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第2部
62話
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新年が明けて一月経ち、一家主催の深雪祭のようなものの準備は直前になって頓挫し欠けていた。
想定以上に悪天候が続き、とてもではないが大型の雪像を作るという状況ではないのである。客を入れることを考えると、安全性の面で開催は不可能であった。
「ここまで荒れるとは思わなかったわ…
お役所も二言目には止めた方が良いと言うわけよ…」
テーブルに突っ伏して呻くような声のアリス。
一番楽しみにして、一番準備に積極的だったのだ。そりゃこうなるだろう。
「むぅ…お外、雪ばっかり…」
ノエミも豪雪過ぎるせいか、外で存分に遊べない日々続きでむくれ気味。玩具や簡単なボードゲームで誤魔化すのも限界のようだ…
ダンジョンで遊ばせたりもしていたが、長時間は違和感で気持ち悪くなるらしくサクラもお手上げのようだ。感知力の高さがこんな事を引き起こすとは想定外である。
「ただいま。今日も雪が酷くて、半分も出勤できていなかったよ。」
「おかえり。そうか、そんなに酷かったか…」
柊が早めの帰宅を果たし、そう報告をしてくれる。出勤中に遭難者が出ていない事を願いたい。
玄関で洗浄を掛けて来たようだが、まだ乾ききっていないようなのでオレも手伝ってやると、礼を言ってから外套を脱いだ。
「農導部の熱意だけは、この雪でも阻めなかったようだけど…」
「手を掛けてやらないとダメだからな…
という事は、普通に通勤しているのもいるのか…」
苦笑いの柊。という事は、そういう事なのだろう。
ソニアとリリでさえ、諦めて住み込みを選んだ状況でも通勤を続けるのは称賛しかない。 仕事や家庭に影響は出ないのだろうか?
「流石にもう仕事にならないからって、住み込みに切り替えるらしいよ。
警備部は鬼班長がいる班は通勤してるね。」
「…ん?そうでない班もあるのか?」
「もう、うちの班だけだよ。どこも住み込みに切り替えてる。」
「まるで避難所のような光景が思い浮かべられるな…」
「そんな事もなくて、ちゃんと使ってない土地に小屋と道路が用意されてたなぁ。父さんがやったんじゃないの?」
「大量にパーツを用意した覚えはあるが、商品にするのかと思っていたよ。」
春から住宅にも手を出すのかと思って仕事をしていたが、違ったようだ。
「開発部も住み込みに切り替えたみたいだね。梓から伝えて欲しいって頼まれたよ。」
「まあ、あいつは時間の問題だったしな…」
ドワーフ特有の低身長高体重のせいで、雪深い道はとにかくしんどかったらしい。
往きはオレが箱に乗せて運べば良かったが、帰りは時間が違うせいか毎日悲惨だったようで、パンツの中まで…が口癖のようになっていた。
梓も魔力が特化傾向にあるようで、箱で移動すると風に流されて大変なことになる、と常々ぼやいている。鍛冶における魔力制御は素晴らしいんだがなぁ…
「私も明日からは向こうで泊まり込もうと思っているけど、父さんは?」
「遥香の事もあるしな。それに、北の果てに比べればまだピラーで移動できるだけマシだよ。」
「あー、父さんはそうだよね…」
「あら、お帰り。…寝てしまってたわ。」
突っ伏している間に眠っていたのか、目を擦りながらアリスが体を起こす。
それだけ準備に気合いが入っていたようで、とても不憫だ…
「母さん、梓は今日から、私とフィオナは明日から向こうで住み込みに切り替えるよ。」
「あら、そう。時間の問題だとは思っていたけど、寂しくなるわね…」
「遥香と子供たちの訓練を見て上げられないのが残念だよ。」
遥香の1からは魔法だけでなく、訓練ものようだ。魔法の進捗に合わせて体の方のトレーニングも変化している。
「シュウ様、お帰りなさいませ。お風呂の準備が出来ておりますよ。」
「ありがとう。それより、遥香の方なんだけど…」
ノートを出して、カトリーナと話ながら風呂へと向かう柊。あまり表に出さないが、妹の事が今は一番心配なようだ。
「ただいま戻りました。」
入れ替わりでフィオナが帰って来た。
『お帰り。』
声が揃うオレとアリス。
