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第1部
98話
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「そう。お父様が…」
安心した様子で受け入れる通常モードのアリス。
翌朝、朝食を済ませてからハロルドさんの離婚を伝える。
アリスにとっては、今までの人生をBETした勝負だったに違いない継母と完全に縁切りする為の駆け引き、見事だったとしか言えない。
大金貨1800枚は、自身の価値を見せつけた一手だったのだろう。自分はこの程度、惜しみ無く出せるのだと。元継母もその挑発に気付き、端金と言ってみせたが…
「奥方は大金貨30枚貰って去ったそうですぜ。まあ、借金は大金貨5枚程度だった様ですんで、ボロ儲けといった所ですが…噂は止められやせんし、評判は悪くなりやすね。」
「政略結婚以外で貰い手もいないだろうしなぁ…」
「自覚はありそうですけどね。」
アリスはオレとユキの話を黙って聞いていた。
「ハロルド様は事業を考えているそうですが…」
「ソニア様、お客様が御目見えです。」
「私に、ですか…?」
朝早くの急な来客に、不審そうな面持ちで玄関へ向かっていった。
「事前連絡なしでってどういう人かしらね?」
「きっと慌てん坊ですぜ。」
知っているのだろう。ユキがニコニコしながら言う。まあ、察しが付くが…
「お兄様!お姉様!」
どうしたら良いか分からず、速攻で助けを求めてきたソニアであった。
「感動の別れはなんだったのかしら?」
「本当にその通りですわ。」
父を目の前に不満を隠せない娘二人。
バツが悪そうに、応接室の椅子に座るハロルドさん。
どうやらソニアのやっている事を、本格的に事業化してサポートしたいという提案のようだ。
「それは置いといて、僕の提案は受けて貰えるかな?」
答えが出せないと言わんばかりにオレを見るソニア。
神童と言っても、人生経験は浅い。こういう事は大人達に任せてもらおう。
「アリス、問題はあるか?」
お互いに資料を見ながら話す。
提案の内容はドートレス家名義での人材育成プロジェクトの発足。新時代を担う若い人材を、貴族として正式に育成しようという事だろう。これまでの寺子屋方式と違い、広い場所、多くの設備が使えるのは魅力だ。
「これだとこの家の存在意義が無くなっちゃうわね。」
「学園の商売敵にもなりたくないなぁ。」
教えるのは良いが、教育機関と対決するつもりは無い。
「そうか。その恐れがあったか。」
「お父様、せめてもう少し考えてから提案をして下さいませ。」
「ごめん…」
しょんぼりする義父殿。大金を完全に持て余してしまっているのだろう。
放っておくのは危ない気がしてきた。
「ハロルドさん、心配なら我々でお金を管理しますが…」
「いや…でも…うん。頼むよ。」
「後でユキを送るわ。」
はぁ、としょぼくれながらタメ息を吐くハロルドさん。なんとかしてやりたいが…
「まずは単純に施設だけとかどうでしょうか?
私たちの世界にも、国の代表選手の強化施設とかあったじゃないですか。」
「予約すれば後は自由に使えるのは魅力だな。」
「合同合宿の仲介ができても面白そうね。」
「うちは魔法学園の生徒だけですからね。他と切磋琢磨できる場が欲しいところですぜ。」
アクアの提案が思わぬ切っ掛けを生んでくれた。親指を立て、よく提案してくれたと感謝すると、胸を張って笑顔を返してくれる。
「エディさんにも一枚噛んで貰いたいな。なんとか場を設けたい。」
オレの言葉にアリスも頷く。
「色々と協力を得たいわね。」
「運営はまともな机仕事が出来れば十分だろうし、全員が強い必要はない。
…荒事に強い人材も必要だろうけどな。」
「確かにそうだね。」
手帳にメモを取るハロルドさん。
なんというか、貴族らしくない。従者もいないしな。
「ハロルドさん、大きな事をするなら人を雇った方が良いですよ。ちゃんと志を共にしてくれる側近が必要です。」
「そ、そうかい?…慣れないことはするもんじゃないね。」
「いえ、相手がオレたちで良かったですよ。目の付け所も悪くありませんから。」
「ははは…」
何とも言えない複雑な表情で笑うハロルドさん。なんだかこの義父、頼りなくて放っておけないな。
「お父様、今日はここに居てくださいませ。
動くのは、ここで何が行われているかを見てからでも遅くありません。」
ソニアの言葉に頷く義父。神童が逞しすぎる。
こうして、ハロルドさんを加えての休養日二日目が始まった。
午前中は約束通り、ソニアの訓練に当てる。
やはり血統や基礎教育が優れているのだろう。アリスもだったが、教える魔法技術をどんどん吸収していく。
当初はまだ荒かった制御も、昼には見違えるほど精細になっていた。
「今日はここまでにしよう。しっかり食べて、昼寝もするように。」
「はい!ありがとうございました!」
キラキラした眼差しで礼をして、家の中へ戻っていった。
うん。子供のこういう表情は良いものだな。
「妹をたらし込もうとしてる…」
低い声が後ろに窓から聞こえてきて震え上がる。振り向くと、独特な角だけが見えていた。
「…頭隠して角隠さず。」
「あんなキラキラのソニア、10年くらい見てない…」
目元まで出して低い声で唸った。
「そりゃ、出来ることが増えればあんな顔になるだろう。お前もそうだったじゃないか。」
「…それはそうだけど。」
再び角だけになる。なんだか楽しくなってきた。
「私も何か教えて欲しいのよ。」
目元まで再び見せて言う。
「もう教える事もないんだが…」
「製薬について教えて欲しい。」
「製薬か…」
確かに、アリスの薬は強力だがレシピが少ない。色々と試行錯誤もしているようだが…
「学校で習った基礎知識しかないから、発展のさせ方が解らないのよ。もう自分で飲むわけもいかないし…」
「なるほどな。」
飲めないのは子供の事を考えてだろう。そういう事なら教えられることも多そうだ。
「でも、品質は高いよな。かなり試行錯誤したのは分かる。」
「あなたの残したレシピの調整よ。変わったことはしてない。
バニラが居てもそれくらいしか出来なかったわ。」
「いや、その試行錯誤の大変さを褒めてるんだ。
正直、最適量を導くなんて根気が要るレベルの話じゃないし、色々と仕事を抱えてなんだからそりゃ胃もおかしくなる。」
「胃は大丈夫だからね!?」
立ち上がって抗議する。大丈夫だったらしい。
「てっきり、荒れに荒れてキリキリ痛み続けてると思ってたが…」
「そのいじりが原因になるから控えて…」
「それはすまない。」
「良い笑顔で言わないで欲しいわね。はぁ…」
大きなタメ息を吐いた事で、話を切り上げられてしまう。
「お昼にしましょう。手伝って。」
「お安い御用だ。」
アリスに促され料理を一緒に作る事にする。
大したことはしなかったが、いつもより評判が良かった事に、アリスはとても嬉しそうだった。
さて、今日の仕事は午後からとなる。
昼寝を終えて、装備のチェックをしていると年少組がやって来た。
『こんにちはー!』
「おう。こんにちは。今日も元気が良いな。」
挨拶を返すと嬉しそうに小屋へと入っていった。
曰く付きの小屋だが、今は更衣室として利用している。仕切ってしっかり男女に分けてもあった。
何をするか分からないが、準備運動はしておく。終える頃になると、修行着に着替えを済ませた初等部組が小屋から出てくる。
「今日はヒガン様が先生ですか?」
「中等部組が来るまでな。出来るだけみんなの実力を見ておきたい。」
『はい!』
「という事で、一人ずつ掛かってこい。」
計10人、全員の能力をチェックしていく。
まだ遊びの延長だが、明らかにそうでないのが一人、早熟が一人、明らかに適性を欠いているのが一人というところだ。
評価を家から覗いていたアリスに通話器で伝え、今のところ戦闘向きとそうではない者とで半々に分けた。一応、本人たちの意見も聞いたが、分け方に異論は無いそうだ。
「英雄様、もう一度、もう一度戦ってくれ!」
初日でもオレに挑んできたヤツだ。こいつは明らかに意識が違う。危なっかしさがあるな。
「今はダメだ。オレの体は一つしかないからな。」
「他のヤツらと違ってやる気はあるんだ!もっと俺に時間を作ってくれよ!」
「ダメだと言っている。この時間も惜しいんだ。分かってくれ。」
説得を試みるが聞かず、前に出てきて言い放つ。
「お前たちが居るからオレの時間が奪われる。さっさとかえ…うわぁっ!?」
襟を掴んでぶん投げた。
「お前は失格だ。帰れ。」
「…っ!?」
「話を聞かない。秩序を守れない。他者を尊重できない。こんな基礎的なことも出来ないヤツに教えることはない。誰かと組ます事も出来ない。」
指を差し、カウントしながら僅かに威圧を発動しつつ言い放った。
べそをかきながら小屋に戻り、自分の服を持って帰っていった。
威圧を解除する。
先が思いやられるなこれは…
このやり取りが効いてしまったのか、今日の年少組は固さが取れることはなかった。
『ありがとうございました…』
中等部がやって来た所でユキと交代した。
「旦那のやり方で間違いねぇですぜ。
まあ、フォローはお任せくだせい。」
「尻拭いさせて悪いな。」
「なーに。ジャリども扱いはあたしが一番得意ですんで。」
肩を軽く叩いて見送り、中等部が出てくるのを待つことにした。
やり取りは初等部と同じ。
人数は少し多く15人となっている。
飛び級したと思われる遥香の友人がここに入ってきた。
能力にだいぶ格差が出ている。これはこれでどうにかしてやらないといけないとアリスと相談し、明らかに劣っているのはアリスの方へ送ることになった。痛い思いばかりしては続かないだろうからな。
残ったのは4人と少ないが、しっかり話を聞いてくれるのはありがたい。
高等部がやってくるまでの短い時間であったが、基礎訓練をみっちりと叩き込んでやる。
高等部がやって来た所で、中等部は遥香が引き取っていった。元同級生なので多少はやりやすいだろう。
着替えが終わって出てくると、アリスとソニアも家から出てきた。
高等部に対しては振り分けは行わない事にしている。
「今日は少し話がある。」
訓練施設を作る話を皆にする。ここに通っている者達だけではなく、国全体の底上げをする一環として協力をしたいと説明もした。
「センセー、それがあたいらとどう関係あるんですかー?」
「任せられる人材を育てたい。ここと、訓練施設のそれぞれをな。」
驚きの声が上がる。当然、困惑する者も居る。進路を既に決めているのもいるだろうからな。
「もう道が決まっているヤツは指名しないから安心してくれ。
基本的に、後進を指導し続けたいというヤツを選びたいが…今のところ居るか?」
手が挙がらない。迷っているのは居るようだが。
「だが、どの道、これからは年下に指導をしてもらう事になるぞ。指導できない様なら理解が足りていないと判断するからな。」
『はい。』
これからの方針を伝え、訓練に入る。
最低限、高等部の連中は基礎が完璧じゃないと格好がつかないからなしばらく頑張ってもらおう。
その後、段階ごとに三つに分け、日が暮れるまで訓練を続けたのであった。
安心した様子で受け入れる通常モードのアリス。
翌朝、朝食を済ませてからハロルドさんの離婚を伝える。
アリスにとっては、今までの人生をBETした勝負だったに違いない継母と完全に縁切りする為の駆け引き、見事だったとしか言えない。
大金貨1800枚は、自身の価値を見せつけた一手だったのだろう。自分はこの程度、惜しみ無く出せるのだと。元継母もその挑発に気付き、端金と言ってみせたが…
「奥方は大金貨30枚貰って去ったそうですぜ。まあ、借金は大金貨5枚程度だった様ですんで、ボロ儲けといった所ですが…噂は止められやせんし、評判は悪くなりやすね。」
「政略結婚以外で貰い手もいないだろうしなぁ…」
「自覚はありそうですけどね。」
アリスはオレとユキの話を黙って聞いていた。
「ハロルド様は事業を考えているそうですが…」
「ソニア様、お客様が御目見えです。」
「私に、ですか…?」
朝早くの急な来客に、不審そうな面持ちで玄関へ向かっていった。
「事前連絡なしでってどういう人かしらね?」
「きっと慌てん坊ですぜ。」
知っているのだろう。ユキがニコニコしながら言う。まあ、察しが付くが…
「お兄様!お姉様!」
どうしたら良いか分からず、速攻で助けを求めてきたソニアであった。
「感動の別れはなんだったのかしら?」
「本当にその通りですわ。」
父を目の前に不満を隠せない娘二人。
バツが悪そうに、応接室の椅子に座るハロルドさん。
どうやらソニアのやっている事を、本格的に事業化してサポートしたいという提案のようだ。
「それは置いといて、僕の提案は受けて貰えるかな?」
答えが出せないと言わんばかりにオレを見るソニア。
神童と言っても、人生経験は浅い。こういう事は大人達に任せてもらおう。
「アリス、問題はあるか?」
お互いに資料を見ながら話す。
提案の内容はドートレス家名義での人材育成プロジェクトの発足。新時代を担う若い人材を、貴族として正式に育成しようという事だろう。これまでの寺子屋方式と違い、広い場所、多くの設備が使えるのは魅力だ。
「これだとこの家の存在意義が無くなっちゃうわね。」
「学園の商売敵にもなりたくないなぁ。」
教えるのは良いが、教育機関と対決するつもりは無い。
「そうか。その恐れがあったか。」
「お父様、せめてもう少し考えてから提案をして下さいませ。」
「ごめん…」
しょんぼりする義父殿。大金を完全に持て余してしまっているのだろう。
放っておくのは危ない気がしてきた。
「ハロルドさん、心配なら我々でお金を管理しますが…」
「いや…でも…うん。頼むよ。」
「後でユキを送るわ。」
はぁ、としょぼくれながらタメ息を吐くハロルドさん。なんとかしてやりたいが…
「まずは単純に施設だけとかどうでしょうか?
私たちの世界にも、国の代表選手の強化施設とかあったじゃないですか。」
「予約すれば後は自由に使えるのは魅力だな。」
「合同合宿の仲介ができても面白そうね。」
「うちは魔法学園の生徒だけですからね。他と切磋琢磨できる場が欲しいところですぜ。」
アクアの提案が思わぬ切っ掛けを生んでくれた。親指を立て、よく提案してくれたと感謝すると、胸を張って笑顔を返してくれる。
「エディさんにも一枚噛んで貰いたいな。なんとか場を設けたい。」
オレの言葉にアリスも頷く。
「色々と協力を得たいわね。」
「運営はまともな机仕事が出来れば十分だろうし、全員が強い必要はない。
…荒事に強い人材も必要だろうけどな。」
「確かにそうだね。」
手帳にメモを取るハロルドさん。
なんというか、貴族らしくない。従者もいないしな。
「ハロルドさん、大きな事をするなら人を雇った方が良いですよ。ちゃんと志を共にしてくれる側近が必要です。」
「そ、そうかい?…慣れないことはするもんじゃないね。」
「いえ、相手がオレたちで良かったですよ。目の付け所も悪くありませんから。」
「ははは…」
何とも言えない複雑な表情で笑うハロルドさん。なんだかこの義父、頼りなくて放っておけないな。
「お父様、今日はここに居てくださいませ。
動くのは、ここで何が行われているかを見てからでも遅くありません。」
ソニアの言葉に頷く義父。神童が逞しすぎる。
こうして、ハロルドさんを加えての休養日二日目が始まった。
午前中は約束通り、ソニアの訓練に当てる。
やはり血統や基礎教育が優れているのだろう。アリスもだったが、教える魔法技術をどんどん吸収していく。
当初はまだ荒かった制御も、昼には見違えるほど精細になっていた。
「今日はここまでにしよう。しっかり食べて、昼寝もするように。」
「はい!ありがとうございました!」
キラキラした眼差しで礼をして、家の中へ戻っていった。
うん。子供のこういう表情は良いものだな。
「妹をたらし込もうとしてる…」
低い声が後ろに窓から聞こえてきて震え上がる。振り向くと、独特な角だけが見えていた。
「…頭隠して角隠さず。」
「あんなキラキラのソニア、10年くらい見てない…」
目元まで出して低い声で唸った。
「そりゃ、出来ることが増えればあんな顔になるだろう。お前もそうだったじゃないか。」
「…それはそうだけど。」
再び角だけになる。なんだか楽しくなってきた。
「私も何か教えて欲しいのよ。」
目元まで再び見せて言う。
「もう教える事もないんだが…」
「製薬について教えて欲しい。」
「製薬か…」
確かに、アリスの薬は強力だがレシピが少ない。色々と試行錯誤もしているようだが…
「学校で習った基礎知識しかないから、発展のさせ方が解らないのよ。もう自分で飲むわけもいかないし…」
「なるほどな。」
飲めないのは子供の事を考えてだろう。そういう事なら教えられることも多そうだ。
「でも、品質は高いよな。かなり試行錯誤したのは分かる。」
「あなたの残したレシピの調整よ。変わったことはしてない。
バニラが居てもそれくらいしか出来なかったわ。」
「いや、その試行錯誤の大変さを褒めてるんだ。
正直、最適量を導くなんて根気が要るレベルの話じゃないし、色々と仕事を抱えてなんだからそりゃ胃もおかしくなる。」
「胃は大丈夫だからね!?」
立ち上がって抗議する。大丈夫だったらしい。
「てっきり、荒れに荒れてキリキリ痛み続けてると思ってたが…」
「そのいじりが原因になるから控えて…」
「それはすまない。」
「良い笑顔で言わないで欲しいわね。はぁ…」
大きなタメ息を吐いた事で、話を切り上げられてしまう。
「お昼にしましょう。手伝って。」
「お安い御用だ。」
アリスに促され料理を一緒に作る事にする。
大したことはしなかったが、いつもより評判が良かった事に、アリスはとても嬉しそうだった。
さて、今日の仕事は午後からとなる。
昼寝を終えて、装備のチェックをしていると年少組がやって来た。
『こんにちはー!』
「おう。こんにちは。今日も元気が良いな。」
挨拶を返すと嬉しそうに小屋へと入っていった。
曰く付きの小屋だが、今は更衣室として利用している。仕切ってしっかり男女に分けてもあった。
何をするか分からないが、準備運動はしておく。終える頃になると、修行着に着替えを済ませた初等部組が小屋から出てくる。
「今日はヒガン様が先生ですか?」
「中等部組が来るまでな。出来るだけみんなの実力を見ておきたい。」
『はい!』
「という事で、一人ずつ掛かってこい。」
計10人、全員の能力をチェックしていく。
まだ遊びの延長だが、明らかにそうでないのが一人、早熟が一人、明らかに適性を欠いているのが一人というところだ。
評価を家から覗いていたアリスに通話器で伝え、今のところ戦闘向きとそうではない者とで半々に分けた。一応、本人たちの意見も聞いたが、分け方に異論は無いそうだ。
「英雄様、もう一度、もう一度戦ってくれ!」
初日でもオレに挑んできたヤツだ。こいつは明らかに意識が違う。危なっかしさがあるな。
「今はダメだ。オレの体は一つしかないからな。」
「他のヤツらと違ってやる気はあるんだ!もっと俺に時間を作ってくれよ!」
「ダメだと言っている。この時間も惜しいんだ。分かってくれ。」
説得を試みるが聞かず、前に出てきて言い放つ。
「お前たちが居るからオレの時間が奪われる。さっさとかえ…うわぁっ!?」
襟を掴んでぶん投げた。
「お前は失格だ。帰れ。」
「…っ!?」
「話を聞かない。秩序を守れない。他者を尊重できない。こんな基礎的なことも出来ないヤツに教えることはない。誰かと組ます事も出来ない。」
指を差し、カウントしながら僅かに威圧を発動しつつ言い放った。
べそをかきながら小屋に戻り、自分の服を持って帰っていった。
威圧を解除する。
先が思いやられるなこれは…
このやり取りが効いてしまったのか、今日の年少組は固さが取れることはなかった。
『ありがとうございました…』
中等部がやって来た所でユキと交代した。
「旦那のやり方で間違いねぇですぜ。
まあ、フォローはお任せくだせい。」
「尻拭いさせて悪いな。」
「なーに。ジャリども扱いはあたしが一番得意ですんで。」
肩を軽く叩いて見送り、中等部が出てくるのを待つことにした。
やり取りは初等部と同じ。
人数は少し多く15人となっている。
飛び級したと思われる遥香の友人がここに入ってきた。
能力にだいぶ格差が出ている。これはこれでどうにかしてやらないといけないとアリスと相談し、明らかに劣っているのはアリスの方へ送ることになった。痛い思いばかりしては続かないだろうからな。
残ったのは4人と少ないが、しっかり話を聞いてくれるのはありがたい。
高等部がやってくるまでの短い時間であったが、基礎訓練をみっちりと叩き込んでやる。
高等部がやって来た所で、中等部は遥香が引き取っていった。元同級生なので多少はやりやすいだろう。
着替えが終わって出てくると、アリスとソニアも家から出てきた。
高等部に対しては振り分けは行わない事にしている。
「今日は少し話がある。」
訓練施設を作る話を皆にする。ここに通っている者達だけではなく、国全体の底上げをする一環として協力をしたいと説明もした。
「センセー、それがあたいらとどう関係あるんですかー?」
「任せられる人材を育てたい。ここと、訓練施設のそれぞれをな。」
驚きの声が上がる。当然、困惑する者も居る。進路を既に決めているのもいるだろうからな。
「もう道が決まっているヤツは指名しないから安心してくれ。
基本的に、後進を指導し続けたいというヤツを選びたいが…今のところ居るか?」
手が挙がらない。迷っているのは居るようだが。
「だが、どの道、これからは年下に指導をしてもらう事になるぞ。指導できない様なら理解が足りていないと判断するからな。」
『はい。』
これからの方針を伝え、訓練に入る。
最低限、高等部の連中は基礎が完璧じゃないと格好がつかないからなしばらく頑張ってもらおう。
その後、段階ごとに三つに分け、日が暮れるまで訓練を続けたのであった。
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