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勇気を出して
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「斗希くんのお母さんと会う?」
バイトから帰る途中、時間も遅いからってコンビニでお弁当を買って帰宅し、温めたあと向かい合って食べてたら斗希くんがさっきの電話の内容を教えてくれた。でもなかなか理解出来なくて、言われたままを反芻したら「そう」と頷かれる。
好きな物っていう謎の質問はこれ派生だったんだ。
「俺、おふくろに心配されるほどそういうのに興味なかったからな。人を好きになるとか、誰かと付き合うとか馬鹿らしいって」
「そう、だったんだ⋯」
だとしたら、僕が告白を受け入れて貰えたのってよっぽど運が良かったんじゃ⋯しつこくて鬱陶しいからって理由があったとしても、いい加減にしろで終わってたかもしれないし。
その時の事を思い出して目を伏せたら、先に食べ終えた斗希くんが隣に移動してきた。
「でも陽依だけは違った。陽依じゃなかったら、俺は付き合ってねぇ」
そう言って僕の肩を抱いた斗希くんは、僕から箸を取り上げると半分残っている焼き魚を解して身を口元へと運んでくれた。突然の〝あーん〟に戸惑いつつも差し出されるままに食べたら、今度は白米が1口サイズに掬われ寄せられる。
⋯もしかして、最後まで食べさせてくれるの?
視線だけで斗希くんを見上げるとパチッと目が合い、ふっと柔らかく微笑まれた。
「⋯斗希くん」
「ん?」
「お母さんに会うのはいいんだけど⋯大丈夫かな」
「何が?」
「⋯⋯僕、男⋯だし⋯」
そう、1番の難関は性別だ。
斗希くんは1人っ子で、お母さんは社長。もしかしたら跡を継いで欲しいとか、子供服の会社だから孫に自分が仕立てた服を着せてあげたいとか思うかもしれない。
だとしたら、僕との付き合いなんて到底許して貰えないはず⋯。
そう考えて1人不安に駆られて俯く僕の頭を、斗希くんの大きな手が撫でてくれた。
「お前はお前らしくいりゃいいよ。変に取り繕わず、いつも通り」
「でも⋯」
「男同士ってだけで判断するような人じゃねぇって。どっしり構えてろ」
「⋯⋯分かった」
「この俺が惚れたんだ、自信持て」
ほんの数ヶ月前ではこんな事言って貰えるなんて想像も出来なかったのに、今は不安になってたら話を聞いて、僕が安心出来るように優しい言葉をくれる。
また新しく別のおかずが寄せられたけど、首を振ってそれを拒否した僕は斗希くんの腰元に抱き着いた。
「ありがとう、斗希くん。大好き」
「⋯⋯⋯」
「? 斗希くん?」
いつもなら抱き返してくれるのに、途中で止まった上に黙り込んだから不思議に思いつつ見上げたら険しい顔をしてて、目を瞬くと呆れたように溜め息をつかれた。
「ほんと、煽ってくれるよな、お前」
「え?」
「風呂入るか」
どこが煽りになったのか理解する前に話が変わってしまい、頭の中にハテナが浮かびながらも連れて行かれ裸にされた僕は、「洗ってやるよ」って斗希くんが肌に手を這わせ肌を始めた事でどうしてお風呂だったのか気付いた。
散々喘がされて、逆上せる寸前でベッドに連れて行かれたあとももう無理って言うまで抱かれて翌日危うく寝坊するところだった。
斗希くん、元気過ぎるよ。
斗希くんのお母さんと会うまでにもう1つ勇気がいる事をしようと決めた僕は、お昼休みに夏生くんと、いつも一緒に昼食を食べてる宮下くんを呼び出し屋上手前の踊り場へと向かった。
