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抗えないキス
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夕方にはまた出かけるという冬香さんと別れた僕たちは、夕焼け空を眺めながら手を繋いで帰路へとついていた。
「冬香さん、優しい人だね」
「外面がいいだけだろ」
「そんな事ないよ。それに、若くて綺麗で、斗希くんそっくりだった」
「若作りのバケモンなだけだし、俺は似てねぇよ」
あの短時間で、斗希くんと冬香さんが本当に仲良し親子なんだって知ったから、こういう事を言っててもにこにこして聞いていられる。
帰り際も、「仕事ばっかしてんなよ」とか、「ちゃんと勉強しなさいよ」とかの応酬があって何とも微笑ましかった。並ぶと美男美女で目の保養にもなってたし。
「そういえば、陽依の親ってどこにいんの?」
「東北だよ」
「だから1人暮らしなのか」
「うん。年齢が高めだから心配ではあるんだけどね」
何がきっかけで命に関わるか分からないからちょくちょく連絡は取って様子は伺ってるけど、今のところ変わりないようでホッとしてる。
なるべく長く息災でいて欲しいし、無理だけはしないで欲しいな。
ふと視界の端に繋いだ手が映り、何の気なしに軽く振ったら斗希くんがふって笑った。
「ガキみてぇな事してんな」
「繋いでるって思ったら嬉しくて」
「いつも繋いでるだろ」
「そうなんだけど⋯⋯うーん、何だろ、上手く言えない」
「何だそれ」
そう言ってまた笑う斗希くんに胸が暖かくなる。
これだって今は当たり前になってるけど、あの1年は振り払われるのが怖くて伸ばす事さえ出来なかったから。
冬香さんがきっかけとはいえ、あれがなかったらこんな風に並んで歩く事もなかったんだよね。
人生って本当、何があるか分からない。
「夜ご飯何食べたい?」
「弁当でいいんじゃね?」
「分かった、チキン南蛮にするね」
「決まってんのかよ」
何で聞いたと言わんばかりに眉を顰める斗希くんに笑みを零し、僕は隙間を埋めるように斗希くんへと身を寄せた。
少しだけ、ムスクに混じった花の匂いが香った気がする。
季節はすっかり冬を迎え、コタツが恋しくなる時期になった。
我が家が使ってるものも一応コタツテーブルで、真四角の小さいものだから1人で使う分には問題なかったんだけど⋯すっかり気に入った斗希くんはずいぶんと窮屈そう。
伸ばすと長い足がはみ出るし。
とはいえ斗希くんに合わせたら部屋が狭くなっちゃうからなぁ。どうしたものか。
「陽依、俺今日バイトだから」
「分かった。帰りはいつもと同じくらい?」
「たぶん。遅くても補導されねぇ時間には帰る」
「うん。あ、ちょっと待って」
軽く雪がチラつき出した頃、朝の支度をしていた僕に斗希くんがそう言ってきた。
斗希くんは知り合いのライブハウスでスタッフとして働いてて、受付に立ったりライブ設営の手伝いをしたりしてる。
この見た目だからバンドに誘われる事も多くて、バンギャ? からもたびたび声をかせられるらしい。バンギャはともかく、バンドの方はちゃんとお断りを入れてるって言うから意外だった。
斗希くん、面倒な事は面倒だってハッキリ言う人だから。
バイト自体は楽しいみたいだし、いい事だよね。
時間が遅いと聞いて、数日前に出来上がった物を家を出る前に渡しておこうと、ラック上の小物入れからシルバーの可愛いロボットのキーホルダーが着いた鍵を取り出した僕は、それを斗希くんへと差し出す。
「これ、うちの合鍵」
「わざわざ作ってくれたのか」
「最近は僕がバタバタしてるから、あった方が便利かなって」
「助かる」
実は9月の時点で希望した企業の内定が出ず二次募集をどうするか考えてた時、今バイトをしているところから就職先が決まってないなら社員にならないかって誘われたんだよね。
