人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ

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何気ない日

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 前日に晴れて恋人になったオレと真那は、ただいま『作る・作らない』の人が聞いたらしょうもないとも言える論争を繰り広げていた。
 朝起きたはいいけど真那がなかなか離してくれなくて、いい加減お腹が空いたから朝兼お昼のご飯を作るって言ったら、真那はくっついてたいからデリバリーでいいとか言い出した。材料があるから作るって言ってるのに聞いてくれなくて拮抗してる。

「我儘言うなって。洗濯だってまだしてないんだぞ」
「洗濯なら俺でも出来ると思うから。全然ヒナが足りてない」
「真那はオレの何を吸収してるんだ」
「癒し」
「余計分からなくなった」
「じゃあせめて、あと一時間はこのまままったりしてようよ」
「……一時間だけだからな」

 すでに昼近いし天気も良いのにこのまま布団の中にいるのは勿体ないけど、真那の腕は剥がせないしそのせいで起き上がる事も出来ないから、とりあえず言葉通りあと一時間は過ごす事に決めて身体の力を抜く。
 オレの家に置いてる部屋着だし、オレの家のシャンプーやボディソープのはずなのに真那の爽やかで甘い匂いがするのは何でだろう。
 この匂い、好きなんだよな。いつから付け始めたのかは知らないけど、今はもう真那の匂いって感じで香ってくると安心する。

「ヒナ、擽ったい」

 もっと嗅いでたくて無意識に真那の首筋に鼻先を寄せてたみたいで、クスクスと笑いを零す真那に頭を撫でられながら言われてハッとした。なんか、凄い大胆な事をした気がする。

「ご、ごめん」
「全然。ヒナなら何してもいいよ」
「じゃあ身長が縮む呪いを掛けてもいいのか?」
「ヒナの例えってたまに変な方向に行くよね。でもそれは駄目。ヒナを抱っこ出来なくなる」
「高校生男子を捕まえて抱っことか言うな」
「ヒナちっちゃいから」
「真那が規格外なんだ」

 だいたい、188センチってなんだ。いくらパパさんも長身だからってデカ過ぎにもほどがあるだろ。真那に比べれば大抵の奴は小さいし、女の子に至っては恐怖だ。
 まぁ、このキラキラした顔面で恐怖よりもトキメキが勝つんだろうけど。

「ヒナ、身長伸びた?」
「……3ミリ伸びた」
「誤差の範囲だね。じゃあ変わらず165センチなんだ?」
「これから成長するんだから、いいんだよ」

 何と言ってもまだ高校一年生。オレはまだ誕生日も来てないし、伸び代はたっぷりある。
 それなのに真那は不満げに「えー」って声を上げるとオレをぎゅーっと抱き締めて来た。

「ヒナは今くらいでいいよ。可愛いし」
「ただチビなだけじゃんか。真那め、起きろ」
「拗ねてるヒナも可愛い」
「いいから、ここに座れ」
「はいはい」

 起き上がった真那はもちろん座高だってオレより高い。体格も腕の太さも手の大きさも何もかも違う真那に悔しさを感じてオレも起き上がると、笑いながら起き上がった真那の背中に寄り掛かり首に腕を回す。
 小さい頃もこうして良く背中に飛び乗ったものだ。

「ほら、立って。下行くぞ」
「おんぶなんて何年振り?」
「小学六年生振りくらい? 真那、そこらへんから一気に身長伸び出したし」
「あの時は成長痛がヤバかったよ」

 少しだけ背が高かった真那がどんどん高くなっていって、驚いたと同時に羨ましかったんだよな。だからおんぶして貰って同じ高さで景色を見たんだけど…あの頃よりも遥かに高くなってるから、今見える光景は逆に怖いくらいまである。
 特に階段なんて斜めに下がってる訳だから余計に床との距離を感じで、オレは真那の首に回した腕で服を掴んだ。

「怖い?」
「ちょっと…思ったよりも高くて」
「抱っこの方が良かったんじゃない?」
「この高さならどっちでも一緒だろ」
「そんな事ないよ。抱っこなら俺が抱き締めてあげられる」
「…………」

 真那は基本的にオレには甘い。でも何か、好きって言われてからはその甘さが増してる気がして背中がムズムズする。恋人になって意識してるせいもあるかもしれないけど。
    照れ臭くなって真那の耳を軽く引っ張ると、小さく笑った真那は「ヒナは本当に可愛いね」とのたまった。
 こんな事されて可愛いとか、真那はマゾっ気があるんだろうか。


