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第1部
57話
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卒業記念お別れパーティーの翌日、オレたちは別れてそれぞれの目的地へ向かう事なる。
エディさんとミルクが見送りに来てくれたが、エディさんは最後までぼろぼろ泣いていた。今生の別れにはならないとは思うが、いい話相手になってくれていたので、後ろ髪を引かれる思いではある。
ミルクは死んで再会は勘弁してくれ、とらしい言葉で送り出してくれたが縁起でもない。
サラ、パウラなど、娘たちの友人が大挙して押し寄せて来たので困惑したが、ソニアがしっかりまとめてくれたのでなんとか混乱が起きて兵に事情聴取という事態にならず済む。
オレの体には、ずっと試作と調整を繰り返したアシストスーツが装着されており、それほど大掛かりの物ではなく、歩行を補助する程度のものだ。
バンブーがいないので旅の間の調整は出来ないが、これなら杖なしで歩くことは出来るのだが、跳ねたり走ったりは非常時のみと厳命された。
背負ってもらう為の道具もあるので、いざという時はそれに頼る事になりそうである。
ソニアはついに結論が出せなかった。
しばらくは住み込みで、家と訓練場を管理していく事になり、その事にエディさんも大喜びで歓迎している。
なんだか人生を狂わせたようで心苦しいが、魔人の寿命は長いので数年くらいは気にしなくて良いと言われ、むしろ後輩の指導によって一家の知識や技術を広めてくれるのは喜ばしいとエディさんは言う。
ソニアの評価は、リンゴとは違う形でこれから高まるに違いない。
エディさんに別れを告げ、ボス討伐パーティーともすぐに別れる。なるべく早く合流したいが、気を逸らせては事故に繋がりそうなのでじっくり攻略するよう促しておいた。
オレと同行しているのはカトリーナさん、ユキ、アリス、ココア。
ユキ、アリスとはなんだかんだで長いこと会っていなかったが、あまり距離感はない。
オレが杖なしで歩けていることに、二人とも感激したのが妙に照れ臭かった。自力ではないんだが。
歩く速度はオレが基準になってしまうのでゆっくりになってしまうが、日程に余裕はあるそうで、いざという時はオレとココアを背負って走るという。
思えばこの二年で、初めての自分の足での遠出である。長距離移動は王都に戻ってきた時以来だが、その時は竜車だったしな。
変わり行く風景、道中の名物を楽しむオレたちのゆったりとした旅が始まった。
結局、一週間の旅の最後の二日は背負われての移動となった。
道中で問題が発生し、それを解決してからの旅だったので距離が稼げなかったことも理由である。
そんなこんなで辿り着いたエルフの森東部。ここがオレたちの第二の拠点となる。
広大なエルフの森の中央に巨大すぎるイグドラシルがそびえ立ち、そこを中心に東西南北で異なる民族として発展を遂げたエルフたち。比較的容易いルートである西から南を通って東へと移動してきた。
南を通ったことでトラブルが起きたが…それは置いておく。
無事に到着したオレたちは、東方エルフの頭領であるジュリアとフィオナの両親へ挨拶に向かった。
エルフの豪邸は木製の平屋。しかし、土地が広大で、中は庭園と訓練場が大半であった。
「エルディーの英雄よ、よくぞ参られた。東部の総領を務めているフェルナンドと申す。」
非常に体格の良い、筋骨隆々と呼ぶべき肉体を誇る東方エルフが両腕を広げて迎えてくれた。
「娘さん達にはお世話になっています。ヒガンです。」
深々と頭を下げ、挨拶をする。
この方はジュリアとフィオナの父君というだけでなく、記憶に無いがルエーリヴでも色々と協力をしていただいた恩人の一人だそうだ。
「拠点の方も融通していただいたとうかがっております。感謝してもしきれません。」
「何を仰るか。娘をあそこまで育てて下さった恩人。この程度では返しきれない大恩に困っておるわ。」
