精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第5章 冬休み、南部地方への旅

第102話 初めて船で海に出た

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     **********


「うわー、風が気持ちいい!」

 わたし達は接収した軍艦コンキスタドールの甲板にいる。
 帆いっぱいに風を受けて沖合いに向け進む船、頬に当たる風が心地よい。

「海って広いね!向こうに何も見えないけど、ずっと海が続いているんでしょう?」

「ええ、そうよ。このお船で何日も何日もかかっても陸地にたどり着かないくらい広いのよ。」

 ハンナちゃんの問いかけにミルトさんが答える。
 ミルトさんの足にしがみ付くようにして揺れる甲板に立つハンナちゃんの仕草が微笑ましい。


 きっかけは、ハンナちゃんが大きな船に乗ってみたいと言ったことだった。
また、テーテュスさんの船に遊びに行こうかと言うと、そうではなく動いている船に乗りたいと言うのだ。
 ハイジさんを除いて船に乗ったことのないわたし達はハンナちゃんのお願いに便乗した。
ミルトさんに船に乗ることはできないかと相談すると、最初は難しいという返事が帰って来た。
なんでも、手漕ぎの小船ならともかくハンナちゃんが乗ってみたいという大きな船は簡単に動かすことができないらしい。
 
 半ば諦めていたが思わぬところから希望が叶うこととなった。
 接収したコンキスタドールの試験運航をテーテュスさんに依頼したので、便乗させてくれるというのだ。
 コルテス王国の軍艦三隻を接収したのはよいが、ポルトにはあのクラスの大型船を動かせるクルーがいないそうだ。
 そこで、懇意になったテーテュスさんがポルトにいる間に、操船を依頼し試乗してみることになったらしい。

 沖合いに停泊していた三隻をテーテュスさんに港へ廻航してもらった際にわかったことだけど、かなり損傷していた他の二隻と違ってコンキスタドールの船体にはほとんど損傷が見られなかったそうだ。
 さすが、艦隊の旗艦をつとめる最新鋭艦だね、見た目は塗装が剥げてボロボロに見えるけど。

 テーテュスさんから運航に支障がないとお墨付きを貰ったので試験運航を行うことになったんだって。


 わたし達を乗せてくれるのは色々と活躍したご褒美だって。
 おチビちゃん達を使った情報収集から始まって、病人の治療まで色々やったからね。
まだ十歳にもならない子供にやらせることじゃないと思うよ、わたしは。
 今回のことで一番大変な思いをしたのは、実は病人の処置じゃないんだ。
 もちろん、子供のわたし達にとって体力的にきつかったのは病人の処置だけど…。

 精神的にきつかったのは、接収した三隻の後始末だったんだよ。
 テーテュスさんのクルーによって港に係留された三隻を清掃する必要があったんだ。
 公爵は、兵士達に三隻の清掃作業を命じたが、兵士達が中に入ってびっくり。

 想像してみて、艦内に寝たきりの病人が足の踏み場もないほどいる状態を。
そう、艦内は色々な汚物で汚れて、想像を絶する状態だったみたいだ。

 兵士を中に入れて清掃作業をすると清掃をした兵士達が悪い病気に罹りそうだったらしい。
 そこで、公爵が申し訳なさそうにわたし達のもとにやってきたの。

 やりましたよ、ミーナちゃんとフローラちゃんと三人がかりで。
 船の外から光のおチビちゃんにお願いして『浄化』をかけるの、外からなので何処が汚れているのか分らないから船内全体を全力全開で。
 清掃に入った兵士さん達が、汚れがきれいに消えていたって喜んでいた。

 きっとあれがあったから、今日わたし達を招待してくれたんだと思う。


     **********


 今日の試験航行は、港から沖合いに出て少し航行して戻ってくるというもの。
数時間の予定だそうだ。

 係留されている岸壁に行くともう帆が張られ、出航の準備が出来ているとのことだった。
大きな船が、岸壁からゆっくりと離れていく様子は甲板から見ていても迫力があったよ。

 そして、港が小さく見えるところまで来て、ハンナちゃんが海の大きさに改めて驚いたところ。
船の回り全部が海だもんね、わたしも驚いているよ。

「こんな大きな船でも結構揺れるんですね。」
 
 わたしの右側で甲板の縁に捕まりながらミーナちゃんが言う。

「いえ、この船はほとんど揺れていないようなものですよ。さすが、大きな船ですね。」

 わたしの左側で、ハイジさんが感心したように真逆の感想を漏らした。

 ハイジさんは帝国から留学してくるときに、帝国の港町からポルト経由で来たらしい。
お姫様に瘴気の森の中を通らせるわけには行かなかったようだ。

 帝国で一番良い船を借り上げたらしいが、コンキスタドールより遥かに小さい船で、もの凄く揺れたらしい。
 それで今日は、あんまり乗り気じゃなかったんだ。

「私が留学してくるときもこんな船だったら良かったのに…。」

 ハイジさんには相当嫌な思い出だったらしく、実感のこもった呟きだった。


 ハンナちゃんは願いが叶ってご満悦だ。


「ねえ、お姉ちゃん、お船って楽しいね!
 ハンナ、大きくなったらお船に乗ってどこか遠くへ行ってみたいな!」

 ハンナちゃん、ここでそんなことを言ったらダメだよ。テーテュスさんに聞かれたら本当に南大陸まで連れて行かれちゃうから。


 ふと、海に目をやると大きな魚が、一匹、また一匹と、船に伴走するように飛び跳ねながら泳いでいるのが見えた。

「お姉ちゃん、見て、見て!
 おっきなお魚が、船に並んで泳いでいるよ!」

 ハンナちゃんが魚を指差して大はしゃぎする。
 その魚が飛び跳ねるごとに上がる水しぶきに、明るい陽光がキラキラと反射してとってもきれいだ。

 バタバタと色々起こったけれど、ポルトまで来て本当に良かったと思ったよ。


   *********

 楽しい時間はあっという間に過ぎて、まだ陽が高いうちにポルトの港に帰港した。

 コンキスタドールと他二隻は、改修して貿易船として使うらしい。

 この大陸の西には、さほど遠くない位置に西の大陸がある。
 いまは、オストマルク王国とその大陸の直接の交易はなく、帝国が間に入った交易となっているそうだ。

 それはひとえに、西の大陸の国にも、オストマルク王国にも、往復できる船と航海技術がなかったかららしい。

 帝国と西の大陸の国々とは定期的な交易があるようで、南大陸との間のように航海が困難な海域はないみたい。

 今回、南大陸から海を渡れる船が手に入ったので、船乗りを養成して西大陸との交易を考えているそうだ。
 船乗りの養成に時間が掛かるのですぐにはできないけどとミルトさんは言っていた。
 





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