ずーっと斗希くんの事を夏生くんに言えずにいたから、これを機に言ってしまおうと決めたのだ。
先に着いていた2人に挨拶し、夏生くんの隣に座った僕は数回深呼吸をして口を開く。
「あのね、2人に言いたい事があるの」
「言いたい事?」
「俺、夏生に着いて来てるだけですけど⋯」
「うん、いいんだ。聞いてくれる?」
キョトンとする夏生くんと戸惑ってる宮下くんは、僕の表情を見て顔を見合わせたあとこくりと頷いてくれた。
「夏生くん、ちょっと前に駅のホームで他校生と会った事⋯覚えてる?」
「うん。あの背の高いイケメンくんでしょ?」
「そう。あの人ね、実は⋯その⋯」
ここまできて、本当に言ってもいいのか不安になる。
なかなか言葉が出ずにいたら、何かに気付いたのか宮下くんが静かな声で「先輩」って呼んできた。
「?」
「大丈夫ですよ。夏生はそんな事で態度変えたりしませんから」
「え⋯」
「それに、俺も同じなんで」
そう言って、何も分からず首を傾げてる夏生くんを見た宮下くんに僕はハッとする。
同じって⋯そういう事。宮下くんは夏生くんが好きなんだ。
片思いなのかな。僕が見た感じだと、夏生くんも自覚してないだけで宮下くんを好きそうだけど。
でも、これは僕が首を突っ込む事じゃない。
励ましてくれる宮下くんに頷き、夏生くんへと向き直った僕は床に手をついて身を乗り出した。
「あの人ね、僕の彼氏なんだ」
「⋯⋯へ?」
「本当はもっと早く言おうと思ってたんだけど、やっぱり同性同士ってダメな人もいるでしょ? 夏生くんがどうなのかは分からなくて⋯怖くて、言うの遅くなっちゃった⋯⋯ごめんね」
ポカンとする夏生くんに早口で説明しぎゅっと目を瞑って待ってたら、少しして気の抜けた声が聞こえ握り込んでいた手が夏生くんの両手に包まれる。
「そうだったんだ。陽依、凄いイケメン捕まえたんだね」
「⋯夏生くん⋯」
「友達が幸せなら嬉しいに決まってる。不安だったのに、教えてくれてありがとう」
にこっと笑って優しい言葉をかけてくれる夏生くんにホッとして泣きそうになった僕は、それを誤魔化すように首を振ると手を握り返して表情を緩めた。
「こちらこそ、ありがとう」
夏生くんが僕の友達で良かった。
宮下くんもいい子だし、ぜひ頑張って夏生くんと結ばれて欲しいな。
バイトから帰る途中、時間も遅いからってコンビニでお弁当を買って帰宅し、温めたあと向かい合って食べてたら斗希くんがさっきの電話の内容を教えてくれた。でもなかなか理解出来なくて、言われたままを反芻したら「そう」と頷かれる。
好きな物っていう謎の質問はこれ派生だったんだ。
「俺、おふくろに心配されるほどそういうのに興味なかったからな。人を好きになるとか、誰かと付き合うとか馬鹿らしいって」
「そう、だったんだ⋯」
だとしたら、僕が告白を受け入れて貰えたのってよっぽど運が良かったんじゃ⋯しつこくて鬱陶しいからって理由があったとしても、いい加減にしろで終わってたかもしれないし。
その時の事を思い出して目を伏せたら、先に食べ終えた斗希くんが隣に移動してきた。
「でも陽依だけは違った。陽依じゃなかったら、俺は付き合ってねぇ」
そう言って僕の肩を抱いた斗希くんは、僕から箸を取り上げると半分残っている焼き魚を解して身を口元へと運んでくれた。突然の〝あーん〟に戸惑いつつも差し出されるままに食べたら、今度は白米が1口サイズに掬われ寄せられる。
⋯もしかして、最後まで食べさせてくれるの?
