われた形跡がないって言ってるんだけど』
田端さんってのは隔週で来るハウスキーパーで、俺が小さい頃から世話になってる。
そういえば、おふくろがいねぇからって陽依の家に入り浸ってたせいで田端さんに何も説明出来てねぇや。
おふくろにも言わなきゃなんねぇの面倒くせぇな。
『誰かの家にいるならいいんだけど、心配してたから顔くらいは見せてあげなさいよ』
「分かった」
『で、誰の家にいるの? 裕くんたち?』
「誰でもいいだろ」
『駄目よ。どれくらい泊まらせて頂いてるのかは知らないけど、ちゃんとご挨拶しないと』
そりゃもうガッツリ泊まってるし、何ならほぼ同棲に近いけど、陽依におふくろを会わせるのはちょっと心配だな。
男同士に偏見があるような人じゃねぇとは思うけど。
「⋯⋯⋯⋯恋人の家⋯つったらどうする?」
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯恋人? 斗希に?』
俺以上に間を開けたあと、思いっきり怪訝そうなおふくろの声に息を吐く。
不意に扉の音がして視線を上げればちょうど陽依が出てきたところで、俺を見るなり嬉しそうに駆け寄ってきたけど、通話中だと気付くなり喋ってもいないのに口を押さえ足音を忍ばせて傍まで歩いてきた。
空いている手で首を傾げる陽依の腰を抱き寄せ額に口付ければ、目を瞬いたあと恥ずかしそうに額を押さえる。
『本気で言ってる?』
「俺がこんな冗談言う訳ねぇだろ」
『⋯そうよね⋯』
放任とはいえ親子としてはちゃんと関係築いてんだ、俺の性格くらい分かってるだろうに。
まぁそれくらいの衝撃だったって事か。
「だから、別に挨拶とかは⋯」
『近いうちに会える?』
「は?」
『斗希が選んだ子、私も会いたいわ』
「いや、会わなくても⋯」
俺が電話してるからか手持ち無沙汰な陽依は、俺のアウターに付いてるフードの紐を弄って遊び始めた。結んで解いて軽く引っ張って、邪魔をしないようにと黙ってやってる。
『次の日曜日でいい? その子、何が好きか聞いておいて』
「だから⋯」
『じゃあ日曜日にね、斗希』
「あ、おい⋯っ」
仕事でも入ったのか慌ただしく話を終え通話を終えたおふくろに若干の怒りを感じつつ、不思議そうに見上げてくる陽依を見て肩を竦めた俺は、スマホをポケットに突っ込むと柔らかな頬へと触れた。
「陽依の好きなもんて何?」
「え?」
「おふくろが知りてぇって」
「⋯⋯うん?」
当然ながら主語を抜いた言葉が伝わる訳もなく、陽依は戸惑ったように首を傾げたあと少しして「甘い物かな」と答えた。
だろうなと思いつつ、何とも素直な陽依におふくろへの怒りも薄れた俺は帰るべくまだ紐に触れていた手を握る。
とりあえず、帰って飯でも食いながら話すか。
1,691
あなたにおすすめの小説
別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
彼氏の優先順位[本編完結]
セイ
BL
一目惚れした彼に告白されて晴れて恋人になったというのに彼と彼の幼馴染との距離が気になりすぎる!恋人の僕より一緒にいるんじゃない?は…!!もしかして恋人になったのは夢だった?と悩みまくる受けのお話。
メインの青衣×青空の話、幼馴染の茜の話、友人倉橋の数話ずつの短編構成です。それぞれの恋愛をお楽しみください。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
幼馴染は俺がくっついてるから誰とも付き合えないらしい
中屋沙鳥
BL
井之原朱鷺は幼馴染の北村航平のことを好きだという伊東汐里から「いつも井之原がくっついてたら北村だって誰とも付き合えないじゃん。親友なら考えてあげなよ」と言われて考え込んでしまう。俺は航平の邪魔をしているのか?実は片思いをしているけど航平のためを考えた方が良いのかもしれない。それをきっかけに2人の関係が変化していく…/高校生が順調(?)に愛を深めます
イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした
天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです!
元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。
持ち主は、顔面国宝の一年生。
なんで俺の写真? なんでロック画?
問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。
頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ!
☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
冷遇された公爵子息に代わって自由に生きる
セイ
BL
良くは思い出せないけれど死んでしまった俺は真っ白な部屋で可愛らしい男の子と出会う。神様の計らいで生まれ変わる俺は同じ様に死んだその男の子の身体へと生まれ変わることになった。しかし、その男の子は家族に冷遇されていた公爵家の息子だったようだ。そんな家族と親しくなれないと思った俺は家を出て自由に生きる決意をする。運命の番と出会い、幸せに生きる男の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる