精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

文字の大きさ
243 / 508
第9章 王都の冬

第242話 夕食後のひととき

しおりを挟む
 夕食後のリビングルーム、みんな集まって食後のティータイムを楽しんでいる。

「夕食もとっても美味しゅうございましたわ。
 まさか、ここでヴィーナヴァルトホテルの料理を頂けるとは思いませんでした。」

 エルフリーデちゃんは夕食をお気に召してくれたようだね、よかった。

「精霊はマナを糧としていて食べ物を取らないから味が理解できないの。
 精霊って何でも出来るように錯覚しちゃうけど味覚がないから料理は苦手なのよ。
 だから、わたしも精霊の森で育てられていた頃は、栄養はあるけどあまり味のしないものばかり食べていたの。
 精霊の森にいた頃は甘い果物が一番美味しい物だと思っていたくらいだから。
 人の社会に出てきて一番驚いたのが料理が美味しいと言うことかな。
 最近はフェイさんやソールさんが料理のレシピを買ってきて、レシピ通りに作ってくれるのでそれなりに美味しくなっているけど…。
 まだまだ、お客様に出せるほどではないみたいだからね。」

「それでテイクアウトしてくださったのですか。
 とっても有り難いことですが、よくヴィーナヴァルトが受けてくれましたね。
 この国一番と言われているホテルですのに…。」

 そういえば、この間、ルーナちゃんも感激していたね。ヴィーナヴァルトからテイクアウトするってそんなに大変なことなんだ。


     **********


 エルフリーデちゃんが夜の帳が下りた窓の外を見ながら言った。

「精霊の森にもちゃんと夜があるのですね。
 精霊は眠らないと聞いていたので一日中明るいのかと思っていました。」

「精霊は眠る必要はないんだけど、疲れはするみたいなの。
 疲れとはちょっと違うかな、マナが減少してしまうといえばいいのかな。
 精霊の森が春の陽ざしのようなのは光の下位精霊が自分の心地よい光を放っているからなんだ。
 光の下位精霊は森から得られる清浄なマナを糧として光を放っているのだけど、森は昼間の方が活発にマナを生み出すの。
 昼間は豊富なマナを糧として活発に光を放つのだけど、夜は生み出されるマナが減るので昼間のように光を放ったらマナ切れを起こしちゃうの。
 夜の間は光るのを止めてマナを蓄えているから、ちゃんと暗くなるみたいなの。」

「えっ、でも、精霊が休んでしまったら、森の外と同じように雪が降るのでは?」

「あ、今のは下位の精霊の話ね。
 精霊の森はか弱い下位精霊を育むための揺り篭みたいなものなの。
 森の環境は、中位や上位の精霊が下位の精霊の成育に適するように四六時中一定に保っているからそれは平気なの。」

 エルフリーデちゃんがわたしの説明で納得できるかはわからないけど、それ以上はわたしも知らないからね。そういうものだと思っておいて。


     **********

 
 マイヤーちゃんは別のことに関心があるようで、リビングの中を見回して何かに気付いたように言った。

「エルフリーデさんはそっちに関心がありますか。
 私は別のことが気になります。
 最初にこの部屋に通されたとき違和感があったのですが、部屋にいた時間が短かったのもあって違和感が何か分からなかったのです。
 いまやっと気が付いたのですが、この部屋の庭に面した壁、一面がガラスなのですね。
 こんな大きな一枚板のガラスなんて見た事がありませんでした。
 しかも、庭が素通しで見えるくらいな透明なガラスなんて信じられません。
 これも精霊の力で作られているのですか?」

 そう言えば以前ミルトさんが言っていたね、王国でもガラスを作る技術はあるけど大きな一枚板のガラスは作れないし、透明度も差して高くないと。

 ノーミードおかあさんから聞いたことがある、ガラスの原料はある種の鉱石だって。
 鉱石だったら土の精霊のノーミードおかあさんなら簡単に加工できると思うけど、多分これは違う。
 だって、わたしの育った精霊の森の家の地下倉庫にはガラス板が山ほどあったもの。
 これは、家の地下倉庫から持ってきたのだと思う、その方が新たに作るより簡単だから。

「聞いていないのでよくわからないけど、多分これは違うと思う。
 これは魔導王国の遺跡からの発掘品じゃないかな。」

 わたしは思ったことをそのまま伝えたら、質問したマイヤーちゃんが微妙な顔をした。

「聞かないほうが良いことを聞いてしまいました。
 ターニャちゃん、質問した私が言うのもなんですがそのことは言わない方が良いです。
 こんな完璧な板ガラスが残されている遺跡があるなんて聞いたら良からぬ輩が目の色を変えて寄って来ますよ。
 でも、魔導王国の技術って凄いですね。
 二千年も前にこれだけの物を造ることができたのですから。
 しかも、二千年の時を経ても全然劣化している様子が見られないのが凄いです。」

 マイヤーちゃんは魔導王国の技術の凄さに感心している。
 でも…、多分劣化していないのは魔導王国の技術じゃないと思う。
 おそらく、クロノスさんが何かやっている。
 何をどうやっているのは知らないけど、あの地下倉庫を管理しているのはクロノスさんだ。

 クロノスさんは時空をつかさどる精霊といわれているたった一体の精霊だ。
 任意の空間を一瞬で移動できるだけなら『空間』を操れるというよね、『時空』というからには『時間』にも関与できるのだと思う。
 その辺は詳しく聞いた事がないんだ、そんな術を使っているところを見たことないし。


 マイヤーちゃんに言われたとおり、このことは他では言わないよ。
 知られたところで、絶対に人が立ち入れる場所じゃないけどね。
 精霊の森に人は入り込めないし、ましてやわたしの育った森は瘴気の森のど真ん中にある。
 でも、おかしな輩が寄ってくるのは鬱陶しいし、周りに害を及ぼすかもしれないからね。
 ミーナちゃんとか、ハンナちゃんとかに。
 人質に取られて、遺物を全部よこせとか言われたら厄介だ…。


「そうそう、魔導王国の遺物といえば、割り当てられた寝室を拝見しましたわ。
 あのベッド、あれも魔導王国の遺物ですわね。
 あの柔らかい感触がターニャちゃんの乗っている魔導車のソファーそっくりでしたもの、すぐに分かりましたわ。
 柔らかいけど適度な弾力があって、あのベッドで眠るのが楽しみですわ。」

 エルフリーデちゃんの言葉を受けてマイヤーちゃんが続ける。

「ええ、全くですわ。
 この屋敷はこのソファーにしても、寝室のベッドにしても本当に上質な物ばかりでとっても居心地がいいですね。
 ここに来た時、最初にルールの確認をした意味が分りましたわ。
 こんなに居心地がいいと、ここに住むと言い出す子が出てきそうです、ルーナちゃんとか…。」

 あっ、やっぱり、そう思いますか…。


しおりを挟む
感想 217

あなたにおすすめの小説

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?

八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ 『壽命 懸(じゅみょう かける)』 しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。 だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。 異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜

長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。 コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。 ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。 実際の所、そこは異世界だった。 勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。 奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。 特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。 実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。 主人公 高校2年     高遠 奏    呼び名 カナデっち。奏。 クラスメイトのギャル   水木 紗耶香  呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。  主人公の幼馴染      片桐 浩太   呼び名 コウタ コータ君 (なろうでも別名義で公開) タイトル微妙に変更しました。

赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス 優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました お父さんは村の村長みたいな立場みたい お母さんは病弱で家から出れないほど 二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます ーーーーー この作品は大変楽しく書けていましたが 49話で終わりとすることにいたしました 完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい そんな欲求に屈してしまいましたすみません

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

処理中です...