98 / 307
第1部
87話
しおりを挟む
桁違い。そう言うのが正しいのだろう。
これまでのような流れ作業で終わる戦闘ではなく、激しい攻防が続いていた。
強化魔法を受けているからか、なんとかオレにも見えている。
「立て直し!」
【インクリース・オール】
【バリア・オール】
フィオナの言葉に反応して、バニラが全員に強化魔法と防御魔法を掛ける。
『小賢しい!』
「くぉのっ!」
バニラに向いた槍からの波動を、梓が前に入って盾で防ぐ。
「そこ!」
『くっ!』
隙と見たカトリーナの斬擊が右手側へ襲い掛かるが、ギリギリ受け止める。
『ぬっ!?』
だが、音の無い一撃がヘイムダルの左ふくらはぎを切り裂く。
ユキの影からの一撃だ。カトリーナは一瞬で大きく距離を取り、深追いはしない。
【ヴォイド・ブラスト】
フィオナから見えない魔法が飛ぶが、ヘイムダルはバリアを展開して受け流す。
魔法の衝撃は凄まじく、着弾した残滓だけでも滝の流れ落ちる水が一瞬止まるほどだ。
【エンチャント・ヴォイド】
『舐めるな!』
神速と言っても良い遥香の斬擊を、槍の一薙ぎで弾き返す。
【ヴォイド・ストライク】
『うおっ!?』
弾き飛ばされながらも、魔法をいくつも追撃を妨げるように落としていく。
【フロストノヴァ】
【アイス・ブラスト】
フィオナとバニラの魔法がヘイムダルを氷付けにした。
【フォースインパクト】
【フォースインパクト】
【フォース・アロー】
柊と梓とジュリアの一撃が完全に入った。
『届かぬ!』
だが、倒すには至らず、強烈な衝撃波で氷を粉砕し、二人を弾き飛ばした。
【ヒール】
「ハッ!」
フィオナとバニラが二人を回復している間に、カトリーナの強烈な一撃が
『見え透いている!』
避けられ、柄で地面に叩き付けられる。と思ったが、そのまま影に落ちてすぐに退避してきた。追撃はジュリアの矢が阻止している。
「申し訳…ございません…」
叩き付けられなかったが一撃で満身創痍と言って良い状態だ。吐血したようで血塗れになっている。
バニラからリザレクションを貰い、ポーションを飲み、回復する。
「…甘くないな。」
「人の身では過ぎた相手でしょう…ですが。」
息を整えるようにゆっくりとカトリーナが答える。
遥香が真っ直ぐに走り、斬り掛かる。
だが、槍が突き出され、阻止される。しかし、それを読んでいたかのように盾で抑え込む。
「触れられない相手ではありません。」
そう言って、再び前へと躍り出た。
頼もしい、心強い。
だが、とても苦しい。何も出来ない事を苦々しく思うことは何度もあったが、今はその思いが比べ物にならない。
戦いたい。前に出たい。あの鼻をへし折ってやりたい。
これほどの思いは目覚めたあの日以来、初めての事だ。
出来ないから、見えないからと諦めていた心に熱が宿っているような気分。
オレが熱くなっても仕方ない。それは分かっている。
だが、この滾る思いを抑えられない。
「ヒガン。」
バニラに魔導具を投げ渡された。
「持っているだけで良いから。」
「…ああ。」
渡された物を握り締める。
どういうものか分からないが持っているだけで良い、と言われたらそうするしかない。
『あーあー。テステス。聴こえていますか?』
聴こえてきたのはメイプルの声だ。いつもより少し甲高い気がする。
「ああ、しっかり聴こえているぞ。」
『あれー!?だ、旦那様でしたか…
いえ、なんでもありません。ごほん。』
咳払いをし、楽器を奏で始める。
『スキルの効果があるかわかりません。ですが、私たちも応援します。【バトルソング】』
スキルを発動し、プレアデスを歌い始める。
効果があったのか、驚いた様子でユキがチラッとこちらを見た。
「成功だ!フィオナ!」
「ステップ4!」
【インクリース・オール】
【バリア・オール】
バニラがフィオナを呼ぶと、再び魔法を掛け直し、仕切り直す。
【鬼神化】
【鬼神化】
【鬼神化】
前衛アタッカー3人がスキルを発動し、とんでもないプレッシャーを放つ。
【闘気】
遥香は更にオーラをまとい、見るからにヤバい。
【集中】【剛力】
ジュリアは弓を更に大きなものに取り替え、大きな矢をつがえる。
【詠唱多重化】
【魔力増幅】
フィオナとバニラも魔法を強化する。
【鉄壁】
梓は二人の前に立ち、より大きな盾に持ち替えてスキルを発動した。
『まだ力を抑えていたとは…だが、ここまでだ【エインヘリャル】』
複数のヘイムダルが現れ、一気に攻め掛かって来る。
最早オレの認識を越えた次元の戦いとなり、その場でただ立ち尽くすしかなかった。
衝撃、怒声、熱風を感じながら、メイプルの、メイプルたちの歌声が流れてくる魔導具を握り締め続ける。
気が付くと聴こえてくる楽器の音が一つ、二つと増えている。
メイプルも頑張っている。
ただ、目も思考も追い付かない戦いを眺めているのが辛い。
だが、その戦いも終わりを迎えた。
『降参だ。通って良いぞ。』
遥香の一撃を受け止めた所で、ヘイムダルは降参を宣言した。
全員の戦闘モードが解除され、その場でへたり込んだ。
「はぁ…はぁ…ちょっと…休ませて…」
『ああ。いつまで休んでも構わぬ。いつ来ても構わぬ。汝らは我が試練を越えたのだからな。』
『やったー!』
魔導具からメイプルたちの喜ぶ声が聴こえてきた。
『絆の力か…侮れぬものだ。』
そう呟き、ヘイムダルは姿を消した。
「みんな、お疲れ様。一先ず、休もう。」
オレがそう言うと、全員がその場で倒れた。
回復するまで、ただその様子を立ちながら眺めるしかなかった。
回復に一刻程掛かった。
死力を尽くした戦いに、全員の体は悲鳴を上げている。
「スキルの反動がやばい…」
一番酷いのは遥香で、起き上がることができない。
「身体中が痛い上に力が入らない…」
「切り札出しちまいやしたからね…一度戻るのもありですが…」
「大丈夫…お母さんからポーション貰ってるから…ちょっと飲ませて…」
「オレがやろう。」
遥香を抱き起こし、身体に寄り掛からせながら取り出したポーションを飲ませてやる。
「ありがとう。身体中が悲鳴上げてるけど動けるよ。」
出し尽くした。という事だろう。
納得いかない様子で帰ってくることはあっても、ここまで疲れ果てた皆を見るのは初めてだ。
「カトリーナ、体は大丈夫か?」
「大丈夫です。バニラ様の回復魔法のお陰で無事です。」
「…無事じゃなかったわけか。」
「完全に息が止まってました。おそらく、内臓も深刻なダメージを負っていたと思います。」
『えっ、カトリーナ、本当に大丈夫?生きてる?』
我慢できずにアリスが話し出す。
驚いた様子で手元の魔導具を見るカトリーナ。
「歌はこれで聴こえてきたのですね。
大丈夫ですよ。アリスの薬のお陰でなんともありません。」
『そう…良かった…』
安堵の声を伝えてくる魔導具。
「旦那様は見えてなかったようですが、全員が何かしら貰ってますよ。本当に死闘でしたから…」
「そうだったか…」
「アリス、私たちはここで一泊しますわ。出発は体の状態を見てにします。」
『ええ。何も言うことはないわ。フィオナの判断に任せるから。』
『では、なにか演奏しましょう。スキルを入れる余力はありませんが、皆様の癒しになりますように。』
「メイプルすまん。そろそろエネルギー切れだ。」
『えぇ…事前に説明くださいよう…』
「悪かった。充填はアリスに任せてるからその後で。」
『はーい…』
そう返事をすると魔導具から声が途絶える。
バニラがオレから魔導具をひったくり、充填を始めた。
「もっと早く欲しかったですわね…」
「そうですね。色々と相談もできたでしょうから。」
「まあ、楽器製作の副産物だからな。メイプルが居なければ作れなかった。」
「副産物が革命を起こしそう。」
副産物とは思えない発明に皆が唖然とする。
「どういう原理なのー?」
「通話器、と呼称してるが、ペアリンクした二機を魔力で繋いでいるんだ。何処まで伸びるか試したら何処までも伸びたから実験で持ち込んで見た。」
「おおう…意外と単純な…」
「まあ、電話みたいに相手は選べないけどな。中継局を作るのが死ぬほどキツい。」
「だろうねー…想像したくないよー…」
説明を聞き、梓がゲンナリしていた。
「スキルが伝わってくるのは意外でしたわね。」
「そうだな。音も正直期待してなかったが、完璧だった。」
「問題は時間ですわね。」
「意外と短いみたいだな。」
返ってきたのはバニラの苦笑い。
「エネルギー切れは方便だ。メイプルも休ませたかったからな。」
そう言って、バニラはすぐに充填が済んだ魔導具を腰に吊るす。