視線だけで斗希くんを見上げるとパチッと目が合い、ふっと柔らかく微笑まれた。
「⋯斗希くん」
「ん?」
「お母さんに会うのはいいんだけど⋯大丈夫かな」
「何が?」
「⋯⋯僕、男⋯だし⋯」
そう、1番の難関は性別だ。
斗希くんは1人っ子で、お母さんは社長。もしかしたら跡を継いで欲しいとか、子供服の会社だから孫に自分が仕立てた服を着せてあげたいとか思うかもしれない。
だとしたら、僕との付き合いなんて到底許して貰えないはず⋯。
そう考えて1人不安に駆られて俯く僕の頭を、斗希くんの大きな手が撫でてくれた。
「お前はお前らしくいりゃいいよ。変に取り繕わず、いつも通り」
「でも⋯」
「男同士ってだけで判断するような人じゃねぇって。どっしり構えてろ」
「⋯⋯分かった」
「この俺が惚れたんだ、自信持て」
ほんの数ヶ月前ではこんな事言って貰えるなんて想像も出来なかったのに、今は不安になってたら話を聞いて、僕が安心出来るように優しい言葉をくれる。
また新しく別のおかずが寄せられたけど、首を振ってそれを拒否した僕は斗希くんの腰元に抱き着いた。
「ありがとう、斗希くん。大好き」
「⋯⋯⋯」
「? 斗希くん?」
いつもなら抱き返してくれるのに、途中で止まった上に黙り込んだから不思議に思いつつ見上げたら険しい顔をしてて、目を瞬くと呆れたように溜め息をつかれた。
「ほんと、煽ってくれるよな、お前」
「え?」
「風呂入るか」
どこが煽りになったのか理解する前に話が変わってしまい、頭の中にハテナが浮かびながらも連れて行かれ裸にされた僕は、「洗ってやるよ」って斗希くんが肌に手を這わせ肌を始めた事でどうしてお風呂だったのか気付いた。
散々喘がされて、逆上せる寸前でベッドに連れて行かれたあとももう無理って言うまで抱かれて翌日危うく寝坊するところだった。
斗希くん、元気過ぎるよ。
斗希くんのお母さんと会うまでにもう1つ勇気がいる事をしようと決めた僕は、お昼休みに夏生くんと、いつも一緒に昼食を食べてる宮下くんを呼び出し屋上手前の踊り場へと向かった。
ずーっと斗希くんの事を夏生くんに言えずにいたから、これを機に言ってしまおうと決めたのだ。
先に着いていた2人に挨拶し、夏生くんの隣に座った僕は数回深呼吸をして口を開く。
「あのね、2人に言いたい事があるの」
「言いたい事?」
「俺、夏生に着いて来てるだけですけど⋯」
「うん、いいんだ。聞いてくれる?」
キョトンとする夏生くんと戸惑ってる宮下くんは、僕の表情を見て顔を見合わせたあとこくりと頷いてくれた。
「夏生くん、ちょっと前に駅のホームで他校生と会った事⋯覚えてる?」
「うん。あの背の高いイケメンくんでしょ?」
「そう。あの人ね、実は⋯その⋯」
ここまできて、本当に言ってもいいのか不安になる。
なかなか言葉が出ずにいたら、何かに気付いたのか宮下くんが静かな声で「先輩」って呼んできた。
「?」
「大丈夫ですよ。夏生はそんな事で態度変えたりしませんから」
「え⋯」
「それに、俺も同じなんで」
そう言って、何も分からず首を傾げてる夏生くんを見た宮下くんに僕はハッとする。
同じって⋯そういう事。宮下くんは夏生くんが好きなんだ。
片思いなのかな。僕が見た感じだと、夏生くんも自覚してないだけで宮下くんを好きそうだけど。
でも、これは僕が首を突っ込む事じゃない。
励ましてくれる宮下くんに頷き、夏生くんへと向き直った僕は床に手をついて身を乗り出した。
「あの人ね、僕の彼氏なんだ」
「⋯⋯へ?」
「本当はもっと早く言おうと思ってたんだけど、やっぱり同性同士ってダメな人もいるでしょ? 夏生くんがどうなのかは分からなくて⋯怖くて、言うの遅くなっちゃった⋯⋯ごめんね」
ポカンとする夏生くんに早口で説明しぎゅっと目を瞑って待ってたら、少しして気の抜けた声が聞こえ握り込んでいた手が夏生くんの両手に包まれる。
「そうだったんだ。陽依、凄いイケメン捕まえたんだね」
「⋯夏生くん⋯」
「友達が幸せなら嬉しいに決まってる。不安だったのに、教えてくれてありがとう」
にこっと笑って優しい言葉をかけてくれる夏生くんにホッとして泣きそうになった僕は、それを誤魔化すように首を振ると手を握り返して表情を緩めた。
「こちらこそ、ありがとう」
夏生くんが僕の友達で良かった。
宮下くんもいい子だし、ぜひ頑張って夏生くんと結ばれて欲しいな。
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