ガハハ、と豪快に笑い出す。その圧に怯んでしまいそうになった。
「ところで、南方エルフが居るという話は聞いておらぬが?」
新たな仲間であるレオノーラについて尋ねてくる。
道中で助けたのが縁で加わった新たな仲間。南方エルフ特有の派手な赤い髪色に銀っぽいメッシュの入ったまだ子供の褐色エルフ。才能があり、ユキも認める程だが、本人はあまり戦いに乗り気ではない。
髪の色はわりと頻繁に変えたくなるそうで、いつまでもこの色という訳ではないようだ。
「道中で色々ありまして…」
「しばらくは私の下で鍛えることになります。」
カトリーナさんが軽く頭を下げながら言う。
「人手もまだ足りておりませんので。」
「身寄りを失くし、皆様に拾っていただきました!今後も尽くすしょぞんです!」
静かにしていて下さいね、とカトリーナさんに釘を刺されていたのだが、耐えきれずに自己紹介をしながら深々と頭を下げた。
「うむ。元気があって良い。しっかり鍛えてもらうのだぞ。」
「は、はい!」
うんうん、と腕を組み、ニコニコしながらレオノーラの行動は不問にして下さる。その姿から自分の娘達のかつてを見ていそうだ。あの二人もなかなか手が掛かりそうだからな。
「ところでうちの娘達はどうしてるかな?」
フェルナンドさんにあまり聞かれたくない事を聞かれたが、ここは素直に答えよう。隠すのは良くない。
「旧ヒュマス国で大規模なスタンピードが発生しており、その対処に派遣しました。
先日卒業した末っ子を加え、フィオナには指揮を執ってもらっております。」
「はて、末の子は小さいと聞いておったが…」
「13になりました。」
「なんと!?その若さで卒業とは苦労されただろう。血は繋がっていないそうだが、立派な後継者になれそうだ。」
「自分には過ぎた娘ですよ。」
義理ではあるが父親同士、なにかシンパシーのようなものを感じてしまう。
「お互い、優秀すぎる娘を持って苦労するな。」
「全くです。」
互いに、そして母親代わりのカトリーナさんも思わず笑って挨拶は終わる。
「貴殿は動けぬと聞いているが。」
「はい。ですが、娘たちの尽力でなんとか歩くことは出来ます。
まあ、背負われた方が断然速いですが。」
「そうか…それはさぞ大変だろう…」
「総領閣下、その際に送られた者たちはどうされましたか?」
「一人を除き犯罪奴隷となり、労働に従事させています。」
話を聞くと、エルフに限らず亜人に対して暴行、強盗など盛大にやらかしているのでしかたないと納得する。
「その一人は?」
とても渋い顔になり、どうやらあまり言いたくないようだ。
「無理に聞くつもりは…」
「いや、聞いてくれ。覚えておらぬとは言え、捕まえてくれたのは貴殿だからな。」
大きく息を吐き、意を決した様子で言う。
「死刑に決まり、即日執行のはずだったが、我々の武器では首が落とせぬ。絞首刑も考えたが、どれ程の高さから落とせば良いか分からず、どれほどの強度の縄や木材が必要かも分からない。全く困ったものだ。」
「スキルで悪足掻きをしているのでしょう。腕を切り落とされても、戦意を失わなかったと聞いております。」
「戦士の鑑だが、人間性が崩壊していてはな…
まあ、牢に入れてある間は何も出来まい。食べ物も与えていないから飢え死にするかもしれぬしな。」
なんとしても殺したいようだ。
どうしてそこまで…とも思うが、恐ろしい答えが返ってきそうなのでやめておく。
生半可な毒では耐性を獲得してしまうのは知っているようで、言及すらされない。
「この後はどうされるつもりか?」
「拠点に向かおうかと思っております。まだ確認しておりませんので。」
「そうか。長旅ご苦労であった。必要あらば何でも申し付けよ。出来る限りの事は融通させよう。」
「ありがとうございます。」
オレたちは深々と礼をし、総領の元を辞した。
フェルナンド様とは上手くやっていけそうだが、同胞たちの事が気にかかった。面倒な事にならなければ良いが。
想像以上だった。
総領の別邸かと思うほどの木造平屋の豪邸。
しっかり庭があり、訓練場がある。それと場違いな小屋が一件。
「あの小屋は?」
「ジュリアの家よ。寝相の悪さだけは改善されなくて…バンブーが危うく締め殺される所だったって言ってた。」
「ああ…」
なんだか犬小屋にようにも見えてきた。ジュリア、生きろ。
外見の装飾も凝っていたが、中は更に緻密な細工が施されている。家具も高級感があり、木製の椅子もテーブルもピカピカしていた。冒険者の家ですよねこれ。
「ビックリするよね。わたしもビックリした。
ジュリアなんてわたわたしてたのよ。実家の自室より凄いって。」
「あれもお嬢様だったな…」
「私たちもギリギリそうだけど、これはもう公爵クラスの待遇よね…」
カトリーナさんは既に荷物を下ろし、持ってきたものをあちこちに置き始めていた。豪邸に動じない辺り、流石はエディさんの直属である…
落ち着いたユキも手伝い、作業が加速する。見慣れた小物が増え、我が家という感じになってきた。
「わ、わたしばちがいなのでは?」
南方エルフ特有の片言訛りで震え声のレオノーラ。そう思うよなオレもそう思う。
「ノラ、みんなそう思ってるから安心して。
まあ、派手なのはここだけだから。玄関からここまでで来客応対は済ませてる。」
そう言って、扉を開けて奥に入ると、メイドが一人だけ控えていた。
無言で深々と頭を下げ、挨拶をする。
黒髪黒目で背が高めな細身の少女。この見た目…
「君の同胞を一人だけ奴隷として引き取ったの。かつてのユキほどじゃないけど刻印で制限も掛けてあるわ。名前はアクアよ。」
「お、お帰りなさいませ旦那様、お嬢様…」
怯える様子でオレを見る。
同胞なのだろうが、当然覚えがない。
「旦那は元から覚えちゃいないでしょうけど、国境で撃墜した時の一人でさぁ。まあ、あの時も怖い怖いって大泣きしてたんで、害はないと引き取らせていただきやした。」
「…そうか。よろしくなアクア。」
握手をしようと手を出すが、それと同時に早く頭を思いっきり下げ、頭が手に激突する。
「も、も、もうしわけございません!」
「い、いや、お前の方こそ大丈夫か?」
「この程度、問題ありません!」
今度は反りすぎなくらい上体を起こして大丈夫アピールする。ちょっと額が赤くなっていた。
「アクアはあたしが預からせていただきやす。鍛え甲斐があるので、旦那は将来をお楽しみに。」
「期待しよう。」
僅かに痛む手を引っ込め、ノラの方を見る。
「ノラと組ませるのか?」
疑問に思ったのでユキに尋ねる。
「家ではそうなると思いやす。
ただ、アクアは性格が冒険に向いてないので…」
そう説明され、しょんぼりするアクア。
「家を守るのも大事な役割だ。期待してるぞアクア。」
「は、はい!」
元気の良い返事だ。期待はしておこう。
「しかし、メイドも増えたわねー」
「私としては退屈せずに済んで良いですが。」
カトリーナさんが並ぶ新人二人を見ると、揃って体をビクッとさせる。しっかり鍛えられてくれたまえ。
「ここは王都に比べると、フィオナの実家っていう究極の後ろ楯があるのは心強いわね。そのおかげで色々な交渉が上手くいってくれたし、表立って敵対する勢力は今のところいないわ。」
「裏は?」
「冒険者がキナ臭い。どうもエルディーの冒険者が優先してイグドラシルに挑めることを快く思ってないみたい。」
「それもお嬢様方が戻るまでの事でしょう。
オリハルコンを得られれば黙らせられやす。」
「そうね。これ以上の成果はなかなか出せないもの。」
腕を組み、自信満々なアリス。
この一年で、しっかりパーティーリーダーとして自信をつけたようだ。
「すっかりリーダーの顔だな。頼もしいよ。」
「ふふ。頼りになるのは娘たちだけじゃ無いってことよ。」
「だいぶフィオナに尻を蹴られていやしたしね。」
「やだ!それ言わないでって!」
こっちでも厳しく鍛えられたようだ。
「悔しいけど、私のイグドラシル攻略はここまで。もう体がついていけないのよ。遠かったけど、ビフレストを見れたから良いけどね。」
「そうか…」
「でも、その向こうへ行くこと自体は諦めてないから。元に戻ったら私を連れていきなさいよ?」
「約束する。」
「二人とも、あたしらの前で愛の誓いみたいな事はやめてもらえやせんかね?」
「ちがっ!そういう意味じゃ!」
とても渋い顔をするユキのツッコミに、顔を真っ赤にしてアリスが否定する。
新入り二人も顔を赤くし、こちらを見ていた。
「大丈夫ですよ。旦那様のそういう所は皆が存じてますので。あと、アリスも。」
「なんで知られてるの…」
「リンゴ様が全て見ております。…私も見られてました。」
「リンゴ、恐るべし…」
「あの眼が見てると思うと、滅多なこと言えなくて怖過ぎやすぜ…」
あの観察力は、そうやって鍛えられたのかと思うとバカにできなくて困る。多分、誰よりも皆の様々な行動や作業をよく見ているはずだ。
「まあ、そういう事だから今後の攻略リーダーはフィオナに譲ることになる。私はここで支援するから。」
「あたしは場合によっては攻略組に入るでしょうが、この顔触れが常に居ることになりそうですね。」
「そうね。そういう事だから、みんな仲良くしましょう。」
改めて全員が握手をし合い、結束を固めることとなった。
奴隷の扱いでありながら、自分もその輪に入っていたことに困惑を隠せないアクア。
ここはそういう所だとアリスが言うと、嬉しそうな笑みを浮かべ、ノラと共に改めてよろしくお願いしますと皆に言う。
しばらく寂しくなるかと思ったが、そんな事もなさそうでホッとしていた。
エディさんとミルクが見送りに来てくれたが、エディさんは最後までぼろぼろ泣いていた。今生の別れにはならないとは思うが、いい話相手になってくれていたので、後ろ髪を引かれる思いではある。
ミルクは死んで再会は勘弁してくれ、とらしい言葉で送り出してくれたが縁起でもない。
サラ、パウラなど、娘たちの友人が大挙して押し寄せて来たので困惑したが、ソニアがしっかりまとめてくれたのでなんとか混乱が起きて兵に事情聴取という事態にならず済む。
オレの体には、ずっと試作と調整を繰り返したアシストスーツが装着されており、それほど大掛かりの物ではなく、歩行を補助する程度のものだ。
バンブーがいないので旅の間の調整は出来ないが、これなら杖なしで歩くことは出来るのだが、跳ねたり走ったりは非常時のみと厳命された。
背負ってもらう為の道具もあるので、いざという時はそれに頼る事になりそうである。
ソニアはついに結論が出せなかった。
しばらくは住み込みで、家と訓練場を管理していく事になり、その事にエディさんも大喜びで歓迎している。
なんだか人生を狂わせたようで心苦しいが、魔人の寿命は長いので数年くらいは気にしなくて良いと言われ、むしろ後輩の指導によって一家の知識や技術を広めてくれるのは喜ばしいとエディさんは言う。
ソニアの評価は、リンゴとは違う形でこれから高まるに違いない。
エディさんに別れを告げ、ボス討伐パーティーともすぐに別れる。なるべく早く合流したいが、気を逸らせては事故に繋がりそうなのでじっくり攻略するよう促しておいた。
オレと同行しているのはカトリーナさん、ユキ、アリス、ココア。
ユキ、アリスとはなんだかんだで長いこと会っていなかったが、あまり距離感はない。
オレが杖なしで歩けていることに、二人とも感激したのが妙に照れ臭かった。自力ではないんだが。
歩く速度はオレが基準になってしまうのでゆっくりになってしまうが、日程に余裕はあるそうで、いざという時はオレとココアを背負って走るという。
思えばこの二年で、初めての自分の足での遠出である。長距離移動は王都に戻ってきた時以来だが、その時は竜車だったしな。
変わり行く風景、道中の名物を楽しむオレたちのゆったりとした旅が始まった。
結局、一週間の旅の最後の二日は背負われての移動となった。