それを聞き、何故かむくれるフィオナ。
「雪の中大変でしたのに、二人はいったいここで仲良く何を…」
「私は準備が無駄になるって愚痴を言ってたわね?」
「オレはさっきまで柊と今後の話をしてたな。」
「そ、そうでしたか…失礼しました…」
顔を赤くして風呂場へ直行しようとするが、
「フィオナは住み込みじゃなくて良いのか?」
「あー、その話ですか。私には苦にならないので今まで通りにしようかと。あまり、寝心地も良くなさそうですからね。」
フィオナは魔力制御も一級品な上に、こちらでは更に磨きが掛かっている傾向にある。それなら、普通に通勤しても苦にならないのは当然だろう。
『お、待っておったぞ、つめたいむすめ。』
影から飛び出し、テーブルの上でくるっと一回転してポーズを決めるタマモ。どこで覚えたのか。
「なんですかその呼び名。」
『魔力があまりにも冷気に特化しているからの。』
「ちゃんと名前で呼びませんと、氷にして雪だるまの中にしまってしまいますわよ?」
『流石に妾もそれは耐えられそうにないのじゃ…』
尻尾と耳が萎れる。
「で、なんの御用でしょうか?」
『うむ。御主らの手助けが欲しいのだ。
どうもこの寒気は妾が膨大なリソースを管理できないのが原因なようでの…』
『元凶がいた。』
なんとなくそんな気はしていたが、タマモに悪いと思って言っていなかったのが仇となってしまったようだ…
まあ、それで遥香の件は避けられたかと問われると、襲撃自体は回避出来そうになかったので無理そうな気がする。
『入口に専用の直通転移門も用意するから来て欲しいのじゃ…』
「それなら良いですが、何をすればよろしいのでしょうか?」
『フィオナの力を以て、妾を倒せば良い。
それで妾は、この寒気に対するコントロールを得る事が出来る。』
なるほど。そうやってラーニングするという事か。ダンジョンボス強化の仕組みが、少し分かった気がする。
『御主らなら3日で帰って来れるはず。』
「ついでに毛皮が欲しいわ。魔獣のでも良いわよ。」
『分かった分かった。土産に持たせよう。』
「やっぱり私は茅の外なのね…」
『必要なのはつめたい…フィオナだけじゃからの。観光は落ち着いてからにするとよい。』
「言質は取ったから!」
ビシッと指を突きつけるアリス。
なんだか娘たちが、この言葉を真似する理由が分かった気がする。
『皆、それが好きじゃの…』
「まあ、気持ちは分かる。」
「迂闊なことはやれませんわね…」
不安げな表情になるフィオナ。何処に罠があるか分かったもんじゃないからな。
「しかし、3日ですか…」
「厳しいか?」
「柊と相談してからになりますわ。少し、話をしてきます。」
「今は風呂だと思うぞ。」
「分かりましたわ。」
会釈をして、フィオナは風呂場へと向かっていった。
「ボスも大変ね。ただリソースを集めるだけじゃ済まないなんて。」
『この大陸の4大ダンジョンは、それぞれに居座る理由がある。西の山、南の海にも同様じゃ。』
「バルサス峡谷は誰もいないわよね。大陸の歴史を考えると、とても重要だと思うのだけど?」
『あそこは無理じゃな。怨讐に憑かれたり、行き場を失った者の辿り着く所。管理なんて出来ぬわ。』
「そうなのね…」
やはり、あそこは人が長期で滞在すべき場所ではないという事か。
『妾の時代の御主も諦めたからの。人も装備も足りなくて、手が出せないって嘆いておったわ。』
「梓は…と思ったが、女嫌い拗らせて無理か…」
『あの娘ほどの名工となると、名を知らぬはずはないのじゃがの。ヒュマス側で良いように使われて、世に出て来れなかった可能性はありそうじゃ。』
どうも、違う可能性の梓は幸が薄すぎる。
今も何か犠牲にして無理させている気もしているので、大差ない気はしているが。
「あの子も少し自由にさせて上げたいわね。旅が終わったら、そういう時間を用意しましょう。」
「そうだな。その結果、嫁いでも仕方ないと諦めよう…」
「それは…私には何も言えないわね…」
そんな話をして笑い合っていると、フィオナが柊と戻ってくる。フィオナも風呂が短い。
「この寒波をどうにかする方が大事だし、3日、4日くらいなら問題ないよ。」
風呂上がり、顔を赤くした柊が答える。
「他に同行者は必要?」
