召喚者は一家を支える。

RayRim

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第2部

63話

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『そろそろ入口じゃ高度と速度を下げてくれ。』
「分かった!」

 フードの中から声が聞こえるが、ピラーでの移動なので小声では暴風で掻き消されてしまい、思わず声が大きくなる。
 牽引車は移住で無理させた反動で故障してしまい、残念ながら修理中だ。
 帽子を被り、フードも被り、マフラーで鼻まで覆い、当然ゴーグルもしている。
 視界は真っ白で、認識拡張が無くてはとても進めたものではない。
 今の時期の北の果ては、本当に自殺に来るようなものだな…
 最初の頃はフィオナと話もしていたが、もう一時間ほど無言である。時々しがみつく体が動いているので、ちゃんと起きてはいるようだ。

 近付く程にブリザードが激しくなり、魔力への干渉が起きた所で停止すると、目の前に転移門が現れた。

『直通の門じゃ。先で妾が待っておる。』
「おう!」

 更に減速し、ゆっくりと門を潜ると一気に洞窟内へと到着した。

「よく来た。まずは冷えた体を温める方が良いか?」

 小さくないメイド服姿のタマモが待っており、その姿にフィオナが後ろで驚いていた。
 停止し、フィオナを降ろしてからピラーを回収している間に、ロープも外されていた。
 出すのが面倒なので腰で巻いておこう。

「いえ、少し体を動かしたら始めましょう。」
「そうか?何戦かしてもらうから慌てずとも良いぞ。」
「休んでいたら寒さで体が固まってしまいそうですわ。」
「じゃあ、休憩所を用意しておこう。暖気の魔導具は使っているよな?」
「いいえ?」
「えっ。」
「えっ?」
「どうなっておるんじゃつめたいおんな…」
「い、いえ、使うと暑すぎますので…」
『どうなっておるんじゃつめたいおんな…』

 大小揃って2度言いたくなる気持ちも分かる。そう呼びたくなる気持ちも分かる。
 フィオナは納得いかない表情で防寒具を全て片付け、柔軟体操をしていた。

「そんな事より、始めましょう。まずは小手調べという感じでよろしいでしょうか?」
「良かろう。妾に準備体操なぞ不要じゃがな。」
「では、魔法だけで参ります。」
「小手調べと言いつつ、妾に魔法で挑むとは良い度胸じゃ。胸を借りるつもりで参れ。」
「それでは、お手柔らかに。」

【フロストノヴァ】

 二人の周辺、かなり広い空間が外よりも更に低い温度となり、フィオナの支配下に置かれた。

「映像は送れているか?」
「バッチリじゃ。」

 出したテーブルの上に空の弁当箱を置き、ミニタマモの椅子代わりにさせる。

「音声はこれを使おう。聴こえているか?」

 しまったままだった初期型通話器を取り出す。
 1対1でしか使えないが、どこまでも範囲が伸びるモデル。なのだが、返事が返ってこない。やはりブリザードに阻まれてダメなのだろうか?

「音は無理なようじゃの。」
「しかたない。」

 一応、起動させたままにしておく。
 そんなやり取りをしている間に、魔法の応酬が始まっていた。

 フィオナは指揮棒のような杖だけで挑むようで、アイス・ストライク、アイス・ブラストで牽制と攻撃を巧みに繰り出し、タマモも鉄扇を振って同じような牽制と防御を行っていた。
 ブラストで地面が凍てつき、氷柱が生える。タマモがストライクを避けながら氷柱を打ち砕いて蹴飛ばすと、フィオナはストライクで軌道を変えつつ、足元へと撃ち込んでみせる。

 お互いに小手調べとは思えない精度と負けん気を見せる戦い。
 もう一人連れて来るんだったと思う程、何か言いたい心震える戦いだ。
 互いの魔力の強さ、練成度、制御力、冷気に対する熟知、どれも極めて高い水準である。
 この条件だと、オレも敵わない気がしてきた。
 それに加え、ボス特有の高い身体能力を持つタマモ、前衛としても一流のフィオナ。正直、この環境下でまともにやって両者に勝てる気がしない。
 ここの天は二物以上与えるんだなぁ、などと言ったらフィオナからビンタの贈り物間違いなしだろう。今日まで努力してここまで高めてきた力なのだから。

「そういや、お前の視点は本体に影響あるのか?」
『あんまりないの。このような戦闘だと、混乱するだけで参考にしとらん。今の妾はほぼ独立した妾じゃな。』

 魔力はオレのものだし、思考もミニタマモのものという事か。大量に出すと、ミニタマモ同士で勝手に会話をし始めるのも納得である。

 攻防は続いており、タマモが攻勢に回っていた。
 ブラストとストライクの混合のような、風なのか氷なのか属性のはっきりしない攻撃を行うが、フィオナはシールドスフィアで受け流す。
 杖を振ると、今度は弧を描くように収束したブラストが複数放たれ、タマモの周囲に着弾し、数本の氷柱が出来る。

【チェーンバインド・アイス】

 氷柱から氷の鎖が伸び、タマモの体を縛り上げる。想定外だったのか、避けきれずに泡を食ったような状況のようだ。
 そこで手を緩めないフィオナ。

【アイス・ブラスト】

 間髪を入れずに放たれた一撃はタマモに直撃し、タマモを完全に氷付けにしたのであった。

『おお、つめたいむすめが一本取ったか。』
「奇策も良いところだがな。チェーンバインドはあんな出し方も出来るのか…」

 氷の鎖は氷柱を変化させた物のようで、氷柱が出来た時より小さくなっている。
  フィオナはまだ臨戦態勢を解いておらず、氷付けのタマモも10秒程度で氷と鎖と氷柱を粉砕して元に戻った。

「やられた!妾の負けじゃ。」

 あっさり負けを認めて鉄扇を引っ込めると、フィオナも杖を片付けてタマモに歩み寄る。

「今のを対処されていたら、もう打つ手がありませんでしたわ。」
「初見では無理じゃったが、2度目はこうはいかんぞ?」
「当然でしょう?」

 握手を交わし、互いの健闘を称え合う二人。

「向こうでも沸いておるの。
 バニラ、アリス、ユキ、ソニア、遥香と悠里も楽しそうに話をしておる。
 逆に、魔法が不得手な連中、そこまで扱いきれない連中は唖然としておるわ。」

 想像に容易い。

「ストライクで攻撃の軌道を逸らしつつカウンターを撃ち込むヤツは、絶対に真似しないようにと釘を刺してくれ。
 あれはフィオナだから出来る芸当だ。」
『みんな目が泳いでおるのう。』

 近いタイプの遥香ならもしかして、とは思うが、恐らく今は無理だろう。以前なら出来たかもしれないが…

『フィオナよ、バニラがチェーンバインドの出し方を褒めておる。わたしにも無かった発想だと。』

 仕様外の使い方だったか。
 分かっていたなら、バニラから説明を受けていたはずだしな。

「光栄ですわ。
 発見は偶然でしたし、実用性はあまりないと思っておりましたので。」
「そうじゃのう。鎖は簡単に壊せるが、動きは止まってしまう。一瞬が勝負を分けるなら十分な手段じゃよ。」
「決められずとも、プレッシャーになる。いい仕込みだったよ。」

 タマモもオレも、フィオナの一手を誉める。
 この方法は火、水、土、光、闇、様々な属性で使えそうだ。もしかしたら、チェーンバインド以外でも出来るかもしれない。

「一先ず休憩だ。テント内は暖めておいたぞ。」
「このままでも十分過ごせますが、ありがとうございます。」

 会釈をしてテントへと入っていった。
 タマモを見ると、タメ息を吐き、大きな尻尾と耳が小さくなっていく。

「どうだった?」
「何度も肝を冷やした。あの軌道ずらしは意味が分からぬ…
 御主らは揃いも揃ってどこかおかしいのじゃ…」
「あれは難しいな。」
「御主は魔法の扱いそのものがおかしい!」

 プンプンと聞こえそうなビッグタマモ。
 地団駄を踏む下駄のような履き物の音が小気味いい。

「そうか?オレにはお前たちのような戦い方は出来ないしなぁ。」
「御主ならどう戦っていた?」
「箱とピラーも出して火力と物量で攻めるな。」
「それこそ、妾たちには出来ぬ。
 フィオナと妾はこれでタイプが近いからの。だからこそ、あの独特な魔力の錬成、魔法の展開の分析は為になる。」
「なるほどな。そろそろ飯にしようかと思うが、食うか?」
「もちろんじゃ。それを通して色々な味は伝わってくるが、実際に食べていないから生殺しも良いところでの…」

 ミニタマモを指しながら恨めしそうに言う。
 便利だが不憫である…
 VRで味までは再現できていなかったのは、不幸中の幸いかもしれないな。

「すぐ食べられる物をいくつか用意してもらってきた。嫁と娘達の力作…これは誰のだ?」

 ぐちゃっとなってギリギリ食べられる程度に焦げたプレストーストもある。
 これは誰が作ったんだ…?

