人気アイドルになった美形幼馴染みに溺愛されています

ミヅハ

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温かい人たち

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 今日は【soar】の三周年特別記念ライブ最終日だ。特別って事だからツアーじゃなくて都心のみでの開催だけど、案の定倍率は恐ろしく高かった。
 いろいろありつつも、三人は今も変わらず日本を代表するアイドルグループとして前線で活躍している。
 何の心境の変化か、真那がドラマに出演するようになり前以上に会えない日々が続いていたけど、今日はやっとリアルの真那に会えるから開始前からワクワクしていた。

 おおよそ二ヶ月ぶり。メッセージは毎日やりとりして、電話はできる時にして決して途切れる事はなかったものの、顔はテレビでしか見れなくて寂しさのあまりここ最近はもっぱら録画をしててリアルタイムで見れていない。
 早く会いたい、触って欲しいって気持ちが嫌でも溢れ出てきて、真那に無理なお願いをしてしまいそうだったから自分なりに自制していたのだ。
 真那の方は相変わらず「ヒナに会いたい」って言ってくれてたけど。

 初めて【soar】のライブに行った日、当選した上に初参戦にしては物凄くいい席だったから運を使い果たしたと思ったのは案外間違いじゃなく、実はこのライブも落選していた。
 でも真那がどうしても見に来て欲しいからってチケットを送って来て……それがアリーナの最前列、ステージから見てど真ん中の席で目を剥いたのを覚えてる。ここを【soar】権限で確保出来るとか、こんな事して本当にいいのかな。





 ライブ当日。またもや両側を女の子に挟まれたオレはステージの近さにずっとソワソワしていた。最前列って逆に見にくくないか? これ、首痛くなりそう。
 前回の失敗を踏まえ物販の整理券への申し込みを開始時刻に合わせた為今回は余裕でペンライトやグッズが買えた。真那の缶バッジとアクスタとキーホルダーをつい買っちゃったんだけど、今回もビジュが最高でホントにオレの幼馴染みで彼氏なのかと疑ってしまったくらいカッコいい。
 そりゃこんだけ顔がいいのが幼馴染みとしてずっと隣にいたら、大抵の人は普通にしか見えないよな。

 開演時間になり、諸注意のアナウンスのあと会場が暗くなる。パッとステージ上をライトが照らし、三人が中央のリフトに乗って現れた。途端に割れんばかりの歓声が響き渡りオレの心臓も跳ねる。
 真那からチケットを貰った事もあり、最初からオレに気付いていた真那は目が合うなりウィンクと投げキスをしてくれた。場内は湧きに湧いたけど……オレは倒れるかと思ったわ。

 相変わらずの歌唱力とパフォーマンス。会場にいるみんなを魅了する圧倒的存在感。みんな焦がれて止まない人なのに、ずっとオレだけを見てる。時々口元が「ヒナ」って動いて微笑んでくれるから、それだけでオレはもういっぱいいっぱいで泣きそうだ。

 どうにか涙を堪えて聞いていたら曲が終わるなり会場が明るくなる。いつものMCかと思っていると、どうしてか真那が一歩前に出て来た。

『……今日は俺の話を聞いてくれる?』

 いつもは志摩さんがMCを勤め、風音さんが盛り上げて真那はそれに相槌を打つくらいだったのに、自ら前に出て話し始めた真那にファンは少しザワ付き始める。
 しかも真那が進んで自分の話をするなんて、初めてじゃないか?

『俺は、基本的には感情が死んでて、表情だってほとんど動く事がない…のはみんな知ってるよね』
「知ってるー!」
「でもそれが真那だよー!」
『うん、ありがとう。…でも、そんな俺でも、笑ったり拗ねたり怒ったり…全部の感情を向けられる人がいるんだ』

 さざ波ほどだったざわめきが少しだけ大きくなる。
 ちょっと待て、もしかしなくても真那、オレの事を話そうとしてるのか? 今日はライブの最終日だぞ? カメラも入ってるのに。

『その人は俺の二つ下の男の子で、隣の家に生まれてからずっと一緒にいる幼馴染みなんだ。しょっちゅう遊びに行って何をするのも一緒、まるで本当の兄弟みたいだねって良く言われてた。生まれた時から可愛くて大切で仕方がなくて、何においてもその子を優先して出来る限り傍にいたんだ』
「……真那は何の話をしてるの?」
「さぁ…?」
「幼馴染みがいたんだ」
「真那がずっと隣にいたとか羨ましすぎる」
『俺はその子が生まれてからずーっと片思いしてて、去年、思い切って告白した』

 一瞬の静寂。すぐに劈くような悲鳴が上がり、オレは首を竦めて耳を押さえた。嘘だろ、そんな事まで言っちゃうのかよ。
 ってか、何で志摩さんも風音さんも止めないんだ?

『誰にも渡したくなかった。この先ずっと俺だけ見てればいいのにって…好きで好きで堪らなくて言っちゃったんだけど……やっぱりみんなは受け入れられない?』
「え、え?」
「何か、凄い話を聞いてる気が…」
「その子とはどうなったの?」
『お付き合いしてるよ』
「してるの!?」
「お、男の子って言ってたよね?」
「って事は、真那の相手って同性!?」
『……気持ち悪い?』

 怖い。ここにいるオレがだって知ったらみんなどう思うんだろう。真那の隠そうともしない真っ直ぐな言葉がオレの不安を煽り、ステージが見られなくて俯いてると隣の子が声高に叫んだ。

「全然気持ち悪くないよ!」
「真那が好きになった子なんでしょ?」
「しかも小さい頃からとか純愛過ぎない?」
「真那は一途なんだね!」

 聞こえてくるのは歓迎する声ばかりだ。そりゃ中には眉を顰めてる人もいるだろうけど、少なくともオレの周りにいる人たちは「おめでとう!」って言ってくれてる。
 何人かが「むしろご馳走様です!」なんて叫んでたのにはハテナだったけど。

『本当?』
「本当だよ!」
「むしろ女に取られるより良い!」
「それは言えてる」

 女の子より男の方がいいとか、【soar】のファンは変わってるな。ってかどうしよう、オレ、今度は顔が熱すぎて上げられなくなった。

『そっか…ありがとう。みんなが俺たちのファンで本当に良かった』
「こっちこそ、話してくれてありがとー!」
『話したのは俺の自己満足だよ。なかなか会えなくて不安にさせてるんじゃないかなって。だからここで思い切って話してみたんだ。本当に大切な子だから悲しませたくないし……ね、ヒナ』
「!!」

 パッとスポットライトがオレの頭上から当てられ否が応にも目立つハメになった。驚いて顔を上げると、オレを真っ直ぐに見て微笑んでる真那がいて戸惑ってしまう。

「ま、真那……」
『おいで、ヒナ。ちゃんと紹介させて』

 黒い皮の手袋をはめた大きな手が差し出される。チラリと志摩さんと風音さんを見ると苦笑しながらも頷いてて、オレは仕方なく立ち上がると腕を伸ばして真那の手を掴んだ。そのまま引っ張られ、ステージの上で抱き上げられる。

「ちょ、真那…っ、下ろせ…っ」
『駄目。ほらヒナ、みんなに顔を見せてあげて』
「お、オレの顔見たところで…」
『ヒナ、真っ赤だね。可愛い』

 誰のせいだろうな? そもそも、いくらなんでも推しのこんなシーン見たくないだろうに。そう思いつつそろりと視線を観客側へ向けると、何故かキラキラしてる目がたくさんあって拍子抜けした。

「え、思ったより可愛くない? 男の子だよね?」
「あの体格差やばー」
「ってか真那、あんな顔出来るんだ」
「デレデレじゃん」
「あの顔見たら何も言えないじゃんね…」
「尊い……!」

 それでいいのか、ファンのみんなよ。
 一人でアタフタしてたオレがバカみたいだと溜め息をつき、今まで見た中でもご機嫌度の高い真那の頬に触れて微笑む。
 こんな形で公表されるとは思ってなかったし、良く二人や事務所が許したなって思うけど、正直嬉しくて堪らない。

「真那、ありがとう」
『ヒナがそうして笑ってくれるなら、俺はそれだけでいいんだよ』
「真那ももっと笑え」
『ヒナの前では笑えるよ』
「みんなの前でもだよ」
『笑ったら笑ったでヤキモチ妬くくせに…』
「そ、そんな事…っ」
『ほんとに?』
『はいはーい、イチャつくのもそこまでにしろよな!』
『見てるこっちが恥ずかしいよ、まったく。という訳で、真那の一世一代の告白だった訳だけど……凄いね、みんな。あっさり受け入れてくれるなんて』

 実際、ずっとオレにだけ向けられてた笑顔が他に向いたらモヤッとはするだろうけど何もこんなところで言わなくてもと言い返そうとしたら、今の今まで傍観していた二人が近付いて来て真那の背中を叩いた。
 志摩さんはファンのみんなを見回して驚いたように言ってるけど、見える範囲ではみんなにこにこしてて温かいのに気恥ずかしい。

『俺たちはデビューする前から真那のヒナヒナ話は聞いてたから今更だけど、みんな寛容過ぎて俺の方が泣きそう』
『ホント、感謝が尽きないね』
『うん。みんな、ありがとう。ほら、ヒナも』
『え? あ、ありがとう、ございます…』

 真那が着けているヘッドセットのマイクが寄せられ戸惑いつつも頭を下げると、何でか「可愛いー!」って声が飛んできた。いや、どこがだ。

『何はともあれ、俺たちはこれからも【soar】として頑張るから、みんな応援よろしくね』
「はーい!」
『のんびり真那のせいでちょっと話が長くなっちまったけど、次の曲いきたいと思いまーす!』
『風音のソロダンス曲は初めてだっけ?』
『そうそう。結構激しめのダンスだから、頑張ってついてこいよー!』
「キャー!」
「風音ー!」

 舞台上の照明が風音さんを照らし、志摩さんが真那の背中を押して歩き出す。重低音が響きニヤリと笑った風音さんがオレに手を振って初っ端から大技連発のダンスを始めた。
 か、カッコイイ……!