暗に遥香の事を言っているような気もするが、ここは無理をさせるべきでは無いだろう。
「いや、オレたちだけで行こう。人数は少ない方が速いし、道中カットできるなら大人数である必要もない。」
「そうですわね。きっと、来ても退屈に違いありませんわ。」
久し振りのフィオナの全力戦闘を一番見たかったのは柊かもしれないが。
『妾から妾へ映像を送ることもできる。妾ならブリザードの干渉も受けぬしな。』
「ぶほっ!」
そう言ってタマモの目が光ると、遥香たちの入浴シーンがデカデカと映し出され、オレはむせながら目を隠した。
「悪用してないでしょうね?」
『この男にそんな事は出来ぬよ。よく分かっておるじゃろ?』
『確かに。』
声を揃える女性3人。
考えてみたら、3人とも同じ部屋で二人きりで眠ったことがあるじゃないか…
『まあ、そういう事で妾とのまともな戦闘シーンはこちらからでも見れる。
こやつはアンティマジックして、あの豪腕メイドで捩じ伏せおったからの…あ、目を開けても良いぞ。』
「魔法型ボスなのに魔法を潰されるのが悪い。」
『御主はそういうヤツじゃった…』
耳と尻尾が小さくなり、ガックリ項垂れる。
テンションが下がると小さくなるようだ。
「フィールドの魔導師潰しはそれが理由?」
『それもあるが、単純に肉体の限界への挑戦じゃな。こやつは悉くぶち壊してくれおったがの…
突破されたからには訓練用ダンジョンとして開放することになるのじゃが、リソースが膨大になりすぎて持て余しておる。場所柄、階層化も出来ぬし広げてみたらこの寒波じゃ。』
「迷惑な話だけど、原因は私たちにあったのね…
何か案が無いか、後で娘たちと話してみましょう。」
バニラ達なら良い案が出せるだろう。任せて大丈夫なはずだ。
「父さん、今度はちゃんと踏破してみたいんだけど、どうだろう?」
目を輝かせて提案する柊。柊からというのも珍しい。
「西の山、南の大珊瑚と回ってからになるが良いか?」
「もちろん。ちゃんと準備もしたいからね。」
「結局、もう一周することになりそうね。」
「いや、一度一家を解散させた方がいいだろう。ルエーリヴ、森の東、船、もしかしたら、西の山へとな。」
「そこまで分けちゃうと寂しくなるわ…
でも、そうね。やりたいことが見つかったなら、それが良いかもしれないわね。」
今日まで比較的自由にやれてきたアリスだからこそ、納得してもらえたようだ。
「深海のお二人も再会を待ち遠しくしておりましたわ。深海ロックバンド、を結成したとかで。」
「早く聴いてみたいね。」
食い付いたのは柊。やはりそういうのが好きなようである。
『深海までは行けなかったからの。妾も一度見てみたいものじゃ。』
「シャコが面白いわよ。」
『お前のその笑顔、絶対にロクでもない面白さじゃろう…じゃが、楽しみにさせてもらおうかの。』
当分先の話はここまでにし、直近の話に戻る。
「アリス、ここに遥香のトレーニングの予定を書いてある。もしも、の時は参考にして欲しい。ソニアと共有しても良いぞ。」
紙を取り出して、アリスに渡そうとするが渋い顔をされる。
「…そういうのは受け取りたくないわね。2度目は嫌だもの。」
「準備はしておきたい。」
「…分かったわ。」
渋々だが受け取ってもらえる。
「…読めないじゃないの。」
「バニラとも共有してくれ。」
相変わらず、こっちの文字は名前くらいしか書けず、文字で伝えることは出来そうにない。
「何かあった時は私も道連れですわね。その時は、柊の母になっているかもしれませんわ。」
「父さん、絶対に無事に帰ってきて。絶対だから。」
手を掴まれて、柊に懇願される。
まあ、親友でライバルが母になるのは嫌だろうな。オレもスミス辺りを義父と呼ぶのはなんか嫌である。
「分かった、分かったから。」
「頑なに嫌がりますわね…」
たじたじなオレと、肩を落とすフィオナ。
それを見てアリスが笑う。
「明日には出るんでしょ?今の内に準備を始めた方が良いわ。私はバニラ達と話をしてくるから。」
「頼んだ。」
その後、カトリーナ達にも説明をしてから出発の準備をし、明日に備える。
翌朝も天気は変わらず、酷い吹雪で視界は悪く人通りは全くない。
そんな悪天候故に見送りは玄関までにしてもらい、一本のピラーに二人で乗って旅立った。
