248 / 307
第2部
75話
しおりを挟む
悠里の寝返りパンチで目が覚めてしまい、いつもより若干早い1日の始まりとなった。
アレックスもあまり寝相が良くなく、布団が蹴飛ばされており、蹴飛ばされた布団はアリスの方に行っており、とても寝苦しそうにしていた。
まあ、子供はこのくらいヤンチャじゃないと逆に心配である。
普段なら訓練をするところだが、まだ施設が開いていないと思うのでどうしたものかと考えているとタマモが出てくる。
『夕べはお楽しみじゃったかの?』
「親子団欒という意味でな。アレックスが楽しそうに話す姿は嬉しかったよ。」
『お主も子供達にはだいぶ気を遣っておるの?』
「気を遣い、遣われだと思うがな。』
特に息子達からはそんな雰囲気を強く感じる。何か望む物や、やって欲しい事とかは無いのだろうか?
『御主の息子…長男は魔導具技師に憧れておるようじゃな?』
「ああ、そんな感じだな。」
アレックスは暇を見てはバニラ、リリ、梓から作成指導を、アリス、アクアからはデザイン指導を受けている姿を見ている。
アリス同様、戦うよりもこういう方面に誘導した方が良いかもしれないな。
『残念じゃの。跡継ぎは魔法剣士や冒険者よりも物作りがしたいようで。』
「オレも嫌いじゃないからな。
ある程度、戦える技術を身に付ければ後は自分のやりたい事をやってもらえば良いさ。」
『御主の言うある程度が信用ならん。』
それについては気を付けよう。
我が身守れる程度、と思ってはいるが、それ以上を求めてしまいそうだ。
『妾の見立てでは、北方エルフの息子が一番魔法剣士に向いておるかの。ジェリーはちょっとわからぬ。』
「悠里ほど運動神経も悪くないからな。」
『うむ。まだ幼すぎるのもある。』
まだ6歳だ。決めるには早すぎる。
『今日はどうするのじゃ?』
「ドワーフの聖域へ行こうかと思う。目当てのものがあれば、梓にコピーしてもらう。」
『そんなに良いものがあるのか?』
「分からない。あれば、オレの武器はもう更新の必要はなくなるな。」
ゲームではメインストーリーの進行によって、プレイヤーの望む形で得られるユニークウェポン。その片手剣バージョンがオレの望む武器だ。
「【ドゥームブレイカー】なんて大仰な名前が付けられていた、魔力がそのまま攻撃力になる唯一無二の武器だよ。」
『破滅を破壊する者か。確かに御主であれば喉から手が出るほど欲しい性能じゃの。
じゃが、実在するとしたら、既に盗まれておるのではないか?』
「聖域から持ち出せればな。奉納されたものが持ち出せない仕様もそのままだと信じたい。」
持ち出せるとヤバい武器がかなりあるので、その仕様は変わらないでいただきたいものである。
『なるほど。聖域じゃから奉納か。盗み出すのはとんだ罰当たりになるの。』
「技術は見て盗めの極致だな。完成品だけで何処まで分かるかは疑問だが。」
極上のポーションがあったとして、その完成品を見せられて再現できるかと問われれば、オレには出来そうもない。
だが、中にはそこから得られる限られた情報を頼りに再現出来るヤツもいる。今の梓にはバニラも居るし、オレも居る。可能な限りの分析をして、様々な方向から再現をしてもらいたい。
『ハルカの武器もそれで協力すれば良かったのではないか?』
「梓も、刀は自力だけでやってみたかったみたいだしな。構造が根本から違うのは想定していなかったようだし。」
『職人の意地というヤツか。』
「時間があればもっと任せても良かったが…」
とは言え、あの様子では1年、2年経っても気付けたとは思えない。バニラが知っていて良かった。
『難しいの。プライドを折らず、失敗を認めさせるのは。
ハルカが増えては困るじゃろ?』
「だから、梓もすんなり受け入れたんだろう。まあ、遥香の為に変な意地を通すわけにはいかないと思ってもいそうだが。」
『姉妹揃ってハルカには甘いのぅ。』
確かにそうだ。
バニラと柊、特にバニラは言うべきはしっかり言う。だが、梓はそういう所を見たことがない。二人に任せているのだろうか?
『一番甘いのは御主じゃよ。御主、子供達を叱ったことはあるか?』
「…むう。」
遥香が話を聞かずに飛び出して腹立たしい事はあったが、ちゃんと叱る事はなかったなぁ…
『だからハルカはあんな感じなのじゃろう。自由にさせ過ぎた結果、大事故になったわけじゃな。』
「だからこそ、得られた物も多いが。」
『まあ、否定はせぬ。もっと落ち着いていたら、ソニアはハルカをライバルと認めなかったかも知れないしの。』
「そうなのか?」
その辺りは初耳だ。
同じクラスで、当初は遥香が世話を焼かれていたというのは聞いている。
『あの性格だから、御主や姉達の事で上級生にも噛み付く。危なっかしくて放っておけなかったそうじゃ。』
「想像できるよ…」
あの小さかった『リンゴ』が、白閃法剣やら四肢切りなんて呼ばれている事に、その先輩達はどう思っているのだろうか?自分達が育てた、くらいに思う猛者は居るだろうか?
「ふぁあぁ…おはよう。今日も早いわね…」
アリスが欠伸をしながらベッドから出てきた。
外はもうだいぶ明るいが、冬ならまだ真っ暗な時間だろう。
「悠里のパンチで目が覚めてな…」
「ああ、それで離れて寝てたのね…
私は暑苦しくて目が覚めちゃったわ。」
寝苦しそうにしていたしな。
悠里はアリスが殴り起こされないように離して置いたが、杞憂だったかもしれない。
『お前も遥香を叱っている姿は見ないの?甘やかしてもいないようじゃが…』
「そんな話をしてたの?
まあ、娘と言うより一番下の妹みたいだしね。妹のライバルでもあるし。
ちょっと顔を洗ってくるわ。」
そう言って、洗面所の方へと向かっていった。
『ああ、そうじゃった。ソニアと同じ様に扱っておる訳じゃな。』
「バニラ以外はほぼ同じ距離感に見えるな。
バニラは色々と近いからというのもあるし。」
『あれとも姉妹や友人みたいな関係じゃの。
カトリーナ以外は母親として付き合っているようには見えぬ…』
「まあ、歳が近すぎるからな…」
ユキに至っては、当時はヒュマスで言えば10代半ばだったのだろう。流れで、とは言え、なかなか危ない橋を渡ったものだ…
『節操がないの。』
「そう言われると何も言えない…」
「おはようございます…」
悠里とアレックスも起きてきたのでここで話は切り上げ、朝の準備をする事にした。
目的は早めに済ませよう、という事でオレたちはドワーフの聖域を目指すことにした。
女将さんの説明だと、ほぼ観光地と化しているらしく、大所帯で行っても問題ないとの事。
という事で、一家総出でやって来たのは大展示場の地下。聖域が展示場というらしさもそのままである。
「聖域って言うから神殿や教会みたいに厳かな場所を想像してたけど…」
「まあ、そうだよな。」
遥香の言葉に頷く事情を知らないオレ、バニラ、梓以外の面々。
「ドワーフの職人にとっては間違いなく聖域だよー。古今東西の職人が奉納した自己の極限を振り絞った物ばかりで、これが聖域じゃないならこの世に聖域なんて存在しないんだからー!」
意見には個人差があります、という事にしよう。信仰に厚い方のアリスが複雑な顔をしているからな。
まずは一通り、梓とバニラの見立てを聞きながらの鑑賞会となり、その後に各々で気になる物を見るという流れとなる。
ただ、ジャンルごとに分類はされているものの数が多く、全てをという訳にはいかず、二人が気になる物だけにしてもらった。
「この槍は実用性も高いけど、とにかく戦場で目立つ事を意識したみたいだねー。このヒラヒラとか、真っ赤な柄とか凄く目立つと思うよー」
「この斧、重量増加の刻印が為された上に、エンチャント6積みが可能で、更に魔石から魔力を抽出する機能もある。魔導具にも精通した職人の作品だろう。ただ、耐久性がガラスみたいになっているのが…」
「このナックルダスター、シンプルだけど凄い拘りを感じる。量産品じゃなく、誰かの手にピッタリ合うようにした物だと思うなー。あと、刻印も施されていて、この小さな武器の極限を目指したんだろうねー」
「THE魔法剣と呼べる模範的な疑似魔法剣だな。見事な魔力撃の刻印、魔力強化の刻印だが、今となっては前時代的と評するしかない。とは言え、低位のゴーストバスターとしてなら十分過ぎる作品だぞ。」
と、梓とバニラの所感を聞きながら見て来たところで梓の足が止まった。
視線の先にある物を見て、オレは理由を察する。
「…覚悟はしてたけど、そっか、ちゃんと奉納してあったんだ。」
カテゴリーは剣。だが、置いてあるのは一振りの刀であった。台に刻まれた作者名はタケノコとなっている。
梓が手を伸ばすと、魔力に反応して結界が消え、手に取る事が出来るようになった。本人だと認められたようである。
「なまくら丸かぁ…」
その名を付けて奉納する事に、どれほど失ったものがあったのだろう。
あらゆる可能性を犠牲にして、生涯を懸けた証の一振りに付けるべき名前ではない。
刀を抜き放つと、それは刀からかけ離れた刀身の…曲剣だった。結局、これを刀だと言い張るしかなかったようである。
「…ちょっとどう向き合えば良いか分からないよ。」
そう言って、刀身を再び鞘に納めようとした所で遥香が梓の肩を掴んで止めた。
「何か書いてあるよ。ちょっと、メガネにするから…うん、間違いない。刀身と鞘の内部に文字が見える。」
「じゃあ、おとーちゃん、ボックス出してー」
「おう。」
亜空間収納から作業台代わりの箱を出し、布を敷いて梓の前に移動する。
先に刀身を遥香に渡すと、遥香がバニラに書いてあることをメモするように頼んだ。
鞘を分解した梓は内部に記された物を見て、固まった。
「…バカだなぁ。ここに書いたら、私以外に読めないのに…」
鞘には何枚もの木板が入っており、作成までの失敗が細かく記されていた。
玉鋼の精製から挑んだらしく、そこで既に10年以上の失敗を経て挫折し、ミスリルやブルーメタルを用いて刀にする方法を模索したらしい。
「結局、作ったのはただの鉄の塊かぁ…」
梓の言う通り、それは刃物とは呼べないただの金属の塊。これを当時の梓は何を思って奉納したのか。
恐ろしくなり、深く詮索する勇気がオレには持てない…
「おとーちゃん、組成とか分かる?」
遥香から曲剣を受け取り、それをじっくり観察する。
「おい、これ…」
看破が通り、とんでもない事実が判明した。
「…和鉄だ。ちゃんと和鉄は作れていたんだ!」
「えっ…」
驚いた様子で鞘に納められていた木板を読み込む梓。木板の字はヨレヨレで、見るに耐えないが、それでも梓はしっかりとメモを取る。
そして、書き写した後、再び来た時のように曲剣を安置した。
「良いのか?」
「うん。また、私たちが召喚された時、これがないときっと困るから。」
「またはないと思いたいな…」
あはは、と少し力がない感じで笑う梓。
「ちゃんと私の遺志は引き継いだよ。だから、今度は、今度こそはしっかりと完成させて、ハルちゃんに恥をかかせない刀にしてみせるから。」
だが、すぐに切り替え、力強く刀作りへの決意を言葉にした。
「梓、今度はわたしたちもいる。力になれるなら何でもするぞ。」
「ありがとう、おねーちゃん。きっと、砂鉄集めからしないとダメだから、本当に大変だと思うけどよろしくねー」
「お、おう。任せておけ。」
安請け合いしてしまったな、と思いつつ、刀作りが実現しそうなのでひとまずホッとする。
だが、本来の目的である【ドゥームブレイカー】を見つけることは叶わなかった。
アレックスもあまり寝相が良くなく、布団が蹴飛ばされており、蹴飛ばされた布団はアリスの方に行っており、とても寝苦しそうにしていた。
まあ、子供はこのくらいヤンチャじゃないと逆に心配である。
普段なら訓練をするところだが、まだ施設が開いていないと思うのでどうしたものかと考えているとタマモが出てくる。
『夕べはお楽しみじゃったかの?』
「親子団欒という意味でな。アレックスが楽しそうに話す姿は嬉しかったよ。」
『お主も子供達にはだいぶ気を遣っておるの?』
「気を遣い、遣われだと思うがな。』
特に息子達からはそんな雰囲気を強く感じる。何か望む物や、やって欲しい事とかは無いのだろうか?
『御主の息子…長男は魔導具技師に憧れておるようじゃな?』
「ああ、そんな感じだな。」
アレックスは暇を見てはバニラ、リリ、梓から作成指導を、アリス、アクアからはデザイン指導を受けている姿を見ている。
アリス同様、戦うよりもこういう方面に誘導した方が良いかもしれないな。
『残念じゃの。跡継ぎは魔法剣士や冒険者よりも物作りがしたいようで。』
「オレも嫌いじゃないからな。
ある程度、戦える技術を身に付ければ後は自分のやりたい事をやってもらえば良いさ。」
『御主の言うある程度が信用ならん。』
それについては気を付けよう。
我が身守れる程度、と思ってはいるが、それ以上を求めてしまいそうだ。
『妾の見立てでは、北方エルフの息子が一番魔法剣士に向いておるかの。ジェリーはちょっとわからぬ。』
「悠里ほど運動神経も悪くないからな。」
『うむ。まだ幼すぎるのもある。』
まだ6歳だ。決めるには早すぎる。
『今日はどうするのじゃ?』
「ドワーフの聖域へ行こうかと思う。目当てのものがあれば、梓にコピーしてもらう。」
『そんなに良いものがあるのか?』
「分からない。あれば、オレの武器はもう更新の必要はなくなるな。」
ゲームではメインストーリーの進行によって、プレイヤーの望む形で得られるユニークウェポン。その片手剣バージョンがオレの望む武器だ。
「【ドゥームブレイカー】なんて大仰な名前が付けられていた、魔力がそのまま攻撃力になる唯一無二の武器だよ。」
『破滅を破壊する者か。確かに御主であれば喉から手が出るほど欲しい性能じゃの。
じゃが、実在するとしたら、既に盗まれておるのではないか?』
「聖域から持ち出せればな。奉納されたものが持ち出せない仕様もそのままだと信じたい。」
持ち出せるとヤバい武器がかなりあるので、その仕様は変わらないでいただきたいものである。
『なるほど。聖域じゃから奉納か。盗み出すのはとんだ罰当たりになるの。』
「技術は見て盗めの極致だな。完成品だけで何処まで分かるかは疑問だが。」
極上のポーションがあったとして、その完成品を見せられて再現できるかと問われれば、オレには出来そうもない。
だが、中にはそこから得られる限られた情報を頼りに再現出来るヤツもいる。今の梓にはバニラも居るし、オレも居る。可能な限りの分析をして、様々な方向から再現をしてもらいたい。
『ハルカの武器もそれで協力すれば良かったのではないか?』
「梓も、刀は自力だけでやってみたかったみたいだしな。構造が根本から違うのは想定していなかったようだし。」
『職人の意地というヤツか。』
「時間があればもっと任せても良かったが…」
とは言え、あの様子では1年、2年経っても気付けたとは思えない。バニラが知っていて良かった。
『難しいの。プライドを折らず、失敗を認めさせるのは。
ハルカが増えては困るじゃろ?』
「だから、梓もすんなり受け入れたんだろう。まあ、遥香の為に変な意地を通すわけにはいかないと思ってもいそうだが。」
『姉妹揃ってハルカには甘いのぅ。』
確かにそうだ。
バニラと柊、特にバニラは言うべきはしっかり言う。だが、梓はそういう所を見たことがない。二人に任せているのだろうか?
『一番甘いのは御主じゃよ。御主、子供達を叱ったことはあるか?』
「…むう。」
遥香が話を聞かずに飛び出して腹立たしい事はあったが、ちゃんと叱る事はなかったなぁ…
『だからハルカはあんな感じなのじゃろう。自由にさせ過ぎた結果、大事故になったわけじゃな。』
「だからこそ、得られた物も多いが。」
『まあ、否定はせぬ。もっと落ち着いていたら、ソニアはハルカをライバルと認めなかったかも知れないしの。』
「そうなのか?」
その辺りは初耳だ。
同じクラスで、当初は遥香が世話を焼かれていたというのは聞いている。
『あの性格だから、御主や姉達の事で上級生にも噛み付く。危なっかしくて放っておけなかったそうじゃ。』
「想像できるよ…」
あの小さかった『リンゴ』が、白閃法剣やら四肢切りなんて呼ばれている事に、その先輩達はどう思っているのだろうか?自分達が育てた、くらいに思う猛者は居るだろうか?
