冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました

ミヅハ

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2度目の記念日

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 今日は斗希くんと付き合って2年目を迎える日だ。
 といっても平日だから、祝うのは週末の日曜日になる。
 1年目は一緒にいられなかったけど、あとからネックレスをくれたし今年は僕が何かを贈る番。なんだけど⋯⋯。

「どうしよう⋯何を贈れば斗希くんは喜んでくれるかな」

 お昼の休憩中、スタッフルームでお弁当をつつきながら僕は頬杖をついて考えてた。
 斗希くんはわりと何でも持ってるし、欲しい物は自分で買うタイプだから選ぶのもなかなか大変なんだよね。
 本当に悩む。

「まーだ食ってんのか、ひよこ」
「わっ」

 ぼーっとしてたら突然頭が掴まれ、僕は驚いて大きな声を上げてしまった。
 慌てて振り向くと、僕がバイトを始めた時から面倒を見てくれてる先輩がいて、呆れたように弁当を指差す。
 ちなみに何で〝ひよこ〟なのかと言うと、入りたての頃は失敗ばっかりしてたから。物覚えが悪過ぎる事もないんだけど、細かいミスが多くてそのフォローを先輩はしてくれてたんだよね。
 なかなか1人前になれなかった名残で、先輩からは今でもひよこって呼ばれてる。

「休憩終わるぞ」
「は、はい。すぐ食べます」

 ただでさえ別の事に意識を持っていかれてるのに、ご飯までちゃんと食べなくてミスしたら目も当てられない。
 先輩が向かいに座るのを視界の隅に捉えながら箸を進めてると、ペットボトルを置いた先輩が「で?」と首を傾げた。

「何悩んでんだ? 仕事? 分かんないとこでもあった?」
「あ、いえ。仕事は大丈夫です。その⋯プライベートの事で⋯」
「プライベートねぇ⋯お兄さんが聞いてやろうか?」

 先輩って案外目敏い上に物凄く面倒見が良くて、少しでも悩んでる人や困ってる人がいたらこうして声をかけて相談に乗ってくれる。だから僕も、叱られてもめげずにバイトを続けられたし、ここで就職しようって思ったんだよね。
 それに、先輩は僕に〝彼氏〟がいる事を知ってる。
 僕は少し悩んだあと、箸を置いて先輩を見上げた。

「⋯恋人との記念日で、何を贈ろうか悩んでました⋯」
「記念日か⋯ちなみに何年目?」
「2年目です。1年目は彼がこれをくれて」

 言いながら、僕は襟元からネックレスのトップを引っ張り出し先輩へと見せる。
 ブレスレットはさすがに勤務中は外してるけど、これはお風呂と寝る時以外は身に着けて僕の活力にしてた。斗希くんも、学校に行く時とか着けてくれてるし。
 先輩はそれを見たあと、ニヤリと笑って今度は僕を指差した。

「どうしても見つかんないなら、裸になってリボン巻いて、〝僕がプレゼント〟ってすればいいんじゃね?」
「⋯先輩、僕は真面目に⋯」
「まぁ一案だよ。そういう贈り物もあるって事。ほら、もう休憩終わり。仕事に戻んな」
「⋯⋯分かりました」

 さすがにその案は即却下だけど、いつもと違う事をするのはありかもしれない。
 ちょっとオシャレして、少し高めのお店で食事とか。でも結局、プレゼントは考えないとダメなんだけどね。
 スマホを弄り始めた先輩に小さく溜め息を零した僕は、お弁当を片付けて立ち上がりスタッフルームをあとにした。
 もう少しだけでも、まともな案が欲しかったな。



 日曜日。2人だけで過ごしたいっていう斗希くんのお願いを聞いて、今日は丸1日どこにも行かない事にした。
 オシャレして食事も聞いてみたけど、それより僕の料理がいいって言われたら応えない訳にはいかないし、何より僕とだけといたいって思ってくれた斗希くんの気持ちが嬉しくて2つ返事で頷いたんだよね。
 朝からベッドでイチャイチャして、お昼頃にようやく起き上がれた僕は、今はお昼ご飯兼夕飯の下準備をしてる。
 斗希くんにリクエストはあるか聞いたら普通の献立を答えられたから、記念日っぽいのはケーキとプレゼントくらいかな。

「陽依」
「うん?」
「手伝う事あるか?」
「ううん、大丈夫だよ。ありがとう」

 お昼は簡単なものにしようと思ってホットサンドとサラダを作ってたら、斗希くんが後ろから覗き込んできた。
 もうほとんど完成だから首を振れば、斗希くんは僕の頬に口付けてから戻ってく。
 出来上がってテーブルに運び、ベッドに寄りかかって座る斗希くんの膝の間に腰を下ろしてテレビを操作した僕は、新しくサブスク解禁された映画の一覧を開いた。
 アニメ、邦画、洋画。結構あるけど何がいいかな。

「エロいのねぇの」
「ありません。もう、いつもそんな事言うんだから」

 洋画ならそういうシーンもちょっとはあるかもしれないけど、いわゆるえっちなビデオみたいなものは当然ない。それなのに、こうして配信画面を映すたびに斗希くんはそう言ってくるから、最初は狼狽えてたもののもう返しにも慣れちゃった。
 斗希くんも分かってて僕の反応を見て楽しんでるから意地悪いよね。

「ま、そんなもんより陽依の方がエロいけどな」
「な、何言って⋯」
「俺が勃つのは陽依にだけって事だ」
「⋯⋯⋯」

 とんでもない事をさらっと言わないで欲しい。
 真っ赤になる僕にふっと笑った斗希くんはホットサンドを手に取ると一気に半分食べ、残りを僕の口元へと寄せてきた。その表情は楽しそうで、何も言えなくなった僕は仕方なく口を開けてそれを齧ると自分のお皿にあるホットサンドを斗希くんのお皿へと移す。
 斗希くんの方が身体大きいんだから、たくさん食べないとね。


 その日の夜、代わり映えのしないメニューが並ぶテーブルの上には、長いローソクが2本立ったカップサイズのホールケーキが置かれてた。斗希くんはケーキを食べられないから、代わりに甘さを控えに控えたナッツクッキーを横に添えてる。
 目の前に座る斗希くんの耳には新しいシルバーのフープピアスが下がっててそれが僕からの贈り物だったんだけど、斗希くんからはまさかの指輪がプレゼントされて今は僕の右手の薬指に嵌ってた。
 ペアじゃないのはちょっと残念だったけど、来年は一緒に買いに行く事提案してみようかな。

「斗希くん、いつも傍にいてくれてありがとう」
「俺の方こそありがとな」
「これからも一緒にいてくれる?」
「当たり前だろ。離れろっつっても離さねぇよ」

 そう言って抱き締めてくれる事さえも、当たり前になった今が幸せで仕方ない。
 僕も広い背中に腕を回して抱き返し、斗希くん首へと頬擦りして微笑んだ。

「斗希くん、大好き」

 この温もりも、頭を撫でてくれる大きな手も、ムスクの香りも、僕の名前を呼んでくれる低い声も、全部僕だけのもの。
 この先もずっと、斗希くんと並んで歩けるといいな。
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