休ませる為にもっともらしい嘘を吐いたということか。今頃は向こうでアリスも気付いて、メイプルを宥めてそうである。
「もうスキルを使えないとも言ってましたわね。」
「消耗が大きいらしい。最後、楽器の数が増えてたの気付いたか?一人で6つ操作してたんだぞ。」
「それは疲れますわね…」
いったいどういう原理なのだろう。勝手に楽器が演奏を始めるのを何度か見たことはある。
「ヒガンに匹敵しそうなお化けだよ。まあ、本人は気付いて無いだろうから、言わないようにアリスにも伝えている。」
「そうですわね。気付かない方が伸びそうですから…」
「やっぱり、制御器官を持ってる人がいるんじゃ…」
「ないない。あったら泣く。」
「そうだよね…やっぱり何かコツがあるんだろうね。」
「メイプルは単純に五線譜をなぞるだけ、とか言いそうだよねー」
『ありえる。』
声が揃い、皆が笑う。
話から察するに、魔法の制御と同じような事をしているのだろうか。
メイプルが家事以外で魔法を使うのは見たことないのだが…
「まったく。才能のあるヤツはどうしようもないことを平然とやってのけるから困るな!」
バニラの冗談混じりの憤慨でお話し会は締め括られた。
その後は早い昼食、翌朝まで休憩となる。
二度、三度、メイプルの演奏会を聞き、和やかな休養だった。
近付くと滝の爆音はますます大きくなるが、防音の魔導具のお陰で気にならない。
目の前には本当に虹の橋が存在している。
「不思議だよね。お日様の位置に関係なく虹が掛かってるんだもん。」
「そう言えばそうだな。」
ジュリアが不思議そうに虹の橋を見ながら言う。
「色々なお話しがあってね、人の願いの形、神の悪戯、マナの結晶とか言われてるんだよ。」
「どれもあり得そうだな。」
「そうだね。全部正しいかもしれないし、全部違うかもしれない。」
コツコツと手で虹の橋を軽く叩く。
「小さい時に夢見た虹の橋。大きくなって諦めた虹の橋…」
立ち上がり、オレの手を引っ掻けるようにして掴む。
「パーティーの目標になった虹の橋…
ヒガンは私の約束を果たしてくれたね。」
「そうだな…」
「次は決めてるんだ。」
「どこを目指す?」
くるっと向きを変え、指し示す。
それは虹の向こう側。
「北の果て。ユキの故郷のその先へ行こう。」
「…順番だな。」
「そうだね。でも、一度、エルディーに戻らないとね。」
「そうだな。」
「はぁー。休んでる暇がないよ。」
大袈裟な動きで大きなタメ息を吐いてみせる。
でも、嫌そうな雰囲気は全くない。
「全くだ。」
「もう。誰のせいだと思ってるのー?」
「はは。悪いな。」
「でも、このパーティーで良かった。こんなに楽しいチームに、家族の一員になれるなんて思っていなかったよ。ありがとう。」
照れ臭そうにジュリアが戻っていった。
きっと御礼を言わなきゃいけないのはオレの方だろう。
何の目標も持てなくなったパーティーの、ただ一つの目標で、希望。それがジュリアの目標だ。
小さな依頼ならパーティー単位でも出来る。だが、この優秀な一家全員を巻き込んでとなると、このくらいの目標でなくてはダメだった。最後の最後で繋ぎ止めてくれたのがジュリアなのだろう。
「何でオレはジュリアを冷遇していたんだ…
今となってはよくわからないな…」
虹の先を眺めつつ、呟く。
この先に何があるかは分からないが、準備は済ませた。後はただ進むだけだ。
これまでのような流れ作業で終わる戦闘ではなく、激しい攻防が続いていた。
強化魔法を受けているからか、なんとかオレにも見えている。
「立て直し!」
【インクリース・オール】
【バリア・オール】
フィオナの言葉に反応して、バニラが全員に強化魔法と防御魔法を掛ける。
『小賢しい!』
「くぉのっ!」
バニラに向いた槍からの波動を、梓が前に入って盾で防ぐ。
「そこ!」
『くっ!』
隙と見たカトリーナの斬擊が右手側へ襲い掛かるが、ギリギリ受け止める。
『ぬっ!?』
だが、音の無い一撃がヘイムダルの左ふくらはぎを切り裂く。
ユキの影からの一撃だ。カトリーナは一瞬で大きく距離を取り、深追いはしない。
【ヴォイド・ブラスト】
フィオナから見えない魔法が飛ぶが、ヘイムダルはバリアを展開して受け流す。
魔法の衝撃は凄まじく、着弾した残滓だけでも滝の流れ落ちる水が一瞬止まるほどだ。
【エンチャント・ヴォイド】
『舐めるな!』