職場の雰囲気も一緒に働いてる人たちも好きだから悪くない話ではあって、悩んだり斗希くんに相談した結果、甘えさせて貰う事にした。
おかげで就活は終わったけど、卒業までにしなきゃいけない事だらけで今はちょっと忙しくて、そのせいで斗希くんに外で時間を潰して貰う事も増えてたからこうして無事に渡せて良かったな。
ちなみにロボットのキーホルダーは、雑貨屋で見つけて一目惚れした子。
絶対、斗希くんにあげようって思ったんだ。
ロボットをじっと見た斗希くんは小さく笑うと、僕の頭を抱き寄せ額にキスをしてきた。
「あんま無理すんなよ」
「うん、ありがとう」
優しい言葉が嬉しくて緩く腕を回して抱き着いたら斗希くんも抱き締め返してくれる。
しばらくそうしてた僕たちだけど、カチッと分針が動いた音にふと時計を見た僕はハッとした。
「斗希くん、そろそろ出ないと」
「そんな時間か」
「うん。だから離してくれる?」
「ん」
返事はしてくれるけど、僕をしっかりと抱く腕は解けない。
うん、僕も出来るならずっとこうしてたいんだけどね、もう学校に行く時間が迫ってるんだよね。
さすがに卒業前に遅刻や欠席をする訳にはいかない。
トントンと背中を叩き顔を上げたらちょうど目が合って、瞬いてると目蓋に口付けられた。そのまま頬へと滑り、最後に唇が塞がれる。
「ん⋯」
舌が入ってきて、口の中を余すとこなくねぶられ僕の舌が絡め取られる。
こんなの学校に行く前にするようなキスじゃないのに、気持ち良くて抵抗する気さえ起こらなくて身体が熱くなってきた。
お腹の下が疼いてゾクゾクする。
「⋯っ、ん、ぅ⋯」
「⋯⋯なぁ、このままサボんねぇ?」
「ゃ⋯⋯だ、だめです⋯っ」
斗希くんの人差し指がゆっくりと顎をなぞり、震えながらも慌てて首を振ったら笑い混じりに「だよな」って言われてようやく腕が離れる。
でもさっきのキスで息が上がってる僕は当然落ち着くまで外に出られる状況じゃなく、結局1本遅らせる羽目になってしまった。
したい事をしてくれるのは全然いいんだけど、せめて時と場合を考えて欲しいな。
あんまり気持ちいいと、僕だって止められなくなりそうだから。
「冬香さん、優しい人だね」
「外面がいいだけだろ」
「そんな事ないよ。それに、若くて綺麗で、斗希くんそっくりだった」
「若作りのバケモンなだけだし、俺は似てねぇよ」
あの短時間で、斗希くんと冬香さんが本当に仲良し親子なんだって知ったから、こういう事を言っててもにこにこして聞いていられる。
帰り際も、「仕事ばっかしてんなよ」とか、「ちゃんと勉強しなさいよ」とかの応酬があって何とも微笑ましかった。並ぶと美男美女で目の保養にもなってたし。
「そういえば、陽依の親ってどこにいんの?」
「東北だよ」
「だから1人暮らしなのか」
「うん。年齢が高めだから心配ではあるんだけどね」
何がきっかけで命に関わるか分からないからちょくちょく連絡は取って様子は伺ってるけど、今のところ変わりないようでホッとしてる。
なるべく長く息災でいて欲しいし、無理だけはしないで欲しいな。
ふと視界の端に繋いだ手が映り、何の気なしに軽く振ったら斗希くんがふって笑った。
「ガキみてぇな事してんな」
「繋いでるって思ったら嬉しくて」
「いつも繋いでるだろ」
「そうなんだけど⋯⋯うーん、何だろ、上手く言えない」
「何だそれ」
そう言ってまた笑う斗希くんに胸が暖かくなる。
これだって今は当たり前になってるけど、あの1年は振り払われるのが怖くて伸ばす事さえ出来なかったから。
冬香さんがきっかけとはいえ、あれがなかったらこんな風に並んで歩く事もなかったんだよね。
人生って本当、何があるか分からない。
「夜ご飯何食べたい?」
「弁当でいいんじゃね?」
「分かった、チキン南蛮にするね」
「決まってんのかよ」
何で聞いたと言わんばかりに眉を顰める斗希くんに笑みを零し、僕は隙間を埋めるように斗希くんへと身を寄せた。
少しだけ、ムスクに混じった花の匂いが香った気がする。
