冷淡彼氏に別れを告げたら溺愛モードに突入しました

ミヅハ

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電話越しの声(斗希視点)

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 面倒くせぇ修学旅行は2日目を迎えた。
 昨日はメッセージでのやり取りしか出来なかったし、今日は声聞けりゃいいんだけど。

「ねぇねぇ、風峯くんのグループもここだよね? 良かったら一緒に行かない?」

 しおりを見ながら移動経路を話してるダチを眺めてたら、同じクラスで別グループの女子が話しかけてきた。
〝ここ〟と言われてしおりを指差されたけど、俺はダチに任せてたししおりも見てねぇから知らねぇって意味で肩を竦めたら、他の奴が気付いて頷く。

「そう、そこ」
「人数多い方がレポートとか纏めやすいし、どうかな?」
「まぁいいんじゃね?」
「斗希は?」
「好きにすれば。俺見てるし」
「サボる前提かよ」

 レポートなんざやれる奴がやりゃいい。俺はそれを写すだけだし、なるべく頭を働かせるような事はしたくねぇんだよな。
 陽依の土産の為に頭空けとかねぇと、何が楽しかったとか教えてやれねぇし。

「斗希はいいよ、それで」
「んじゃ、移動すっか」
「斗希、しおり開かなくてもいいけど持って来いよ」
「ん」

 言われなくてもショルダーバッグに入ってっし。
 ダチの中に女が混じった形で歩き出したから少し遅れてついて行ってたら、1人がわざわざ戻ってきて俺の隣に立った。
 陽依より小さくて華奢な女。陽依と出会う前なら、下心は持ったかもしんねぇな。

「あの、風峯くん。いきなりごめんね」
「⋯⋯」
「でもうちのグループ女子しかいなかったから、風峯くんたちと一緒で安心した」
「⋯⋯⋯」
「それに、私は風峯くんと一緒で嬉しいし」

 輪から離れたところで、そう言って照れたように笑う女は他の奴から見りゃ惹かれるもんがあるんだろう。だけど、俺には欠片も刺さらない。
 これが陽依ならすぐにでも押し倒すけど。
 返事をすんのも億劫で、無視してポケットに手を入れたまま賑やかなダチについて行く。にしても、女子が加わるだけであんなテンション上がるもんかね。
 修学旅行が何の為にあんのか知んねぇけど、早く陽依んとこに帰りてぇな。


 自分たちで選んだ観光名所を回り、写真を撮ったりメモを執る奴らを後目に俺は陽依が好きそうなもんをスマホのカメラに収めては送信してた。昼休みに返事が来て、凄いだの綺麗だの文面だけでもはしゃいでんのが分かるくらい、絵文字やらスタンプやらが使われててちょい目が滑ったな。
 ただ、そうやって1人行動してる俺にはずっとさっきの女がついて来てて、どれだけ距離を空けようとも気付いたら傍にいてすげぇウザかった。
 ダチは俺が行事での団体行動が嫌いだって知ってっから何も言わねぇのに、そいつはシカトしてるにも関わらず何かあるたび話しかけて来やがる。何度キレそうになるのを堪えやったか。
 まぁ、それももう終わった事だけど。

「風呂いつ?」
「あと30分後」
「なら電話してくる」
「あいよー」

 30分ありゃとりあえずは充分だろ。
 学校側から、ここでなら通話可能だと知らされた場所に移動しながらスマホを弄ってたら、突然腕に誰かの手が回ってきて俺は足を止める。見ると他クラスの女がいて、そいつは俺を見上げて微笑んだ。

「風峯くん、どこに行くの?」
「⋯てめぇには関係ねぇだろ」

 甘ったるい香水の匂いがキツくて眉を顰めつつ腕を解こうとするが、女も負けじと力を入れるからなかなか外れない。苛立って舌打ちし、振り払うように勢いよく腕を上げればようやく離れたけど⋯絶対匂い移ったな。
 指定場所には他の奴はいなくて、壁に寄りかかり陽依の名前を開いたところであとをついてきた女が腰元に抱き着いてきた。
 わざとらしく胸を押し当ててくるけど、そそられるどころか逆に下品としか思えねぇ。

「ね、みんなが寝たあと、お互いこっそり抜け出さない?」
「⋯⋯何で」
「何でって⋯ふふ、風峯くんも分かってるくせに。気持ちいい事、好きでしょ?」
「⋯⋯⋯」
「普段はゴム必須なんだけど、風峯くんなら生でもいいよ」

 こいつ、修学旅行に男漁りに来てんのか?
 にしたってずいぶん自分に自信があんだな。断られるなんざ微塵も思ってねぇ。
 俺は鼻で笑うと、女の頭を掴んで引き剥がし発信ボタンをタップした。

「てめぇ相手に勃つ訳ねぇだろ。気持ち悪ぃんだよ」
「な⋯っ」
「生憎だが、俺が抱きてぇって思うのはあとにも先にも1人だけだ」

 俺の隣には陽依1人がいればいい。他の奴なんざ必要ねぇし、眼中にさえねぇ。
 スマホの画面が通話中に変わり、陽依の声が微かに聞こえてきた。ポカンとする女を無視して耳に当てると、返事がなかったからか陽依が『あれ?』と不思議そうに零す。

「陽依」
『斗希くん!』

 柔らかい声に自然と肩の力が抜け、女の頭から手を離した俺はそのままポケットに突っ込み陽依の話に耳を傾ける。
 そんな俺を見て眉を顰めた女は勢いよく踵を返すと足音を立てて走り去った。
 やっと静かになったな。

『斗希くん、今日は楽しかった?』
「あんま楽しいもんはなかったな」
『そっか』
「でも、お前が気に入りそうな場所は結構見つけた」
『ほんと? じゃあ明日も見つかったら、何泊もしないと回れないね』

 声だけなのに、今どんな顔をしてんのか分かるくらい明るくて聞いてるこっちまで和む。隣にいたんなら、にこにこしてる陽依が見れたんだろうな。
 俺との旅行を楽しみにしてんのも可愛いし。

『ねぇ、斗希くん』
「ん?」
『たまには電話もいいね』
「⋯そうだな」

 言われてみりゃ連絡手段ってSNSばっかで通話はした事ねぇかも。耳元で陽依の声が聞こえる感覚が不思議だったのは初めてだからか。
 でもやっぱ俺は、ちゃんと陽依の顔を見て話してぇな。どれだけ姿形を思い浮かべられても、声だけじゃ全然物足りねぇし。
 もう修学旅行なんて切り上げて、今すぐにでも飛んで帰って陽依を抱き締めたい。
 それくらい、陽依が傍にいんのは俺にとっての当たり前になってんだな。
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