召喚者は一家を支える。

RayRim

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第1部

35話

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 翌日、娘たちは揃って学校に行く。
 バニラに関しては不安はあったが、『もう大丈夫。迷わない。』と言ってくれたので信じて送り出すことにした。
 他の娘たちは問題ないだろう。職人科はちゃんと評価してくれているし、自分も周囲も強いストレイドに手の出しようはなく、リンゴはとにかく味方が多い。むしろ、何かあったら周囲が我慢できるかという方が問題だ。
 皆の周りも信じよう。
 皆を送り出した家の中はだいぶ静かになる。だいたい、バンブーとリンゴとユキの影響だが。

「さて、今日は何をするか。」

 玄関で娘たちを見送ったオレは、身体を伸ばし、何をするか考える。
 外は昨日よりも冷え込み、いよいよ北部では雪が降りだしたようで荷車に雪が積もったりしている。ここも白くなるのは、時間の問題だろう。
 装備の点検、耐性訓練用の薬剤製造は済ませてある。回復用ポーションはあまり日持ちしないので、前日に準備するものだしな。

「身体がなまっちまいやすね。」

 部屋の掃除を終えたユキが横に来て言う。
 忙しくしているようだが、疲れている様子はない。なかなかのスタミナ持ちである。

「そうだなぁ。なんか良い案はないか。」
「あっちのエルフに魔法を教えてみては?」

 まだ食事をしているジュリアを指差すユキ。
 向かいではアリスが呑気にお茶を飲んでいる。

「どうも資質を感じなくてな…
 本人もパワーで解決したがる性格だし。」
「エルフでも魔法がからっきしな事はあるんで?」
「その辺はお前の方が詳しいだろ。
 種族というより個の性格だな。多分、緻密な制御ができない。」

 モグモグと幸せそうに食事をするジュリア。
 こっちでこんな会話をしてるとは思ってもいないだろう。

「全く使えないというわけじゃないからなぁ。
 バニラに制御不要の魔法を注文してみるか。」
「あたしの見立てですが、付与矢は使えると思いやす。それに、雑な妨害魔法も。」
「ふむ…」

 前回は錬成した矢を撃たせていたが、付与矢ならもう少し幅が広がる。ただ、付与の性質上、距離の欲しいスナイパーには不向きだが…

「まあ、弓もそれほど得意じゃなさそうですからね。旦那と組む以上、上達してもらわないと困りやす。」
「近接は?」
「無理ですね。いざという時は自力でなんとかしてもらいやすが、基本あたしが対処した方が早いです。」

 辛辣である。まあ、命が懸かってるしな。
 重装剣士の可能性も考えていたが、それだと弓が持てない。
 
「パワーだけはあるだけに惜しいなぁ…」
「最悪、旦那なら当たっても死にそうになくて助かりやす。」
「複雑な気分だよ。」

 当たるかはともかく、パワーがあれば強い弓が引け、遠くに飛ばせる。曲射は技術や経験が必要なので考慮しないつもりだろう。

「ダンジョンでも使えそうか?」
「弓は元々不利ですからね…ソード…いや、ランス…うーん?」
「やらせてみるか?」
「そうですね。」

 食事を終え、アリスと話をするジュリアの元へ行く。
 相変わらず、積んである皿の枚数が多い。

「ジュリア。」
「なに…?」
「適性試験の時間ですぜ。」
「ええっ!?抜き打ち!?」
「覚悟してくだせい。」

 納得いかない様子のジュリアを引き摺りながら、オレたちは訓練場に向かった。



「せ、せめて着替えだけでも…」

 外は想像以上に寒かった。昨日よりまだ寒い。
 ただ、ジュリアの場合は寒くてではなく、汚れるのを嫌がっているようだが。

「何から始めやすか?」

  普段着のままなジュリアの抗議を無視して、マフラーと手袋を装備したユキが尋ねてくる。うちのメイドは準備が良い。 

「ジュリア、得意な武器は何だ?」

 何でも良かったのだが、やはり最初は得意な武器から見るのが良いだろう。
 訓練用の装備が置いてあるところへ行き、得物を手にする。

「これです。」

 手にしたのは大剣と大盾。
 いやお前、それを片手で使うのかよ。

「えぇ…」

 流石にユキはドン引き。何を思ってその組み合わせなのか。

「普通のじゃ軽すぎますし、盾は使いたいですし…」
「論外だ。」
「えぇ…」

 動きを見るまでもなく、落第点を付けた。
 大剣で受けたくないから盾というのは良い。だが、問題は構えだ。完全に片手剣と同じ構え。
 振れるから良し。とはならない。周囲の人、障害物の事を考えると、絶対に避けねばならない構えだ。
 片手剣は適度な距離で縦にも横にも振れるが、片手でも長剣以上、ましてや大剣ともなると横に振れる場所は限られる。

「理由を求めます…!」

 納得いかないようなので、土魔法で二メートル四方を囲んでしまう。

「この条件で打ち込んでこい。」

 盾だけ持ちジュリアと対峙する。

「評価を覆しますから…やぁ!」

 真剣な顔で大剣を斜め下から上へ斬り上げる。
 それを盾で反らし、盾にぶつけて少し押し込んでやる。

「この!」

 振り上げた剣を大きく上から振り下ろして来るが、盾を柄に当てて阻止する。
 距離を取るために更に数歩下がる。完全に隅へ追いやった状況だ。

「ぐっ!?」

 大剣が引っ掛かって振り回せないを見て、盾で剣を持つ手を押さえ、右手を喉に突き出した。

「分かったか?」
「分かりました…」

 しょんぼりしながら敗けを認めてくれた。
 壁を戻し、ユキの元へ引き上げる。

「旦那は優しいですね。あたしだと一振りもさせなかったかもしれやせん。」
「そんなぁ…」

 ますますしょんぼりするジュリア。

「剣だけじゃなく、盾や足を使う選択もあったからな。」
「むぅん…」
「そのセンスがあったら、こんな装備はしやせんよ。」

 脳筋エルフは渋い顔になる。

「だって、外で魔物狩りを生業にするつもりだったもん…
 ダンジョンは想定してなかったもん…」

 剣と盾を置き、腕を組んでぷりぷりと怒る。

「それでもです。外でも森、岩場、町の中と、狭いところはいくらでもありやすからね。」
「ま、町の中…?」
「お嬢様方にケンカを売る者がいないとは限りやせん。その時、ジュリアは何もせずにお嬢様に任せるんですかい?」
「それは…」

 ジュリアは言い返せなくなる。
 娘たちをダシに使うのはどうかと思ったが、一緒に暮らしている以上は無関係ではいられまい。何もないに越したことはないのだが、そういう事が無いとは言い切れない。

「そんな恥ずかしい真似したくない…」

 引きこもりを脱したと言っても、出不精は変わらない。それでも、一緒に外出する機会もあるはず。
 改善されないようなら娘達、特に敵の多いバニラとまだ未熟なリンゴは任せられない。

「旦那、ジュリアの事はあたしに預からせてくれやせんか?悪いようにはしやせんので。」
「わかった。」
「ありがとうございやす。」

 ペコッと頭を下げ、ジュリアにショートソードと盾を渡す。

「リンゴ様と同じ所から鍛え直しやす。」

 短剣を持ったユキを見て、ジュリアが震え上がる。
 ジュリアの事はユキに任せ、家の中に戻ることにした。
 しっかりしごかれてくれたまえ。



 家に戻るとアリスがお茶を差し出してきた。
 礼を言って受け取り、一口飲むと体の芯から暖まるのを感じる。
 カトリーナさんも居たのか、空いてる椅子が一つあった。そこに座り、もう一口飲む。

「温まるなぁ…」
「寒くなってきたもんね。」

 訓練場のやり取りを見ていたのか、苦笑いしながら再び外を見る。
 早速、ジュリアが良いようにあしらわれ、叩かれたりしている。

「キツいんだよねアレ。私は魔法以外てんでダメだからよく分かるのよ。」
「伸ばそうとは?」
「思ったけど、全然身体がついてこなくて。体力はついたけどね。武器もずっとしっくり来なかったなー」

 なんとも不思議な話だ。
 先天的な才能補正とかだろうか?
 魔導師としては天才的だと思うが、その分、他が犠牲になっているのか?

「そう言えば、派手な服はやめたのか?」

 最近は地味な長袖長ズボンが多い。スカートのようなヒラヒラも、再会した日から見ていなかった。

「転んだ拍子に破れちゃったからね…
 気に入ってたけど、バンブーちゃんにも匙投げられて…」

 もったいないが、しかたない。

「その内、何か作るときに使うわ。思い入れもあるから捨てられないしね。」
「そうか。」

 裁縫技能があったな。それならそういう使い道もできるのか。

「すぐとは言わんが魔法衣を作ってみる気はあるか?」
「私が?無理よ。既存のに足したりするのが精一杯だから。」
「なるほど。そういう方向か。」

 裁縫と言っても方向性は色々だな。
 
「自分でデザインして、っていうのは憧れるけど。基礎が出来てないから難しいわ。」
「恥ずかしがらずにやってみると良い。
 うちの連中は誰もバカにしないだろ?」
「その分、ダメ出しはキツそうだけどね。
 でも…うん…そそのかされてみる。」

