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触れて、重ねて
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短いようで長い5日が過ぎ、今日は斗希くんが修学旅行から帰ってくる日だ。
ようやくって感じだけど、斗希くんは毎日ちょこちょこメッセージをくれたし、電話もくれたからどうしようもなく寂しいって事もなかったんだけど、やっぱり通話が終わったあとは胸にぽっかりと穴は空いてたかな。
でもそれも今日でおしまい。
夕方には帰って来るって言ってたし、早く仕事を終わらせてお風呂やご飯の準備をしておかないと。
夕日に染まっていた空にゆっくりと夜の帳が降りていく。
少し前に『今から学校出る』って斗希くんからのメッセージが来てから、僕はずっと玄関の框に立って待機してた。
本当は下で待とうかなとも思ったんだけど、夕飯作りの途中で醤油が服に飛んじゃったから落とすついでにお風呂にも入ったんだよね。外は寒いし、風邪を引いてまた斗希くんに面倒をかけるのは嫌だから、ここで待つ事にした。
壁に寄りかかったりしゃがんだりして、早く帰って来ないかなーなんてソワソワする事およそ30分、鍵が差し込まれる音がして内鍵がくるりと回り、扉を引いた斗希くんが入ってきて僕がいる事に気付くと眉を跳ね上げた。
僕は斗希くんが玄関内に入って扉を閉めた瞬間飛びつく。
「おかえりなさい!」
「ただいま。ここで待ってるとか、犬か」
「じっとしてられなくて」
5日ぶりに斗希くんが帰って来るってなって、座って待ってなんていられなかった。
腕を離して手に下げられていた紙袋やショッパーを受け取り、リビングへと向かう僕のあとを斗希くんがついてくる。
洗濯はあとで回すとして、荷物を下ろしてマフラーと上着を脱いだ斗希くんに僕はもう一度抱き着いた。
いつもより薄いムスクの香りに色んな匂いが混じってる。
「楽しかった?」
「楽しいっつーのはなかったな。でも飯は美味かった」
「ご飯が美味しいのはいいね」
興味を引かれる物がなくても、良かったって思える事があったなら充分だ。
斗希くんは息を吐くと、僕を抱き締め返して頭に頬を寄せてきた。
「お前がいねぇとやっぱつまんねぇわ」
「⋯僕も、斗希くんがいなくて寂しかった」
仕事をしていても、テレビを見ていても、考えるのは斗希くんの事ばかりでぼんやりする時もあったし、ちょっとしたミスを繰り返したりして先輩に呆れられてた。「なかなかニワトリにはなれないな」ってからかわれたし。
僕にとって斗希くんの存在がどれほど大きいか、今回で改めて思い知ったほどだ。
夕飯を準備しないとなんだけど、離れがたくてずっと抱き着いてたら、斗希くんがそのままベッドに腰を下ろし僕を膝に跨がせた。
「陽依」
「? ⋯ん⋯」
名前を呼ばれて顔を上げると斗希くんの手が頬に触れ、ふっと目を細めたあと唇が重なった。角度を変えて何度も啄まれ、息苦しくなり酸素を求めて口を開けたらすかさず肉厚な舌が入ってきて僕のを絡め掬う。
「ん、ぅ⋯」
数日ぶりのキスは頭が痺れるほど気持ちよくて、飲みきれなかった唾液が口端から垂れても気にせず僕は夢中で応える。
僕の耳をなぞる斗希くんの指にも襟足を弄る手にも反応してしまい、下腹部が疼いて無意識にもじもじしてたら、音を立てて離れた斗希くんが僕の唇を親指で拭い首筋へと鼻を寄せてきた。
「風呂入ったんだな」
「う、うん⋯ご飯作ってたら服汚れちゃって⋯」
「ふーん」
臭くはないだろうけど匂いが嗅がれると恥ずかしくて、軽く斗希くんの肩を押したらいきなりズボンの中に手が入ってきた。
驚く僕をよそに反応してる部分を握り込み、ふっと笑って耳元へと唇を寄せる。
「まぁ、もっかい入る事になるけどな」
そのまま耳が食まれて、舌先が耳孔に差し込まれる音と感覚にゾワゾワして、僕は斗希くんの肩へと顔を埋めると広い背中に腕を回した。
たぶん次に入る時は、斗希くんに全任せになるんだろうな。
意識だけは保てるように、なるべく頑張ろう。
桜満開春うらら。
過ごしやすい季節になり、斗希くんは高校3年生になった。
「斗希、どこに受験するか決めたの?」
ある日の日曜日。冬香さんから『買い物に行くわよ』って連絡を受けた斗希くんと僕は、休憩の為に立ち寄ったカフェでお茶をしてた。
てっきり斗希くんの服を買うのかと思ってたら僕のも選んでくれて、何だか凄くたくさん買って貰った気がする。冬香さんも斗希くんも基本値段を見ないから、何気なく値札を見た僕は1人戦慄してたっけ。
チラリと量のおかしい紙袋を見てたら、冬香さんが頬杖をついてそう問いかけた。
「⋯まぁ、ある程度は」
「うちの事なんて何も気にせず、行きたいところに行きなさいね」
「ん」
「近場に家を借りるなら出すから」
「⋯⋯⋯」
そういえば、斗希くんとこういう話ってした事ない。
大学には行くんだろうなって朧気に思ってたけど、考えてみたら市内にはないから冬香さんの言う通り県内でも家を借りるのは必須かも。
でもそうなったら、僕の家からも出て行かないといけなくなる⋯よね。
さすがに職場が遠くなるのは不便だし。
「ちなみに、斗希はうちの会社継ぐ気はあるの?」
「俺に跡が継げるとは思わねぇよ」
「そんな事ないわよ。でも、無理なら無理でいいから深く考えないで」
冬香さん、本当は継いで欲しいんだろうな。
大きな会社の事は分からない僕は黙って2人の会話を聞きながらケーキをつつき、斗希くんの卒業について考える。
もし市外どころかもっと遠くの大学に行くなら、寂しいけど、本当は行かないでって縋りたいけど、ちゃんと笑って見送らなきゃ。
きっと大丈夫、離れても僕たちは変わらないって今なら信じられるから。
斗希くんがしたい事、僕も応援したいしね。
ようやくって感じだけど、斗希くんは毎日ちょこちょこメッセージをくれたし、電話もくれたからどうしようもなく寂しいって事もなかったんだけど、やっぱり通話が終わったあとは胸にぽっかりと穴は空いてたかな。
でもそれも今日でおしまい。
夕方には帰って来るって言ってたし、早く仕事を終わらせてお風呂やご飯の準備をしておかないと。
夕日に染まっていた空にゆっくりと夜の帳が降りていく。
少し前に『今から学校出る』って斗希くんからのメッセージが来てから、僕はずっと玄関の框に立って待機してた。
本当は下で待とうかなとも思ったんだけど、夕飯作りの途中で醤油が服に飛んじゃったから落とすついでにお風呂にも入ったんだよね。外は寒いし、風邪を引いてまた斗希くんに面倒をかけるのは嫌だから、ここで待つ事にした。
壁に寄りかかったりしゃがんだりして、早く帰って来ないかなーなんてソワソワする事およそ30分、鍵が差し込まれる音がして内鍵がくるりと回り、扉を引いた斗希くんが入ってきて僕がいる事に気付くと眉を跳ね上げた。
僕は斗希くんが玄関内に入って扉を閉めた瞬間飛びつく。
「おかえりなさい!」
「ただいま。ここで待ってるとか、犬か」
「じっとしてられなくて」
5日ぶりに斗希くんが帰って来るってなって、座って待ってなんていられなかった。
腕を離して手に下げられていた紙袋やショッパーを受け取り、リビングへと向かう僕のあとを斗希くんがついてくる。
洗濯はあとで回すとして、荷物を下ろしてマフラーと上着を脱いだ斗希くんに僕はもう一度抱き着いた。
いつもより薄いムスクの香りに色んな匂いが混じってる。
「楽しかった?」
「楽しいっつーのはなかったな。でも飯は美味かった」
「ご飯が美味しいのはいいね」
