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第2部
48話
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男子たちがとても落ち着かず、その様子に悠里が不貞腐れていた。
本当は4人揃って髪に合わせて服も白にしたかったそうだが、目立ちすぎるのでやめたらしい。アリスはちゃんとその辺は抑えられると思って心配はしていないが、余所行き用に準備はするようだ。
ボロボロの大人用の古着を、リサイズして着ていた今までと違い、今着ているのは採寸して一から作った物。メイド服用のと変わらない素材らしいが、ごく普通の見た目で街中でも全く目立つ事はなさそうだ。
新しい服に喜ぶ三人娘の姿に、こちらも心が温かくなるのを感じる。
「三人とも、簡単な家事、針仕事はこなせますので、どうぞご用命下さい。」
「じゃあ、色々と教えて上げる。エプロンは自分達で作ってみましょうか。」
「ノエミもー」
「えぇ!?」
驚いたのはジュリア。まさか、名乗り出るとは思っていなかったようで、目玉が飛び出しそうになっている。
「良いわよ。挑戦してみましょうか。」
「う、うちのこをよろしくおねがいします…」
「あなた、あれだけ精確に的を狙えるのに、なんで針に糸が通せないのかしらね…」
「通す以前に、針が折れるんです…」
言ってる本人がぐんにょり折れ曲がっていた。難儀な体質である。
「ジェリーもやってみると良い。雑巾くらいは縫えそうか?」
「そうですね。ジェリーにはわたしが教えましょう。」
名乗り出るココア。
ノエミとジェリー、そして、3人娘に誰かついて居れば安心だろう。
「年長組は好きにして良いぞ。ただ、細い道や裏道には入らないように。今まで来た何処よりも物騒だからな。」
「分かりましたわ。お父様。」
なんだか、少し会わない内に悠里の喋り方がフィオナに寄ってきた。
視線を向けると逸らされる辺り、気付いているようである。
「ノラはいるか?」
「いますよー」
一番奥に隠れていたノラが手を振ってアピールする。
「ノラ、農業指導部で土地を借りましたわ。温室コンテナをそこに置いても良いそうですよ。」
「ホントですか?やったー!」
「ただ、農業指導に協力することが条件だそうです。商会で、あなたの事を高く買っているそうですから。」
「うん。いいですよー」
ソニアが伝えたことを手を振りながら受け入れるノラ。
植物と対話の出来る固有と言ってもいいノラの特技。ビースト領での農業研究の為に活用したいようだ。
オレ達では持て余す技能なので、活躍の場を用意してもらえるのはありがたい。
「じゃあ、うちもバニラを引き抜くか?」
「おねーちゃん、やることある?」
「そう言えば、新しい魔法をいくつか用意した。
こっちは柊やリナ母さんに向いていると思う。これは遥香とソニアだ。」
紙を出して、柊に2枚、遥香に1枚渡す。
前衛組は渡された物だけで良いようだが、後衛組は全部覚える事になるそうだ。
「エッジ?ジャベリン?」
「ストライクのように爆発による衝撃ではなく、集中して切断、貫通に特化してみた。」
「エンチャント頼らなくて良いのは便利ですね。」
柊とカトリーナには切断、貫通に最適化された魔法か。コントロールが苦手な二人にはピッタリだろう。
「私たちは…ラミネーション?」
「シールドスフィアの前方積層集中型だ。」
「こっちの方が良さそうだね。」
「ただ、前以外はがら空きになる。経験を積んでいれば大丈夫だと思うが、上手く使い分けろ。」
「うん。」
なるほど。他三方分を前にということか。
無駄なく、素早く集中できるのは良いな。
「そうだ。フルドライブのレポートがある。」
「使ったのか?誰に?」
驚いた顔で紙を受けとると、心配そうな表情に変わる。
「カトリーナにパワーを使った。」
「体は…いや、わたしが見よう。」
慌ててカトリーナの所へ行き、体に触れながら確認する。
「まだ少し違和感はありますが、日々の訓練で改善されていますよ。」
「そっか…やっぱり失敗か…」
「いえ、そんな事は…」
