召喚者は一家を支える。

RayRim

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第1部

29話

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 翌朝は遅い始まりとなる。
 色々とあったが、久し振りの我が家のベッドはとても心地よく、オフトゥンがオレの身体を掴んで離してくれない。
 何もかも無かったことにしてこのまま眠り続けたい…
 という思いを振り払いながら抜け出し、自分に洗浄を掛けてから普段着に着替える。
 まだダメ人間になるわけにはいかないのだ。終生のライバルよ、今日のところはこのくらいにしておいてやる。

「おはようございます。」

 リビングで子供たちの相手をしていたカトリーナさんに挨拶をする。
 子供たちはリンゴの友人だろうか。本人が見えないが。
 何か裁縫をしていたようだ。

「ああ、旦那様。おはようございます。
 気付かず申し訳ございません。」

 カトリーナさんにしては珍しい。スキルを有効化したままだっただろうか?

〈告知。スキルは生活モードに設定されております。〉

 そういうわけでもないようだ。

『おはようございます!』
「おう、おはよう。今日も元気だな。」

 声を合わせて挨拶してくれたので挨拶を返す。
 子供の元気な声は良いものだ。

「もうすぐお昼ですが、お食事はいかがなさいますか?」
「その時でいいよ。ちょっと身体を動かすから出来たら呼んで欲しい。」
「わかりました。」

 用を済まし、訓練場に出る。

「父さん、おはよう。」

 聞き慣れない呼び名にビックリするが、ストレイドだったようだ。

「お、おう。おはよう。」

 返事を返すが、なにやら照れくさかったようで、すぐに顔を背けた。なんだかかわいい。

「オッサン、元気にしてたか?」

 久し振りに会うトラ…じゃなく、ネコ娘がオレに声を掛けてくる。
 まだ冬ではないが、汗をかいていて吐く息もよく見える。

「おう。風邪なんて引いてられないからな。
 お前も汗の始末はしっかりしろよ。」
「わかってるよ。大事な時期に風邪なんて引けないからな。」

 胸を張り、自信たっぷりに言う。

「何かあるのか?」
「闘技大会の学内選抜があるんだ。武器ごとと無差別に分かれてて、本戦は学生大会なのにお祭りみたいなもんなんだぜ?」
「ほう。面白そうだな。」
「オッサンは出れないけどな。」
「そこまで大人気なくないわ!」 
「はは。悪い悪い。」

 この世界の技術を見定める絶好の機会だ。是非とも観戦しておきたい。

「あたしらは他種族と違って強さを証明するしかないからな。闘技大会は将来を決めると言っても過言じゃないのさ。」

 目が鋭くなり、強い意思を宿らせる。
 観客にしてみればお祭りみたいなものだが、選手にしてみれば培ったものを発揮する大事な場という事か。

「しかし、お祭り規模の割に騎士団は人材不足のようだが。」
「あー、獣人の性格に合わないんだよな。
 あたしも昔に体験入団したけど、あれは無理だ。礼節が身に付けられない。」
「なるほどな。」

 全員がとは言わないが、奔放な獣人には合わない職場のようだ。

「基本的に大きい冒険者クランとかの新規採用狙いだよ。
 あぶれたら労働者としてやっていくしか無いけどな。」

 シビアである。
 大きいクランと言ってもそう枠は取れないだろう。冒険者もただ戦うだけではなく、むしろ戦うのは一瞬だ。戦闘力は高いに越したことはないが、それだけで生き残れる世界ではないからな。

「なあ、初遠征の話を聞かせてくれよ。あたしら、冒険者の話をちゃんと聞きたいんだ。
 おとぎ話の英雄譚なんて、当てにならないのはよく知ってるからな。」

 こっちの英雄譚の事はよく知らないが、まあ脚色されてロクでもないのは確かだろう。
 そんなものよりちゃんとした話を聞きたいのは分かる。

「わかった。昼食ったら話をしよう。パーティーメンバーを交えてな。」
「マジか!約束だぞ!おいみんなー!」

 ネコ娘は他のヤツらの所へ猛スピードで駆けていった。また名前を聞きそびれたな。

「良かったの?」
「ああ。聞くヤツが居てこその冒険譚だ。聴衆は多い方が良い。」
「それもそうか。」

 そう言うと、ストレイドも獣人達の方へと歩いていった。
 オレは自分の事をしよう。
 軽く準備運動をしてからミスリルソードを手にする。
 うーん…手入れしてもらった方が良さそうだな。

「お呼びですかー?」
「まだ呼んでない。」

 いつもの調子でバンブーが現れる。
 顔は疲れきった様子で酷い。

「まあ、見るだけ見てくれ。直すのは落ち着いてからで良い。」
「はーい。」

 受け取ると真剣に状態を確認する。

「うん。この子たちも頑張ったみたいだね。傷が誇らしく見えるよ。」
「そうだな。剣も盾も出番があった。」

 鞘に納め、オレに返してくる。

「預かるのもやめておくね。多分、我慢できずに手を出して、良い仕事にならないから。」
「そうだな。」

 オレの返事にバンブーがむくれる。

「もう!少しは手心ってのをだねー」
「いや、職人に誤魔化すのもどうかと思ってな。」
「職人も御世辞くらい欲しいんですー」

 そう言って、互いに笑い出す。

「もう大丈夫のようだな。」
「ううん。やっぱり一人になると考えちゃう。
 立ち止まっていられない。でも、休まないといけない。ままならないね。」

 大きくタメ息を吐き、この場を去っていった。
 精神的なダメージが大きく、回復に少し時間が掛かりそうだな。装備の修理も必要だし、遠征はそれまでお預けだ。
 さて、本格的に身体を動かそう。
 基本動作の確認のあと、昼までストレイドの友人たちに混じって、模擬戦や魔法の指導なんかもしながら過ごした。
 気付いたらバニラとリンゴも混じってて驚く。しれっと混じって、理解を越える生産者向けの高度な質問はしないでいただきたい。



 昼は訓練場でバーベキューパーティーのような感じになり、子供たちと騒がしい時間を過ごした。
 年上獣人たちは相変わらず面倒見が良く、年少組の相手を上手くしていた。そこにバニラも混じり、色々と世話をする。
 職人組も何人かいるが、今日はバンブーとごく親しい者ばかりだ。様子がおかしいのを察したからと、さっき少し話した時に聞いている。
 みんな気遣い上手ばかりで、おじさん泣いてしまいそうだよ。チップは弾んでもらいますよ?と言われなければな!
 そういう冗談なのは分かっているが、実に商魂逞しい職人連中らしい。中金貨一枚握らせたらぶっ倒れたが。

 さて、本日のメインゲストの登場である。
 メイド服にマフラーという姿のユキの手を引いて、やわらかエルフも現れる。
 ユキはオレの横に座らせたが、ジュリアは肉を焼いてるところへすっ飛んでいった。食欲に忠実過ぎる。

「調子はどうだ?」
「すいやせん旦那。あたしが隣にいるべきではないのですが、どうしてもと…」

 注目を浴び、少し恥ずかしそうに俯く。
 髪も肌も白い北方エルフだ。女子だらけのこの場で注目を浴びないはずがない。
 会話、食事を中断して、みんなこっちを見ていた。

「新しいパーティーメンバーのユキだ。訳あって、今はまともに動けないが、今後はカトリーナさんの手伝いをすることもある。みんな、よろしくな。」

『よろしく!』

 続く言葉はバラバラだったが、今のところ好意的に受け入れられているようだ。

「食事は?」
「済ませておりやす。量は食べられやせんでしたが。」

 山盛りの皿を手に、満面の笑みを浮かべるジュリアを見て言う。

「…あれとは比べなくて良いからな。」
「比べられたら困りやす…」

 あれは比較に持ち出してはいけない。イレギュラーだ。
 よく食べる獣人たちもドン引きしているぞ。

「声はしっかり出せるな?」
「へぇ。それは問題ありやせん。」

 こいつの目の良さはよく知っている。喋るのも、言葉が足りなくなりがちなオレや、食事に夢中なやわらかエルフより適任だろう。

「さて、約束通り、初遠征の話を始めるぞ。
 退屈な大したことのない話になるかもしれない。その中から匙一杯分の輝きを掬い上げて貰えたら幸いだ。」

 ゲーム中、よく聞いた英雄譚の前振りを引用させてもらう。
 色々と省略し、ユキと出会う所から話し始める事にした。

 主にやわらかエルフの名誉に傷が付くからな… 



 盛り上がったのはやはりデーモン達との戦闘。
 どうやら、オレの見た目から想像できない動きをしていたらしく、困惑の声の方が大きかったが。

「おい、雷魔法を避けるな。」

 と、バニラにも野次られる有り様である。
 避けたんじゃない。当たらなかったんだ。

 遺体を葬る件もしっかり入れており、贄がバニラやリンゴくらいの子供だった事に顔を歪ませる者は少なくない。

「冒険者とは生と同じくらい、もしかしたらそれ以上に死と向き合う生業です。それは冒険を支える側も同様。
 お嬢様方、それを忘れないでくだせい。」
『はい。』

 こうして初遠征の冒険譚は締め括られた。

「拙い語り手で、お嬢様方には退屈でしたでしょうか?」

 苦笑いしながらユキが問い掛ける。
 熱の籠った話し方だったせいもあり、じんわりと汗ばんでいた。

「面白かった!」
「贄にされた子供がかわいそう…」
「グレーターデーモンって一太刀で倒せるんだ…」
「この冒険譚は参考にしたらダメなヤツだ…」
「けど、心踊るお話でした…」

 話だけでは何なので、盾と剣を地面に置く。

「実際に使った装備だ。軽く振るくらいなら良いぞ。」

 オレの言葉で年少組が歓声を上げるが、それはすぐにどよめきに変わる。
 ミスリルの、軽くて扱い安いという常識をぶち壊すこの珍品、スキルを有効化したリンゴ以外は誰一人持ち上げられていない。

 多くは既に知っている事なのだが、やはり挑戦せずにいられない様子。
 職人連中も鍛冶を担う者は持ち上げられるが、なんとかというところ。これをじっくりと隅々まで手に取って見るのは不可能、という結論になった。
 最後は力自慢の年上エルフとビースト達。
 力自慢たちが名乗りを上げただけあって、全員持ち上げられた。
 という事で、盾も持たせてオレのやってる基本動作訓練をさせようと思ったが、盾も持つと動けないと全員が音を上げてしまった。

「グレーターデーモンと一対一で戦うというのはこういう事でさぁ。更に魔法も達者である必要もありやす。
 お嬢様方、今の経験を大事にしてくだせい。」
『はい…』

 年少組と獣人組は、真剣な顔でユキの言葉に返事をした。

「リンゴ、振ってみせてくれ。」
「…うん。」

 躊躇いがちに返事をすると、再度スキルを有効化して剣と盾を持つ。

「サイズが…」
「そうだったな。職人たち、ちょっと手伝ってくれ!」

 職人連中の手を借り、布などを詰めて盾は腕に固定する。
 片手剣だが、リンゴの手の大きさには合わないので、これなら両手で持てるだろう。

「振ってみてくれ。」

  剣道の面のような動作で二度、三度振るが問題は無さそうだな。

「好きに動いて良いからな。」
「わかった。」

 最初は手応えを確認するようにゆっくり。手に馴染んだと確信すると、一気に速度を上げる。
 だが、普段の三割くらいか。
 まだ基礎能力が低すぎて、スキルがそれほど活かせてないようである。鍛えてステータスが伸びてはいるが、身体が未成熟なのはいかんともしがたい。

「ひぃ…もう限界…」

 スタミナが尽きたのか、その場でへたり込む。
 危ないので、剣はさっさと回収した。
 
「お疲れ。悪魔殺しを成した剣はどうだ?」
「無理。これを持って、旅して、戦って、帰ってくるのは絶対無理だよぅ…」
「みたいだな。まあ、焦る必要はない。身体が出来上がるまでに鍛えるべきは色々とあるからな。」

 無理矢理固定した盾も回収し、リンゴの手を取って立ち上がらせる。

「リンゴちゃん、闘技大会は…?」

 戻っていくリンゴにネコ娘が尋ねる。

「年齢制限で出れないよ。出てみたかったんだけどね。」
「あ、ああ、初等部だったな…」

 そう言って、胸を撫で下ろす。
 今年はダメだが来年はわからんぞ高等部。

「リンゴお嬢様の言う通り、冒険は戦うだけじゃございやせん。むしろ、戦いはおまけと言っても過言じゃないでしょう。どんな英雄も、冒険の大半は旅路に時間を費やしやすからね。」
『はい…』

 ユキは良い先生になりそうだ。

「基礎能力を徹底的に鍛えろ。どんなスキルも、テクニックも基礎能力あってこそだからな。」
『はい…!』
「あと、勉強も怠るなよ。知らないことが多いと、それだけ大変な目に遭うからな。」
「旦那が言うと説得力がありやすね。」

 ユキのツッコミに笑いが起きた。
 楽しく学んでもらえるならそれで良いよ。
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