人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ

文字の大きさ
2 / 59

譲れないもの

しおりを挟む
 閑静な住宅地に建てられた二階建ての一軒家であるオレの家は現在、オレだけが住んでいる。
 別に死別とかじゃなく、両親が揃って北陸の方に転勤になったってだけで、普通に連絡は取り合ってるし何かと名産品が送られてくるっていう生活はもう二年目に突入していた。
 転勤が決まった時オレは中学二年生で、一人じゃ無理なんて心配する父と母を説得してどうにかここに残して貰ったんだけど、案外やり切れてるから割と性に合ってるんだと思う。料理だってやってみれば意外に楽しいし、掃除だって洗濯だって慣れればどうって事ない。
 何よりオレは、真那と離れたくなかった。
 まだアイドルになる事が決まっていなかった時だったから、両親が出発した日から真那はオレが寂しくないようにって寝るまで傍にいてくれて、朝だって苦手なくせに家にいてくれて、それがどれだけオレの支えになったか真那は知らないんだろうな。

 ちなみに真那の家はオレの隣で、オレの母さんと真那の母さんが中学時代からの同級生で一番の親友なんだって。だから自然と真那の家とは家族ぐるみの付き合いになった。
 そんな真那のご両親は真那がアイドルになったくらいから海外に長期出張に行っていて、実質真那も一人暮らしなんだけど地方でライブとか、スタジオ近くのホテルに泊まる以外はうちに来る事が多いから、今は真那がほぼ寝に帰るだけの家みたいな感じになってる。たまにオレが掃除に行ってるけどな。


 真那たち三人は今日、生放送の歌番組に出ていた。もうね、三人が姿を現した瞬間の歓声はもはや悲鳴だったよ。「キャー!」じゃなくて「ギャー!」みたいな。
 司会の人も若干引いてた。

『いやー、相変わらず凄い人気ですねー』
『有り難い事です』
『みんな、ありがとなー!』
『……』
『真那、お前も何か言いなよ』
『……どうも』
『まったく…すみません』
『いえいえ。真那さんのこういった飾らない部分が【soar】さんの魅力の一つなのだと思いますよ』

 あれほど愛想良くしろって言ってるのに、真那はいつまでも自分を崩さないし隠さない。今はウケてるから良いけど、アイドルは笑顔も大事なんじゃないのか? いや、真那には満面の笑顔どころか作り笑いも無理だろうけど。

『ところで本日のテーマなのですが、みなさんはコレだけは譲れない、というものはありますか?』
『譲れないもの、ですか? そうですね…』
『陽向』
『え?』
『ひな……』
『あー! 日向ぼっこ! 日向ぼっこいいよな、うん!』
『真那さんは日向ぼっこが好きなんですね。お休みの日には必ず?』
『……はい』
『俺はやっぱりダンスですね! 二人には譲れないです! 志摩さんは?』
『俺はメンバーかな。大事な戦友だし』
『キャ─────!!』
「…………」

 いやもう、オレの内心も「キャー!!」だわ。
 アイツ絶対オレの事言ったよな。道下さんが上手くフォローしてくれたから良かったものの、変に誤解されそうな事を何の考えもなしに言うんじゃない!

「……まぁオレも、幼馴染みの座は誰にも譲れないけどな」

 真那の幼馴染みはオレだけだ。どんだけ真那と仲が良い奴がいてもこの場所だけは渡せない。
 でも真那もオレの名前を出したって事は、同じように思ってくれてるって事だよな。良かった。

 テレビの中の真那たちはステージに移動して紹介された曲を披露している。うーん、真那の声やっぱいいなぁ。低過ぎず高過ぎず、耳に心地良いテノールと甘い歌声が普段とのギャップを生んで、それが堪らないって言ってるファンの子たちを良く見かける。
 もちろん他の二人もそれぞれの持ち味を活かして最高のパフォーマンスを見せてるんだけど……オレの目はどうしたって真那ばかりを見てしまう。
 オレの幼馴染み、マジでカッコいい。

「……でもちょっと顔色悪いな。ここ五日会えてないし、大丈夫かな」

 空いても三日とかだったし、その時はメッセージ送ればその日には返って来てたからそこまで心配してなかったけど、二日前に送った分にはまだ既読すらついてなくて少しだけ不安になる。
 体調管理は露桐さんや水島さんがしてくれるだろうからまだいい。でも真那はコレと決めたら基本それしか食べない奴だし、むしろ一人だったら食べる事より寝る事を優先するかもしれない。
 オレより二つ年上の幼馴染みは、オレよりよっぽど自分に関心がないんだ。

「言ってくれれば、真那の好きなもの何でも作って持ってくのに」

 そもそも何で既読さえ付かないんだ? 仕事でも使ってるヤツだって言ってたから毎日見るくらいはするだろうに。
 オレは少し考えて、もう一度メッセージを送って見る事にした。

「食べたいものあったら、作るから教えて……と。送信」

 前に水島さんから、「陽向くんが作ったものなら完食するんだよね」って言って貰えたし、オレは真那が好きな味付けを熟知してる。だからこれには反応してくれるはずだ。

 そう思っていたのに、結局その日も真那から返事が来る事はなかった。





 二日経っても既読が付かなくて、こんな事はスマホを持ってから初めてだからオレはショックを受けていた。
 あれ、もしかしてオレ、本格的に真那に鬱陶しいって思われてる?