カトリーナがバニラの肩に手を乗せて否定するが、バニラの方が譲らない。
「掛けた相手に反動があっちゃダメなんだ。
せめて、術者が全て引き受ける。そうでなくてはダメなんだ。」
「一理ありますが、限度があります。我々は、我々の為に、後衛に被害があっては納得できません。」
「…そっか。」
お互い様であると納得してくれたようだ。
「でも、このフルドライブもダメだ。一撃で動けなくなるようじゃ使い物にならない。父さんも使わないでくれ。」
「分かった。」
いざという時は使うかもしれないが、しばらくはそういう事もないだろう。
その間に改善策が出てくることを祈るしかない。
「反動ダメージの吸収ができる何かを作らないと…」
命を削るオーバードライブ、体が耐えきれないフルドライブ。バッファ魔法の極限は難しいのだと思い知らされた。
「おねーちゃん、そんなの簡単だよ。私が引き受ければ良いだけだから。」
「梓…」
「それは…」
二人にとって、それは到底受け入れられない答えだろう。
自分の魔法の、行動の代償が違う誰かに向く。それは、二人のプライドが許しそうにない。
「ドワーフの丈夫さを信じてよー。一家の壁役は柔じゃないんだからねー」
「…分かった。でも、最後の手段だ。
常に使っていたら梓の方が持たない。」
しばらく、負荷の分散、軽減がバニラの課題になりそうだ。何か切っ掛け一つで、解決してしまいそうな気はしているが。
「バニラ、お前は魔法の開発に集中して良いぞ。どうせ、オレたちの職場じゃ物足りないだろうしな。」
「むう。少し、就職に興味があったが…」
「親分に説明しないといけないねー」
梓の言葉に、就職組が苦笑いしていた。
「親分なんて呼ばれるような人なの?」
「まあ、雰囲気はピッタリだな。」
起伏に乏しい体型だが、鍛え抜かれているのはよく分かる。なぜ、商人をやっているのか分からないくらい戦士寄りの人だ。
「キャロルの事か?ここの支店長をやるようになったのだな。」
エディさんが、感慨深そうに腕を組ながら頷いている。
「若い頃は傭兵でな。ただ、抜け目がなく、商売をやらせたら面白そうだと思って採用したのだ。」
「それが頭角を表して、ついに支店長か…」
なかなかの大出世である。若い頃の武勇伝とか聞いたらおもしろそ
「いったっ!?」
アリスに思いっきり手をつねられていた。
「ダメよ。あなたが親しくなると大変だから。」
「支店長を失うのは困る。」
エディさんにも言われる辺り、信用が無さすぎる。女を引っかけるような事はしていないんだが…
「気になるようでしたら、あたしが聞いておきますよ。応接室に絵を飾りたい、って相談されていますので。」
「武勇伝の一つでも聞いてきてくれ。」
「かしこまりました。旦那様。」
綺麗に礼をしてから良い笑顔になるアクア。
持つべきものは、話の分かる同僚である。
「面倒な話はこれくらいで良いだろう。合流、歓迎のパーティーをしないとな。」
「そうね。」
「今日はお好み焼きに挑戦するぞ!」
「あ、私たち親子は肉は控えめで…」
「どんどん作るから、好きなものを好きに食べてくれ。遠慮はしなくて良いぞ。ジュリア以外な。」
「えー」
昼間から(果実水を)飲み食い歌いの大騒ぎとなり、宴は子供たちが力尽きるまで続いたのであった。
親分…支店長に許可をもらい、生産開発部の面々は休暇をもらっていた。品不足から一転して、作りすぎだ!と怒られてしまったからいい調整になるだろう。
3人娘を含める子供たちと、アリス、ココアに街を案内するついでに、職場見学にも来ていた。
担当部署以外は、ボスの部屋くらいしか行ったことがないのでいい機会である。
「みんな、待ってたよ。私が案内するからついてきて。」
警備部の制服といつもの白い外套を着た遥香が、社内を案内してくれるようだ。
「場所を頭に入れておかないと、私たちはいざって時に困るからね。ボスに適任だって言われたんだ。」
「なるほど…」
遥香の説明に納得するアリス。別れ際に柊が悔しそうにしてたから、きっとじゃんけんで決めたんだろう。
その通りなのだが、ボス呼ばわりが定着してしまっているようだ。