季節はすっかり冬を迎え、コタツが恋しくなる時期になった。
我が家が使ってるものも一応コタツテーブルで、真四角の小さいものだから1人で使う分には問題なかったんだけど⋯すっかり気に入った斗希くんはずいぶんと窮屈そう。
伸ばすと長い足がはみ出るし。
とはいえ斗希くんに合わせたら部屋が狭くなっちゃうからなぁ。どうしたものか。
「陽依、俺今日バイトだから」
「分かった。帰りはいつもと同じくらい?」
「たぶん。遅くても補導されねぇ時間には帰る」
「うん。あ、ちょっと待って」
軽く雪がチラつき出した頃、朝の支度をしていた僕に斗希くんがそう言ってきた。
斗希くんは知り合いのライブハウスでスタッフとして働いてて、受付に立ったりライブ設営の手伝いをしたりしてる。
この見た目だからバンドに誘われる事も多くて、バンギャ? からもたびたび声をかせられるらしい。バンギャはともかく、バンドの方はちゃんとお断りを入れてるって言うから意外だった。
斗希くん、面倒な事は面倒だってハッキリ言う人だから。
バイト自体は楽しいみたいだし、いい事だよね。
時間が遅いと聞いて、数日前に出来上がった物を家を出る前に渡しておこうと、ラック上の小物入れからシルバーの可愛いロボットのキーホルダーが着いた鍵を取り出した僕は、それを斗希くんへと差し出す。
「これ、うちの合鍵」
「わざわざ作ってくれたのか」
「最近は僕がバタバタしてるから、あった方が便利かなって」
「助かる」
実は9月の時点で希望した企業の内定が出ず二次募集をどうするか考えてた時、今バイトをしているところから就職先が決まってないなら社員にならないかって誘われたんだよね。
職場の雰囲気も一緒に働いてる人たちも好きだから悪くない話ではあって、悩んだり斗希くんに相談した結果、甘えさせて貰う事にした。
おかげで就活は終わったけど、卒業までにしなきゃいけない事だらけで今はちょっと忙しくて、そのせいで斗希くんに外で時間を潰して貰う事も増えてたからこうして無事に渡せて良かったな。
ちなみにロボットのキーホルダーは、雑貨屋で見つけて一目惚れした子。
絶対、斗希くんにあげようって思ったんだ。
ロボットをじっと見た斗希くんは小さく笑うと、僕の頭を抱き寄せ額にキスをしてきた。
「あんま無理すんなよ」
「うん、ありがとう」
優しい言葉が嬉しくて緩く腕を回して抱き着いたら斗希くんも抱き締め返してくれる。
しばらくそうしてた僕たちだけど、カチッと分針が動いた音にふと時計を見た僕はハッとした。
「斗希くん、そろそろ出ないと」
「そんな時間か」
「うん。だから離してくれる?」
「ん」
返事はしてくれるけど、僕をしっかりと抱く腕は解けない。
うん、僕も出来るならずっとこうしてたいんだけどね、もう学校に行く時間が迫ってるんだよね。
さすがに卒業前に遅刻や欠席をする訳にはいかない。
トントンと背中を叩き顔を上げたらちょうど目が合って、瞬いてると目蓋に口付けられた。そのまま頬へと滑り、最後に唇が塞がれる。
「ん⋯」
舌が入ってきて、口の中を余すとこなくねぶられ僕の舌が絡め取られる。
こんなの学校に行く前にするようなキスじゃないのに、気持ち良くて抵抗する気さえ起こらなくて身体が熱くなってきた。
お腹の下が疼いてゾクゾクする。
「⋯っ、ん、ぅ⋯」
「⋯⋯なぁ、このままサボんねぇ?」
「ゃ⋯⋯だ、だめです⋯っ」
斗希くんの人差し指がゆっくりと顎をなぞり、震えながらも慌てて首を振ったら笑い混じりに「だよな」って言われてようやく腕が離れる。
でもさっきのキスで息が上がってる僕は当然落ち着くまで外に出られる状況じゃなく、結局1本遅らせる羽目になってしまった。
したい事をしてくれるのは全然いいんだけど、せめて時と場合を考えて欲しいな。
あんまり気持ちいいと、僕だって止められなくなりそうだから。
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