想定以上に悪天候が続き、とてもではないが大型の雪像を作るという状況ではないのである。客を入れることを考えると、安全性の面で開催は不可能であった。
「ここまで荒れるとは思わなかったわ…
お役所も二言目には止めた方が良いと言うわけよ…」
テーブルに突っ伏して呻くような声のアリス。
一番楽しみにして、一番準備に積極的だったのだ。そりゃこうなるだろう。
「むぅ…お外、雪ばっかり…」
ノエミも豪雪過ぎるせいか、外で存分に遊べない日々続きでむくれ気味。玩具や簡単なボードゲームで誤魔化すのも限界のようだ…
ダンジョンで遊ばせたりもしていたが、長時間は違和感で気持ち悪くなるらしくサクラもお手上げのようだ。感知力の高さがこんな事を引き起こすとは想定外である。
「ただいま。今日も雪が酷くて、半分も出勤できていなかったよ。」
「おかえり。そうか、そんなに酷かったか…」
柊が早めの帰宅を果たし、そう報告をしてくれる。出勤中に遭難者が出ていない事を願いたい。
玄関で洗浄を掛けて来たようだが、まだ乾ききっていないようなのでオレも手伝ってやると、礼を言ってから外套を脱いだ。
「農導部の熱意だけは、この雪でも阻めなかったようだけど…」
「手を掛けてやらないとダメだからな…
という事は、普通に通勤しているのもいるのか…」
苦笑いの柊。という事は、そういう事なのだろう。
ソニアとリリでさえ、諦めて住み込みを選んだ状況でも通勤を続けるのは称賛しかない。 仕事や家庭に影響は出ないのだろうか?
「流石にもう仕事にならないからって、住み込みに切り替えるらしいよ。
警備部は鬼班長がいる班は通勤してるね。」
「…ん?そうでない班もあるのか?」
「もう、うちの班だけだよ。どこも住み込みに切り替えてる。」
「まるで避難所のような光景が思い浮かべられるな…」
「そんな事もなくて、ちゃんと使ってない土地に小屋と道路が用意されてたなぁ。父さんがやったんじゃないの?」
「大量にパーツを用意した覚えはあるが、商品にするのかと思っていたよ。」
春から住宅にも手を出すのかと思って仕事をしていたが、違ったようだ。
「開発部も住み込みに切り替えたみたいだね。梓から伝えて欲しいって頼まれたよ。」
「まあ、あいつは時間の問題だったしな…」
ドワーフ特有の低身長高体重のせいで、雪深い道はとにかくしんどかったらしい。
往きはオレが箱に乗せて運べば良かったが、帰りは時間が違うせいか毎日悲惨だったようで、パンツの中まで…が口癖のようになっていた。
梓も魔力が特化傾向にあるようで、箱で移動すると風に流されて大変なことになる、と常々ぼやいている。鍛冶における魔力制御は素晴らしいんだがなぁ…
「私も明日からは向こうで泊まり込もうと思っているけど、父さんは?」
「遥香の事もあるしな。それに、北の果てに比べればまだピラーで移動できるだけマシだよ。」
「あー、父さんはそうだよね…」
「あら、お帰り。…寝てしまってたわ。」
突っ伏している間に眠っていたのか、目を擦りながらアリスが体を起こす。
それだけ準備に気合いが入っていたようで、とても不憫だ…
「母さん、梓は今日から、私とフィオナは明日から向こうで住み込みに切り替えるよ。」
「あら、そう。時間の問題だとは思っていたけど、寂しくなるわね…」
「遥香と子供たちの訓練を見て上げられないのが残念だよ。」
遥香の1からは魔法だけでなく、訓練ものようだ。魔法の進捗に合わせて体の方のトレーニングも変化している。
「シュウ様、お帰りなさいませ。お風呂の準備が出来ておりますよ。」
「ありがとう。それより、遥香の方なんだけど…」
ノートを出して、カトリーナと話ながら風呂へと向かう柊。あまり表に出さないが、妹の事が今は一番心配なようだ。
「ただいま戻りました。」
入れ替わりでフィオナが帰って来た。
『お帰り。』
声が揃うオレとアリス。
それを聞き、何故かむくれるフィオナ。
「雪の中大変でしたのに、二人はいったいここで仲良く何を…」
「私は準備が無駄になるって愚痴を言ってたわね?」
「オレはさっきまで柊と今後の話をしてたな。」
「そ、そうでしたか…失礼しました…」
顔を赤くして風呂場へ直行しようとするが、
