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第1部
56話
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月日は流れ、約束の2年を迎えた。
リンゴはソニアと共に、皆の協力を得つつ飛び級を重ねて高等部まで終え無事に卒業する。良いライバルは卒業まで良いライバルであり続けたようだ。
大変だったのはソニアの方だったらしく、若干燃え尽き気味だとか。
リンゴの背は12歳にしては高く、ユキよりも大きくなっていた。体型はまだ筋肉が少なく、細さが気になるところだが、バニラたちはそんなリンゴに羨望の眼差しばかり向けている。
バニラ、バンブー、ストレイドは1年で揃って卒業し、パーティーの一員としてユキ、アリス、ジュリアと共に森の東で活動していた。同じく卒業したフィオナも加わっており、パーティーは大所帯と言っても良いだろう。
リンゴ達のテスト期間前や雪で閉ざされる前にルエーリヴへ戻って来ているので、あまり離れて暮らしている印象はない。
バニラは洗浄、浄化を魔法として、魔導具として普及することにも成功させている。エルディーの衛生事情を激変させ、莫大な富を卸先のエディさんの商会にもたらした。
洗濯屋に恨まれるだろうとは言っていたが、洗浄の強烈な水流の影響か、痛みやすい物や傷が付くと困る高級品には使えないので、これに関しては恨みを買う事は無かったようだ。
パウラもなんとか今年卒業だが、安定した収入で家族を支えたいらしく、エディさんの元で働いている。サラも同時に入団したらしい。
リンゴとソニアの卒業祝パーティーとして全員揃っているが、エルディーから離れられないエディさんとのお別れ会でもあった。その中で探索の報告をしてもらっている。
イグドラシルは想定よりも道中が厳しいらしく、じっくり攻略しているとの事。道中には魔物がウヨウヨ居て、樹そのものが一種のダンジョンみたいだそうだ。
バンブー、バニラは想定していたみたいだが、エルフ達にとって神聖な樹が魔物の巣だったことは衝撃的だったらしい。フィオナの父親を含む、エルフの重鎮が度々向こうの拠点にやってきて、状況を聞いていくそうだ。対応をフィオナが担ってくれるのはとても助かっているとの事。
転生に必要な物も並行して集めたらしく、イグドラシルの種は実と共にそこら中にあるが、オリハルコンだけは目処が立たない。ゲームでは珍しいものではないとのことだが、こちらでは貴重な物だそうだ。
バンブーとしても、武器にして安全マージン稼ぎたいと思っていると言っていたが、なかなかそれが叶わない。その為、リンゴが加わったことで、パーティーを二つに分ける提案もされている。
「オリハルコンが見つからないのは想定外だ。そう珍しいものではないハズだが…」
「そうだよねー?なんで流通してないんだろう?」
「待て待て。ゲームの価値観を捨てろ。そんな鉱物がゴロゴロあってたまるか。」
バニラとバンブーのぼやきをミルクが諌める。
「そう言われてもねー…
手掛かりが無いし、レイドボスなんていないでしょ?」
腕を組み、うんうん唸る。
「いるぞ。」
「えっ?」
ミルクの返事に驚くバンブー。
「どうも旧ヒュマス領にいるようだ。ショコラの件で、既にスタンピード状態が放置されていると報告したな?