「ふぁあぁ…おはよう。今日も早いわね…」
アリスが欠伸をしながらベッドから出てきた。
外はもうだいぶ明るいが、冬ならまだ真っ暗な時間だろう。
「悠里のパンチで目が覚めてな…」
「ああ、それで離れて寝てたのね…
私は暑苦しくて目が覚めちゃったわ。」
寝苦しそうにしていたしな。
悠里はアリスが殴り起こされないように離して置いたが、杞憂だったかもしれない。
『お前も遥香を叱っている姿は見ないの?甘やかしてもいないようじゃが…』
「そんな話をしてたの?
まあ、娘と言うより一番下の妹みたいだしね。妹のライバルでもあるし。
ちょっと顔を洗ってくるわ。」
そう言って、洗面所の方へと向かっていった。
『ああ、そうじゃった。ソニアと同じ様に扱っておる訳じゃな。』
「バニラ以外はほぼ同じ距離感に見えるな。
バニラは色々と近いからというのもあるし。」
『あれとも姉妹や友人みたいな関係じゃの。
カトリーナ以外は母親として付き合っているようには見えぬ…』
「まあ、歳が近すぎるからな…」
ユキに至っては、当時はヒュマスで言えば10代半ばだったのだろう。流れで、とは言え、なかなか危ない橋を渡ったものだ…
『節操がないの。』
「そう言われると何も言えない…」
「おはようございます…」
悠里とアレックスも起きてきたのでここで話は切り上げ、朝の準備をする事にした。
目的は早めに済ませよう、という事でオレたちはドワーフの聖域を目指すことにした。
女将さんの説明だと、ほぼ観光地と化しているらしく、大所帯で行っても問題ないとの事。
という事で、一家総出でやって来たのは大展示場の地下。聖域が展示場というらしさもそのままである。
「聖域って言うから神殿や教会みたいに厳かな場所を想像してたけど…」
「まあ、そうだよな。」
遥香の言葉に頷く事情を知らないオレ、バニラ、梓以外の面々。
「ドワーフの職人にとっては間違いなく聖域だよー。古今東西の職人が奉納した自己の極限を振り絞った物ばかりで、これが聖域じゃないならこの世に聖域なんて存在しないんだからー!」
意見には個人差があります、という事にしよう。信仰に厚い方のアリスが複雑な顔をしているからな。
まずは一通り、梓とバニラの見立てを聞きながらの鑑賞会となり、その後に各々で気になる物を見るという流れとなる。
ただ、ジャンルごとに分類はされているものの数が多く、全てをという訳にはいかず、二人が気になる物だけにしてもらった。
「この槍は実用性も高いけど、とにかく戦場で目立つ事を意識したみたいだねー。このヒラヒラとか、真っ赤な柄とか凄く目立つと思うよー」
「この斧、重量増加の刻印が為された上に、エンチャント6積みが可能で、更に魔石から魔力を抽出する機能もある。魔導具にも精通した職人の作品だろう。ただ、耐久性がガラスみたいになっているのが…」
「このナックルダスター、シンプルだけど凄い拘りを感じる。量産品じゃなく、誰かの手にピッタリ合うようにした物だと思うなー。あと、刻印も施されていて、この小さな武器の極限を目指したんだろうねー」
「THE魔法剣と呼べる模範的な疑似魔法剣だな。見事な魔力撃の刻印、魔力強化の刻印だが、今となっては前時代的と評するしかない。とは言え、低位のゴーストバスターとしてなら十分過ぎる作品だぞ。」
と、梓とバニラの所感を聞きながら見て来たところで梓の足が止まった。
視線の先にある物を見て、オレは理由を察する。
「…覚悟はしてたけど、そっか、ちゃんと奉納してあったんだ。」
カテゴリーは剣。だが、置いてあるのは一振りの刀であった。台に刻まれた作者名はタケノコとなっている。
梓が手を伸ばすと、魔力に反応して結界が消え、手に取る事が出来るようになった。本人だと認められたようである。
「なまくら丸かぁ…」
その名を付けて奉納する事に、どれほど失ったものがあったのだろう。
あらゆる可能性を犠牲にして、生涯を懸けた証の一振りに付けるべき名前ではない。
刀を抜き放つと、それは刀からかけ離れた刀身の…曲剣だった。結局、これを刀だと言い張るしかなかったようである。
「…ちょっとどう向き合えば良いか分からないよ。」
そう言って、刀身を再び鞘に納めようとした所で遥香が梓の肩を掴んで止めた。
「何か書いてあるよ。ちょっと、メガネにするから…うん、間違いない。刀身と鞘の内部に文字が見える。」
「じゃあ、おとーちゃん、ボックス出してー」
「おう。」
亜空間収納から作業台代わりの箱を出し、布を敷いて梓の前に移動する。
先に刀身を遥香に渡すと、遥香がバニラに書いてあることをメモするように頼んだ。
鞘を分解した梓は内部に記された物を見て、固まった。
「…バカだなぁ。ここに書いたら、私以外に読めないのに…」
鞘には何枚もの木板が入っており、作成までの失敗が細かく記されていた。