道中で問題が発生し、それを解決してからの旅だったので距離が稼げなかったことも理由である。
そんなこんなで辿り着いたエルフの森東部。ここがオレたちの第二の拠点となる。
広大なエルフの森の中央に巨大すぎるイグドラシルがそびえ立ち、そこを中心に東西南北で異なる民族として発展を遂げたエルフたち。比較的容易いルートである西から南を通って東へと移動してきた。
南を通ったことでトラブルが起きたが…それは置いておく。
無事に到着したオレたちは、東方エルフの頭領であるジュリアとフィオナの両親へ挨拶に向かった。
エルフの豪邸は木製の平屋。しかし、土地が広大で、中は庭園と訓練場が大半であった。
「エルディーの英雄よ、よくぞ参られた。東部の総領を務めているフェルナンドと申す。」
非常に体格の良い、筋骨隆々と呼ぶべき肉体を誇る東方エルフが両腕を広げて迎えてくれた。
「娘さん達にはお世話になっています。ヒガンです。」
深々と頭を下げ、挨拶をする。
この方はジュリアとフィオナの父君というだけでなく、記憶に無いがルエーリヴでも色々と協力をしていただいた恩人の一人だそうだ。
「拠点の方も融通していただいたとうかがっております。感謝してもしきれません。」
「何を仰るか。娘をあそこまで育てて下さった恩人。この程度では返しきれない大恩に困っておるわ。」
ガハハ、と豪快に笑い出す。その圧に怯んでしまいそうになった。
「ところで、南方エルフが居るという話は聞いておらぬが?」
新たな仲間であるレオノーラについて尋ねてくる。
道中で助けたのが縁で加わった新たな仲間。南方エルフ特有の派手な赤い髪色に銀っぽいメッシュの入ったまだ子供の褐色エルフ。才能があり、ユキも認める程だが、本人はあまり戦いに乗り気ではない。
髪の色はわりと頻繁に変えたくなるそうで、いつまでもこの色という訳ではないようだ。
「道中で色々ありまして…」
「しばらくは私の下で鍛えることになります。」
カトリーナさんが軽く頭を下げながら言う。
「人手もまだ足りておりませんので。」
「身寄りを失くし、皆様に拾っていただきました!今後も尽くすしょぞんです!」
静かにしていて下さいね、とカトリーナさんに釘を刺されていたのだが、耐えきれずに自己紹介をしながら深々と頭を下げた。
「うむ。元気があって良い。しっかり鍛えてもらうのだぞ。」
「は、はい!」
うんうん、と腕を組み、ニコニコしながらレオノーラの行動は不問にして下さる。その姿から自分の娘達のかつてを見ていそうだ。あの二人もなかなか手が掛かりそうだからな。
「ところでうちの娘達はどうしてるかな?」
フェルナンドさんにあまり聞かれたくない事を聞かれたが、ここは素直に答えよう。隠すのは良くない。
「旧ヒュマス国で大規模なスタンピードが発生しており、その対処に派遣しました。
先日卒業した末っ子を加え、フィオナには指揮を執ってもらっております。」
「はて、末の子は小さいと聞いておったが…」
「13になりました。」
「なんと!?その若さで卒業とは苦労されただろう。血は繋がっていないそうだが、立派な後継者になれそうだ。」
「自分には過ぎた娘ですよ。」
義理ではあるが父親同士、なにかシンパシーのようなものを感じてしまう。
「お互い、優秀すぎる娘を持って苦労するな。」
「全くです。」
互いに、そして母親代わりのカトリーナさんも思わず笑って挨拶は終わる。
「貴殿は動けぬと聞いているが。」
「はい。ですが、娘たちの尽力でなんとか歩くことは出来ます。
まあ、背負われた方が断然速いですが。」
「そうか…それはさぞ大変だろう…」
「総領閣下、その際に送られた者たちはどうされましたか?」
「一人を除き犯罪奴隷となり、労働に従事させています。」
話を聞くと、エルフに限らず亜人に対して暴行、強盗など盛大にやらかしているのでしかたないと納得する。
「その一人は?」
とても渋い顔になり、どうやらあまり言いたくないようだ。
「無理に聞くつもりは…」
