冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました

ミヅハ

文字の大きさ
32 / 54

意外な人からの助け舟

しおりを挟む
 冷たい風が吹き付ける広場の少し奥まったところで、僕と美結さんはお互いを牽制するように見合ってる。
 この子は本気で斗希くんと両想いだと思ってるし、斗希くんが好きなのは自分だと思ってるから下手な事を言うと逆上してしまうかもしれない。でもこのままだといつまで経っても解決しなくて、斗希くんがしんどい思いをするだけだ。
 僕がどうにか出来るなら、ここで終わらせてしまいたい。

「あの⋯美結、さん⋯」
「なぁに?」
「斗希くんは、普段君と⋯どんな話をしてるの⋯?」
「えー? 話すっていうか〝うぜぇ〟とか、〝消えろ〟とか言われるかな。あ、あと、〝頭おかしい〟とか?」
「そ、それを聞いて、どう思ってる?」
「ツンデレだなーって。美結が好き過ぎて照れちゃうんだよ、可愛いよね」

 ポ、ポジティブ⋯⋯いや、これはポジティブじゃなくて、斗希くんの意図が通じてない? 普通はそこまで言われたら嫌われてるのかなって思うよね?
 あの頃の僕もそう思ってたけど、思い返してみれば美結さんみたいに言われた事ない。

「ねぇ、お兄さん。斗希くんの気持ちは私にしか分からないんだよ。私しか彼を理解してあげられない。お兄さんじゃ無理だから、私が優しくしてるうちに言う事聞いてよ」

 何をもってそう言い切れるのか。
 きっとこの子は、斗希くんの言動を自分の都合のいいようにしか捉えない。どれだけ斗希くんが困っていても、嘆いていても、自分がこうだと思ったら疑いもしないんだ。
 そんなの、愛でもなんでもない。

「君こそ何も分かってないよ。斗希くんは真っ直ぐに言葉をくれる人だから、君に言った事は彼の本心。ツンデレとか、照れてるからとか、そんなんじゃないんだよ」
「何言ってるの? お兄さんって、斗希くんより年上のくせに理解力なさすぎ。そりゃ斗希くんは素敵だからお兄さんが本気になっても仕方ないけど、もう無理だからね?    このまま黙って身を引いた方がお兄さんの為だから」
「それは出来ない。君が斗希くんに迷惑を掛けてる以上、このまま放っておく訳にはいかないよ。⋯斗希くんはね、自分に正直で嘘なんてつかない。優しいけど面倒臭がりで、自分が気に入らなければハッキリとそう口にする人だよ。バイト先に来るお客さんだから今はそれだけで済んでるけど、そろそろ考えないと良くない方に⋯」
「知った風に言わないで!」

 きっと斗希くんはいろいろ考えて何か言うだけに留めてるんだろうけど、こうして僕に接触してしまったらもう終わりにしか向かわない。
 そう自惚れられるくらいには、斗希くんに大事にされてるって自覚してるから。
 少しでも間違ってる事に気付いてくれたら、そう思ったんだけど、美結さんは言葉の途中で大きな声を出すとさっきまでの笑顔とは一転して僕を睨み付けてきた。

「何なの? お兄さん、自分の立場分かってる?」
「分かってるよ。僕は、斗希くんの恋人だから」
「分かってないじゃない。お兄さんはただの遊び相手。そもそも男が男に本気になるって、本当に思ってるの?」
「思ってるよ。僕は、斗希くんに好きって言葉も気持ちもたくさん貰ってる」
「⋯⋯⋯」

 それ以上だってたくさん、言葉にするのは苦手だと言いながら斗希くんはちゃんと伝えてくれる。僕が不安にならないように、自信が持てるように。
 美結さんの目を真っ直ぐ見て言えば、彼女はしばらく黙り込んだあと突然僕の胸倉を掴んできた。

「違う! 違う!! 斗希くんが好きなのは美結! あんたじゃない!」
「⋯っ、ちょ⋯」
「マウント取ろうとしたって無駄だから! 斗希くんがくれば分かるの!    どうせすぐに捨てられる! 美結が言えばあんたなんて⋯っ」
「何してるのよ!」

 華奢な腕なのにどこにこんな力があるのか、締め上げられて顔を顰めてたら誰かの声がして美結さんが小さく悲鳴を上げた。
 軽く咳き込みながら見ると尻餅をついてて、その傍に人が立ってるから顔を上げた、僕は美結さんの時よりも驚いて目を見瞠る。
 怪訝そうな顔でそこにいたのは、何とさやかさんだった。

「⋯いったぁ⋯⋯何するの!」
「何って、あんたがこの人に乱暴してたからでしょ!」
「乱暴なんてしてない! この人が分からずやだから分からせようとしただけ! 邪魔しないで!」
「はぁ?」