「まずは営業部。人の出入りが多いから気を付けてね。」
『はーい。』
娘たちが声を揃えて返事をする。
最後尾にオレがいるので、万が一は起きないと思うが、注意しておこう。
「メイプルは…あそこ。
今、打ち合わせをしてるみたいだね。」
資料片手に意見を言ったり、聞いたりする様子がこちらから見えていた。魔導具を使っているからか、声は聞こえないが。
「ハルカ様、お疲れ様です。旦那様、いらっしゃいませ。」
カトリーナがオレたちを…主に遥香と子供達出迎えてくれる。
「今、メイプルは打ち合わせの最中ですので、私が代わりにお相手しましょう。」
ここでの仕事内容を流暢に説明するカトリーナ。普通にこういう仕事もやっていけそうな気がする。
営業部内には課が2つあり、貴族や職人向けの大口を扱う部署、個人など一般客向けの店舗を担当する部署があり、こちらは前者の方だそうだ。あちこちでライブするための調整を行った経験を買われての配属らしい。
「ちなみに私は用心棒だそうです。」
制服ではあるのだが、いつものメイド服の上に着てるので、なんだか妙な感じがする。
「あなたが側に居ると、相手は交渉がしにくいでしょうね。」
苦笑いしながら言うアリスだが、カトリーナは「そうでしょう?」と言わんばかりに堂々としている。
召喚前からノウハウを持っているメイプルだし、営業部というのはなかなか良い選択ではないだろうか。
基本的に書類ばかりで子供には退屈な場所だが、見本用のブレスレット型の魔導具を一つ持って来る。
「これは、旦那様が作っているものと同じものですよね?」
「そうだな。暖気の刻印が施された魔導具で、高級モデルのヤツだ。」
弱くても魔力が続く限り、妨害が無い限り使えるのが刻印の良い所だ。封入エンチャントだと、どうしても安定した強めの魔力の供給が必要で、継続しては魔導師以外には扱いにくい。
効果は低めだが、だいたい誰でも使える上に、お洒落な物は贈り物に最適だろう。
「お父様、このような物を作っていらっしゃったのですね…」
「まあ、このモデルはバニラと梓が基礎設計…最初に作ったもので、オレはアクアが形を良くした物の通りに作っているだけだよ。」
「…お姉様たちの凄さがよく分かります。」
タメ息を吐く悠里。カトリーナ、アリス、ココアは少し誇らしげに見えた。
「ただ、旦那様が作りすぎたせいで、在庫管理が大変だそうです…」
「腕輪だし、場所を取らないと思って…」
「高級品なので、傷付けないようにしっかり保管しないといけません。入れておく箱の生産が間に合ってないそうですよ。」
亜空間収納は個人の物。
企業で管理するとなると、まだ物理的な物置が必要のようだ。
その事を失念していて、作り過ぎた結果、呼び出しを喰らってしまう。
「それで30分くらいボスに怒られたよ…」
この歳で、上司に大目玉を喰らうとは思ってもみなかった。
わりと頻繁に、嫁や娘には叱られている気がするが…
「お父様…」
「おとーしゃま…」
「とーしゃまわるいこ?」
ちゃんと分かってる悠里と、怒られた事を哀れむノエミ、そもそも分かってないジェリーの視線が痛い。
「いえ、悪いことはしてないのですが…旦那様が頑張り過ぎて、他の方も苦労する事になってしまいまして…」
「一人だけ頑張りすぎちゃいけなかったんだ。それで、他の人が困っているんだよ。」
ノエミは分かったようだが、ジェリーにはピンと来ないようだ。まだ幼いと、この辺りは理解してもらえないだろうな。
「まあ、ジェリーにもその内分かる。」
「うん。」
打ち合わせが終わったようで、メイプルがこちらにやって来た。
「誰かのせいで方針転換が必要だって、上は揉めてるそうですよ?」
「大変申し訳ない…」
それほどの事態になっていたか…
「でも、余剰分は個人向けの目玉商品に回すそうなので、実害は少なくて済みそうです。
まだ開店直後の時期ですし、業績も好調ですからね。」
大陸の技術の粋を集めて商売をしている事もあり、話題の店になっているようだからな。
ジュリアが冒険者ギルドでオレが期間工として勤めてると吹聴しているらしい。どうも口が軽い気がするが、大丈夫なのだろうか?
「子供に難しい話は置いといて、ここはメイプルとカトリーナさんの働く場所って聞いたよね?
私たちの頑張り次第で旦那様の仕事が増えたり、減ったりもする大事な職場なんだよー。」
わざとらしく子供向けに作った声色で説明するメイプル。3人娘含む女子たちにはウケが良いので、絶好調である。
男子は女子の熱気に圧され気味だ。
「私たちの仕事は旦那様たちの作った品物がいかに便利か、美しいか、お手頃かを伝えること。
偉い人達にはこれが大事なんだよ?」
ほほー、と納得する娘たち。
日頃から似たようなことで買い物で悩んでいるアリスの姿を見ているから、実感として分かりやすいのかも知れない。
「とまあ、そろそろ、ここも慌ただしくなるのでこの辺で。次はどこかなー?」
「警備部かな。」
「じゃあ、警備部にいってらっしゃーい!」
手を振るメイプルと、深く綺麗に頭を下げるカトリーナに見送られ、オレたちは営業部を後にした。
「お父さん、家じゃないんだから作業の足並みは揃えようね?」
「…はい。」
ちょっと前まで家出娘だった遥香に言われるのが一番堪えた…
本当は4人揃って髪に合わせて服も白にしたかったそうだが、目立ちすぎるのでやめたらしい。アリスはちゃんとその辺は抑えられると思って心配はしていないが、余所行き用に準備はするようだ。
ボロボロの大人用の古着を、リサイズして着ていた今までと違い、今着ているのは採寸して一から作った物。メイド服用のと変わらない素材らしいが、ごく普通の見た目で街中でも全く目立つ事はなさそうだ。
新しい服に喜ぶ三人娘の姿に、こちらも心が温かくなるのを感じる。
「三人とも、簡単な家事、針仕事はこなせますので、どうぞご用命下さい。」
「じゃあ、色々と教えて上げる。エプロンは自分達で作ってみましょうか。」
「ノエミもー」
「えぇ!?」
驚いたのはジュリア。まさか、名乗り出るとは思っていなかったようで、目玉が飛び出しそうになっている。
「良いわよ。挑戦してみましょうか。」
「う、うちのこをよろしくおねがいします…」
「あなた、あれだけ精確に的を狙えるのに、なんで針に糸が通せないのかしらね…」
「通す以前に、針が折れるんです…」
言ってる本人がぐんにょり折れ曲がっていた。難儀な体質である。
「ジェリーもやってみると良い。雑巾くらいは縫えそうか?」
「そうですね。ジェリーにはわたしが教えましょう。」
名乗り出るココア。
ノエミとジェリー、そして、3人娘に誰かついて居れば安心だろう。
「年長組は好きにして良いぞ。ただ、細い道や裏道には入らないように。今まで来た何処よりも物騒だからな。」
「分かりましたわ。お父様。」
なんだか、少し会わない内に悠里の喋り方がフィオナに寄ってきた。
視線を向けると逸らされる辺り、気付いているようである。
「ノラはいるか?」
「いますよー」
一番奥に隠れていたノラが手を振ってアピールする。
「ノラ、農業指導部で土地を借りましたわ。温室コンテナをそこに置いても良いそうですよ。」
「ホントですか?やったー!」
「ただ、農業指導に協力することが条件だそうです。商会で、あなたの事を高く買っているそうですから。」
「うん。いいですよー」
ソニアが伝えたことを手を振りながら受け入れるノラ。
植物と対話の出来る固有と言ってもいいノラの特技。ビースト領での農業研究の為に活用したいようだ。
オレ達では持て余す技能なので、活躍の場を用意してもらえるのはありがたい。
「じゃあ、うちもバニラを引き抜くか?」
「おねーちゃん、やることある?」
「そう言えば、新しい魔法をいくつか用意した。
こっちは柊やリナ母さんに向いていると思う。これは遥香とソニアだ。」
紙を出して、柊に2枚、遥香に1枚渡す。
前衛組は渡された物だけで良いようだが、後衛組は全部覚える事になるそうだ。
「エッジ?ジャベリン?」
「ストライクのように爆発による衝撃ではなく、集中して切断、貫通に特化してみた。」
「エンチャント頼らなくて良いのは便利ですね。」
柊とカトリーナには切断、貫通に最適化された魔法か。コントロールが苦手な二人にはピッタリだろう。
「私たちは…ラミネーション?」
「シールドスフィアの前方積層集中型だ。」
「こっちの方が良さそうだね。」
「ただ、前以外はがら空きになる。経験を積んでいれば大丈夫だと思うが、上手く使い分けろ。」
「うん。」
なるほど。他三方分を前にということか。
無駄なく、素早く集中できるのは良いな。
「そうだ。フルドライブのレポートがある。」
「使ったのか?誰に?」
驚いた顔で紙を受けとると、心配そうな表情に変わる。
「カトリーナにパワーを使った。」
「体は…いや、わたしが見よう。」
慌ててカトリーナの所へ行き、体に触れながら確認する。
「まだ少し違和感はありますが、日々の訓練で改善されていますよ。」
「そっか…やっぱり失敗か…」
「いえ、そんな事は…」
カトリーナがバニラの肩に手を乗せて否定するが、バニラの方が譲らない。
「掛けた相手に反動があっちゃダメなんだ。
せめて、術者が全て引き受ける。そうでなくてはダメなんだ。」
「一理ありますが、限度があります。我々は、我々の為に、後衛に被害があっては納得できません。」
「…そっか。」
お互い様であると納得してくれたようだ。
「でも、このフルドライブもダメだ。一撃で動けなくなるようじゃ使い物にならない。父さんも使わないでくれ。」
「分かった。」
いざという時は使うかもしれないが、しばらくはそういう事もないだろう。
その間に改善策が出てくることを祈るしかない。
「反動ダメージの吸収ができる何かを作らないと…」
命を削るオーバードライブ、体が耐えきれないフルドライブ。バッファ魔法の極限は難しいのだと思い知らされた。
「おねーちゃん、そんなの簡単だよ。私が引き受ければ良いだけだから。」
「梓…」
「それは…」
二人にとって、それは到底受け入れられない答えだろう。
自分の魔法の、行動の代償が違う誰かに向く。それは、二人のプライドが許しそうにない。
「ドワーフの丈夫さを信じてよー。一家の壁役は柔じゃないんだからねー」
「…分かった。でも、最後の手段だ。
常に使っていたら梓の方が持たない。」
しばらく、負荷の分散、軽減がバニラの課題になりそうだ。何か切っ掛け一つで、解決してしまいそうな気はしているが。
「バニラ、お前は魔法の開発に集中して良いぞ。どうせ、オレたちの職場じゃ物足りないだろうしな。」
「むう。少し、就職に興味があったが…」
「親分に説明しないといけないねー」
梓の言葉に、就職組が苦笑いしていた。
「親分なんて呼ばれるような人なの?」
「まあ、雰囲気はピッタリだな。」
起伏に乏しい体型だが、鍛え抜かれているのはよく分かる。なぜ、商人をやっているのか分からないくらい戦士寄りの人だ。
「キャロルの事か?ここの支店長をやるようになったのだな。」
エディさんが、感慨深そうに腕を組ながら頷いている。
「若い頃は傭兵でな。ただ、抜け目がなく、商売をやらせたら面白そうだと思って採用したのだ。」
「それが頭角を表して、ついに支店長か…」
なかなかの大出世である。若い頃の武勇伝とか聞いたらおもしろそ
「いったっ!?」
アリスに思いっきり手をつねられていた。
「ダメよ。あなたが親しくなると大変だから。」
「支店長を失うのは困る。」
エディさんにも言われる辺り、信用が無さすぎる。女を引っかけるような事はしていないんだが…
「気になるようでしたら、あたしが聞いておきますよ。応接室に絵を飾りたい、って相談されていますので。」
「武勇伝の一つでも聞いてきてくれ。」
「かしこまりました。旦那様。」
綺麗に礼をしてから良い笑顔になるアクア。
持つべきものは、話の分かる同僚である。
「面倒な話はこれくらいで良いだろう。合流、歓迎のパーティーをしないとな。」
「そうね。」
「今日はお好み焼きに挑戦するぞ!」
「あ、私たち親子は肉は控えめで…」
「どんどん作るから、好きなものを好きに食べてくれ。遠慮はしなくて良いぞ。ジュリア以外な。」
「えー」
昼間から(果実水を)飲み食い歌いの大騒ぎとなり、宴は子供たちが力尽きるまで続いたのであった。
親分…支店長に許可をもらい、生産開発部の面々は休暇をもらっていた。品不足から一転して、作りすぎだ!と怒られてしまったからいい調整になるだろう。
3人娘を含める子供たちと、アリス、ココアに街を案内するついでに、職場見学にも来ていた。
担当部署以外は、ボスの部屋くらいしか行ったことがないのでいい機会である。
「みんな、待ってたよ。私が案内するからついてきて。」
警備部の制服といつもの白い外套を着た遥香が、社内を案内してくれるようだ。
「場所を頭に入れておかないと、私たちはいざって時に困るからね。ボスに適任だって言われたんだ。」
「なるほど…」
遥香の説明に納得するアリス。別れ際に柊が悔しそうにしてたから、きっとじゃんけんで決めたんだろう。
その通りなのだが、ボス呼ばわりが定着してしまっているようだ。
「まずは営業部。人の出入りが多いから気を付けてね。」
『はーい。』
娘たちが声を揃えて返事をする。
最後尾にオレがいるので、万が一は起きないと思うが、注意しておこう。
「メイプルは…あそこ。
今、打ち合わせをしてるみたいだね。」
資料片手に意見を言ったり、聞いたりする様子がこちらから見えていた。魔導具を使っているからか、声は聞こえないが。
「ハルカ様、お疲れ様です。旦那様、いらっしゃいませ。」
カトリーナがオレたちを…主に遥香と子供達出迎えてくれる。
「今、メイプルは打ち合わせの最中ですので、私が代わりにお相手しましょう。」
ここでの仕事内容を流暢に説明するカトリーナ。普通にこういう仕事もやっていけそうな気がする。
営業部内には課が2つあり、貴族や職人向けの大口を扱う部署、個人など一般客向けの店舗を担当する部署があり、こちらは前者の方だそうだ。あちこちでライブするための調整を行った経験を買われての配属らしい。
「ちなみに私は用心棒だそうです。」
制服ではあるのだが、いつものメイド服の上に着てるので、なんだか妙な感じがする。
「あなたが側に居ると、相手は交渉がしにくいでしょうね。」
苦笑いしながら言うアリスだが、カトリーナは「そうでしょう?」と言わんばかりに堂々としている。
召喚前からノウハウを持っているメイプルだし、営業部というのはなかなか良い選択ではないだろうか。
基本的に書類ばかりで子供には退屈な場所だが、見本用のブレスレット型の魔導具を一つ持って来る。
「これは、旦那様が作っているものと同じものですよね?」
「そうだな。暖気の刻印が施された魔導具で、高級モデルのヤツだ。」
弱くても魔力が続く限り、妨害が無い限り使えるのが刻印の良い所だ。封入エンチャントだと、どうしても安定した強めの魔力の供給が必要で、継続しては魔導師以外には扱いにくい。
効果は低めだが、だいたい誰でも使える上に、お洒落な物は贈り物に最適だろう。