その後も他国も侵略行為の追及を警戒し、手を付けられずに放置された結果、という事だ。向こうから救援要請もないから手も出せなかったからな。」
「ミルク、旧という事は?」
「既に滅んだと見ている。もう国境の向こうは魔物の巣だよ。」
その話を聞き、パーティーメンバーはアリスを見る。実質的なリーダーはアリスなので、アリスに従うという事だろう。
「リンゴをリーダーに第二パーティーを作るわ。今回のメンバーはバニラ、ジュリアと…」
視線がソニアに向く。
「わ、私は…」
「直ぐにとは言わないわ。リンゴちゃんの影で、永遠の二番手と言われる覚悟も必要になるから。」
よくその事をぼやいているだけに、アリスも気にしているのを知っているのだろう。
ソニアはリンゴと並んで神童と呼ばれる事がよくあるのだが、種族差なのかリンゴに負けてばかりである。
「断ったら…?」
「フィオナに行ってもらう。エルフ側の対応に置いておきたかったんだけどね。
そうじゃなくも、探索は全員が揃うまでおやすみ。」
「どうして?」
「正直、キツいわ。今より先は命の危機を感じた。もう少し良い装備か人数が欲しいの。」
アリスたちも相当な成長をしているはずなのだが、それでも厳しいというビフレストへの道、神の居る地へ至るというのは容易ではないようだ。
「まあ、二番手でも実績として申し分はないわ。踏み台にして就職に利用しても良いのよ?冒険者を経て、という人は珍しくないからね。」
ソニアは答えを出せなかった。
リンゴとしても、ずっと切磋琢磨してきた仲だ。側に居てもらえればとても心強いだろう。
だが、無理強いはせず、ソニアが見ても何の反応もしない。
ソニアの反応は、いきなり自由が与えられた事への戸惑いにも思えた。
「アリス、ボス級というからにはもっと人数を増やした方が良いのでは?
リンゴは強い。強いが、リンゴだけでという話ではないかもしれない。」
「そうなの?それじゃあ、私とユキだけ残って、バンブーとストレイドにも行ってもらうわ。」
「私、レイドは経験ないからなー…」
「わたしも一度だけだ。本当に空気を感じるくらいしか出来なかったが…」
自信なさげなバニラとバンブー。
「その一度はどんなだったの?」
「三十人で城ほどありそうな牛が相手だった。ギガ・ブルホーンだったか。
五つにパーティーを分け、巧みにヘイト…敵視を分散させて崩壊させない戦いは感動したな。
同時に、ここはわたしみたいな戦えない人間が居ちゃダメだ、と思って二度はいかなかったが。」
人数の少ないと出来そうのない芸当だった。頭数がいれば、そういう事も出来たりするのか、と感心してしまう。
「五つかぁ…」
「体力管理の問題だ。攻撃が強烈だからな。避けるにしても、受けるにしても一人が受け続けるのは色々厳しい。」
「でも、最初のおとーちゃんは一人で揃えたんだよね?どうやったんだろう。」
視線がココアに集まる。
「ごめんなさい。わたしに理解できる話じゃ無かったので…」
「うん。そんな気はしてた…
一人で何でも出来るヤツを参考にしてはいけない…」
「まあ、理屈あっての事なんだろうけどねー…
少人数でボス全撃破RTA世界記録、とかいう机上の理論を実現する根性は真似できないって…」
バンブーが咳払いをして話を戻す。
「まあ、そこは装備と魔法で誤魔化すしかない訳だけど、相手次第な所もあるんだよねー
私も戦ったことはないけど、必要な装備の水準は覚えてるから情報は欲しいね。」
「少人数で偵察、攻略はそれからという事になりそうですわ。」
「そういうことなら、あたしも行きたいところですが困りやしたね。アリス一人は不安ですし。」
「東部へカトリーナさんも来るなら安心だけど、この人の護衛として離せないでしょうし、私の護衛役にユキが居ると助かるわ。
そっちのリーダーはフィオナさんに任せるから。」
「慎んでお受けいたします。足が速く、隠密や【影移動】も使えるリンゴさんなら偵察もこなせるでしょう。むしろ、一人で動いてもらった方が良い気もしますが…」
「経験が無いから無理だよ。」
「そういう事にしておきますわ。
まあ、経験がないのは皆一緒。安全を第一に、撤退は迅速にの方針は堅持して参りましょう。」
こうして、パーティーの中で突発的に始まった作戦会議は終了する。
エディさんは、終始ニコニコしながら聞いていたが内心はどう思っていたのだろうか。
「そう言えば、お姉ちゃんどうしてレイド参加一度しかしなかったの?」
「VR酔いが酷かった。ビフレストに行かなかった理由もそれだ。」
「あー…致命的に合わない体質の人っているんだよね…知り合いにも居たよ。
それで、こっちでもあんまり体を動かして無かったんだね。」
「うん。VR酔いが無いのは分かってるんだが、なんだか急に夢から引き離されそうな気がして怖かった。」
そう言ってバニラはココアを見る。
「そうですね。わたしも最初はそうでしたから。だからあの時の旦那様についていけなかった。既に頭一つどころではないくらい、抜き出て強かった旦那様に付いていく勇気がありませんでしたから…」
拳をグッと握りしめ、その時の事を思い出しているようだ。
「何が違ったんだろうな?私はこいつとなら上手くやれるという確信しか無かったが。」
「こう言ってはなんですが、正直、最初の旦那様とは本当に別人なのです。人を、特に女性を信じない上に、寄せ付けないくらいの怖さがありましたから…
ショコラはそれを強さと勘違いした節がありましたし、だからわたしたちも一人でなんとかしようともがき続けてしまったのです。」
自分の過去を知らないからこその今か…
ゲームの知識すら無くなったオレはなんだか惨めに思えてくる。
二年経っても、オレのそういう気持ちの部分はなかなか改善されていなかった。
「ああ、それで隠し事が嫌いなカトリーナさんと仲が悪かったんだな…
恐らく、直接ちゃんと話した事も少ないんじゃないか?」
「でも、無駄死にだけは絶対に許さない方でもありました。そうでなければ、裸同然で放り出された召喚者の死に、怒り狂って城を半壊させるなんてあり得ませんから。」
「…それは今に通じる所があるな。」
「本当に、本当に不器用な方だったのだと思います。わたしを拾ったのも気紛れかもしれませんが、ちゃんと同じ目線で話せる相手が欲しかったのだと思います。」
リンゴを助けたのも気まぐれだったのだろうと聞いている。人付き合いに関しては、元々そういう所の多い性格だったのだろうか?
「ココアにとっての旦那様はどっちだ?」
バニラの踏み込んだ問いに、ココアは考え込む。
「…難しいですね。わたしが救いたかったのは間違いなく最初の旦那様ですが、こっちの旦那様も救いたい。
どっちもわたしを救ってくださいましたからね。」
「…そうだな。愚問だったよ。」
「片想いの甘酸っぱい話はもういいよー。
リンゴちゃんがすごい眼でこっち見てるのが恐くなってきたからねー」
バンブーに言われてリンゴを見ると、表現し難い表情でこちらを見ている。どういう感情の現れなのだその顔は。
「ひっ!?」
「慣れてくれ。」
「でも、もし今日までショコラが生きていて、この場にいたらどう思ってたんだろうねー。」
「リンゴを煽ってボコられてそうな気がする。」
「分かります。」
「おおう。否定できないよー…」
二人が毎日のように殴り合いをし、アリスやカトリーナさんにめちゃくちゃ怒られる、を繰り返してそうな気がしてきた。
そのせいで卒業が1年遅れていた可能性もある…
「また違う今があって、違うリンゴ様になってそうですね。」
「そうだね。今のリンゴは優等生過ぎるから、それが薄まってた気はするね。」
「ライバルがそれ以上に優等生だからな。わたしはそっちが心配だ。」
「そ、そうでしょうか…?」
心配されて困惑するソニア。
卒業が決まって以来、落ち着きは取り戻せているが、どんどん独り言が多くなり、凡ミスに悔いて食事が疎かになる様は痛々しかった。
とは言え、高等部の魔法知識の由来がバニラの物に刷新されたタイミングなので、だいぶ緩くなっていたようではある。
必要な知識はそれだけではないので、一教科でも楽なのがあるのはありがたかったに違いない。
「じゃあ、二次会は決まったね。」
「そうだな。ココアも行くぞ。」
「わたしもですか?」
三人はソニアを連れて外へ出ていく。バンブーとバニラがソニアの腕をしっかり抱えていたあたり、何をするかは分からないが、逃がす気は無いという意志表示だろう。厄介な先輩である。
事情を聞いていたオレが説明するとカトリーナさんは呆れた顔をするが、リンゴとアリスは少し安堵の表情を浮かべていた。
二次会と言っても、甘いものを食べに行くというだけの事である。リンゴを置いていったのは、ソニアも妹分として可愛がりたいという事のようだ。
「リンゴ。」
「なに?」
「一人で出来ることってきっと多くないよな。」
「…うん。そうだね。ココアの知るお父さんは、ずっとこの悩みと向き合ってたのかな。」
少し寂しそうな表情でリンゴが答える。
「だろうな。どんなに頑張っても拾い切れないものはあるからな。でも、一人で解決し続けたからこそ見えたものもあるのかもしれない。確認のしようは無いが。」
「それはきっと取り戻せないものなんだろうね。考えるとちょっと怖いかな。」
「こういう時、オレはどう言うんだろうな。ちょっと答えが出せない。」
「多分、私たちには求めないけど、自分は我が身省みずに最悪を回避すると思う。
お父さんはそういう人だから…」
最悪とはどの程度なのか、という問題はあるが、きっとその通りなのだろう。そうでなければオレはこうなっていなかったし、〈魔国英雄〉などとも呼ばれていない。
「オレ以上にオレを知っていてくれて嬉しいよ。」
「ふふ。ありがとう。
でも、私はお父さんみたいな失敗しないよ。お父さんがちゃんと失敗してくれたからね。だから、単独行動は避けたかったんだ。まだ私には実戦経験が少ないから。」
自分への自信と仲間への信頼があるからこその答えだろう。
二年前からしっかりしているとは思っていたが、忙しいながら色々な経験をしてその印象が更に強くなる。
まだ時々、何かの拍子で子供らしさが暴れる事があるが。
「お姉ちゃんたちに甘えておけ。みんな、しっかりフォローしてくれる。」
「うん、信頼してる。みんな、私のお姉ちゃんだからね。」
今までで一番の笑顔を見た気がした。
卒業を決めた時とはまた違う笑顔。この笑顔を位置的に独り占めしてしまい、カトリーナさんになんだか申し訳なくなってくる。
今度はカトリーナさんが、筆舌し難い凄い顔でこちらを見ていた。
なんで気付いたんですかね?
リンゴはソニアと共に、皆の協力を得つつ飛び級を重ねて高等部まで終え無事に卒業する。良いライバルは卒業まで良いライバルであり続けたようだ。
大変だったのはソニアの方だったらしく、若干燃え尽き気味だとか。
リンゴの背は12歳にしては高く、ユキよりも大きくなっていた。体型はまだ筋肉が少なく、細さが気になるところだが、バニラたちはそんなリンゴに羨望の眼差しばかり向けている。
バニラ、バンブー、ストレイドは1年で揃って卒業し、パーティーの一員としてユキ、アリス、ジュリアと共に森の東で活動していた。同じく卒業したフィオナも加わっており、パーティーは大所帯と言っても良いだろう。
リンゴ達のテスト期間前や雪で閉ざされる前にルエーリヴへ戻って来ているので、あまり離れて暮らしている印象はない。
バニラは洗浄、浄化を魔法として、魔導具として普及することにも成功させている。エルディーの衛生事情を激変させ、莫大な富を卸先のエディさんの商会にもたらした。
洗濯屋に恨まれるだろうとは言っていたが、洗浄の強烈な水流の影響か、痛みやすい物や傷が付くと困る高級品には使えないので、これに関しては恨みを買う事は無かったようだ。
パウラもなんとか今年卒業だが、安定した収入で家族を支えたいらしく、エディさんの元で働いている。サラも同時に入団したらしい。
リンゴとソニアの卒業祝パーティーとして全員揃っているが、エルディーから離れられないエディさんとのお別れ会でもあった。その中で探索の報告をしてもらっている。
イグドラシルは想定よりも道中が厳しいらしく、じっくり攻略しているとの事。道中には魔物がウヨウヨ居て、樹そのものが一種のダンジョンみたいだそうだ。
バンブー、バニラは想定していたみたいだが、エルフ達にとって神聖な樹が魔物の巣だったことは衝撃的だったらしい。フィオナの父親を含む、エルフの重鎮が度々向こうの拠点にやってきて、状況を聞いていくそうだ。対応をフィオナが担ってくれるのはとても助かっているとの事。
転生に必要な物も並行して集めたらしく、イグドラシルの種は実と共にそこら中にあるが、オリハルコンだけは目処が立たない。ゲームでは珍しいものではないとのことだが、こちらでは貴重な物だそうだ。
バンブーとしても、武器にして安全マージン稼ぎたいと思っていると言っていたが、なかなかそれが叶わない。その為、リンゴが加わったことで、パーティーを二つに分ける提案もされている。
「オリハルコンが見つからないのは想定外だ。そう珍しいものではないハズだが…」
「そうだよねー?なんで流通してないんだろう?」
「待て待て。ゲームの価値観を捨てろ。そんな鉱物がゴロゴロあってたまるか。」
バニラとバンブーのぼやきをミルクが諌める。
「そう言われてもねー…
手掛かりが無いし、レイドボスなんていないでしょ?」
腕を組み、うんうん唸る。
「いるぞ。」
「えっ?」
ミルクの返事に驚くバンブー。
「どうも旧ヒュマス領にいるようだ。ショコラの件で、既にスタンピード状態が放置されていると報告したな?
その後も他国も侵略行為の追及を警戒し、手を付けられずに放置された結果、という事だ。向こうから救援要請もないから手も出せなかったからな。」
「ミルク、旧という事は?」
「既に滅んだと見ている。もう国境の向こうは魔物の巣だよ。」
その話を聞き、パーティーメンバーはアリスを見る。実質的なリーダーはアリスなので、アリスに従うという事だろう。
「リンゴをリーダーに第二パーティーを作るわ。今回のメンバーはバニラ、ジュリアと…」
視線がソニアに向く。
「わ、私は…」
「直ぐにとは言わないわ。リンゴちゃんの影で、永遠の二番手と言われる覚悟も必要になるから。」
よくその事をぼやいているだけに、アリスも気にしているのを知っているのだろう。
ソニアはリンゴと並んで神童と呼ばれる事がよくあるのだが、種族差なのかリンゴに負けてばかりである。
「断ったら…?」
「フィオナに行ってもらう。エルフ側の対応に置いておきたかったんだけどね。
そうじゃなくも、探索は全員が揃うまでおやすみ。」
「どうして?」
「正直、キツいわ。今より先は命の危機を感じた。もう少し良い装備か人数が欲しいの。」
アリスたちも相当な成長をしているはずなのだが、それでも厳しいというビフレストへの道、神の居る地へ至るというのは容易ではないようだ。
「まあ、二番手でも実績として申し分はないわ。踏み台にして就職に利用しても良いのよ?冒険者を経て、という人は珍しくないからね。」
ソニアは答えを出せなかった。
リンゴとしても、ずっと切磋琢磨してきた仲だ。側に居てもらえればとても心強いだろう。
だが、無理強いはせず、ソニアが見ても何の反応もしない。
ソニアの反応は、いきなり自由が与えられた事への戸惑いにも思えた。
「アリス、ボス級というからにはもっと人数を増やした方が良いのでは?
リンゴは強い。強いが、リンゴだけでという話ではないかもしれない。」
「そうなの?それじゃあ、私とユキだけ残って、バンブーとストレイドにも行ってもらうわ。」
「私、レイドは経験ないからなー…」
「わたしも一度だけだ。本当に空気を感じるくらいしか出来なかったが…」
自信なさげなバニラとバンブー。
「その一度はどんなだったの?」
「三十人で城ほどありそうな牛が相手だった。ギガ・ブルホーンだったか。
五つにパーティーを分け、巧みにヘイト…敵視を分散させて崩壊させない戦いは感動したな。
同時に、ここはわたしみたいな戦えない人間が居ちゃダメだ、と思って二度はいかなかったが。」
人数の少ないと出来そうのない芸当だった。頭数がいれば、そういう事も出来たりするのか、と感心してしまう。
「五つかぁ…」
「体力管理の問題だ。攻撃が強烈だからな。避けるにしても、受けるにしても一人が受け続けるのは色々厳しい。」
「でも、最初のおとーちゃんは一人で揃えたんだよね?どうやったんだろう。」
視線がココアに集まる。
「ごめんなさい。わたしに理解できる話じゃ無かったので…」
「うん。そんな気はしてた…
一人で何でも出来るヤツを参考にしてはいけない…」
「まあ、理屈あっての事なんだろうけどねー…
少人数でボス全撃破RTA世界記録、とかいう机上の理論を実現する根性は真似できないって…」
バンブーが咳払いをして話を戻す。
「まあ、そこは装備と魔法で誤魔化すしかない訳だけど、相手次第な所もあるんだよねー
私も戦ったことはないけど、必要な装備の水準は覚えてるから情報は欲しいね。」
「少人数で偵察、攻略はそれからという事になりそうですわ。」
「そういうことなら、あたしも行きたいところですが困りやしたね。アリス一人は不安ですし。」
「東部へカトリーナさんも来るなら安心だけど、この人の護衛として離せないでしょうし、私の護衛役にユキが居ると助かるわ。
そっちのリーダーはフィオナさんに任せるから。」
「慎んでお受けいたします。足が速く、隠密や【影移動】も使えるリンゴさんなら偵察もこなせるでしょう。むしろ、一人で動いてもらった方が良い気もしますが…」
「経験が無いから無理だよ。」
「そういう事にしておきますわ。
まあ、経験がないのは皆一緒。安全を第一に、撤退は迅速にの方針は堅持して参りましょう。」
こうして、パーティーの中で突発的に始まった作戦会議は終了する。
エディさんは、終始ニコニコしながら聞いていたが内心はどう思っていたのだろうか。
「そう言えば、お姉ちゃんどうしてレイド参加一度しかしなかったの?」
「VR酔いが酷かった。ビフレストに行かなかった理由もそれだ。」
「あー…致命的に合わない体質の人っているんだよね…知り合いにも居たよ。
それで、こっちでもあんまり体を動かして無かったんだね。」
「うん。VR酔いが無いのは分かってるんだが、なんだか急に夢から引き離されそうな気がして怖かった。」
そう言ってバニラはココアを見る。
「そうですね。わたしも最初はそうでしたから。だからあの時の旦那様についていけなかった。既に頭一つどころではないくらい、抜き出て強かった旦那様に付いていく勇気がありませんでしたから…」
拳をグッと握りしめ、その時の事を思い出しているようだ。
「何が違ったんだろうな?私はこいつとなら上手くやれるという確信しか無かったが。」
「こう言ってはなんですが、正直、最初の旦那様とは本当に別人なのです。人を、特に女性を信じない上に、寄せ付けないくらいの怖さがありましたから…
ショコラはそれを強さと勘違いした節がありましたし、だからわたしたちも一人でなんとかしようともがき続けてしまったのです。」
自分の過去を知らないからこその今か…
ゲームの知識すら無くなったオレはなんだか惨めに思えてくる。
二年経っても、オレのそういう気持ちの部分はなかなか改善されていなかった。
「ああ、それで隠し事が嫌いなカトリーナさんと仲が悪かったんだな…
恐らく、直接ちゃんと話した事も少ないんじゃないか?」
「でも、無駄死にだけは絶対に許さない方でもありました。そうでなければ、裸同然で放り出された召喚者の死に、怒り狂って城を半壊させるなんてあり得ませんから。」
「…それは今に通じる所があるな。」
「本当に、本当に不器用な方だったのだと思います。わたしを拾ったのも気紛れかもしれませんが、ちゃんと同じ目線で話せる相手が欲しかったのだと思います。」
リンゴを助けたのも気まぐれだったのだろうと聞いている。人付き合いに関しては、元々そういう所の多い性格だったのだろうか?
