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第5章 冬休み、南部地方への旅
第85話 港町には大人の病気があるらしい
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*お昼に1話投稿しています。
お手数ですが、お読みでない方は1話戻ってお読みください。
**********
しばらく患者さんに治癒を施していると天幕の中にあまり柄の良くない二人組みが入ってきた。
見た目に反してきちんと並んで順番を守っているので悪い人物ではないようだ。
「俺達の仲間が、船乗りの死病をここで治して貰ったと聞いて来たんだ。
俺ら二人、ちょいとドジ踏んじまって病気を貰っちまったんだ。
このまま国に帰ったら女房に殺されちまう、何とかして貰えねえだろうか。
俺は痒くてたまんねえし、こいつは凄え痛いらしいんだ。」
二人のうちの一人がそう言った。
「ええと、どこが痒くて、どこが痛いのですか?」
わたしは他の人を診る時と同様に最初に患部の確認をする。
二人は一瞬気まずそうに顔を見合わせて、
「どこかって、それは…」
と何か言いかけたところで、慌ててわたしの傍に駆け寄ったフェイさんが口を挟んだ。
「最後まで言わなくてもいいです。子供に向かって何てことを言うつもりなんですか。」
二人組みにそう言ったフェイさんは、わたしに向かって指示を出した。
「ターニャちゃん、この二人がどんな病気かは私が解っています。
ターニャちゃんはいつも通り、『浄化』をかければいいです。
このお二人はこんな病気を貰うほど元気があるのですから、『癒し』は不要です。
あ、病気がうつるといけないのであまり近付かないでくださいね、汚らわしい。」
うーん、うつる病気なんだ。
汚らわしいって言うのだから少し強めに『浄化』した方が良いのかな?
他の人には病気で失った体力を回復するために『癒し』も一緒にかけているのに要らないんだ。
だいたい、病気なのに元気があるってどういうこと?
わたしは、二人の体の中から悪いものを消し去るイメージで光のおチビちゃんに『浄化』をお願いする。
少し強めにとイメージしたためか結構な量のマナをおチビちゃん達に持っていかれた。
光が二人を包み込みやがて消えていく。
「おおっ!痒くなくなったぞ。」
「俺も嘘のように痛みがなくなった。これで女房に顔向けができる。」
船乗りさん二人は大喜びだった。
フェイさんはそんな二人をあたかも汚物を見るような目で見ている。
船乗りさん二人が、わたしに感謝の言葉を述べて立ち去った後、フェイさんが忌々しげに言った。
「あの二人の病気は自業自得なのです。
命に関わる病気ではないので、罰が当たったんだと言って放って置きたいくらいです。
しかし、精霊神殿として活動する以上治療しない訳にはいかないし、何よりも放っておけばポルトの街で他の人に移すかもしれません。それだけは避けなければなりません。
今のような病気の方が来たら、私が指示しますのでターニャちゃんは『浄化』だけしてください。」
よくわからないが、さっきの病気に罹った人をフェイさんは軽蔑しているみたいだよ。
きっと何かそれだけの理由があるのだろう、そしてそれが今朝ミルトさんが注意して欲しいと言ったことなんだね。
**********
お昼時となり、わたし達子供組は精霊神殿の中に用意された昼食を四人で食べていた。
フロ-ラちゃんの話では今回は女性用の天幕は二つに仕切られミルトさんの方が見えなくなっていたそうだ。
また、フローラちゃんに聞こえないようにミルトさんは声を潜めて会話していたらしい。
よっぽど、フローラちゃんに知られたくないことがあるんだね。
そんな話をしているとミルトさんが部屋に入ってきた言った。
「ごめんなさいね。今回は今までと勝手が違ってやり難いでしょう。
本当はまだ小さいあなた方にこういう活動をしてもらうのは酷なことだと解っているの。
でも、創世教は治癒術の施術に高いお金をとっていて貧しい人を助けてはくれないの。
それに、帝国ほどではないにしろ『色なし』の人って差別されがちなので、『色なし』でも出来るんだということを示したいの。
だから、精霊から人を癒す力を授かったあなた達に協力してもらっているのよ。
とはいえ、港町にはちょっと子供には知って欲しくない大人の病気があって今日みたいなことになったの。」
ミルトさんに話では、船乗りさんは何ヶ月、長い場合は一年以上も航海に出ているそうだ。
そんな長い期間、家族と離れ離れになって淋しい船乗りさんが罹る病気なんだって。
港には、そんな船乗りさんの淋しさを癒してくれるお仕事があって、そのお仕事をしている人に船乗りさんの淋しさがうつってしまうことがあるんだって。
その淋しさがうつってしまったのが、ミルトさんが診ていた派手な格好のお姉さん達らしい。
でも、心の寂しさを癒すのって宗教の役割だって聞いたよ。
何で創世教がやらないのかな?
それに、心の寂しさを癒して病気がうつったのなら創世教の役割を代わりに果たしたのだから、創世教は率先して病気の治療をしないといけないと思うのだけど違うのかな?
一日の診療活動が終わって、撤収しようとしたときミルトさんの周りに派手な格好のお姉さん達が集まっていた。
お姉さん方はこれから出勤だそうだが、その前にミルトさんに一言お礼が言いたかったそうだ。
お姉さん方は口々にミルトさんに感謝の言葉をかけていた。
創世教の神官たちが相手にしてくれなかった自分達を無償で治してくれるなんてまるで女神様のようだとミルトさんは言われていた。やったぁ、聖女から女神に昇進だよ!
これだけ感謝されるのなら、この活動をやった甲斐があったよね。
ちなみにこれもミルトさんから聞いた話だが、淋しい船乗りさんが罹る病気、命には関わらないけど家に持ち帰ると間違いなく家庭が崩壊するって、やっぱり怖い病気なんだ。
お手数ですが、お読みでない方は1話戻ってお読みください。
**********
しばらく患者さんに治癒を施していると天幕の中にあまり柄の良くない二人組みが入ってきた。
見た目に反してきちんと並んで順番を守っているので悪い人物ではないようだ。
「俺達の仲間が、船乗りの死病をここで治して貰ったと聞いて来たんだ。
俺ら二人、ちょいとドジ踏んじまって病気を貰っちまったんだ。
このまま国に帰ったら女房に殺されちまう、何とかして貰えねえだろうか。
俺は痒くてたまんねえし、こいつは凄え痛いらしいんだ。」
二人のうちの一人がそう言った。
「ええと、どこが痒くて、どこが痛いのですか?」
わたしは他の人を診る時と同様に最初に患部の確認をする。
二人は一瞬気まずそうに顔を見合わせて、
「どこかって、それは…」
と何か言いかけたところで、慌ててわたしの傍に駆け寄ったフェイさんが口を挟んだ。
「最後まで言わなくてもいいです。子供に向かって何てことを言うつもりなんですか。」
二人組みにそう言ったフェイさんは、わたしに向かって指示を出した。
「ターニャちゃん、この二人がどんな病気かは私が解っています。
ターニャちゃんはいつも通り、『浄化』をかければいいです。
このお二人はこんな病気を貰うほど元気があるのですから、『癒し』は不要です。
あ、病気がうつるといけないのであまり近付かないでくださいね、汚らわしい。」
うーん、うつる病気なんだ。
汚らわしいって言うのだから少し強めに『浄化』した方が良いのかな?
他の人には病気で失った体力を回復するために『癒し』も一緒にかけているのに要らないんだ。
だいたい、病気なのに元気があるってどういうこと?
わたしは、二人の体の中から悪いものを消し去るイメージで光のおチビちゃんに『浄化』をお願いする。
少し強めにとイメージしたためか結構な量のマナをおチビちゃん達に持っていかれた。
光が二人を包み込みやがて消えていく。
「おおっ!痒くなくなったぞ。」
「俺も嘘のように痛みがなくなった。これで女房に顔向けができる。」
船乗りさん二人は大喜びだった。
フェイさんはそんな二人をあたかも汚物を見るような目で見ている。
船乗りさん二人が、わたしに感謝の言葉を述べて立ち去った後、フェイさんが忌々しげに言った。
「あの二人の病気は自業自得なのです。
命に関わる病気ではないので、罰が当たったんだと言って放って置きたいくらいです。
しかし、精霊神殿として活動する以上治療しない訳にはいかないし、何よりも放っておけばポルトの街で他の人に移すかもしれません。それだけは避けなければなりません。
今のような病気の方が来たら、私が指示しますのでターニャちゃんは『浄化』だけしてください。」
よくわからないが、さっきの病気に罹った人をフェイさんは軽蔑しているみたいだよ。
きっと何かそれだけの理由があるのだろう、そしてそれが今朝ミルトさんが注意して欲しいと言ったことなんだね。
**********
お昼時となり、わたし達子供組は精霊神殿の中に用意された昼食を四人で食べていた。
フロ-ラちゃんの話では今回は女性用の天幕は二つに仕切られミルトさんの方が見えなくなっていたそうだ。
また、フローラちゃんに聞こえないようにミルトさんは声を潜めて会話していたらしい。
よっぽど、フローラちゃんに知られたくないことがあるんだね。
そんな話をしているとミルトさんが部屋に入ってきた言った。
「ごめんなさいね。今回は今までと勝手が違ってやり難いでしょう。
本当はまだ小さいあなた方にこういう活動をしてもらうのは酷なことだと解っているの。
でも、創世教は治癒術の施術に高いお金をとっていて貧しい人を助けてはくれないの。
それに、帝国ほどではないにしろ『色なし』の人って差別されがちなので、『色なし』でも出来るんだということを示したいの。
だから、精霊から人を癒す力を授かったあなた達に協力してもらっているのよ。
とはいえ、港町にはちょっと子供には知って欲しくない大人の病気があって今日みたいなことになったの。」
ミルトさんに話では、船乗りさんは何ヶ月、長い場合は一年以上も航海に出ているそうだ。
そんな長い期間、家族と離れ離れになって淋しい船乗りさんが罹る病気なんだって。
港には、そんな船乗りさんの淋しさを癒してくれるお仕事があって、そのお仕事をしている人に船乗りさんの淋しさがうつってしまうことがあるんだって。
その淋しさがうつってしまったのが、ミルトさんが診ていた派手な格好のお姉さん達らしい。
でも、心の寂しさを癒すのって宗教の役割だって聞いたよ。
何で創世教がやらないのかな?
それに、心の寂しさを癒して病気がうつったのなら創世教の役割を代わりに果たしたのだから、創世教は率先して病気の治療をしないといけないと思うのだけど違うのかな?
一日の診療活動が終わって、撤収しようとしたときミルトさんの周りに派手な格好のお姉さん達が集まっていた。
お姉さん方はこれから出勤だそうだが、その前にミルトさんに一言お礼が言いたかったそうだ。
お姉さん方は口々にミルトさんに感謝の言葉をかけていた。
創世教の神官たちが相手にしてくれなかった自分達を無償で治してくれるなんてまるで女神様のようだとミルトさんは言われていた。やったぁ、聖女から女神に昇進だよ!
これだけ感謝されるのなら、この活動をやった甲斐があったよね。
ちなみにこれもミルトさんから聞いた話だが、淋しい船乗りさんが罹る病気、命には関わらないけど家に持ち帰ると間違いなく家庭が崩壊するって、やっぱり怖い病気なんだ。
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