「お父様、このような物を作っていらっしゃったのですね…」
「まあ、このモデルはバニラと梓が基礎設計…最初に作ったもので、オレはアクアが形を良くした物の通りに作っているだけだよ。」
「…お姉様たちの凄さがよく分かります。」
タメ息を吐く悠里。カトリーナ、アリス、ココアは少し誇らしげに見えた。
「ただ、旦那様が作りすぎたせいで、在庫管理が大変だそうです…」
「腕輪だし、場所を取らないと思って…」
「高級品なので、傷付けないようにしっかり保管しないといけません。入れておく箱の生産が間に合ってないそうですよ。」
亜空間収納は個人の物。
企業で管理するとなると、まだ物理的な物置が必要のようだ。
その事を失念していて、作り過ぎた結果、呼び出しを喰らってしまう。
「それで30分くらいボスに怒られたよ…」
この歳で、上司に大目玉を喰らうとは思ってもみなかった。
わりと頻繁に、嫁や娘には叱られている気がするが…
「お父様…」
「おとーしゃま…」
「とーしゃまわるいこ?」
ちゃんと分かってる悠里と、怒られた事を哀れむノエミ、そもそも分かってないジェリーの視線が痛い。
「いえ、悪いことはしてないのですが…旦那様が頑張り過ぎて、他の方も苦労する事になってしまいまして…」
「一人だけ頑張りすぎちゃいけなかったんだ。それで、他の人が困っているんだよ。」
ノエミは分かったようだが、ジェリーにはピンと来ないようだ。まだ幼いと、この辺りは理解してもらえないだろうな。
「まあ、ジェリーにもその内分かる。」
「うん。」
打ち合わせが終わったようで、メイプルがこちらにやって来た。
「誰かのせいで方針転換が必要だって、上は揉めてるそうですよ?」
「大変申し訳ない…」
それほどの事態になっていたか…
「でも、余剰分は個人向けの目玉商品に回すそうなので、実害は少なくて済みそうです。
まだ開店直後の時期ですし、業績も好調ですからね。」
大陸の技術の粋を集めて商売をしている事もあり、話題の店になっているようだからな。
ジュリアが冒険者ギルドでオレが期間工として勤めてると吹聴しているらしい。どうも口が軽い気がするが、大丈夫なのだろうか?
「子供に難しい話は置いといて、ここはメイプルとカトリーナさんの働く場所って聞いたよね?
私たちの頑張り次第で旦那様の仕事が増えたり、減ったりもする大事な職場なんだよー。」
わざとらしく子供向けに作った声色で説明するメイプル。3人娘含む女子たちにはウケが良いので、絶好調である。
男子は女子の熱気に圧され気味だ。
「私たちの仕事は旦那様たちの作った品物がいかに便利か、美しいか、お手頃かを伝えること。
偉い人達にはこれが大事なんだよ?」
ほほー、と納得する娘たち。
日頃から似たようなことで買い物で悩んでいるアリスの姿を見ているから、実感として分かりやすいのかも知れない。
「とまあ、そろそろ、ここも慌ただしくなるのでこの辺で。次はどこかなー?」
「警備部かな。」
「じゃあ、警備部にいってらっしゃーい!」
手を振るメイプルと、深く綺麗に頭を下げるカトリーナに見送られ、オレたちは営業部を後にした。
「お父さん、家じゃないんだから作業の足並みは揃えようね?」
「…はい。」
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その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
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