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少しずつ(鷹臣視点)
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遥斗はどんな時でも一番風呂には入らない。
一度聞いてみたら、俺は朝早くから仕事をして帰って来ているのだからと言ってくれたのだが、それを言うなら遥斗も大学に行ってバイトをしているのだから同じなのに頑なに俺に最初を譲りたがる。
基本的にあの子は、自分を二の次に考えるから仕方ないのかもしれないが。
そうして俺のあとに風呂に入った遥斗だが⋯一時間近く経つのに上がって来ない。
心配ではあるがあと十分して出て来なかったら様子を見に行く事にして待つ事五分。ようやくリビングに戻ってきた遥斗は頭にタオルを被せて俯いていた。
珍しく髪の先から雫が滴り落ちているが気にしていないのか拭く様子もなく、タオルのせいでよけいに表情が見えないから困惑してしまう。とりあえずこのままだと服も濡れてしまう為、遥斗の代わりに髪を拭いていると肩が震えている事に気付いた。
「遥斗?」
「⋯⋯っ⋯」
何かあったのかと顔を覗き込むと目に涙を滲ませていて、初めて見る遥斗の姿に驚いた俺はひどく狼狽えてしまう。
「ど、どうしたんだ? 浴室で何が⋯?」
「⋯⋯ぅ⋯ごめんなさい⋯」
「え?」
泣いている理由も謝られる理由も分からず、ポロポロと零れ出した涙をタオルで拭きつつ何に対してか問い掛けると、遥斗は両手を胸のところでぎゅっと握り震える声で話し始めた。
「僕⋯鷹臣さんの負担を少しでも減らせればって思って⋯じ、自分で拡げようと思ったんです⋯」
「何を?」
「⋯⋯う、後ろ⋯」
「⋯⋯⋯⋯うん?」
〝後ろ〟を〝拡げる〟という言い方に思い当たる節がない訳ではないが、まさかという思いの方が強く違うものだろうと自己完結する。だが遥斗はくしゃりと顔を歪ませると決定的な事を言ってきた。
「ネットで調べて頑張ってみたんですけど⋯⋯指、怖くて入れられなかった⋯っ⋯ごめんなさい⋯」
つまり遥斗は、俺の為に調べてまで自分で事前の準備をしようとしてくれたという事か⋯男同士だし、ましてや初めてで不安だっただろうに、出来なかったからって悔し涙まで流して。
本当にいじらしくて愛おしい。
「遥斗が謝るような事ではないよ。普通なら指なんて入れない場所なんだから怖くて当たり前だ。頑張ってくれてありがとう、その気持ちだけで充分だよ」
「でも⋯」
「ゆっくりでいい。俺は確かに遥斗を抱きたいと思っているけど、怖がらせたり痛い思いをさせたい訳じゃないからね。それに、出来ればそういう事は俺にさせてくれないか? 遥斗の中も外も、触れるのは俺だけがいい」
遥斗には遥斗のペースがある。フレンチキスまでして肌に触れておいて何をと言われるかもしれないが、遥斗の嫌がるような事だけは絶対にしないつもりだった。
結果として受け入れて貰えているけど、それ以上は遥斗に合わせようと思っていたのだから。
「おいで、髪を乾かそう」
「⋯⋯⋯」
「明日はどこかに出掛けようか。確かうちの会社の近くにある会場で何かイベントが開かれて⋯⋯」
目を伏せる遥斗の手を引いてソファに座らせ、隣に腰を下ろしてドライヤーを手にする。気に病まなくてもいいように違う話題を出したらぎゅっと服を掴んだ遥斗が胸元に顔を埋めてきた。
いくら慣れてきて自分から触れられるようになってきたとはいえ、こんなに密着されるのは初めてて多少なりとも驚く。
「はる⋯」
「僕⋯鷹臣さんならいいです⋯」
「無理しなくていい」
「無理なんてしてないです。⋯だって、僕⋯鷹臣さんにもっと触って欲しいって思ってるから⋯⋯」
さっきまで泣いていたのに、今はこんなに顔を真っ赤にして小さく震えながらそんな事を言われると堪らない気持ちになる。
まだ濡れている髪を撫で額に口付けると、遥斗が視線だけで見上げてきた。
「⋯触って、下さい⋯」
「遥斗⋯」
無垢な瞳に見つめられグラグラと理性が揺さぶられる。
このままだと自分本位に手を出してしまいそうで、一つ息を吐いて遥斗の頬に触れると躊躇いがちに寄せてきた。