神速と言っても良い遥香の斬擊を、槍の一薙ぎで弾き返す。
【ヴォイド・ストライク】
『うおっ!?』
弾き飛ばされながらも、魔法をいくつも追撃を妨げるように落としていく。
【フロストノヴァ】
【アイス・ブラスト】
フィオナとバニラの魔法がヘイムダルを氷付けにした。
【フォースインパクト】
【フォースインパクト】
【フォース・アロー】
柊と梓とジュリアの一撃が完全に入った。
『届かぬ!』
だが、倒すには至らず、強烈な衝撃波で氷を粉砕し、二人を弾き飛ばした。
【ヒール】
「ハッ!」
フィオナとバニラが二人を回復している間に、カトリーナの強烈な一撃が
『見え透いている!』
避けられ、柄で地面に叩き付けられる。と思ったが、そのまま影に落ちてすぐに退避してきた。追撃はジュリアの矢が阻止している。
「申し訳…ございません…」
叩き付けられなかったが一撃で満身創痍と言って良い状態だ。吐血したようで血塗れになっている。
バニラからリザレクションを貰い、ポーションを飲み、回復する。
「…甘くないな。」
「人の身では過ぎた相手でしょう…ですが。」
息を整えるようにゆっくりとカトリーナが答える。
遥香が真っ直ぐに走り、斬り掛かる。
だが、槍が突き出され、阻止される。しかし、それを読んでいたかのように盾で抑え込む。
「触れられない相手ではありません。」
そう言って、再び前へと躍り出た。
頼もしい、心強い。
だが、とても苦しい。何も出来ない事を苦々しく思うことは何度もあったが、今はその思いが比べ物にならない。
戦いたい。前に出たい。あの鼻をへし折ってやりたい。
これほどの思いは目覚めたあの日以来、初めての事だ。
出来ないから、見えないからと諦めていた心に熱が宿っているような気分。
オレが熱くなっても仕方ない。それは分かっている。
だが、この滾る思いを抑えられない。
「ヒガン。」
バニラに魔導具を投げ渡された。
「持っているだけで良いから。」
「…ああ。」
渡された物を握り締める。
どういうものか分からないが持っているだけで良い、と言われたらそうするしかない。
『あーあー。テステス。聴こえていますか?』
聴こえてきたのはメイプルの声だ。いつもより少し甲高い気がする。
「ああ、しっかり聴こえているぞ。」
『あれー!?だ、旦那様でしたか…
いえ、なんでもありません。ごほん。』
咳払いをし、楽器を奏で始める。
『スキルの効果があるかわかりません。ですが、私たちも応援します。【バトルソング】』
スキルを発動し、プレアデスを歌い始める。
効果があったのか、驚いた様子でユキがチラッとこちらを見た。
「成功だ!フィオナ!」
「ステップ4!」
【インクリース・オール】
【バリア・オール】
バニラがフィオナを呼ぶと、再び魔法を掛け直し、仕切り直す。
【鬼神化】
【鬼神化】
【鬼神化】
前衛アタッカー3人がスキルを発動し、とんでもないプレッシャーを放つ。
【闘気】
遥香は更にオーラをまとい、見るからにヤバい。
【集中】【剛力】
ジュリアは弓を更に大きなものに取り替え、大きな矢をつがえる。
【詠唱多重化】
【魔力増幅】
フィオナとバニラも魔法を強化する。
【鉄壁】
梓は二人の前に立ち、より大きな盾に持ち替えてスキルを発動した。
『まだ力を抑えていたとは…だが、ここまでだ【エインヘリャル】』
複数のヘイムダルが現れ、一気に攻め掛かって来る。
最早オレの認識を越えた次元の戦いとなり、その場でただ立ち尽くすしかなかった。
衝撃、怒声、熱風を感じながら、メイプルの、メイプルたちの歌声が流れてくる魔導具を握り締め続ける。
気が付くと聴こえてくる楽器の音が一つ、二つと増えている。
メイプルも頑張っている。
ただ、目も思考も追い付かない戦いを眺めているのが辛い。
だが、その戦いも終わりを迎えた。
『降参だ。通って良いぞ。』
遥香の一撃を受け止めた所で、ヘイムダルは降参を宣言した。
全員の戦闘モードが解除され、その場でへたり込んだ。
「はぁ…はぁ…ちょっと…休ませて…」
『ああ。いつまで休んでも構わぬ。いつ来ても構わぬ。汝らは我が試練を越えたのだからな。』
『やったー!』
魔導具からメイプルたちの喜ぶ声が聴こえてきた。
『絆の力か…侮れぬものだ。』
そう呟き、ヘイムダルは姿を消した。
「みんな、お疲れ様。一先ず、休もう。」