「ヒナ、見すぎ」
「や、だって凄くないか? うわ、ジャンプ高!」
「ヒーナー?」

 舞台袖に捌ける真那の肩越しにじっと見ていたら少しだけ拗ねた口調で窘められる。それでも大胆なパフォーマンスをする風音さんから目が離せずにいると、真那の手に目元が覆われた。

「わっ。ごめん、ごめんって!」
「俺だけ見てっていつも言ってる」
「はい…」
「だから、メンバーにまで嫉妬するのはやめなさい」
「メンバーだからこそ嫉妬する」
「まったくもう…陽向くん、ごめんね。驚いたよね」
「……それはもう」

 席を用意して貰ったとはいえ心待ちにしていたライブには変わりないから遠慮なく楽しんでたらアレだもんな。
 これ、明日の朝刊の一面を飾るんだろうなぁ。

「真那からね、もう陽向くんを泣かせたくないから公表したいって相談されたんだ。もちろん事務所は猛反対。俺たちもそんな危ない橋は渡れないって最初は突っぱねてたんだけど……公表出来ないなら仕事しないって言い始めて」
「え!?」
「自分には陽向くんだけいればいい。もう他の誰かのせいで泣かせたくないから公表したいって。陽向くんはそんな事されても嬉しくないと思うよって宥めても頑として譲らなくてね。折れた事務所が出した条件は、まずは自分で身の回りの事が出来るようになる事。それから活動の幅を広げて、一年間スキャンダルを起こさない事。もちろん、陽向くん含めて」

 知らなかった、真那がそんな事言ってたなんて。そういえば、こないだ真那の家に行った時普通にご飯が出て来て驚いたっけ。やっとやる気になったのかと思ってたら、事務所から出された条件だったのか。
 ドラマに出始めたのもそれが理由だったんだな。

「で、今日がちょうど一年。この特別ライブも真那からの提案で、公表する為の舞台だったんだよ。……ホント、陽向くんのためなら、真那は何でも出来るんだね。おかげで事務所も俺たちも仕方ないって思っちゃったよ」
「…事務所にまで迷惑かけて……」
「だって、もうヒナを泣かせたくなかった…だから公表さえすれば言い寄ってくる人も減るかと思って。あのモデルに手を上げなかっただけでも褒めてよ」
「そうだな、そこは偉いな」

 オレはすぐにあの場を走り去ったから知らなかったけど、ブチ切れどころか手を上げそうだったのか。真那が誰かを殴るなんて姿は微塵も想像出来ないけど。
 オレを抱いたままパイプ椅子に座るから潰れないか不安になったけど、ギシッて鳴ったくらいで大丈夫そうでホッとした。

「怒ってる?」
「怒ってないよ。むしろめちゃくちゃ嬉しかった。あんなたくさんファンがいる前でオレとの事を言ってくれて……ファンの人たちも優しかったし」
「真那と風音で連想する人もいるくらいだからねぇ……」
「? 何を連想するんですか?」
「ヒナ、そこは気にしなくていいの」

 真那と風音さん? 話の流れが良く分からなくて首を傾げると、真那に耳が塞がれて志摩さんの苦笑する姿が見えた。何だよ、二人だけ意味が分かってるなんてズルいだろ。
 真那の手を掴んで離させ膝から降りようとしたのに、そこだけ素早い動きをする腕に再び閉じ込められた。

「おじさん、一緒に住むのまだ許してくれないかな」
「んー、父さんはオレが子供だからって言ってたからなー。もしかしたら、高校卒業まで無理かも」
「先が長すぎる…」

 ガックリと項垂れる真那の柔らかい髪をわしゃわしゃと撫で、そういえばオレの両親にしか聞いてないなと思い出し真那の肩を叩く。

「?」
「あのさ、もしかしてパパさんとママさんにはもう言ってたりする?」
「うん。付き合った日に国際電話した」
「そう、なんだ…」
「二人ともおめでとうって。母さんなんかは、やっとなの? って少し怒ってたけど、ヒナがお嫁さんに来てくれるの凄く喜んでたよ」
「お嫁さん……」

 変なところで行動力を発揮する真那にもびっくりなんだけど、パパさんもママさんもずーっと真那の気持ちを知ってて受け入れてくれてたって事だよな。
 まさに知らぬは本人ばかりなりってか。
 もうこの際お嫁さんは置いておいて、何ともあっさり認めてくれたパパさんとママさんには感謝しかない。

「陽向くん、言い直すよ」
「?」
「真那は、陽向くんの為なら何でも出来るんじゃなくて、何でもんだね」
「……」

 オレが真那の原動力ならそれはそれで嬉しいけど、もう少し別の事にもその熱意を向けて欲しいと思うのは我儘だろうか。
 ステージ側で聞こえる歓声を耳にしながら優しく目を細める真那を見上げたオレは、両腕を伸ばして頭を掻き抱き頬へと口付けた。
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