「ココアにとっての旦那様はどっちだ?」
バニラの踏み込んだ問いに、ココアは考え込む。
「…難しいですね。わたしが救いたかったのは間違いなく最初の旦那様ですが、こっちの旦那様も救いたい。
どっちもわたしを救ってくださいましたからね。」
「…そうだな。愚問だったよ。」
「片想いの甘酸っぱい話はもういいよー。
リンゴちゃんがすごい眼でこっち見てるのが恐くなってきたからねー」
バンブーに言われてリンゴを見ると、表現し難い表情でこちらを見ている。どういう感情の現れなのだその顔は。
「ひっ!?」
「慣れてくれ。」
「でも、もし今日までショコラが生きていて、この場にいたらどう思ってたんだろうねー。」
「リンゴを煽ってボコられてそうな気がする。」
「分かります。」
「おおう。否定できないよー…」
二人が毎日のように殴り合いをし、アリスやカトリーナさんにめちゃくちゃ怒られる、を繰り返してそうな気がしてきた。
そのせいで卒業が1年遅れていた可能性もある…
「また違う今があって、違うリンゴ様になってそうですね。」
「そうだね。今のリンゴは優等生過ぎるから、それが薄まってた気はするね。」
「ライバルがそれ以上に優等生だからな。わたしはそっちが心配だ。」
「そ、そうでしょうか…?」
心配されて困惑するソニア。
卒業が決まって以来、落ち着きは取り戻せているが、どんどん独り言が多くなり、凡ミスに悔いて食事が疎かになる様は痛々しかった。
とは言え、高等部の魔法知識の由来がバニラの物に刷新されたタイミングなので、だいぶ緩くなっていたようではある。
必要な知識はそれだけではないので、一教科でも楽なのがあるのはありがたかったに違いない。
「じゃあ、二次会は決まったね。」
「そうだな。ココアも行くぞ。」
「わたしもですか?」
三人はソニアを連れて外へ出ていく。バンブーとバニラがソニアの腕をしっかり抱えていたあたり、何をするかは分からないが、逃がす気は無いという意志表示だろう。厄介な先輩である。
事情を聞いていたオレが説明するとカトリーナさんは呆れた顔をするが、リンゴとアリスは少し安堵の表情を浮かべていた。
二次会と言っても、甘いものを食べに行くというだけの事である。リンゴを置いていったのは、ソニアも妹分として可愛がりたいという事のようだ。
「リンゴ。」
「なに?」
「一人で出来ることってきっと多くないよな。」
「…うん。そうだね。ココアの知るお父さんは、ずっとこの悩みと向き合ってたのかな。」
少し寂しそうな表情でリンゴが答える。
「だろうな。どんなに頑張っても拾い切れないものはあるからな。でも、一人で解決し続けたからこそ見えたものもあるのかもしれない。確認のしようは無いが。」
「それはきっと取り戻せないものなんだろうね。考えるとちょっと怖いかな。」
「こういう時、オレはどう言うんだろうな。ちょっと答えが出せない。」
「多分、私たちには求めないけど、自分は我が身省みずに最悪を回避すると思う。
お父さんはそういう人だから…」
最悪とはどの程度なのか、という問題はあるが、きっとその通りなのだろう。そうでなければオレはこうなっていなかったし、〈魔国英雄〉などとも呼ばれていない。
「オレ以上にオレを知っていてくれて嬉しいよ。」
「ふふ。ありがとう。
でも、私はお父さんみたいな失敗しないよ。お父さんがちゃんと失敗してくれたからね。だから、単独行動は避けたかったんだ。まだ私には実戦経験が少ないから。」
自分への自信と仲間への信頼があるからこその答えだろう。
二年前からしっかりしているとは思っていたが、忙しいながら色々な経験をしてその印象が更に強くなる。
まだ時々、何かの拍子で子供らしさが暴れる事があるが。
「お姉ちゃんたちに甘えておけ。みんな、しっかりフォローしてくれる。」
「うん、信頼してる。みんな、私のお姉ちゃんだからね。」
今までで一番の笑顔を見た気がした。
卒業を決めた時とはまた違う笑顔。この笑顔を位置的に独り占めしてしまい、カトリーナさんになんだか申し訳なくなってくる。
今度はカトリーナさんが、筆舌し難い凄い顔でこちらを見ていた。
なんで気付いたんですかね?
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それは、女神の「推し」になった男。
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彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
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