オレがそう言うと、全員がその場で倒れた。
回復するまで、ただその様子を立ちながら眺めるしかなかった。
回復に一刻程掛かった。
死力を尽くした戦いに、全員の体は悲鳴を上げている。
「スキルの反動がやばい…」
一番酷いのは遥香で、起き上がることができない。
「身体中が痛い上に力が入らない…」
「切り札出しちまいやしたからね…一度戻るのもありですが…」
「大丈夫…お母さんからポーション貰ってるから…ちょっと飲ませて…」
「オレがやろう。」
遥香を抱き起こし、身体に寄り掛からせながら取り出したポーションを飲ませてやる。
「ありがとう。身体中が悲鳴上げてるけど動けるよ。」
出し尽くした。という事だろう。
納得いかない様子で帰ってくることはあっても、ここまで疲れ果てた皆を見るのは初めてだ。
「カトリーナ、体は大丈夫か?」
「大丈夫です。バニラ様の回復魔法のお陰で無事です。」
「…無事じゃなかったわけか。」
「完全に息が止まってました。おそらく、内臓も深刻なダメージを負っていたと思います。」
『えっ、カトリーナ、本当に大丈夫?生きてる?』
我慢できずにアリスが話し出す。
驚いた様子で手元の魔導具を見るカトリーナ。
「歌はこれで聴こえてきたのですね。
大丈夫ですよ。アリスの薬のお陰でなんともありません。」
『そう…良かった…』
安堵の声を伝えてくる魔導具。
「旦那様は見えてなかったようですが、全員が何かしら貰ってますよ。本当に死闘でしたから…」
「そうだったか…」
「アリス、私たちはここで一泊しますわ。出発は体の状態を見てにします。」
『ええ。何も言うことはないわ。フィオナの判断に任せるから。』
『では、なにか演奏しましょう。スキルを入れる余力はありませんが、皆様の癒しになりますように。』
「メイプルすまん。そろそろエネルギー切れだ。」
『えぇ…事前に説明くださいよう…』
「悪かった。充填はアリスに任せてるからその後で。」
『はーい…』
そう返事をすると魔導具から声が途絶える。
バニラがオレから魔導具をひったくり、充填を始めた。
「もっと早く欲しかったですわね…」
「そうですね。色々と相談もできたでしょうから。」
「まあ、楽器製作の副産物だからな。メイプルが居なければ作れなかった。」
「副産物が革命を起こしそう。」
副産物とは思えない発明に皆が唖然とする。
「どういう原理なのー?」
「通話器、と呼称してるが、ペアリンクした二機を魔力で繋いでいるんだ。何処まで伸びるか試したら何処までも伸びたから実験で持ち込んで見た。」
「おおう…意外と単純な…」
「まあ、電話みたいに相手は選べないけどな。中継局を作るのが死ぬほどキツい。」
「だろうねー…想像したくないよー…」
説明を聞き、梓がゲンナリしていた。
「スキルが伝わってくるのは意外でしたわね。」
「そうだな。音も正直期待してなかったが、完璧だった。」
「問題は時間ですわね。」
「意外と短いみたいだな。」
返ってきたのはバニラの苦笑い。
「エネルギー切れは方便だ。メイプルも休ませたかったからな。」
そう言って、バニラはすぐに充填が済んだ魔導具を腰に吊るす。
休ませる為にもっともらしい嘘を吐いたということか。今頃は向こうでアリスも気付いて、メイプルを宥めてそうである。
「もうスキルを使えないとも言ってましたわね。」
「消耗が大きいらしい。最後、楽器の数が増えてたの気付いたか?一人で6つ操作してたんだぞ。」
「それは疲れますわね…」
いったいどういう原理なのだろう。勝手に楽器が演奏を始めるのを何度か見たことはある。
「ヒガンに匹敵しそうなお化けだよ。まあ、本人は気付いて無いだろうから、言わないようにアリスにも伝えている。」
「そうですわね。気付かない方が伸びそうですから…」
「やっぱり、制御器官を持ってる人がいるんじゃ…」
「ないない。あったら泣く。」
「そうだよね…やっぱり何かコツがあるんだろうね。」
「メイプルは単純に五線譜をなぞるだけ、とか言いそうだよねー」
『ありえる。』
声が揃い、皆が笑う。
話から察するに、魔法の制御と同じような事をしているのだろうか。
メイプルが家事以外で魔法を使うのは見たことないのだが…
「まったく。才能のあるヤツはどうしようもないことを平然とやってのけるから困るな!」