 朝昼兼用だからしっかりしたものをと思っていたら真那からフレンチトーストをリクエストされた。材料はあるからいいけど、なかったら買いに行かなきゃいけないところだった。
 手早く作り、ついでにあったアイスを添えてやると嬉しそうな顔をするからこっちまで笑顔になる。

「そうだ、ヒナに話さないといけない事あった」

 二人で向かい合って食べてると、不意に思い出したのか真那が手を止めてオレを見た。

「何?」
「俺、志摩さんと風音が住んでるマンションに引っ越さないといけないんだって」
「へ?」
「ヒナと離れる事になるから嫌だって言ったんだけど、いい加減防犯上の事を考えると実家は危ないって。ヒナも危ない目に遭うかもしれないからって言われると断れなかった」
「そっか…」

 確かに、実家は一番特定されやすい住居だ。真那のファンが家にまで押し寄せなかったのは、学校側がちゃんとしてくれてたからなんだろうな。同じ学校の人たちも中学生の内は待ち伏せとかあったけど、アイドルになってからはなかったし。
 でもそうだよな、この先そんな事が起きないとも限らないんだし、安全面を考えたら絶対セキュリティがしっかりしてるとこの方がいい。

「真那を守って貰えるならいい事だよ」
「ヒナも一緒に住まない?」
「何言ってんだ。自分からスキャンダルになるような事起こしてどうする」
「同じマンションの住人っていう体で。どうせパパラッチなんて中まで入って来れないんだし」
「あのな、真那。オレは真那の幼馴染みで、こ、恋人…だけど、【soar】のファンでもあるんだ。だから、みんなに迷惑が掛かるような事はしたくない」

 恋人でどもったのは言い慣れてないし気恥ずかしいからだ。でも真那はそれでも嬉しいのか柔らかく微笑んで頬杖をつく。

「でも、オレだって一緒にいたいとは思ってるから」
「ん、分かった。でもいつかは一緒に住もうね」
「いつかな」

 正直、真那が隣の家に帰って来ない事は寂しい。あの家、ホントに明かりが灯らなくなるんだな。
 真那のご両親もいつ帰って来るか分からないし。

「真那の家、寂しくなるな」
「ヒナが世話してくれてるんだよね」
「ママさんにも頼まれてるから」
「俺の父さんも母さんも、ヒナを頼りにし過ぎだよ」
「隣だし、休みの日は特にする事もないしいいんだって」

 人が寄り付かなくなると家はどんどん朽ちていく。真那が寝に帰るだけの家だとしても、そんな姿だけは絶対に見たくない。ちゃんと帰って来れる場所にしておかないと、ママさんもパパさんもショックだろうし。
 何となく食べる気がなくなって残りを真那の方に押しやると、その手を掴まれて真那の口元に寄せられた。

「ヒナ、寂しくなったらいつでも言って」
「え?」
「すぐ飛んで来て、抱き締めるから」

 優しく微笑んで指に口付けてくる真那の姿に思わずドキッとする。飛んで来るなんて出来るはずないのは分かってるのに、その言葉だけで嬉しくて心が暖かくなった。
 オレは何とも言えない気持ちになり眉尻を下げて笑うと真那の手を握り返して頷く。

「うん。ありがとう、真那」
「……まぁヒナの事だから言わないんだろうけど」
「ん? 何か言ったか?」
「何にも。食べたら洗濯干してくるね」
「いいよ、オレがやる」
「駄目。俺がするから、ヒナはゴロゴロしてて」

 ゴロゴロって、具体的にどうすればいいんだ? 床に寝転んでお菓子を食べながらテレビを見るとか? いや、床にお菓子零れるのはやだな。
 でもやる気満々な真那の気持ちを無碍にも出来ないし、ここは任せる事にするか。

「分かった。じゃあお願いするな」
「任せといて」

 自分の皿にあったフレンチトーストを綺麗に完食し、オレが残したものを食べ始めた真那の食欲に感心して笑みを零すと、最近気に入って飲んでるフルーツティーに口を付けた。


 三十分後。
 真那なりに頑張って干してくれた洗濯物は、シワが寄っていたりピンチハンガーがあるのに靴下がハンガーに掛けられていたりと気になる部分はあったが、それには目を瞑り真那を労えば何でか抱き上げられソファまで連れて行かれた。
 膝の上に向かい合わせに座らせられ、ぎゅーぎゅーと抱き締めてくる真那に諦めの溜め息をつくと、気の済むまですればいいさと身体の力を抜いたオレは真那に寄り掛かって目を閉じる。

 こういう、何でもない日を真那と過ごせるのがこんなにも幸せな事なんだって改めて感じて、嬉しいと思う反面少しだけ寂しさも抱いた日だった。
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