「…愛を感じるのう。」
「そういう事にしておいてくれ…」

 それはオレが温めていただくことにした。中身が見えないのが余計に怖い…




 謎の耐性貫通バッドステータスが付与されたものの、楽しい昼食と昼休みを経て、剣と盾を使った戦闘も行い、今はその反省会が行われていた。
 結果はフィオナの惜敗。良い所まで行ったが、経験の差が出た負けと言えるだろう。
 とは言え、タマモも4割くらいの力で戦っているようなので、フィオナとしては全く及ばなかったという気持ちが強いはずだ。

「剣の腕は良いが体術がまだまだじゃのう。絶好の機会に、足や魔法が出て来なかったのが勝敗の差じゃな。」
「反省しております。やはり、剣と盾で、という思いが勝ってしまいますので…」
「近接も十分強いのは認めるが、特別強いという訳ではないのが惜しいのう。」
「それは身に滲みておりますわ…」

 カトリーナという師に、柊というライバルがいるのだ。越えたくても越えられない壁になっているに違いない。
 魔法ありでは恐らく柊と五分五分だろうが、なしだとフィオナの勝ちは薄い。
 カトリーナ相手だと、どちらでも勝率3割程度というのがなんとも不思議だ。あのメイドの姿をした何か、最近は魔法を打ち返す事があるから…
 それが確実になった暁には、メイドより魔導師殺しを名乗るべきだろう…

「枠に囚われ過ぎておるのがいかんのう。
 動きも、魔法もじゃ。そこまで出来ておるのなら、もっと独自色を出していくべきじゃな。」
「そうですか…」

 そう呟いてチラッとオレを見る。
 剣技で教えられる事はなにもないぞ?

「これを参考にしてはいかん。一歩進む為のヒントだけで止めておくが良い。」

 鉄扇で突くのは止めてくれ。そこそこ痛いし、何より冷たい。

「対峙する相手の口の中で、触れずに魔法を爆発させそうなヤツは参考にしてはならんからな!」
「は、はい…」

 口酸っぱく言われてしまう。

「相手の口の中か…」
「おい、何を考えあがばばば!」

 出来てしまったようだ。
 口から水を吐き出すタマモ。フィオナも驚いて思わず立ち上がる。

「本当に試すヤツがあるかあぁぁ!!」

 ベシベシと鉄扇でオレの肩を叩く。痛いから止めてくれ。

「歯を磨く手間が省けただろう?」
「せめて言え!心の準備をさせよ!!
 御主は本当にどう変わろうと御主だな!?」

 似たような事をしたことがあるようだ。

「そうだ。アリスからの送り物がある。メイプル、アクアとの合作だ。」
「ほう?」

 亜空間収納から贈り物を出して渡す。
 渡したものを広げると、満開という言葉がピッタリの笑顔になった。

「おおー…おおー!着物ではないか!それも、妾が着ていた物よりずっと素材も良い!着替えてくる!」

 勢い良くテントへと駆け込むタマモ。
 その様子を微笑ましく思いながら、オレたちは眺めていた。

「ユーリ達を見ているようですわ。」
「服の贈り物なんてなかっただろうしな。元の着物も出来が良かったって、アリスとメイプルが褒めていたよ。」
「由来が気になりますわね。きっと名のある縫士のものに違いありませんわ。」

 少し前に、試作品を悠里に着せて楽しんでいた。あれもなかなか良く、バニラには表情が緩みっぱなしだったと言われたがお互い様である。

「どうかのう?」

 少し照れ臭そうに金の刺繍の入った真っ白い着物を着て現れる。元々、着物着崩していたので、その事をどうこう言うのは野暮だろう。

「似合っておりますわ。」
「そうだな。」
「見た目より軽くて驚いた。前のも気に入っておったが、これはもっと気に入った!」

 はしゃぎながらくるっとその場で一回転してみせる。白い着物の裾が遠心力で浮き上がり、躍動感を見せてくれる。このはしゃぎ様、アリスも喜ぶことだろう。

『御主の嫁も笑顔で見ておるのう。喜んでもらえたのが嬉しいようじゃ。』

 なんだかミニタマモがタマモとすっかり別個体になってる気がするが、突っ込まないでおこう…

 こんな感じでタマモとフィオナと楽しく過ごしながら1日目は終了する。
 明日はもっとレベルを上げて、魔法戦中心に3戦という予定を組み、別々のテントで就寝となった。
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