興味を引かれる物がなくても、良かったって思える事があったなら充分だ。
斗希くんは息を吐くと、僕を抱き締め返して頭に頬を寄せてきた。
「お前がいねぇとやっぱつまんねぇわ」
「⋯僕も、斗希くんがいなくて寂しかった」
仕事をしていても、テレビを見ていても、考えるのは斗希くんの事ばかりでぼんやりする時もあったし、ちょっとしたミスを繰り返したりして先輩に呆れられてた。「なかなかニワトリにはなれないな」ってからかわれたし。
僕にとって斗希くんの存在がどれほど大きいか、今回で改めて思い知ったほどだ。
夕飯を準備しないとなんだけど、離れがたくてずっと抱き着いてたら、斗希くんがそのままベッドに腰を下ろし僕を膝に跨がせた。
「陽依」
「? ⋯ん⋯」
名前を呼ばれて顔を上げると斗希くんの手が頬に触れ、ふっと目を細めたあと唇が重なった。角度を変えて何度も啄まれ、息苦しくなり酸素を求めて口を開けたらすかさず肉厚な舌が入ってきて僕のを絡め掬う。
「ん、ぅ⋯」
数日ぶりのキスは頭が痺れるほど気持ちよくて、飲みきれなかった唾液が口端から垂れても気にせず僕は夢中で応える。
僕の耳をなぞる斗希くんの指にも襟足を弄る手にも反応してしまい、下腹部が疼いて無意識にもじもじしてたら、音を立てて離れた斗希くんが僕の唇を親指で拭い首筋へと鼻を寄せてきた。
「風呂入ったんだな」
「う、うん⋯ご飯作ってたら服汚れちゃって⋯」
「ふーん」
臭くはないだろうけど匂いが嗅がれると恥ずかしくて、軽く斗希くんの肩を押したらいきなりズボンの中に手が入ってきた。
驚く僕をよそに反応してる部分を握り込み、ふっと笑って耳元へと唇を寄せる。
「まぁ、もっかい入る事になるけどな」
そのまま耳が食まれて、舌先が耳孔に差し込まれる音と感覚にゾワゾワして、僕は斗希くんの肩へと顔を埋めると広い背中に腕を回した。
たぶん次に入る時は、斗希くんに全任せになるんだろうな。
意識だけは保てるように、なるべく頑張ろう。
桜満開春うらら。
過ごしやすい季節になり、斗希くんは高校3年生になった。
「斗希、どこに受験するか決めたの?」
ある日の日曜日。冬香さんから『買い物に行くわよ』って連絡を受けた斗希くんと僕は、休憩の為に立ち寄ったカフェでお茶をしてた。
てっきり斗希くんの服を買うのかと思ってたら僕のも選んでくれて、何だか凄くたくさん買って貰った気がする。冬香さんも斗希くんも基本値段を見ないから、何気なく値札を見た僕は1人戦慄してたっけ。
チラリと量のおかしい紙袋を見てたら、冬香さんが頬杖をついてそう問いかけた。
「⋯まぁ、ある程度は」
「うちの事なんて何も気にせず、行きたいところに行きなさいね」
「ん」
「近場に家を借りるなら出すから」
「⋯⋯⋯」
そういえば、斗希くんとこういう話ってした事ない。
大学には行くんだろうなって朧気に思ってたけど、考えてみたら市内にはないから冬香さんの言う通り県内でも家を借りるのは必須かも。
でもそうなったら、僕の家からも出て行かないといけなくなる⋯よね。
さすがに職場が遠くなるのは不便だし。
「ちなみに、斗希はうちの会社継ぐ気はあるの?」
「俺に跡が継げるとは思わねぇよ」
「そんな事ないわよ。でも、無理なら無理でいいから深く考えないで」
冬香さん、本当は継いで欲しいんだろうな。
大きな会社の事は分からない僕は黙って2人の会話を聞きながらケーキをつつき、斗希くんの卒業について考える。
もし市外どころかもっと遠くの大学に行くなら、寂しいけど、本当は行かないでって縋りたいけど、ちゃんと笑って見送らなきゃ。
きっと大丈夫、離れても僕たちは変わらないって今なら信じられるから。
斗希くんがしたい事、僕も応援したいしね。
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