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大事なもの
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斗希くんは、一見すると「勉強? 面倒くせぇ」ってタイプだけど、それなりにはするし、もともと頭が良いから受験に関しては心配してなかった。
志望大学はすでに決めてるらしく、中部地方にあるんだって。
つまりは一人暮らし確定で、合格したら僕たちは遠距離恋愛になる。
寂しいけど斗希くんが選んだ道だから応援するし、最初はいろいろ慣れる事から始めないといけないからそこは邪魔しないようにしたい。
落ち着いたら、斗希くんの家にだってお邪魔してみたいしね。
就職して1年が経ち、任される事も増えて帰宅時間が遅くなったりもする中、僕たちは交際3年目を迎えた。
当日は仕事があったからいつも通り過ごして、休みの日に朝からデートをしてお互いに同じプレゼントを贈り合った。
プレゼントは腕時計で、ベルト部分に2人のイニシャルを刻印して貰ってる。
来年は一緒にお祝い出来るか分からないし、斗希くんがこの家を出るまではなるべく一緒に過ごしたい。離れても、匂いや温もりを忘れないように。
「陽依」
寝る前の準備をしていると、今日自分の家から運び込んだ荷物の整理していた斗希くんが手招きしてきた。
首を傾げつつ近付いたら、何かを手にした斗希くんがそれを僕の首元に通して後ろで留め、指先で顎を掬い左右へと向けたあと満足げに頷く。
「似合ってるとは言えねぇが、存在感はあるな」
「これ⋯」
「俺の1番気に入ってるネックレス。お前にやる」
「え? そ、そんなの悪いよ」
「いいから持ってろ」
1番気に入ってるって、もしかしていつも着けてるあのネックレス? そんな大事な物を僕にって、どうして急に。
ネックレスに触れながらも困惑する僕の頭に額を当て、斗希くんは手を重ねてきた。
「どんだけ離れても、お前とこの先も一緒にいるっつー証」
「⋯斗希くん⋯」
「あんま会えなくなるけど、気持ちは変わんねぇから」
完全に不安がない訳ではなかったけど、離れたってこの関係が終わる事はないってちゃんと思ってた。ただ寂しい気持ちは当然あって、斗希くんと一緒にいる時は今まで以上にくっつくようになってて⋯だから、こうして言ってくれたのかな。
僕の事、本当によく見てくれてる。
嬉しくなった僕は腕を伸ばして斗希くんに抱き着くと、肩に頬を寄せて頷いた。
「うん⋯僕も変わらない。ずっと斗希くんが大好き」
あの頃だって好きって気持ちは少しもなくならなかったんだから、斗希くんの気持ちが分かってる今は絶対好きでいる自信がある。
斗希くんの手が肩を抱いて髪を撫でこめかみに口付けてきた。
手もキスも優しくて、何だかこのまま寝るのももったいない気持ちになった僕は腰に回した腕に力を込める。
たまには僕だって積極的になったっていいと思うんだ。
「⋯⋯斗希くん」
「ん?」
「あの⋯⋯その⋯」
「どうした?」
「⋯⋯み、耳貸して」
そうは言ってもやっぱり恥ずかしさが勝って斗希くんを見上げると、眉を顰めながらも腰を屈めて耳を寄せてくれる。
そこに唇を寄せ、躊躇いつつも口を開いて言えば、斗希くんは僅かに目を見瞠ったあと笑って頷いた。そのまま唇が重なって、キスをしながらベッドへと押し倒される。
もっともっと深いところ、いっそ1つになれるくらい繋がる事が出来たらいいのに。
ゆっくりと、でも確実に月日は経っていく。
斗希くんの友達を交えて、海にプールにとたくさん遊んだ夏休み。秋には初めて紅葉狩りをして、みんなでグランピングもした。受験間近のクリスマスには少しだけ遠出して巨大ツリーを見に行ったし、年越しは斗希くんの家で冬香さんと過ごした。
僕の父さんと母さんはその時にビデオ通話で冬香さんと対面してて、快活な冬香さんのおかげで楽しく話せたみたい。
それからあっという間の冬休みも終わり、当人じゃない僕の緊張をよそに受験に挑んだ斗希くんは見事合格して、あと数日もすれば卒業式を迎える。
大学の入学式までには引っ越しを終わらせないといけないから3月中には僕の家からも荷物を運び出すんだけど、何か1つだけでも持って行って貰おうか悩んでた。斗希くんは1番大事にしてたネックレスをくれたから、僕も大事な物をあげたい。
でも、僕が大事にしてるのって斗希くんから貰った物ばかりだから、それ以外ってなるとそこまで思い入れのない物ばかりなんだよね。
こういうのって難しいし、本当に苦手だ。
「何か⋯斗希くんをびっくりさせられるような物ないかな⋯⋯びっくりプラス嬉しいって思って貰える物⋯」
ネット検索を駆使していろいろ探してみるけどなかなか見つからない。
もういっそ、大学で役に立つ物をあげた方がいいんじゃないか。そう考え始めた時、とあるサイトが僕の目に留まった。
誰よりも愛する人だからこそ、この先もずっと一緒にいたいからこそ、共に歩みたいという願いを叶える為の証と誓い。
「⋯⋯斗希くんは、いつも僕に色んなものを与えてくれる。嬉しいも、楽しいも、ドキドキも、幸せも⋯⋯だったら今度は、僕が斗希くんにあげる番」
貰ったもの全てを返せなくても、同じ熱量で、同じ深さで応える事は出来る。
うん、決めた。斗希くんの卒業式の日はこれをサプライズにして渡そう。約束をして、いつかそれを果たせるように。
善は急げだ。さっそく準備に取り掛からないと。
志望大学はすでに決めてるらしく、中部地方にあるんだって。
つまりは一人暮らし確定で、合格したら僕たちは遠距離恋愛になる。
寂しいけど斗希くんが選んだ道だから応援するし、最初はいろいろ慣れる事から始めないといけないからそこは邪魔しないようにしたい。
落ち着いたら、斗希くんの家にだってお邪魔してみたいしね。
就職して1年が経ち、任される事も増えて帰宅時間が遅くなったりもする中、僕たちは交際3年目を迎えた。
当日は仕事があったからいつも通り過ごして、休みの日に朝からデートをしてお互いに同じプレゼントを贈り合った。
プレゼントは腕時計で、ベルト部分に2人のイニシャルを刻印して貰ってる。
来年は一緒にお祝い出来るか分からないし、斗希くんがこの家を出るまではなるべく一緒に過ごしたい。離れても、匂いや温もりを忘れないように。
「陽依」
寝る前の準備をしていると、今日自分の家から運び込んだ荷物の整理していた斗希くんが手招きしてきた。
首を傾げつつ近付いたら、何かを手にした斗希くんがそれを僕の首元に通して後ろで留め、指先で顎を掬い左右へと向けたあと満足げに頷く。
「似合ってるとは言えねぇが、存在感はあるな」
「これ⋯」
「俺の1番気に入ってるネックレス。お前にやる」
「え? そ、そんなの悪いよ」
「いいから持ってろ」
1番気に入ってるって、もしかしていつも着けてるあのネックレス? そんな大事な物を僕にって、どうして急に。
ネックレスに触れながらも困惑する僕の頭に額を当て、斗希くんは手を重ねてきた。
「どんだけ離れても、お前とこの先も一緒にいるっつー証」
「⋯斗希くん⋯」
「あんま会えなくなるけど、気持ちは変わんねぇから」
完全に不安がない訳ではなかったけど、離れたってこの関係が終わる事はないってちゃんと思ってた。ただ寂しい気持ちは当然あって、斗希くんと一緒にいる時は今まで以上にくっつくようになってて⋯だから、こうして言ってくれたのかな。
僕の事、本当によく見てくれてる。
嬉しくなった僕は腕を伸ばして斗希くんに抱き着くと、肩に頬を寄せて頷いた。
「うん⋯僕も変わらない。ずっと斗希くんが大好き」
あの頃だって好きって気持ちは少しもなくならなかったんだから、斗希くんの気持ちが分かってる今は絶対好きでいる自信がある。
斗希くんの手が肩を抱いて髪を撫でこめかみに口付けてきた。
手もキスも優しくて、何だかこのまま寝るのももったいない気持ちになった僕は腰に回した腕に力を込める。
たまには僕だって積極的になったっていいと思うんだ。
「⋯⋯斗希くん」
「ん?」
「あの⋯⋯その⋯」
「どうした?」
「⋯⋯み、耳貸して」
そうは言ってもやっぱり恥ずかしさが勝って斗希くんを見上げると、眉を顰めながらも腰を屈めて耳を寄せてくれる。
そこに唇を寄せ、躊躇いつつも口を開いて言えば、斗希くんは僅かに目を見瞠ったあと笑って頷いた。そのまま唇が重なって、キスをしながらベッドへと押し倒される。
もっともっと深いところ、いっそ1つになれるくらい繋がる事が出来たらいいのに。
ゆっくりと、でも確実に月日は経っていく。
斗希くんの友達を交えて、海にプールにとたくさん遊んだ夏休み。秋には初めて紅葉狩りをして、みんなでグランピングもした。受験間近のクリスマスには少しだけ遠出して巨大ツリーを見に行ったし、年越しは斗希くんの家で冬香さんと過ごした。
僕の父さんと母さんはその時にビデオ通話で冬香さんと対面してて、快活な冬香さんのおかげで楽しく話せたみたい。
それからあっという間の冬休みも終わり、当人じゃない僕の緊張をよそに受験に挑んだ斗希くんは見事合格して、あと数日もすれば卒業式を迎える。
大学の入学式までには引っ越しを終わらせないといけないから3月中には僕の家からも荷物を運び出すんだけど、何か1つだけでも持って行って貰おうか悩んでた。斗希くんは1番大事にしてたネックレスをくれたから、僕も大事な物をあげたい。
でも、僕が大事にしてるのって斗希くんから貰った物ばかりだから、それ以外ってなるとそこまで思い入れのない物ばかりなんだよね。
こういうのって難しいし、本当に苦手だ。
「何か⋯斗希くんをびっくりさせられるような物ないかな⋯⋯びっくりプラス嬉しいって思って貰える物⋯」
ネット検索を駆使していろいろ探してみるけどなかなか見つからない。
もういっそ、大学で役に立つ物をあげた方がいいんじゃないか。そう考え始めた時、とあるサイトが僕の目に留まった。
誰よりも愛する人だからこそ、この先もずっと一緒にいたいからこそ、共に歩みたいという願いを叶える為の証と誓い。
「⋯⋯斗希くんは、いつも僕に色んなものを与えてくれる。嬉しいも、楽しいも、ドキドキも、幸せも⋯⋯だったら今度は、僕が斗希くんにあげる番」
貰ったもの全てを返せなくても、同じ熱量で、同じ深さで応える事は出来る。
うん、決めた。斗希くんの卒業式の日はこれをサプライズにして渡そう。約束をして、いつかそれを果たせるように。
善は急げだ。さっそく準備に取り掛からないと。
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