精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

文字の大きさ
83 / 508
第5章 冬休み、南部地方への旅

第82話 海の向こうの国のこと

しおりを挟む
 精霊と人との関係についての話が一区切りついたとき、ミルトさんが部屋の片隅においてあるものを指差して言った。

「テーテュスさんから頂いたあれ、私達の手に負える物ではありませんのでお父様に任せようと思うのですがよろしいですか。」

 鉄砲と言う物らしい。火薬の爆発するときに発する圧力で鉄の玉を飛ばす武器なんだって。
ご丁寧なことに、鉄砲本体に火薬と鉄砲玉を一揃えでお土産だといって持たしてくれた。

 なんでも、この鉄砲というのは弓矢の倍くらいの距離の標的を撃ち抜くことができ、弓のような熟練の技術が要らないんだって。
 南大陸では、鉄砲が出来てから一般市民から兵を徴用するようになって、それまでの騎士中心の戦争に比べ争いの規模が大きくなってきてるらしい。
 また、鉄砲よりも遥かに大きな鉄の玉を飛ばす大砲というものあるらしい、こっちは城壁を破壊するくらいの力があるそうだ。


 帝国の辺りも物騒だが、南の大陸も物騒なんだね。この国だけがのどかなのかな?
 南の大陸には魔法もないし、魔導具もない。
 でも、その分工業技術が発達しているんだって。大きな炉を使って鉄を大量に作ったり、水車を利用して機織りをしたり木材の切削加工をしたりしているらしい。
 また、テーテュスさんの船を見れば分るように造船技術も進んでいるようだ。
 この国だと、鉄は鍛冶屋さんが個人で加工しているし、水車は揚水と粉挽きくらいにしか使っていないそうだ。船に至っては大陸間の往復なんて夢のまた夢みたいだ。


 それで、テーテュスさんが鉄砲をくれたのは何故なのか。
 どうも、テーテュスさんが南大陸に持ち込んでいる魔導具に目をつけた国があるようだ。
 魔法の存在しない南大陸では、灯火の魔導具は言うに及ばず給水や着火の魔導具などでも重宝するらしい。
 従来は、ごく稀に南大陸との往復に成功した交易船が少数の魔導具を持ち帰っただけなので量産できないものだと思われていたようだ。
 ところが、テーテュスさんが何度もそこそこの量の魔導具を持ち帰ったことから、北大陸に魔導具の量産技術があることが知られたらしい。
 どうも大量の魔導具を手に入れたい国があるようだ。
 ならば、平和的に交易をすれば良いじゃないと思うのが普通だろうが、そこでこの鉄砲が出てくる。


 鉄砲が作られてから、南大陸の国では大陸内で戦争をするだけでなく、大陸の外で力にものを言わせ略奪することも増えたらしい。
 今まで南大陸の支配が及んでいなかった島々を侵略して略奪をするのが流行なんだって。 嫌な流行だ…。

 増長したある国が、鉄砲と大砲を武器にあわよくば北大陸を支配下に置こうと考えているようだ。
最悪、支配下に置けなくても単発で略奪できれば御の字と言う事らしい。
 魔導具を奪うだけではなく、昔から北大陸の人間が魔法を使えることは知られており捕らえて奴隷にでもすれば一石二鳥と考えているみたいなことをテーテュスさんは言っていた。

 それって、もう海賊だよね…。


     **********


 テーテュスさんの意図は、鉄砲を一揃え譲るから対策を考えろということらしい。

 ミルトさんもヴィクトーリアさんも頭を抱えている。
 いや二人が頭を抱えているのは、南の大陸対策ではないよ。
そういう政治絡みの事は王様や皇太子様の領分だ。

 ミルトさんが考えているのは、鉄砲なんてものを作って戦争に使おうものなら殺生を嫌う精霊の機嫌を損ねるのではないかということ。
 せっかく精霊の力を借りられるようになったのに、こんなことで機嫌を損なうのは嫌だと思っているようだ。

 一方で、ヴィクトーリアさん、鉄砲なんてものを知ったら戦好きの皇帝が嬉々として生産に乗り出すに違いないと考えているみたいだ。わたしもそう思う。
 きっと、反乱の制圧に鉄砲を持ち出すだろうって。
 これ以上無駄な争いはやめて平和的に国を治め、国土の復興に努めたいと考えているヴィクトーリアさんには頭が痛いことだろう。


 幸いにして、テーテュスさんによれば、南大陸の国が艦隊を送ったとしても北大陸にたどり着く船はごく一部、しかも相当傷ついているだろうとのこと。
 はたして、北大陸までたどり着いたとき戦う能力が残っているだろうかってテーテュスさんは言っていた。
 実際、少し前に艦隊を北大陸に送ったある国では、航海の困難な海域を乗り越えられず一部の船を失った挙句に引き返してきたそうだ。


 それと、鉄砲の弱点も教えてくれた。火薬って水分に弱くて湿気ると使えないんだって。雨の日は使えないって。
ただ、船に積んである大砲は、水がかからないように甲板の下に設置されているそうだ。
 水の魔法で火薬を湿らすというのは、船の大砲には使えそうもないね。


 まあ、今日明日襲来してくるわけでもないし、このことは王様達が考えてくれるでしょう。



 *臨時で1話投稿しています。
  通常通り20時にも投稿しますのでよろしくお願いします。

しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス 優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました お父さんは村の村長みたいな立場みたい お母さんは病弱で家から出れないほど 二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます ーーーーー この作品は大変楽しく書けていましたが 49話で終わりとすることにいたしました 完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい そんな欲求に屈してしまいましたすみません

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

処理中です...