「いや、聞いてくれ。覚えておらぬとは言え、捕まえてくれたのは貴殿だからな。」
大きく息を吐き、意を決した様子で言う。
「死刑に決まり、即日執行のはずだったが、我々の武器では首が落とせぬ。絞首刑も考えたが、どれ程の高さから落とせば良いか分からず、どれほどの強度の縄や木材が必要かも分からない。全く困ったものだ。」
「スキルで悪足掻きをしているのでしょう。腕を切り落とされても、戦意を失わなかったと聞いております。」
「戦士の鑑だが、人間性が崩壊していてはな…
まあ、牢に入れてある間は何も出来まい。食べ物も与えていないから飢え死にするかもしれぬしな。」
なんとしても殺したいようだ。
どうしてそこまで…とも思うが、恐ろしい答えが返ってきそうなのでやめておく。
生半可な毒では耐性を獲得してしまうのは知っているようで、言及すらされない。
「この後はどうされるつもりか?」
「拠点に向かおうかと思っております。まだ確認しておりませんので。」
「そうか。長旅ご苦労であった。必要あらば何でも申し付けよ。出来る限りの事は融通させよう。」
「ありがとうございます。」
オレたちは深々と礼をし、総領の元を辞した。
フェルナンド様とは上手くやっていけそうだが、同胞たちの事が気にかかった。面倒な事にならなければ良いが。
想像以上だった。
総領の別邸かと思うほどの木造平屋の豪邸。
しっかり庭があり、訓練場がある。それと場違いな小屋が一件。
「あの小屋は?」
「ジュリアの家よ。寝相の悪さだけは改善されなくて…バンブーが危うく締め殺される所だったって言ってた。」
「ああ…」
なんだか犬小屋にようにも見えてきた。ジュリア、生きろ。
外見の装飾も凝っていたが、中は更に緻密な細工が施されている。家具も高級感があり、木製の椅子もテーブルもピカピカしていた。冒険者の家ですよねこれ。
「ビックリするよね。わたしもビックリした。
ジュリアなんてわたわたしてたのよ。実家の自室より凄いって。」
「あれもお嬢様だったな…」
「私たちもギリギリそうだけど、これはもう公爵クラスの待遇よね…」
カトリーナさんは既に荷物を下ろし、持ってきたものをあちこちに置き始めていた。豪邸に動じない辺り、流石はエディさんの直属である…
落ち着いたユキも手伝い、作業が加速する。見慣れた小物が増え、我が家という感じになってきた。
「わ、わたしばちがいなのでは?」
南方エルフ特有の片言訛りで震え声のレオノーラ。そう思うよなオレもそう思う。
「ノラ、みんなそう思ってるから安心して。
まあ、派手なのはここだけだから。玄関からここまでで来客応対は済ませてる。」
そう言って、扉を開けて奥に入ると、メイドが一人だけ控えていた。
無言で深々と頭を下げ、挨拶をする。
黒髪黒目で背が高めな細身の少女。この見た目…
「君の同胞を一人だけ奴隷として引き取ったの。かつてのユキほどじゃないけど刻印で制限も掛けてあるわ。名前はアクアよ。」
「お、お帰りなさいませ旦那様、お嬢様…」
怯える様子でオレを見る。
同胞なのだろうが、当然覚えがない。
「旦那は元から覚えちゃいないでしょうけど、国境で撃墜した時の一人でさぁ。まあ、あの時も怖い怖いって大泣きしてたんで、害はないと引き取らせていただきやした。」
「…そうか。よろしくなアクア。」
握手をしようと手を出すが、それと同時に早く頭を思いっきり下げ、頭が手に激突する。
「も、も、もうしわけございません!」
「い、いや、お前の方こそ大丈夫か?」
「この程度、問題ありません!」
今度は反りすぎなくらい上体を起こして大丈夫アピールする。ちょっと額が赤くなっていた。
「アクアはあたしが預からせていただきやす。鍛え甲斐があるので、旦那は将来をお楽しみに。」
「期待しよう。」
僅かに痛む手を引っ込め、ノラの方を見る。
「ノラと組ませるのか?」
疑問に思ったのでユキに尋ねる。
「家ではそうなると思いやす。
ただ、アクアは性格が冒険に向いてないので…」
そう説明され、しょんぼりするアクア。
「家を守るのも大事な役割だ。期待してるぞアクア。」
「は、はい!」
元気の良い返事だ。期待はしておこう。
「しかし、メイドも増えたわねー」
「私としては退屈せずに済んで良いですが。」
カトリーナさんが並ぶ新人二人を見ると、揃って体をビクッとさせる。しっかり鍛えられてくれたまえ。
「ここは王都に比べると、フィオナの実家っていう究極の後ろ楯があるのは心強いわね。そのおかげで色々な交渉が上手くいってくれたし、表立って敵対する勢力は今のところいないわ。」
「裏は?」
「冒険者がキナ臭い。どうもエルディーの冒険者が優先してイグドラシルに挑めることを快く思ってないみたい。」
「それもお嬢様方が戻るまでの事でしょう。
オリハルコンを得られれば黙らせられやす。」
「そうね。これ以上の成果はなかなか出せないもの。」
腕を組み、自信満々なアリス。
この一年で、しっかりパーティーリーダーとして自信をつけたようだ。
「すっかりリーダーの顔だな。頼もしいよ。」
「ふふ。頼りになるのは娘たちだけじゃ無いってことよ。」
「だいぶフィオナに尻を蹴られていやしたしね。」
「やだ!それ言わないでって!」
こっちでも厳しく鍛えられたようだ。
「悔しいけど、私のイグドラシル攻略はここまで。もう体がついていけないのよ。遠かったけど、ビフレストを見れたから良いけどね。」
「そうか…」
「でも、その向こうへ行くこと自体は諦めてないから。元に戻ったら私を連れていきなさいよ?」
「約束する。」
「二人とも、あたしらの前で愛の誓いみたいな事はやめてもらえやせんかね?」
「ちがっ!そういう意味じゃ!」
とても渋い顔をするユキのツッコミに、顔を真っ赤にしてアリスが否定する。
新入り二人も顔を赤くし、こちらを見ていた。
「大丈夫ですよ。旦那様のそういう所は皆が存じてますので。あと、アリスも。」
「なんで知られてるの…」
「リンゴ様が全て見ております。…私も見られてました。」
「リンゴ、恐るべし…」
「あの眼が見てると思うと、滅多なこと言えなくて怖過ぎやすぜ…」
あの観察力は、そうやって鍛えられたのかと思うとバカにできなくて困る。多分、誰よりも皆の様々な行動や作業をよく見ているはずだ。
「まあ、そういう事だから今後の攻略リーダーはフィオナに譲ることになる。私はここで支援するから。」
「あたしは場合によっては攻略組に入るでしょうが、この顔触れが常に居ることになりそうですね。」
「そうね。そういう事だから、みんな仲良くしましょう。」
改めて全員が握手をし合い、結束を固めることとなった。
奴隷の扱いでありながら、自分もその輪に入っていたことに困惑を隠せないアクア。
ここはそういう所だとアリスが言うと、嬉しそうな笑みを浮かべ、ノラと共に改めてよろしくお願いしますと皆に言う。
しばらく寂しくなるかと思ったが、そんな事もなさそうでホッとしていた。
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のらねこま(駒田 朗)
ファンタジー
リーマンショックで会社が倒産し、コンビニのバイトでなんとか今まで生きながらえてきた俺。いつものように眠りについた俺が目覚めた場所は異世界だった。俺は中世時代の若き国王アルフレッドとして目が覚めたのだ。ここは斜陽国家のアルカナ王国。産業は衰退し、国家財政は火の車。国外では敵対国家による侵略の危機にさらされ、国内では政権転覆を企む貴族から命を狙われる。
目覚めてすぐに俺の目の前に現れたのは、金髪美少女の妹姫キャサリン。天使のような姿に反して、実はとんでもなく騒がしいS属性の妹だった。やがて脳筋女戦士のレイラ、エルフ、すけべなドワーフも登場。そんな連中とバカ騒ぎしつつも、俺は魔法を習得し、内政を立て直し、徐々に無双国家への道を突き進むのだった。
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