人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ

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自分で決めた事

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 あの日大騒ぎになった【soar】のライブは、それ以降特にトラブルなく順調に開催され残り二会場となった。すべての会場でチケットは完売してるし、どこも満員御礼らしくライブ前日から当日は呟きアプリのトレンドがそれ一色になる。
 ライブでうっかり目が合ったあのライブの夜、『会いたかったのに』とか『ヒナは意地悪だ』とか恨み節が送られて来てたけど、最終的には『気を付けて帰ってね』ってメッセージが来てホッとした。
 あの時会ってたらオレの方がヤバかったと思うし。

 そんなオレは今、夏休みなのに学校に来ていた。学期末テストで一教科だけ赤点があって補習を受けてたんだけど、その帰りに通りかかった園芸部の先生に頼まれて今は花壇の草むしりをしている。

「何してんの、陽向」
「あ、和久先輩」
「草むしり?」
「先生に頼まれました」
「お人好しだなぁ」

 軍手をして無心で草を抜いていると、部活に出ていたらしい和久先輩が頭の上から覗き込んで来た。見上げて簡潔に答えれば苦笑しつつ隣に腰を下ろし、軍手もしていない手で草をむしり始める。

「先輩、指切れますよ」
「俺の手の皮分厚いから平気」
「え? マジですか?」
「触ってみる?」
「やめときます」
「即答かよ」

 絶対イタズラして来るって分かってるから首を振れば先輩は声を上げて笑い、ブチブチと草を抜いてく。でもいくら手の皮厚くても危ないから、予備で置いていた軍手を差し出すと目を瞬いて受け取った。

「サンキュー、陽向」
「怪我される方が嫌なんで」
「お前はそういう奴だよな。あ、ところでさ、最近一緒にいる可愛い子たち、どっちか陽向の彼女?」
「は? そんな訳ないじゃないですか」
「そんな訳ないんだ…」

 そもそもオレが彼氏とか、円香や千里にも失礼だろ。
 何故か口端を引き攣らせる先輩は無視してさっさと終わらせようとしゃがんだまま移動すると、その後をついて来た先輩が声を潜めて聞いてくる。

「陽向と三枝先輩って付き合ってんの?」
「付き合ってないです」
「やっぱりそうだよな。何か一部の女子が絶対付き合ってるとか言ってるから、それはないだろって思ってたんだよ。だって男同士だし」
「え?」
「三枝先輩の恋人になるなら、雅 茉梨みやび まつりくらい美人じゃないと、隣に並ぶのがまず無理だろ」

 男同士ってそんなにダメなのか?
 もし仮に付き合ってるって答えてたら、先輩はどういう反応をしたんだろう。嫌悪感とか持たれるのかな。
 ……ってか、雅茉梨って誰だ?

「よし、ちゃちゃっと終わらせるか」
「……はい」

 先輩に悪気はないかもしれないけど、男のオレじゃダメだって言われてるみたいで軽くショックだ。何かおかしな事を口走りそうだし、早く帰りたいから先輩の言う通りさっと終わらせてしまおう。

 それからオレは先輩と他愛ない会話をしながら、ただひたすらに草をむしって気を紛らわせていた。

 ちなみに帰宅して先輩が言ってた雅茉梨を調べたら物凄く綺麗な女優さんで、確かに真那と並んだらお似合いだなと納得してしまい、自分で凹んでしまった事は心の中にしまっておく事にする。





 連日テレビで放送される【soar】のライブ映像はどれを見ても三人がキラキラ輝いていて、真那は派手なダンスやパフォーマンスもしないのに一番目立って見える。しかも、必ずあの投げキスのシーンが入るから一気に真那ファンが増えて、グッズの売れ行きも好調らしい。
 ってか、ライブ終わったばっかなのに結成二周年記念ライブやんのか。それに合わせてコラボグッズも出るみたいだし、真那大丈夫か?

 そうそう、大盛況だったライブは昨日千秋楽を迎えて全ての興行が終了した。打ち上げで遅くなったからその日は現地のホテルに止まって、今日は事務所に寄って帰って来るってメッセージ来てたけど何と明日もオフらしい。
 二日連続とか初めてじゃないか? ってか、いよいよ伝える時が目前まで迫って来た訳だけど、ちゃんと言えるかな。

「…口から心臓出そう」

 まだ事務所にも着いてないだろうし、今のうちに買い物にでも行くか。
 今日の夕食、真那からのリクエストは中華料理。王道の餃子とチャーハンは作るとして、青椒肉絲とか回鍋肉とかはさすがに多いかな。でも真那なら食べるだろうし、量を少なめにして品数を増やすか。
 万が一真那の方が帰りが早くても鍵持ってるしと思いボディバッグを引っ下げたオレは、近所のスーパーへと足早に向かうのだった。



 買い物を終えて外に出たオレは、道路を越えた向かいにあるケーキ屋を見つけて足を止める。去年もライブ終わりにケーキを買って労った事を思い出し、信号を渡るだけだからとそこに向かう事にした。
 真那はチョコケーキが好きなんだよな。
 ケーキ屋に入り、自分のショートケーキとチョコケーキを頼んで財布からお金を出そうとした時、後ろから手が伸びてトレーにお札が置かれた。

「え?」
「俺が払う」
「……真那?」

 驚いて振り向くとキャップを被ってマスクをし、ノンフレームの眼鏡をかけた真那が立っていて驚く。目が嬉しそうに細められて肩に下げていたエコバッグが取られた。

「え、何で?」
「車の中で信号待ちしてたらヒナが渡ってるのが見えたから、水島さんに断って追いかけて来た。外で待ってくれてる」
「事務所は?」
「行ってきたよ」

 店員さんからケーキが入った箱を受け取り、お釣りを受け取った真那はオレの手を握るとそのまま店を出る。ギョッとして振り解こうとしたけど、真那の力に敵う訳もなく、水島さんの車へと足を向ける真那に手を引かれてつんのめりながらも小声で呼びかけた。

「誰かに見られたどうすんだ」
「大丈夫だよ、すぐそこだし。それに、人通りも少ないから」
「そりゃそうだけど…」

 長身で蜂蜜色の髪ってそうそうにいないし、ノンフレームの眼鏡が似合い過ぎてる真那はその滲み出るアイドルオーラが隠せていない。
 警戒するに越した事はないと足早に停まっている車に近付き急いで後部座席に乗り込んだ。

「おかえり。ごめんな、陽向くん。真那がどうしても行くって聞かなくて」
「外にいる時はオフでもアイドルだって事、教えておいて下さい」
「はは。言われてるぞ、真那」
「ヒナといる時にアイドルの俺でいたくない」

 その気持ちは分からないでもないけど、せめて外では不用意な行動は控えて欲しい。すっぱ抜かれて困るのは真那なんだから。
 やれやれと溜め息をついたオレの肩に手を置いた真那は、マスクを外してからオレを抱き寄せ頬に口付けて来た。

「今日泊まっていい?」
「え? あー……うん」
「……即答じゃないのは何で」

 告白の返事をどう切り出すかを悩んでる時にそんな事を聞かれて、思わず頷くのを躊躇ってしまったオレに真那は耳聡く気付く。眉を顰めて顔を覗き込んでくる真那から視線を逸らすと、ますます顔を近付けて来た。

「ヒナ」
「……あ、あとで言うから」
「絶対?」
「絶対」
「それなら」

 きっかけさえあれば、と心の中で呟きへらっと笑う。
 とりあえず納得してくれた真那の顔を押して離したけど、逆にガバッと抱き締められどうにも出来ないまま家まで送って貰ってしまった。


 これからまだ仕事があるという水島さんにお礼を言って家へと入り、手洗いと嗽を済ませた真那が早々にソファに沈み込む。
 ライブもあって、普通にテレビとかの仕事もあって、やっと休みが貰えて気が抜ければそうなるのも当たり前だよな。

「真那、夕飯出来るまで寝てるか?」
「んー……ヒナ、おいで」
「?」

 買って来たものをしまおうとダイニングテーブルに置いた時、起き上がった真那が首を傾げて手招きする。同じように首を傾げつつ近付けば腕と腰を掴まれ、真那の膝に乗り上げる形で引き寄せられた。
 思わぬ体勢に困惑していると今度は両手で頬を挟まれ上向かされる。

「ヒナ、キスしていい?」
「だ、ダメって言ったら?」
「……それでもする」
「じゃあ何で聞いた? ってか待って、ちょっとオレの話聞いて欲しい」

 今にも口付けて来そうな真那の様子に自分の口元を片手で隠し、空いてる手を振ると真那はパチンと目を瞬いて手を離す。
 でも膝の上からは下ろしてくれないらしく、離れた手が腰に緩く回された。

「さっきの事?」
「う、うん。それと、ツアー終わったらってやつ」
「いいよ、ヒナの話ならちゃんと聞く」
「ありがとう」

 少々強引だったかもしれないけど、話を聞く姿勢に変わった真那にホッとしたもののこの近さは若干恥ずかしい。
 だけど言うって決めた以上は多少の照れ臭さは抑えて真っ直ぐに真那を見つめる。一瞬だけ和久先輩の言葉が浮かんだけど、関係ないって頭から振り払った。

「さっき車の中で即答出来なかったのは、オレが悩んでたから」
「悩んでた?」
「うん。タイミング分かんなくて……あのな、真那。好きだぞ」
「知ってるよ。幼馴染みとして、だよね」

 おっと、さすがに端的過ぎたか。ってかオレ、真那に対して好きとか中学生くらいからあんま言ってなかったんだけどな。
 柔らかく微笑む真那にこれじゃダメだと悟ったオレは深呼吸をすると、今度は分かりやすくハッキリと口にした。

「違う。オレは、恋愛感情で、真那の事が好きなんだ」
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