「陽向、おはよ」
「……あ、先輩。おはようございます」
「朝から暗いな、どうした?」
「いえ、何でもないです。大丈夫です」

 後ろから声をかけられ振り向くと、二年生の山下 和久やました わく先輩がいてオレは軽く頭を下げた。先輩とは中学からの知り合いで、同じ学区だった人は大抵この高校を受けてるから他にも知り合いはいるけど……真那がアイドルになった途端擦り寄って来る奴が増えたから、今は付き合いに慎重になってる。

 後ろから見て分かるくらい凹んでいたのか、和久先輩は苦笑しながら聞いてくれたけど、さすがにオレたちの事を知ってる先輩にも真那から返事が来なくて悲しいなんて言えない。
 首を振って答えれば、先輩はニヤリとしたあとオレの頭を少しだけ乱暴に撫で肩に腕を回してきた。

「三枝先輩と喧嘩でもしたかー?」
「そ、そんなんじゃないです」
「お前がそうなるのは先輩の事しかないだろ。優しい和久先輩が話を聞いてやるから……ぐぇっ」
「何……え?」

 オレの喜怒哀楽そんなに分かりやすいかと首を傾げていると、いきなり先輩が苦しそうな声を上げて後ろに下がり代わりにデカい何かに視界を奪われる。この爽やかで甘さのある香りは……。
 途端に周りが騒がしくなりオレは確信した。

「真那?」
「ヒナ、何で俺以外に触らせるの」
「え? や、別に先輩だし…」
「駄目」
「ダメって……」

 いきなり現れていきなり何を言っているんだと眉を顰めるけど、オレはハッとして真那の胸元を押し返し顔を上げる。
 何週間振りとも言える制服姿だけど、今はそれよりも未読無視の話をしなければ落ち着かない。

「真那、何で返事くれなかったんだ? っつか、既読にすらならないのは何で?」
「スマホ落として壊れた」
「へ? 壊れた?」
「うん。一週間くらい前にヒナに連絡しようと思ってポケットから出したら、滑って落として壊れた。今日やっと機種変しに行ける」

 そうか、〝しない〟じゃなくて〝出来ない〟状態だったのか。それなら納得。鬱陶しいとかもう面倒見切れないとか思われてたんじゃなくて本当に良かった。
 ホッと息を吐くと真那の手が先輩に鳥の巣みたいにされたオレの髪を梳いて整えてくれる。相変わらず大きくて安心する手だ。

「喉逝くかと思ったー。三枝先輩ヒドくないですか? 俺はただ陽向を慰めようと…」
「必要ない。それは俺の役目」
「いない時は俺の役目ですー」
「いらない」
「あ、はい……」

 おお、真那の声に珍しく感情がこもってる。和久先輩はビクッとして大人しく引き下がると、「それじゃあ」と言ってそそくさと昇降口へと向かった。
 こういうやり取りも久し振りだなと見送っていると、不意に真那の指が顎にかかり上向かされる。何か、女子の変な悲鳴が聞こえるんだけど。

「今日は午後から撮影あるし、機種変しに行かなきゃだから途中で帰るけど、夜はヒナのとこ行くから。ハンバーグ作って」
「ハンバーグはいいけど、昨日までちゃんと食べてたか? 三日前の歌番組、顔色良くなかったぞ」
「見てくれたんだ。ヒナと会えないし連絡出来ないしでちょっと病んでた」
「真那が出てるのは全部見てるって。じゃあ今日はデザートも付けてやるから、それ食べてゆっくりしような」
「ん」

 食べてたかの質問には答えてくれなかったけど、歌番組の時よりはまだマシな顔色をしてるから誰かが何とかしてくれたんだろう。真那の周りには優しい人が多いから。
 こっくりと頷いた真那に微笑んだオレは、視界の端で声をかけたそうにウズウズしている女子たちに気付くと少し考えてから真那の手を握る。元々声をかけられるのは好きじゃない真那はただでさえ疲れてるから、今はそっとしてあげて欲しい。

「ヒナ?」
「機種変したら、オレに一番にメッセージ送ってよ」
「もちろんそのつもり」
「よし。じゃあ教室までレッツゴー!」
「おー」

 オレは真那に気付かれないよう女子たちに謝り、オレより脚が長い癖にオレより後ろを歩く真那の腕を引っ張りながら昇降口へと向かうのだった。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...