「⋯本当にいいの?」
「は、はい」
「分かった。でも、先に髪を乾かそうか」
濡れたままは髪にも良くないし、遥斗は癖毛だから乾かしておかないと翌日が大変な事になる。だからそう言って軽く頬を摘めば、遥斗はハッとして毛先に触れ恥ずかしそうに頷いた。
間接照明のほんのりとしたオレンジ色の灯りの下、俺のベッドの上で所在なさげにしている遥斗は緊張して縮こまっているせいかいつもより小さく見える。
残念ながら今手元にある物は遥斗が購入したというローションだけで、スキンもないから今日は最後までするつもりはない。そもそも抱きたいとは言ったけど、遥斗にその気がないなら触れ合うだけでいいと思っていたから今回の件は本当に心底驚いた。
ベッド縁に腰を下ろしただけでビクリと跳ね上がる遥斗に苦笑し、頬を撫でながら顔を寄せれば不安そうな表情でこちらを見てくる。
「遥斗が怖くないところまでやってみようか。少しでも嫌だと思ったら、ちゃんと口に出すんだよ?」
「⋯は、い⋯」
「おいで、遥斗」
「?」
とは言っても身体が固まってしまっている為、まずは緊張を解すべきだと腕を広げて呼ぶと、戸惑いながらも這って俺のところまで来てくれる。脇の下に手を入れて抱き上げ、膝の上に横向きに座らせ緩く抱き締めれば少しだけ肩から力が抜けた。
ゆっくりと背中を撫でていると呼吸も落ち着いてきて、遠慮がちに服を掴んだ遥斗が俺の首筋に頬擦りする。
(いつもこうして甘えてくれるといいんだけどな⋯)
遥斗はもっと貪欲になるべきだ。したい事、して欲しい事、欲しい物、食べたい物。何でも口に出して欲しいけど、我儘を言える環境ではなかったせいか遥斗は本心を飲み込んでしまう。
だからこそ俺は意図的に遥斗を甘やかしているのだが⋯まだまだ足りないのかもしれないな。
「遥斗」
「⋯はい⋯?」
「俺にとって遥斗は、誰よりも何よりも大切な人だよ」
梳くように髪を撫で、額に口付けると遥斗が俺の顔を見つめたあと泣きそうな顔になり初めて背中に腕を回して抱き着いてきた。
この子の為なら何でも出来ると思えるほど愛しくて堪らない。
小さく名前を呼ぶ遥斗にふっと微笑んだ俺は、頭にキスをしながら服の下へと手を差し入れた。
一度聞いてみたら、俺は朝早くから仕事をして帰って来ているのだからと言ってくれたのだが、それを言うなら遥斗も大学に行ってバイトをしているのだから同じなのに頑なに俺に最初を譲りたがる。
基本的にあの子は、自分を二の次に考えるから仕方ないのかもしれないが。
そうして俺のあとに風呂に入った遥斗だが⋯一時間近く経つのに上がって来ない。
心配ではあるがあと十分して出て来なかったら様子を見に行く事にして待つ事五分。ようやくリビングに戻ってきた遥斗は頭にタオルを被せて俯いていた。
珍しく髪の先から雫が滴り落ちているが気にしていないのか拭く様子もなく、タオルのせいでよけいに表情が見えないから困惑してしまう。とりあえずこのままだと服も濡れてしまう為、遥斗の代わりに髪を拭いていると肩が震えている事に気付いた。
「遥斗?」
「⋯⋯っ⋯」
何かあったのかと顔を覗き込むと目に涙を滲ませていて、初めて見る遥斗の姿に驚いた俺はひどく狼狽えてしまう。
「ど、どうしたんだ? 浴室で何が⋯?」
「⋯⋯ぅ⋯ごめんなさい⋯」
「え?」
泣いている理由も謝られる理由も分からず、ポロポロと零れ出した涙をタオルで拭きつつ何に対してか問い掛けると、遥斗は両手を胸のところでぎゅっと握り震える声で話し始めた。
「僕⋯鷹臣さんの負担を少しでも減らせればって思って⋯じ、自分で拡げようと思ったんです⋯」
「何を?」
「⋯⋯う、後ろ⋯」
「⋯⋯⋯⋯うん?」
〝後ろ〟を〝拡げる〟という言い方に思い当たる節がない訳ではないが、まさかという思いの方が強く違うものだろうと自己完結する。だが遥斗はくしゃりと顔を歪ませると決定的な事を言ってきた。
「ネットで調べて頑張ってみたんですけど⋯⋯指、怖くて入れられなかった⋯っ⋯ごめんなさい⋯」
つまり遥斗は、俺の為に調べてまで自分で事前の準備をしようとしてくれたという事か⋯男同士だし、ましてや初めてで不安だっただろうに、出来なかったからって悔し涙まで流して。