「フィオナは住み込みじゃなくて良いのか?」
「あー、その話ですか。私には苦にならないので今まで通りにしようかと。あまり、寝心地も良くなさそうですからね。」
フィオナは魔力制御も一級品な上に、こちらでは更に磨きが掛かっている傾向にある。それなら、普通に通勤しても苦にならないのは当然だろう。
『お、待っておったぞ、つめたいむすめ。』
影から飛び出し、テーブルの上でくるっと一回転してポーズを決めるタマモ。どこで覚えたのか。
「なんですかその呼び名。」
『魔力があまりにも冷気に特化しているからの。』
「ちゃんと名前で呼びませんと、氷にして雪だるまの中にしまってしまいますわよ?」
『流石に妾もそれは耐えられそうにないのじゃ…』
尻尾と耳が萎れる。
「で、なんの御用でしょうか?」
『うむ。御主らの手助けが欲しいのだ。
どうもこの寒気は妾が膨大なリソースを管理できないのが原因なようでの…』
『元凶がいた。』
なんとなくそんな気はしていたが、タマモに悪いと思って言っていなかったのが仇となってしまったようだ…
まあ、それで遥香の件は避けられたかと問われると、襲撃自体は回避出来そうになかったので無理そうな気がする。
『入口に専用の直通転移門も用意するから来て欲しいのじゃ…』
「それなら良いですが、何をすればよろしいのでしょうか?」
『フィオナの力を以て、妾を倒せば良い。
それで妾は、この寒気に対するコントロールを得る事が出来る。』
なるほど。そうやってラーニングするという事か。ダンジョンボス強化の仕組みが、少し分かった気がする。
『御主らなら3日で帰って来れるはず。』
「ついでに毛皮が欲しいわ。魔獣のでも良いわよ。」
『分かった分かった。土産に持たせよう。』
「やっぱり私は茅の外なのね…」
『必要なのはつめたい…フィオナだけじゃからの。観光は落ち着いてからにするとよい。』
「言質は取ったから!」
ビシッと指を突きつけるアリス。
なんだか娘たちが、この言葉を真似する理由が分かった気がする。
『皆、それが好きじゃの…』
「まあ、気持ちは分かる。」
「迂闊なことはやれませんわね…」
不安げな表情になるフィオナ。何処に罠があるか分かったもんじゃないからな。
「しかし、3日ですか…」
「厳しいか?」
「柊と相談してからになりますわ。少し、話をしてきます。」
「今は風呂だと思うぞ。」
「分かりましたわ。」
会釈をして、フィオナは風呂場へと向かっていった。
「ボスも大変ね。ただリソースを集めるだけじゃ済まないなんて。」
『この大陸の4大ダンジョンは、それぞれに居座る理由がある。西の山、南の海にも同様じゃ。』
「バルサス峡谷は誰もいないわよね。大陸の歴史を考えると、とても重要だと思うのだけど?」
『あそこは無理じゃな。怨讐に憑かれたり、行き場を失った者の辿り着く所。管理なんて出来ぬわ。』
「そうなのね…」
やはり、あそこは人が長期で滞在すべき場所ではないという事か。
『妾の時代の御主も諦めたからの。人も装備も足りなくて、手が出せないって嘆いておったわ。』
「梓は…と思ったが、女嫌い拗らせて無理か…」
『あの娘ほどの名工となると、名を知らぬはずはないのじゃがの。ヒュマス側で良いように使われて、世に出て来れなかった可能性はありそうじゃ。』
どうも、違う可能性の梓は幸が薄すぎる。
今も何か犠牲にして無理させている気もしているので、大差ない気はしているが。
「あの子も少し自由にさせて上げたいわね。旅が終わったら、そういう時間を用意しましょう。」
「そうだな。その結果、嫁いでも仕方ないと諦めよう…」
「それは…私には何も言えないわね…」
そんな話をして笑い合っていると、フィオナが柊と戻ってくる。フィオナも風呂が短い。
「この寒波をどうにかする方が大事だし、3日、4日くらいなら問題ないよ。」
風呂上がり、顔を赤くした柊が答える。
「他に同行者は必要?」
暗に遥香の事を言っているような気もするが、ここは無理をさせるべきでは無いだろう。
「いや、オレたちだけで行こう。人数は少ない方が速いし、道中カットできるなら大人数である必要もない。」
「そうですわね。きっと、来ても退屈に違いありませんわ。」
久し振りのフィオナの全力戦闘を一番見たかったのは柊かもしれないが。
『妾から妾へ映像を送ることもできる。妾ならブリザードの干渉も受けぬしな。』
「ぶほっ!」
そう言ってタマモの目が光ると、遥香たちの入浴シーンがデカデカと映し出され、オレはむせながら目を隠した。
「悪用してないでしょうね?」
『この男にそんな事は出来ぬよ。よく分かっておるじゃろ?』
『確かに。』
声を揃える女性3人。
考えてみたら、3人とも同じ部屋で二人きりで眠ったことがあるじゃないか…
『まあ、そういう事で妾とのまともな戦闘シーンはこちらからでも見れる。
こやつはアンティマジックして、あの豪腕メイドで捩じ伏せおったからの…あ、目を開けても良いぞ。』
「魔法型ボスなのに魔法を潰されるのが悪い。」
『御主はそういうヤツじゃった…』
耳と尻尾が小さくなり、ガックリ項垂れる。
テンションが下がると小さくなるようだ。
「フィールドの魔導師潰しはそれが理由?」
『それもあるが、単純に肉体の限界への挑戦じゃな。こやつは悉くぶち壊してくれおったがの…
突破されたからには訓練用ダンジョンとして開放することになるのじゃが、リソースが膨大になりすぎて持て余しておる。場所柄、階層化も出来ぬし広げてみたらこの寒波じゃ。』
「迷惑な話だけど、原因は私たちにあったのね…
何か案が無いか、後で娘たちと話してみましょう。」
バニラ達なら良い案が出せるだろう。任せて大丈夫なはずだ。
「父さん、今度はちゃんと踏破してみたいんだけど、どうだろう?」
目を輝かせて提案する柊。柊からというのも珍しい。
「西の山、南の大珊瑚と回ってからになるが良いか?」
「もちろん。ちゃんと準備もしたいからね。」
「結局、もう一周することになりそうね。」
「いや、一度一家を解散させた方がいいだろう。ルエーリヴ、森の東、船、もしかしたら、西の山へとな。」
「そこまで分けちゃうと寂しくなるわ…
でも、そうね。やりたいことが見つかったなら、それが良いかもしれないわね。」
今日まで比較的自由にやれてきたアリスだからこそ、納得してもらえたようだ。
「深海のお二人も再会を待ち遠しくしておりましたわ。深海ロックバンド、を結成したとかで。」
「早く聴いてみたいね。」
食い付いたのは柊。やはりそういうのが好きなようである。
『深海までは行けなかったからの。妾も一度見てみたいものじゃ。』
「シャコが面白いわよ。」
『お前のその笑顔、絶対にロクでもない面白さじゃろう…じゃが、楽しみにさせてもらおうかの。』
当分先の話はここまでにし、直近の話に戻る。
「アリス、ここに遥香のトレーニングの予定を書いてある。もしも、の時は参考にして欲しい。ソニアと共有しても良いぞ。」
紙を取り出して、アリスに渡そうとするが渋い顔をされる。
「…そういうのは受け取りたくないわね。2度目は嫌だもの。」
「準備はしておきたい。」
「…分かったわ。」
渋々だが受け取ってもらえる。
「…読めないじゃないの。」
「バニラとも共有してくれ。」
相変わらず、こっちの文字は名前くらいしか書けず、文字で伝えることは出来そうにない。
「何かあった時は私も道連れですわね。その時は、柊の母になっているかもしれませんわ。」
「父さん、絶対に無事に帰ってきて。絶対だから。」
手を掴まれて、柊に懇願される。
まあ、親友でライバルが母になるのは嫌だろうな。オレもスミス辺りを義父と呼ぶのはなんか嫌である。
「分かった、分かったから。」
「頑なに嫌がりますわね…」
たじたじなオレと、肩を落とすフィオナ。
それを見てアリスが笑う。
「明日には出るんでしょ?今の内に準備を始めた方が良いわ。私はバニラ達と話をしてくるから。」
「頼んだ。」
その後、カトリーナ達にも説明をしてから出発の準備をし、明日に備える。
翌朝も天気は変わらず、酷い吹雪で視界は悪く人通りは全くない。
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高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
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