玉鋼の精製から挑んだらしく、そこで既に10年以上の失敗を経て挫折し、ミスリルやブルーメタルを用いて刀にする方法を模索したらしい。
「結局、作ったのはただの鉄の塊かぁ…」
梓の言う通り、それは刃物とは呼べないただの金属の塊。これを当時の梓は何を思って奉納したのか。
恐ろしくなり、深く詮索する勇気がオレには持てない…
「おとーちゃん、組成とか分かる?」
遥香から曲剣を受け取り、それをじっくり観察する。
「おい、これ…」
看破が通り、とんでもない事実が判明した。
「…和鉄だ。ちゃんと和鉄は作れていたんだ!」
「えっ…」
驚いた様子で鞘に納められていた木板を読み込む梓。木板の字はヨレヨレで、見るに耐えないが、それでも梓はしっかりとメモを取る。
そして、書き写した後、再び来た時のように曲剣を安置した。
「良いのか?」
「うん。また、私たちが召喚された時、これがないときっと困るから。」
「またはないと思いたいな…」
あはは、と少し力がない感じで笑う梓。
「ちゃんと私の遺志は引き継いだよ。だから、今度は、今度こそはしっかりと完成させて、ハルちゃんに恥をかかせない刀にしてみせるから。」
だが、すぐに切り替え、力強く刀作りへの決意を言葉にした。
「梓、今度はわたしたちもいる。力になれるなら何でもするぞ。」
「ありがとう、おねーちゃん。きっと、砂鉄集めからしないとダメだから、本当に大変だと思うけどよろしくねー」
「お、おう。任せておけ。」
安請け合いしてしまったな、と思いつつ、刀作りが実現しそうなのでひとまずホッとする。
だが、本来の目的である【ドゥームブレイカー】を見つけることは叶わなかった。
0
あなたにおすすめの小説
不死身のボッカ
暁丸
ファンタジー
逓信(ていしん)ギルドに所属する甲殻人ボッカ。歩荷(ぼっか=運搬人)だからボッカと素性を隠す特急便の運搬人。
小柄な身体に見合わぬ怪力、疾風のスピードと疲れ知らずのスタミナで、野を越え山越え荷物を運ぶ。
逓信ギルドの運搬人になったのは、危険な迷宮には入りたく無いから。面倒と危険を避けてすんなり仕事を終わらせたいのに、時にギルド支部長に命じられ行きたくも無い魔獣狩りの運搬人として駆り出される。
割とチートな身体能力を持ちながら、戦闘能力はからっきしで過剰な期待はされたく無い。こんな殺伐とした異世界生活なんかとっとと終わらせて眠るように死にたいと願う、そんな<不死身の歩荷>のお話。
※種族名とか用語は前作と共通にしてますが、別の世界の物語です。世界観も若干違います。
※「歩荷」とは一般的にいう「ポーター」のことですが、長距離運送も兼任しています。
※作者が設定厨なので、時々本筋に関係ない解説回が入ります。
※第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしてみました。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
最強無敗の少年は影を従え全てを制す
ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。
産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。
カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。
しかし彼の力は生まれながらにして最強。
そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
異世界サバイバルゲーム 〜転移先はエアガンが最強魔道具でした〜
九尾の猫
ファンタジー
サバイバルゲームとアウトドアが趣味の主人公が、異世界でサバゲを楽しみます!
って感じで始めたのですが、どうやら王道異世界ファンタジーになりそうです。
ある春の夜、季節外れの霧に包まれた和也は、自分の持ち家と一緒に異世界に転移した。
転移初日からゴブリンの群れが襲来する。
和也はどうやって生き残るのだろうか。
文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~
カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。
気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。
だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう――
――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる