冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました

ミヅハ

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母からの電話(斗希視点)

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 我慢をやめる。そう陽依に宣言してからは、あいつの傍にいる事の方が当たり前になりつつあった。というか、いつ何をしても、基本的に陽依が嫌がったり駄目っつったりしねぇからそれに甘えてる節はあるんだが。
 相変わらず全身で好きだって伝えてくるし、俺が触れるたび嬉しそうに笑う。
 2つも年上のくせにスレてねぇし素直だし純粋だし⋯でも、そこが可愛いって思うあたり俺も相当だな。
 っつか、どう育ったらあんなまっさらな性格に育つんだ?
 よっぽど親の育て方がいいとしか⋯⋯そういえば、陽依の両親の話とか聞いた事ねぇな。今度それとなく聞いてみるか。



「斗希」

 日直だからと先に出た陽依を見送ったあと、時間通りに駅に向かってた俺の後ろからダチの1人が声をかけてきた。
 立ち止まり待ってるとキョロキョロしながら傍まできて首を傾げる。

「あれ、彼氏さんは?」
「先に出た」
「そっか。じゃあ久し振りに一緒に行けるな」

 いつものメンバーの中では比較的穏やかな性格をしているこいつはあの女の兄貴で、しばらくは同じくいつメンのいとこと一緒に別行動してた。
 主にあの女のメンケアの為だけど、1人って事はまぁ落ち着んたんだろう。
 改札を抜けホームへと上がり、今日は車両の後ろの方で待つ。
 別に前と後ろで変わりはしねぇんだけど、何となくダチといる時はこっちってなってんだよな。
 今は陽依と一緒だからほとんどねぇけど。

「他の奴ら、斗希があんまりにも彼氏さんといるから寂しがってたぞ」
「そっちは人数いるだろ」
「そういうんじゃなくて。たまには斗希とも遊びたいんだよ」
「ふーん」

 陽依と向き合うまでは、陽依が嫌がっても手を出しそうになるから避けてたけど、今はどっちかっつーと離れたくねぇって気持ちが強い。
 1年も彼氏らしい事してねぇどころか不安にさせてたのに、ずっと変わらずにいてくれた陽依にいろいろしてやりてぇって思ってるし。それこそデートも、色んなとこも連れてってやるつもりだ。

「っつか、学校で駄弁ってんだろ」
「それとこれとは別」
「⋯まぁ気が向いたらな」
「それ、一生向かないやつじゃないか?」

 遊ぶっても適当にぶらついて適当に店に入って買い物して適当に食ってだから、学校でやってる事とほとんど変わんねぇ気もすんだけど。
 休みでも陽依が家にいねぇってなんなら、考えてもいいかもな。
 


 午後9時過ぎ。スマホを弄りながらバイト終わりの陽依を店先で待ってたら、画面が着信に変わり発信者の名前を見た俺は眉を顰めた。
 一丁前に社長なんかやってっから忙しくて家に帰る暇もないくせに、時々思い出したかのようにこうして電話をかけてくる。別に親としての責務を放棄されてる訳じゃねぇからいいんだけど、こういう時の電話は決まって「デートしよ」だからタチが悪い。
 息子に言う事じゃねぇんだわ。
 っつか、そのせいで陽依に振られそうになったし。
 溜め息をつき、通話ボタンを押して耳に当てると明るい声が聞こえてきた。

『斗希~、元気~?』
「毎回毎回聞いてくんな」
『元気で何より。ねぇ、最近家に帰ってないの? 田端たばたさんが、家が使われた形跡がないって言ってるんだけど』

 田端さんってのは隔週で来るハウスキーパーで、俺が小さい頃から世話になってる。
 そういえば、おふくろがいねぇからって陽依の家に入り浸ってたせいで田端さんに何も説明出来てねぇや。
 おふくろにも言わなきゃなんねぇの面倒くせぇな。

『誰かの家にいるならいいんだけど、心配してたから顔くらいは見せてあげなさいよ』
「分かった」
『で、誰の家にいるの?    裕くんたち?』
「誰でもいいだろ」
『駄目よ。どれくらい泊まらせて頂いてるのかは知らないけど、ちゃんとご挨拶しないと』

 そりゃもうガッツリ泊まってるし、何ならほぼ同棲に近いけど、陽依におふくろを会わせるのはちょっと心配だな。
 男同士に偏見があるような人じゃねぇとは思うけど。

「⋯⋯⋯⋯恋人の家⋯つったらどうする?」
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯恋人? 斗希に?』

 俺以上に間を開けたあと、思いっきり怪訝そうなおふくろの声に息を吐く。
 不意に扉の音がして視線を上げればちょうど陽依が出てきたところで、俺を見るなり嬉しそうに駆け寄ってきたけど、通話中だと気付くなり喋ってもいないのに口を押さえ足音を忍ばせて傍まで歩いてきた。
 空いている手で首を傾げる陽依の腰を抱き寄せ額に口付ければ、目を瞬いたあと恥ずかしそうに額を押さえる。

『本気で言ってる?』
「俺がこんな冗談言う訳ねぇだろ」
『⋯そうよね⋯』

 放任とはいえ親子としてはちゃんと関係築いてんだ、俺の性格くらい分かってるだろうに。
 まぁそれくらいの衝撃だったって事か。

「だから、別に挨拶とかは⋯」
『近いうちに会える?』
「は?」
『斗希が選んだ子、私も会いたいわ』
「いや、会わなくても⋯」

 俺が電話してるからか手持ち無沙汰な陽依は、俺のアウターに付いてるフードの紐を弄って遊び始めた。結んで解いて軽く引っ張って、邪魔をしないようにと黙ってやってる。

『次の日曜日でいい? その子、何が好きか聞いておいて』
「だから⋯」
『じゃあ日曜日にね、斗希』
「あ、おい⋯っ」

 仕事でも入ったのか慌ただしく話を終え通話を終えたおふくろに若干の怒りを感じつつ、不思議そうに見上げてくる陽依を見て肩を竦めた俺は、スマホをポケットに突っ込むと柔らかな頬へと触れた。

「陽依の好きなもんて何?」
「え?」
「おふくろが知りてぇって」
「⋯⋯うん?」

 当然ながら主語を抜いた言葉が伝わる訳もなく、陽依は戸惑ったように首を傾げたあと少しして「甘い物かな」と答えた。
 だろうなと思いつつ、何とも素直な陽依におふくろへの怒りも薄れた俺は帰るべくまだ紐に触れていた手を握る。
 とりあえず、帰って飯でも食いながら話すか。
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