バニラの冗談混じりの憤慨でお話し会は締め括られた。
その後は早い昼食、翌朝まで休憩となる。
二度、三度、メイプルの演奏会を聞き、和やかな休養だった。
近付くと滝の爆音はますます大きくなるが、防音の魔導具のお陰で気にならない。
目の前には本当に虹の橋が存在している。
「不思議だよね。お日様の位置に関係なく虹が掛かってるんだもん。」
「そう言えばそうだな。」
ジュリアが不思議そうに虹の橋を見ながら言う。
「色々なお話しがあってね、人の願いの形、神の悪戯、マナの結晶とか言われてるんだよ。」
「どれもあり得そうだな。」
「そうだね。全部正しいかもしれないし、全部違うかもしれない。」
コツコツと手で虹の橋を軽く叩く。
「小さい時に夢見た虹の橋。大きくなって諦めた虹の橋…」
立ち上がり、オレの手を引っ掻けるようにして掴む。
「パーティーの目標になった虹の橋…
ヒガンは私の約束を果たしてくれたね。」
「そうだな…」
「次は決めてるんだ。」
「どこを目指す?」
くるっと向きを変え、指し示す。
それは虹の向こう側。
「北の果て。ユキの故郷のその先へ行こう。」
「…順番だな。」
「そうだね。でも、一度、エルディーに戻らないとね。」
「そうだな。」
「はぁー。休んでる暇がないよ。」
大袈裟な動きで大きなタメ息を吐いてみせる。
でも、嫌そうな雰囲気は全くない。
「全くだ。」
「もう。誰のせいだと思ってるのー?」
「はは。悪いな。」
「でも、このパーティーで良かった。こんなに楽しいチームに、家族の一員になれるなんて思っていなかったよ。ありがとう。」
照れ臭そうにジュリアが戻っていった。
きっと御礼を言わなきゃいけないのはオレの方だろう。
何の目標も持てなくなったパーティーの、ただ一つの目標で、希望。それがジュリアの目標だ。
小さな依頼ならパーティー単位でも出来る。だが、この優秀な一家全員を巻き込んでとなると、このくらいの目標でなくてはダメだった。最後の最後で繋ぎ止めてくれたのがジュリアなのだろう。
「何でオレはジュリアを冷遇していたんだ…
今となってはよくわからないな…」
虹の先を眺めつつ、呟く。
この先に何があるかは分からないが、準備は済ませた。後はただ進むだけだ。
0
あなたにおすすめの小説
不死身のボッカ
暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。
小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。
逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。
割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。
※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。
※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。
※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。
※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜
九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます!
って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。
ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。
転移初日からゴブリンの群れが襲来する。
和也はどうやって生き残るのだろうか。
文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
異世界亜人熟女ハーレム製作者
†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です
【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる