召喚者は一家を支える。

RayRim

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第2部

75話

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  悠里の寝返りパンチで目が覚めてしまい、いつもより若干早い1日の始まりとなった。
 アレックスもあまり寝相が良くなく、布団が蹴飛ばされており、蹴飛ばされた布団はアリスの方に行っており、とても寝苦しそうにしていた。
 まあ、子供はこのくらいヤンチャじゃないと逆に心配である。

 普段なら訓練をするところだが、まだ施設が開いていないと思うのでどうしたものかと考えているとタマモが出てくる。

『夕べはお楽しみじゃったかの?』
「親子団欒という意味でな。アレックスが楽しそうに話す姿は嬉しかったよ。」
『お主も子供達にはだいぶ気を遣っておるの?』
「気を遣い、遣われだと思うがな。』

 特に息子達からはそんな雰囲気を強く感じる。何か望む物や、やって欲しい事とかは無いのだろうか?

『御主の息子…長男は魔導具技師に憧れておるようじゃな?』
「ああ、そんな感じだな。」

 アレックスは暇を見てはバニラ、リリ、梓から作成指導を、アリス、アクアからはデザイン指導を受けている姿を見ている。
 アリス同様、戦うよりもこういう方面に誘導した方が良いかもしれないな。

『残念じゃの。跡継ぎは魔法剣士や冒険者よりも物作りがしたいようで。』
「オレも嫌いじゃないからな。
 ある程度、戦える技術を身に付ければ後は自分のやりたい事をやってもらえば良いさ。」
『御主の言うある程度が信用ならん。』

 それについては気を付けよう。
 我が身守れる程度、と思ってはいるが、それ以上を求めてしまいそうだ。

『妾の見立てでは、北方エルフの息子が一番魔法剣士に向いておるかの。ジェリーはちょっとわからぬ。』
「悠里ほど運動神経も悪くないからな。」
『うむ。まだ幼すぎるのもある。』

 まだ6歳だ。決めるには早すぎる。

『今日はどうするのじゃ?』
「ドワーフの聖域へ行こうかと思う。目当てのものがあれば、梓にコピーしてもらう。」
『そんなに良いものがあるのか?』
「分からない。あれば、オレの武器はもう更新の必要はなくなるな。」

 ゲームではメインストーリーの進行によって、プレイヤーの望む形で得られるユニークウェポン。その片手剣バージョンがオレの望む武器だ。

「【ドゥームブレイカー】なんて大仰な名前が付けられていた、魔力がそのまま攻撃力になる唯一無二の武器だよ。」
『破滅を破壊する者か。確かに御主であれば喉から手が出るほど欲しい性能じゃの。
 じゃが、実在するとしたら、既に盗まれておるのではないか?』
「聖域から持ち出せればな。奉納されたものが持ち出せない仕様もそのままだと信じたい。」

 持ち出せるとヤバい武器がかなりあるので、その仕様は変わらないでいただきたいものである。

『なるほど。聖域じゃから奉納か。盗み出すのはとんだ罰当たりになるの。』
「技術は見て盗めの極致だな。完成品だけで何処まで分かるかは疑問だが。」

 極上のポーションがあったとして、その完成品を見せられて再現できるかと問われれば、オレには出来そうもない。
 だが、中にはそこから得られる限られた情報を頼りに再現出来るヤツもいる。今の梓にはバニラも居るし、オレも居る。可能な限りの分析をして、様々な方向から再現をしてもらいたい。

『ハルカの武器もそれで協力すれば良かったのではないか?』
「梓も、刀は自力だけでやってみたかったみたいだしな。構造が根本から違うのは想定していなかったようだし。」
『職人の意地というヤツか。』
「時間があればもっと任せても良かったが…」

 とは言え、あの様子では1年、2年経っても気付けたとは思えない。バニラが知っていて良かった。

『難しいの。プライドを折らず、失敗を認めさせるのは。
 ハルカが増えては困るじゃろ?』
「だから、梓もすんなり受け入れたんだろう。まあ、遥香の為に変な意地を通すわけにはいかないと思ってもいそうだが。」
『姉妹揃ってハルカには甘いのぅ。』

 確かにそうだ。
 バニラと柊、特にバニラは言うべきはしっかり言う。だが、梓はそういう所を見たことがない。二人に任せているのだろうか?

『一番甘いのは御主じゃよ。御主、子供達を叱ったことはあるか?』
「…むう。」

 遥香が話を聞かずに飛び出して腹立たしい事はあったが、ちゃんと叱る事はなかったなぁ…

『だからハルカはあんな感じなのじゃろう。自由にさせ過ぎた結果、大事故になったわけじゃな。』
「だからこそ、得られた物も多いが。」
『まあ、否定はせぬ。もっと落ち着いていたら、ソニアはハルカをライバルと認めなかったかも知れないしの。』
「そうなのか?」

 その辺りは初耳だ。
 同じクラスで、当初は遥香が世話を焼かれていたというのは聞いている。

『あの性格だから、御主や姉達の事で上級生にも噛み付く。危なっかしくて放っておけなかったそうじゃ。』
「想像できるよ…」

 あの小さかった『リンゴ』が、白閃法剣やら四肢切りなんて呼ばれている事に、その先輩達はどう思っているのだろうか?自分達が育てた、くらいに思う猛者は居るだろうか?

「ふぁあぁ…おはよう。今日も早いわね…」

 アリスが欠伸をしながらベッドから出てきた。
 外はもうだいぶ明るいが、冬ならまだ真っ暗な時間だろう。

「悠里のパンチで目が覚めてな…」
「ああ、それで離れて寝てたのね…
 私は暑苦しくて目が覚めちゃったわ。」

 寝苦しそうにしていたしな。
 悠里はアリスが殴り起こされないように離して置いたが、杞憂だったかもしれない。

『お前も遥香を叱っている姿は見ないの?甘やかしてもいないようじゃが…』
「そんな話をしてたの?
 まあ、娘と言うより一番下の妹みたいだしね。ソニアのライバルでもあるし。
 ちょっと顔を洗ってくるわ。」

 そう言って、洗面所の方へと向かっていった。

『ああ、そうじゃった。ソニアと同じ様に扱っておる訳じゃな。』
「バニラ以外はほぼ同じ距離感に見えるな。
 バニラは色々と近いからというのもあるし。」
『あれとも姉妹や友人みたいな関係じゃの。
 カトリーナ以外は母親として付き合っているようには見えぬ…』
「まあ、歳が近すぎるからな…」

 ユキに至っては、当時はヒュマスで言えば10代半ばだったのだろう。流れで、とは言え、なかなか危ない橋を渡ったものだ…

『節操がないの。』
「そう言われると何も言えない…」
「おはようございます…」

 悠里とアレックスも起きてきたのでここで話は切り上げ、朝の準備をする事にした。



 目的は早めに済ませよう、という事でオレたちはドワーフの聖域を目指すことにした。
 女将さんの説明だと、ほぼ観光地と化しているらしく、大所帯で行っても問題ないとの事。
 という事で、一家総出でやって来たのは大展示場の地下。聖域が展示場というらしさもそのままである。

「聖域って言うから神殿や教会みたいに厳かな場所を想像してたけど…」
「まあ、そうだよな。」

 遥香の言葉に頷く事情を知らないオレ、バニラ、梓以外の面々。

「ドワーフの職人にとっては間違いなく聖域だよー。古今東西の職人が奉納した自己の極限を振り絞った物ばかりで、これが聖域じゃないならこの世に聖域なんて存在しないんだからー!」

 意見には個人差があります、という事にしよう。信仰に厚い方のアリスが複雑な顔をしているからな。
 まずは一通り、梓とバニラの見立てを聞きながらの鑑賞会となり、その後に各々で気になる物を見るという流れとなる。
 ただ、ジャンルごとに分類はされているものの数が多く、全てをという訳にはいかず、二人が気になる物だけにしてもらった。

「この槍は実用性も高いけど、とにかく戦場で目立つ事を意識したみたいだねー。このヒラヒラとか、真っ赤な柄とか凄く目立つと思うよー」
「この斧、重量増加の刻印が為された上に、エンチャント6積みが可能で、更に魔石から魔力を抽出する機能もある。魔導具にも精通した職人の作品だろう。ただ、耐久性がガラスみたいになっているのが…」
「このナックルダスター、シンプルだけど凄い拘りを感じる。量産品じゃなく、誰かの手にピッタリ合うようにした物だと思うなー。あと、刻印も施されていて、この小さな武器の極限を目指したんだろうねー」
「THE魔法剣と呼べる模範的な疑似魔法剣だな。見事な魔力撃の刻印、魔力強化の刻印だが、今となっては前時代的と評するしかない。とは言え、低位のゴーストバスターとしてなら十分過ぎる作品だぞ。」

 と、梓とバニラの所感を聞きながら見て来たところで梓の足が止まった。
 視線の先にある物を見て、オレは理由を察する。

「…覚悟はしてたけど、そっか、ちゃんと奉納してあったんだ。」

 カテゴリーは剣。だが、置いてあるのは一振りの刀であった。台に刻まれた作者名はタケノコとなっている。
 梓が手を伸ばすと、魔力に反応して結界が消え、手に取る事が出来るようになった。本人だと認められたようである。

「なまくら丸かぁ…」

 その名を付けて奉納する事に、どれほど失ったものがあったのだろう。
 あらゆる可能性を犠牲にして、生涯を懸けた証の一振りに付けるべき名前ではない。
 刀を抜き放つと、それは刀からかけ離れた刀身の…曲剣だった。結局、これを刀だと言い張るしかなかったようである。

「…ちょっとどう向き合えば良いか分からないよ。」

 そう言って、刀身を再び鞘に納めようとした所で遥香が梓の肩を掴んで止めた。

「何か書いてあるよ。ちょっと、メガネにするから…うん、間違いない。刀身と鞘の内部に文字が見える。」
「じゃあ、おとーちゃん、ボックス出してー」
「おう。」

 亜空間収納から作業台代わりの箱を出し、布を敷いて梓の前に移動する。
 先に刀身を遥香に渡すと、遥香がバニラに書いてあることをメモするように頼んだ。
 鞘を分解した梓は内部に記された物を見て、固まった。

「…バカだなぁ。ここに書いたら、私以外に読めないのに…」

 鞘には何枚もの木板が入っており、作成までの失敗が細かく記されていた。
 玉鋼の精製から挑んだらしく、そこで既に10年以上の失敗を経て挫折し、ミスリルやブルーメタルを用いて刀にする方法を模索したらしい。

「結局、作ったのはただの鉄の塊かぁ…」

 梓の言う通り、それは刃物とは呼べないただの金属の塊。これを当時の梓は何を思って奉納したのか。
 恐ろしくなり、深く詮索する勇気がオレには持てない…

「おとーちゃん、組成とか分かる?」

 遥香から曲剣を受け取り、それをじっくり観察する。

「おい、これ…」

 看破が通り、とんでもない事実が判明した。

「…和鉄だ。ちゃんと和鉄は作れていたんだ!」
「えっ…」

 驚いた様子で鞘に納められていた木板を読み込む梓。木板の字はヨレヨレで、見るに耐えないが、それでも梓はしっかりとメモを取る。
 そして、書き写した後、再び来た時のように曲剣を安置した。

「良いのか?」
「うん。また、私たちが召喚された時、これがないときっと困るから。」
「またはないと思いたいな…」

 あはは、と少し力がない感じで笑う梓。

「ちゃんと私の遺志は引き継いだよ。だから、今度は、今度こそはしっかりと完成させて、ハルちゃんに恥をかかせない刀にしてみせるから。」

 だが、すぐに切り替え、力強く刀作りへの決意を言葉にした。

「梓、今度はわたしたちもいる。力になれるなら何でもするぞ。」
「ありがとう、おねーちゃん。きっと、砂鉄集めからしないとダメだから、本当に大変だと思うけどよろしくねー」
「お、おう。任せておけ。」

 安請け合いしてしまったな、と思いつつ、刀作りが実現しそうなのでひとまずホッとする。
 だが、本来の目的である【ドゥームブレイカー】を見つけることは叶わなかった。
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