 照れた笑みを浮かべながら、空になったカップを回収する。

「洗ってくるわね。」
「おう。ごちそうさん。」

 アリスを見送って窓の向こうを見ると、ジュリアが足払いされて前のめりにスッ転んでいた。
 むーりー!と叫ぶ声が聞こえて来たが、ユキが尻を蹴って立ち上がらせる。
 鬼教官の修練は、なかなか終わりそうになく、アリスに調合作業に入ると告げた。
 きっと、無惨な姿になるであろうジュリアを労うために、何か作っておいてやろう。




 夕方になり、今日も娘たちは友人を引き連れて帰ってくる。
 ただ、全員表情が硬く、いつもの華やかさがない。

「揃いも揃ってどうした?」

 ただならぬ様子に声を掛けられずにいられない。
 迷った様子だったが、ソニアが代表して言う。

「指定の様式以外の魔法の使用を禁じるよう、魔法科から提案がされたようなのです。
 初等部、中等部は突っぱねたのですが、高等部は…」

 就職やチームからのスカウトの事があるから無理だったのか…

「これは重大な問題になりますわ。この国の有り様に挑戦するような提案ですもの…」

 カトリーナさんの方を見ると、表情が硬い。手が震えているのを見ると、堪えているようだ。

「エルフやドワーフの留学生は全員怒ってました。恐らく、これはとても大きな問題になります。」
「ビーストは魔法苦手な子が多いから、ピンと来ないみたいだったけどね。」

 ディモス、と言うよりこの国が評価されている一番の理由は探究心だろう。それを王都を代表する学園が否定するのは納得いくまい。高等部は紛糾するだろうな。
 バニラは当然だが、ストレイドも心配だ。

「ジュリアは?」
「すいやせん。伸びてます。」
「あぁ…」

 午前中のがキツ過ぎたんだな。
 疲労回復ポーションを渡したが、回復しきれなかったらしい。

「実家に用があるようでしたら、あたしが一走りしてきやすが?」
「そうだな。ちゃんと意向は聞いておきたい。あの家は無視できないからな。」
「わかりやした。いってきやす。」

 一礼すると、速やかに家から出ていく。
 恐らく、味方になってくれるとは思うが…

「お姉様。」
「うん。私が伝えてくる。」

 防寒着を纏い、アリスも実家に向かった。

「お前たちは帰らなくて良いのか?」

 家にいる子供たちに尋ねる。
 顔触れを見ると、年齢もバラバラ。いつもはリンゴの同級生と思われる決まった顔触れなのだが。

「はい。皆、兄弟姉妹も決定を不服としている者たちです。その中で初等部の者が代表してやって来ました。」
「そうか。ありがとう…」

 幼いが皆、良い顔をしている。
 頭を下げ、礼を言う。

「お礼を言うのはまだ早いですわ。だって…」

 後ろの者が玄関を開け放つ。
 そこには溢れそうなくらいの子供が居た。

「これだけの者が反発しているのですから。」

 何人いるのかわからない。
 まだ小さな子供だが、とても心強い。

「リンゴ。」
「なに?」
「お前には敵わないよ。」

 いったい何をしたのか。どうすればここまで味方を増やせるのか。オレには到底考え付かなかった。

「…お父さん、がここまで連れてきてくれたからだよ。それに、」

 カトリーナさんの手を引き、反対の手でオレの手を握る。

「お母さんとお姉ちゃんたちもいたからだよ。みんなに色々と教えて貰えたからできた仲間だよ!」

 小さな身体が胸を張る。出会った頃は憎まれ口を叩いていたクソガキも、今は頼れる娘となった。成長の早さには驚かされる。

「リンゴ様…」

 お母さんと呼ばれ、顔がデレデレになってるカトリーナさん。甘やかしてきた甲斐がありましたね。

「みんなありがとう。きっとうちのクソガキが迷惑掛けるだろうが、これからも味方で居てやってくれ。」

 頭を下げ、皆に礼を言う。
 こうでも言わないと泣いてしまいそうだ。

「みんなの前でどうしてそういうこと言うの!?」

 リンゴの反応に子供たちからも笑いが起きる。
 この笑顔の数だけ支えてくれる味方がいると思うととても心強い。
 味方はたくさんいるのを、三人にもしっかり伝えてやらないとな。
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