 呆然とする僕の前で、女の子同士の言い合いが繰り広げられている。
 でも、どうしてさやかさんが僕を助けてくれるんだろう。あんな事があって、絶対憎まれてるはずなのに。

「あのねぇ、私はあんたを助けたも同然よ? この人に手を出したら、めちゃくちゃ怖いヤツ出てくるんだから」
「知らないわよ、そんなの! 美結はただ斗希くんの事で⋯」
「この人に傷1つでもつけたり泣かせたりしたら、あんた、斗希に殺されるわよ」
「斗希くんが美結を? 有り得ない。美結は斗希くんに愛されてるもん」

 そっか、さやかさん、美結さんの為に間に入ったんだ。
 さやかさんはブレスレットの件で斗希くんに殴られそうになってて、本気で怒った斗希くんは女の子にも容赦がないって分かってるから。
 でも変わらず斗希くんと相思相愛だと疑わない美結さんは、立ち上がって土を落とすと再び僕へと冷たい視線を向けてきた。

「お兄さん、これ以上斗希くんに付き纏わないで。好きなのは分かるけど、お兄さんは遊ばれてるだけだから。そもそも男のくせに男を好きになるなんて⋯」

 吐き捨てるような言い方に眉尻を下げたら、さやかさんが腕を振り上げ美結さんの頬へと振り下ろした。パンッて小気味いい音が鳴り、僕も美結さんもポカンとする。

「私も自分を棚上げするつもりはないけど、好きな人の事ちゃんと知りもしないで良くそんな事言えるわね。斗希があんたを好きなんて、勘違いも甚だしいわ」
「⋯な、何⋯」
「好きだから現実を受け入れられないのは理解出来るけど、あんたが無理な側なの。斗希に愛されてるのはこの人だけで、むしろあんたは嫌われてるわよ」
「そ、そんな事⋯っ」
「あるからね。もし今斗希が来たとして、真っ先に駆け寄るのはどっちにだと思う? 確実にこの人だし、斗希はこの人の心配しかしないから」

 あのさやかさんが、僕を斗希くんの恋人だと受け入れて美結さんを説得してる。美結さんも叩かれた事で困惑してるのか、さっきとは別人みたいに大人しくなり話を聞いてた。
 自分が悪いとは思わないけど、僕が斗希くんと付き合ってる裏で悲しんでる人もいるんだって改めて知って胸が痛む。
 この気持ちさえも、自分のエゴなのかもしれないけど。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

彼氏の優先順位[本編完結]

セイ
BL
一目惚れした彼に告白されて晴れて恋人になったというのに彼と彼の幼馴染との距離が気になりすぎる!恋人の僕より一緒にいるんじゃない?は…!!もしかして恋人になったのは夢だった?と悩みまくる受けのお話。 メインの青衣×青空の話、幼馴染の茜の話、友人倉橋の数話ずつの短編構成です。それぞれの恋愛をお楽しみください。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

イケメン後輩のスマホを拾ったらロック画が俺でした

天埜鳩愛
BL
☆本編番外編 完結済✨ 感想嬉しいです! 元バスケ部の俺が拾ったスマホのロック画は、ユニフォーム姿の“俺”。 持ち主は、顔面国宝の一年生。 なんで俺の写真? なんでロック画? 問い詰める間もなく「この人が最優先なんで」って宣言されて、女子の悲鳴の中、肩を掴まれて連行された。……俺、ただスマホ届けに来ただけなんだけど。 頼られたら嫌とは言えない南澤燈真は高校二年生。クールなイケメン後輩、北門唯が置き忘れたスマホを手に取ってみると、ロック画が何故か中学時代の燈真だった! 北門はモテ男ゆえに女子からしつこくされ、燈真が助けることに。その日から学年を越え急激に仲良くなる二人。燈真は誰にも言えなかった悩みを北門にだけ打ち明けて……。一途なメロ後輩 × 絆され男前先輩の、救いすくわれ・持ちつ持たれつラブ! ☆ノベマ!の青春BLコンテスト最終選考作品に加筆&新エピソードを加えたアルファポリス版です。

冷遇された公爵子息に代わって自由に生きる

セイ
BL
良くは思い出せないけれど死んでしまった俺は真っ白な部屋で可愛らしい男の子と出会う。神様の計らいで生まれ変わる俺は同じ様に死んだその男の子の身体へと生まれ変わることになった。しかし、その男の子は家族に冷遇されていた公爵家の息子だったようだ。そんな家族と親しくなれないと思った俺は家を出て自由に生きる決意をする。運命の番と出会い、幸せに生きる男の話。

借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます

なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。 そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。 「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」 脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……! 高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!? 借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。 冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!? 短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。

俺の彼氏は真面目だから

西を向いたらね
BL
受けが攻めと恋人同士だと思って「俺の彼氏は真面目だからなぁ」って言ったら、攻めの様子が急におかしくなった話。

処理中です...