本当にいじらしくて愛おしい。
「遥斗が謝るような事ではないよ。普通なら指なんて入れない場所なんだから怖くて当たり前だ。頑張ってくれてありがとう、その気持ちだけで充分だよ」
「でも⋯」
「ゆっくりでいい。俺は確かに遥斗を抱きたいと思っているけど、怖がらせたり痛い思いをさせたい訳じゃないからね。それに、出来ればそういう事は俺にさせてくれないか? 遥斗の中も外も、触れるのは俺だけがいい」
遥斗には遥斗のペースがある。フレンチキスまでして肌に触れておいて何をと言われるかもしれないが、遥斗の嫌がるような事だけは絶対にしないつもりだった。
結果として受け入れて貰えているけど、それ以上は遥斗に合わせようと思っていたのだから。
「おいで、髪を乾かそう」
「⋯⋯⋯」
「明日はどこかに出掛けようか。確かうちの会社の近くにある会場で何かイベントが開かれて⋯⋯」
目を伏せる遥斗の手を引いてソファに座らせ、隣に腰を下ろしてドライヤーを手にする。気に病まなくてもいいように違う話題を出したらぎゅっと服を掴んだ遥斗が胸元に顔を埋めてきた。
いくら慣れてきて自分から触れられるようになってきたとはいえ、こんなに密着されるのは初めてて多少なりとも驚く。
「はる⋯」
「僕⋯鷹臣さんならいいです⋯」
「無理しなくていい」
「無理なんてしてないです。⋯だって、僕⋯鷹臣さんにもっと触って欲しいって思ってるから⋯⋯」
さっきまで泣いていたのに、今はこんなに顔を真っ赤にして小さく震えながらそんな事を言われると堪らない気持ちになる。
まだ濡れている髪を撫で額に口付けると、遥斗が視線だけで見上げてきた。
「⋯触って、下さい⋯」
「遥斗⋯」
無垢な瞳に見つめられグラグラと理性が揺さぶられる。
このままだと自分本位に手を出してしまいそうで、一つ息を吐いて遥斗の頬に触れると躊躇いがちに寄せてきた。
「⋯本当にいいの?」
「は、はい」
「分かった。でも、先に髪を乾かそうか」
濡れたままは髪にも良くないし、遥斗は癖毛だから乾かしておかないと翌日が大変な事になる。だからそう言って軽く頬を摘めば、遥斗はハッとして毛先に触れ恥ずかしそうに頷いた。
間接照明のほんのりとしたオレンジ色の灯りの下、俺のベッドの上で所在なさげにしている遥斗は緊張して縮こまっているせいかいつもより小さく見える。
残念ながら今手元にある物は遥斗が購入したというローションだけで、スキンもないから今日は最後までするつもりはない。そもそも抱きたいとは言ったけど、遥斗にその気がないなら触れ合うだけでいいと思っていたから今回の件は本当に心底驚いた。
ベッド縁に腰を下ろしただけでビクリと跳ね上がる遥斗に苦笑し、頬を撫でながら顔を寄せれば不安そうな表情でこちらを見てくる。
「遥斗が怖くないところまでやってみようか。少しでも嫌だと思ったら、ちゃんと口に出すんだよ?」
「⋯は、い⋯」
「おいで、遥斗」
「?」
とは言っても身体が固まってしまっている為、まずは緊張を解すべきだと腕を広げて呼ぶと、戸惑いながらも這って俺のところまで来てくれる。脇の下に手を入れて抱き上げ、膝の上に横向きに座らせ緩く抱き締めれば少しだけ肩から力が抜けた。
ゆっくりと背中を撫でていると呼吸も落ち着いてきて、遠慮がちに服を掴んだ遥斗が俺の首筋に頬擦りする。
(いつもこうして甘えてくれるといいんだけどな⋯)
遥斗はもっと貪欲になるべきだ。したい事、して欲しい事、欲しい物、食べたい物。何でも口に出して欲しいけど、我儘を言える環境ではなかったせいか遥斗は本心を飲み込んでしまう。
だからこそ俺は意図的に遥斗を甘やかしているのだが⋯まだまだ足りないのかもしれないな。
「遥斗」
「⋯はい⋯?」
「俺にとって遥斗は、誰よりも何よりも大切な人だよ」
梳くように髪を撫で、額に口付けると遥斗が俺の顔を見つめたあと泣きそうな顔になり初めて背中に腕を回して抱き着いてきた。
この子の為なら何でも出来ると思えるほど愛しくて堪らない。
小さく名前を呼ぶ遥斗にふっと微笑んだ俺は、頭にキスをしながら服の下へと手を差し入れた。
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