召喚者は一家を支える。

RayRim

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第1部

11話

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「夕べはお楽しみでしたね?」

 どこか不貞腐れたような顔のリンゴが、朝食後に二人だけになったタイミングで話し掛けてくる。
 どこでそんな言葉を覚えてきたのか。バンブーくらいしか思い浮かばないが…

「いや、なにもないぞ?」

 言い回し含めてビックリしたが、本当の事を言う。

「本当ですか?お互い手を握り合っちゃって…」
「手ぐらいいつでも握ってやれるが…」

 手を差し出すが、またもや叩いて拒否される。

「必要ありません。私は子供じゃないですから、騙されないんですからね!」

 一番子供のリンゴがむくれ気味で力説する。
 それだけ元気があればまだ大丈夫だな。
 だが、バニラの事を含め、早めに拠点を決めて頼れる人間を増やした方が良いだろう。
 精神的な支えという意味では、オレはあまりにも頼りない。もう一日あればエディさんに紹介をお願いしたかったが、会える機会が…

「おー。召喚者諸君、間に合ったようだな。」

 良いタイミングでエディさんがやって来た。
 宿の人に頼んでなんとか繋いでもらい、お礼を含め色々と話をしたかったのだ。

「あぁあぁ!!エディさん!!」

 突然の事で感極まったリンゴが変な声を出す。完全に落とされたようだ。

「王都の方で色々と学べるように手配しておいた。それに、信頼できる者に拠点となる場所の斡旋と世話を頼んでおいたよ。」
「ありがとうございます。」

 頭を深々と下げて礼を言う。
 右も左もわからない、という訳ではないが、人脈を構築する糸口を手にしたのは大きい 。現実である以上、これは無視できない。
 手続き用の書類と、相手の住所が記された地図が手渡される。
 書類の文字の上に、翻訳された文章が浮かび上がるのはなんだか妙な感じだ。
 地図は紙の切れ端に描かれた妙にかわいらしい絵である。喜びそうだと思ったので、とりあえずリンゴにわた…ひったくられる。うん。まあ良いけどさ。

「良い良い。私にはこれくらいしか出来ないからな。」

 笑顔で、しかし、どこか寂しそうな顔で言う。

「本当は案内してやりたいのだが、私もやることが多くてな。許して欲しい。」
「過分のお気遣い、痛み入ります。
 リンゴ、その地図を置いて二人を呼んできてくれ。」
「えっ!?」

 余程、気に入ってしまったのか、悲しそうな顔でこちらを見る。

「落ち着け。お前のそのテンションのまま飛び出していくと大事になりそうだ。地図は後でいくらでも見せてやるから。」

 そう諭すと、この世の終わりのような顔で、手を震わせながら地図をテーブルに置き、深々と礼をする。

「落ち着いて、ゆっくりな。転んだりしたら大変だから。」
「う、うん。エディさん、また後で…みんな呼んできますから…」

 リンゴが部屋を出ると、我慢できなかったのかエディさんは吹き出してしまう。
 オレはわりと冷や冷やものだが、端から見れば笑ってしまうやりとりだろう。

「騒がしくてすみません。」
「良いと言っておる。あの娘の事は私も気にしている。大事に育ててやってくれ。」
「はあ…」

 その事について話をしたかったのだが、あまり期待できないかもしれないな。

「心配なのはわかる。ここはお前にとって異郷だからな。」
「いえ、心配なのはそういう事ではないのです。」

 召喚者にも関わらず、元の世界の記憶がない事を包み隠さずに伝える。
 恐らく、エディさんにとってこれは弱味にならないだろう。脅す材料としては弱すぎる。
 驚いた表情の後、深刻そうな面持ちで考え込む。

「…済まぬ。そういう事で力になることは難しい。だが、その地図の者に事情は伝えておこう。」
「ありがとうございます。」
「気にするな。いや、私は気に留めておかねばならぬな。」

 エディさんに覚えておいて貰えるだけで光栄である。

「他の者はどうなんだ?」
「わかりません。事情が事情なので切り出しにくいですし、ただリンゴ…さっきの娘ともう一人の男の方は記憶がないという事はないと思うのですが…」

 リンゴなんかは記憶がないと発狂してそうな気がするが、そんな様子はない。
 ストレイドはよく分からないな。だが、知識や経験なしでしっかりとした格闘術を教える様なことは不可能なはず。

「魔法やスキルの研鑽だけなら今のオレでも指導したりはできます。ただ、多感な年頃の娘となると…」
「そうだな。不安はわかる。
 人を付けてやりたいが、ここでは無理なのだ。もうしばらく引率者として頑張ってくれ。」
「はい。」

 不安を言葉にしただけで、協力を得られるとわかっただけで十分だ。向こうに着いたら少しは余裕も生まれるだろう。もう少し踏ん張らねばならない。

「時間がある時には私も出来るだけ会いに行こう。出来ることは多くないが、遊び相手くらいにはなってやれる。」
「お待ちしています。あ、それと…」

 この際なので、他国の状況について聞いておくことにした。リンゴたちが戻ってくるとそれどころではないだろうし。

 まずは距離的に近いエルフの国。ゲームでは大半が森林で、ヒュマス側では魔の大森林などと呼ばれていたが、実態は様々なグッズとなったファンシーな獣たちの楽園であった。ボスはファンシーじゃなかったけどな。
 魔法国の影響を強く受け、野宿のような生活からログハウスへと移行しているらしい。森の根本的な事情から、魔物の発生はどうにもならないらしく 、定期的に同盟連合で大規模な魔獣狩りが行われているらしい。植物素材の宝庫なのは健在なようで、魔法国でも輸入している。関係は良好で両国にとって同盟は有意義なようだ。

 エルフとは魔法国を挟んで逆の土地に国を興したのがドワーフ。外から見れば山だらけの不毛の土地だが、地下に広大な都市を構えている。
 凍土、火山、水脈近くであろうとお構い無く寝床にできる逞しさは、ドワーフだからこそだろう。近くに鉱脈さえあれば住処はどこでも構わない、と言い出したのはプレイヤーだっただろうか?
 ゲーム的にはエルフとすこぶる仲が悪かったのだが、薬や資材など、魔法国経由で流れてきている物が多いのも事実。逆に、ドワーフの金属が魔国で加工され、エルフの生活を支えていたりもする。持ちつ持たれつなのだが、魔法国という仲介者あってこそだろう。
 そんな事情もあり、魔法国との関係は良好で、衣食住とかなり影響を受けているとの事。特に魔法国産の酒のウケが良いらしい。

 魔法国の更に北、不毛の凍土に国を興したのがビーストたちだ。
 独立心が高く、他の2国ほど魔法国と仲が良くないが、周囲は冬は凍る海のみで、陸で接しているのが魔法国だけという事情では積極的に関わらざるを得ないだろう。
 魔法国、いや、エディさんが最も腐心したのがビーストたちの関係との事。その見た目から、異常に亜人への敵愾心が強いヒュマスと友好関係を結ぶ事は難しいだろうが、敵の敵として軍事同盟を結ばれ、挟み撃ちになる事だけは避けたかったそうだ。
 舐められたら負けという価値観と、魔法国の実力主義は相性が良さそうだが、魔王がお飾りであった時代が長かったせいであまり印象が良くない。軍部とは仲が良いのだが、政治の舞台ではエディさんの登場まで相手にされなかったそうだ。
 独立心の高さ、不毛の土地である事が交渉を厳しいものにした。ビースト側からすれば、魔法国の技術や資源は喉から手が出るほど欲しいが、魔法国からしてみれば貿易相手として全く魅力的ではない。唯一無二の商品を持てないのが足を引っ張った。
 エディさんにとっても心苦しかったそうだが、労働力としてビーストの輸出を提案。当然のように即時猛反発を喰らうと思いきや、国に持ち帰って検討すると言われたそうだ。
 その後、魔法国にとって想定外の事件、ビースト領で穏健派によるクーデターが起き、各国に衝撃を与える。内乱に発展して以降、国家群と呼ばれる都市同士の奪い合いは止まること無く今に至る。
 ここまでで5年の歳月を費やしたらしく、その結末を前に投げ出すような形でエディさんは譲位してしまう。今の王にしっかり継承されたが、最後まで関われなかったのが無念だと締め括った。

 そして、この魔法国だが、それについては王都の協力者から話を聞くと良いと言われ、そこでリンゴがバニラとバンブーを連れて戻ってきた。
 
 「ヒガン、今度はお前の旅の話を聞かせてくれ。」
「すみません。そういうのは…」
「わかっていたよ。お前はそういうの向いてなさそうだからな。周りの事もあまり気にしてなさそうだし。」

 その通りなので、乾いた笑いを返すしかない。

「バニラちゃんから聞いた方が良いよ。だってずっと一緒だったよね?」

 いつもの口調がどこかに飛んでいったリンゴ。お前、そういう話し方だったのか。

「えっ!?」

 ぼんやりしていたようで、急に振られてビックリしたようだ。

「ああ、そうだな。召喚されてからずっと一緒に居たようなもんだしな。先にオレは品物受け取ってくるから頼むよ。」
「おう。任せろ。」

 そう言うと、咳払いをしてから話し始める。
 オレは一礼して、エディさんを中心に話し始める三人娘たちを邪魔しないよう部屋を後にした。


 

 出発前に受け取る予定だった様々な廃品を回収して宿に戻ってくる。バンブーやバニラにも頼まれたのでかなりの量となったが、亜空間収納のおかげで手ぶらである。
 賑やかな部屋を覗くと、テンションが下がらないリンゴに付き合うバニラ。話疲れたのか、かなりくたびれていた。
 気付いたバニラが何か言おうとしていたが、片手を振って去ることにする。すまんな。
 裏切り者と言いたげなバニラを背に、宿の裏へ行くと、バンブーがストレイドの装備の調整を行っていた。

「精が出るな。」
「お帰り。エディさんは帰ったよ。」

 返事をしたのはストレイドだった。
 バンブーは真剣に装備と向かい合ったまま見向きもしない。この集中力が品質の秘密だろうか。

「そうか。もう少し早く戻ってくれば良かったな。」
「いや、ヒガンが居たら何か起きてそうだったから遅れて正解だった。」

 いったいどういう別れ方をしたのか。気になるが、薮蛇になりそうな追及は止しておこう。

「みんな疲れている。早く腰を落ち着けられる場所を見つけよう。」
「そうだな。早く王都に着かなきゃな。」

 作業を眺めながら呟くストレイド。
 ベッドのある宿は良い休養になるかと思ったが、どうもそうでもなかったようだ。
 やはり定住できていない不安は無視できない。

「バンブーが終わったら出発しよう。オレはバニラに助け船を出してくるよ。」
「わかった。」

 戻ってバニラが疲れ果てている理由がわかった。
 どうも少し誇張気味にオレたちの足跡を話したせいで、リンゴの純粋な部分に火が点いてしまったらしい。出会ったその日にお互い恋に落ちて…と言い出したのを全身全霊で否定して、オレたちは出発の支度を始める。

 あの時、恋に落ちたとしたら、相手は間違いなくこの世界に対してだ。
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