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第10章 王都に春はまだ遠く
第263話 リタさんの疑問
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「しかし、『黒の使徒』というのはいったい何者なんでしょうかね?
たしか、創世教から分派したモノだとは聞いているのですけど、全く別物ですよね。」
ミルトさんの後ろに控えてじっと話しを聞いていたリタさんが、話に割り込んできた。
いきなり、侍女が主の会話に割り込むことは普通は極めて失礼なことなのだけど、フィナントロープさんは然して気分を害した様子も見せずに言った。
「おや、ミルト様が侍女を連れているなんて珍しいね、まあ、貴族のご婦人というのはそれが普通なんだろうがね。」
「ああ、フィナントロープさんは初めてでしたね。
この間、私が引き抜いてきた女官なんですよ。
侍女の服装の方が何かと動きやすいというので、好きにさせているのです。
リタさん、ご存知かと思うけど創世教の大司教のフィナントロープさんよ。
ご挨拶させていただきなさい。」
「お初にお目にかかります、猊下 。
先日より、皇太子妃殿下にお仕えしておりますリタと申します。
私のような市井の者が猊下にお目にかかれて光栄でございます。」
「よせやい、猊下なんて呼ばれるとこそばゆいよ。
気軽にフィナントロープと呼んでおくれ、ミルト様の側近ならばそのうち同僚になるのだから。
リタさんだね、これからよろしくしておくれ。
で、なんだって、『黒の使徒』の連中に興味があるのかい。
あいつらが、創世教の分派を名乗っていることなんてよく知っていたね。
創世教の方では、認めてないのだけど、やつらはそう主張しているね。」
フィナントロープさんはリタさんに挨拶を返したあと、リタさんが会話に割り込んだ時の話題について話を振った。
『黒の使徒』って、創世教から分かれたものなの?初めて聞いたよ。
「ええ、私も『黒の使徒』が創世教から分派したモノだというのは単なる方便だと思います。
彼らが主張する『色の黒い人間』が神から選ばれた存在だとしたら、その選んだ神は何者なのかという問題になります。
その際に、既に広く民に認知されていた創造神に選ばれたとするのが、権威付けの上で一番都合が良かったのでしょう。
二千年も前の話です、距離が障害になりますので、創世教の目の届かない所で勝手に名乗っても創世教の方も気付かなかったのでしょう。」
リタさんの話を聞いていたミルトさんが感心している。
「リタさん、あなたは本当に博識なのね。
驚いたわ、『黒の使徒』なんてこの国ではあまり一般的ではないでしょう。
最近になって感化される者が増えてきているけど、『色の黒い』人たちが自分達に都合の良い教義をもてはやしているだけで、歴史的背景に詳しい人は少ないと思うわよ。」
わたしも、ハイジさんに聞いた程度しか知らないよ。
わたしがそう言うとリタさんが尋ねてきた。
「ハイジさんって、アーデルハイト皇女様の事ですか?
アーデルハイト皇女様はなんておっしゃっていましたか?」
たしか、初代皇帝が帝国の基礎を築いた時に皇帝を神格化するために『黒の使徒』が出来たと聞いているよ。
初代皇帝は、黒髪、黒い瞳、褐色の肌を持ち凄い魔法使いだったと言われている。
なんでも、街を一撃で焼き払えるような大魔法を使ったと伝承に残されているんだっけ。
そんな、神業のごとき魔法を使える初代皇帝を神に選ばれた者と奉ることで、帝国による支配を正当化してきたとハイジさんは言っていた。
帝国が、近隣の小国を武力で征服したあとで、『黒の使徒』が住民を改宗させて『色の黒い』人たちによる支配を当たり前と思うように洗脳するんだよね。
帝国は大陸の西部地域を統一していくけど、国教とした『黒の使徒』を支配下の民に完全に押し付けることはできなかったらしい。
それは、治癒術を独占している創世教を敵に回すことが出来なかったから。
帝国は常に戦争をしているので、戦場で兵士達の治療をする治癒術師を派遣してくれる創世教を敵には回せなかったみたい。
だから、創世教の信徒を無理に『黒の使徒』に改宗させることは出来なかったそうだ。
今、帝国の民は、創世教の信者と『黒の使徒』の信者が半々くらいだと聞いていいる。
創世教の本部に近い帝国の西部地域は創世教の信者が多く、帝国の発祥の地である帝国の東部地域は『黒の使徒』の信者が多いらしい。
帝国が大陸西部を統一する前は、多くの民間信仰があったが、そういった土着の宗教は『黒の使徒』に徹底的に潰されたんだってハイジさんが言っていた。
そういえば、帝国が大陸の西部地域を統一してから既に十数年を経て、戦争が無くなったのを良いことに『黒の使徒』は勝手に創世教に喧嘩を売っているとハイジさんが苦い顔をしていたね。
戦争が無くなれば、国が創世教に頭を下げて治癒術師を派遣してもらう必要がなくなるので、もう創世教に遠慮する必要がないと『黒の使徒』は勝手に判断しているようだとハイジさんが言っていた。
わたしの説明を黙って聞いていたリタさんだったが、首を傾げている。
わたしの話した内容になにか変なことでもあったのかな。
「わたしが、『黒の使徒』っていったい何者なんだろうと関心を持ったことにも関係するのですが…。
今のターニャちゃんの説明、いえ、アーデルハイト皇女の説明ですか。
それによると帝国は帝国による支配を正当化するために『黒の使徒』を作って利用してきたように聞こえるのです。
でも、歴史的に探っていくと『黒の使徒』という名称は、帝国の成立以前からあるのですよ。
そう、帝国の初代皇帝が最初に歴史の表舞台に出てきたときには、初代皇帝の側に『黒の使徒』の影がチラついているのです。
まるで、『黒の使徒』の方が、大陸西部の統一に初代皇帝を御輿として利用しているような気がしてならなかったのです。
単なる、わたしの思い過ごしでしょうかね。」
リタさんがそう言った時、この前シャッテンを尋問した際にヴィクトーリアさんが言った言葉が頭をよぎった。
たしか、創世教から分派したモノだとは聞いているのですけど、全く別物ですよね。」
ミルトさんの後ろに控えてじっと話しを聞いていたリタさんが、話に割り込んできた。
いきなり、侍女が主の会話に割り込むことは普通は極めて失礼なことなのだけど、フィナントロープさんは然して気分を害した様子も見せずに言った。
「おや、ミルト様が侍女を連れているなんて珍しいね、まあ、貴族のご婦人というのはそれが普通なんだろうがね。」
「ああ、フィナントロープさんは初めてでしたね。
この間、私が引き抜いてきた女官なんですよ。
侍女の服装の方が何かと動きやすいというので、好きにさせているのです。
リタさん、ご存知かと思うけど創世教の大司教のフィナントロープさんよ。
ご挨拶させていただきなさい。」
「お初にお目にかかります、猊下 。
先日より、皇太子妃殿下にお仕えしておりますリタと申します。
私のような市井の者が猊下にお目にかかれて光栄でございます。」
「よせやい、猊下なんて呼ばれるとこそばゆいよ。
気軽にフィナントロープと呼んでおくれ、ミルト様の側近ならばそのうち同僚になるのだから。
リタさんだね、これからよろしくしておくれ。
で、なんだって、『黒の使徒』の連中に興味があるのかい。
あいつらが、創世教の分派を名乗っていることなんてよく知っていたね。
創世教の方では、認めてないのだけど、やつらはそう主張しているね。」
フィナントロープさんはリタさんに挨拶を返したあと、リタさんが会話に割り込んだ時の話題について話を振った。
『黒の使徒』って、創世教から分かれたものなの?初めて聞いたよ。
「ええ、私も『黒の使徒』が創世教から分派したモノだというのは単なる方便だと思います。
彼らが主張する『色の黒い人間』が神から選ばれた存在だとしたら、その選んだ神は何者なのかという問題になります。
その際に、既に広く民に認知されていた創造神に選ばれたとするのが、権威付けの上で一番都合が良かったのでしょう。
二千年も前の話です、距離が障害になりますので、創世教の目の届かない所で勝手に名乗っても創世教の方も気付かなかったのでしょう。」
リタさんの話を聞いていたミルトさんが感心している。
「リタさん、あなたは本当に博識なのね。
驚いたわ、『黒の使徒』なんてこの国ではあまり一般的ではないでしょう。
最近になって感化される者が増えてきているけど、『色の黒い』人たちが自分達に都合の良い教義をもてはやしているだけで、歴史的背景に詳しい人は少ないと思うわよ。」
わたしも、ハイジさんに聞いた程度しか知らないよ。
わたしがそう言うとリタさんが尋ねてきた。
「ハイジさんって、アーデルハイト皇女様の事ですか?
アーデルハイト皇女様はなんておっしゃっていましたか?」
たしか、初代皇帝が帝国の基礎を築いた時に皇帝を神格化するために『黒の使徒』が出来たと聞いているよ。
初代皇帝は、黒髪、黒い瞳、褐色の肌を持ち凄い魔法使いだったと言われている。
なんでも、街を一撃で焼き払えるような大魔法を使ったと伝承に残されているんだっけ。
そんな、神業のごとき魔法を使える初代皇帝を神に選ばれた者と奉ることで、帝国による支配を正当化してきたとハイジさんは言っていた。
帝国が、近隣の小国を武力で征服したあとで、『黒の使徒』が住民を改宗させて『色の黒い』人たちによる支配を当たり前と思うように洗脳するんだよね。
帝国は大陸の西部地域を統一していくけど、国教とした『黒の使徒』を支配下の民に完全に押し付けることはできなかったらしい。
それは、治癒術を独占している創世教を敵に回すことが出来なかったから。
帝国は常に戦争をしているので、戦場で兵士達の治療をする治癒術師を派遣してくれる創世教を敵には回せなかったみたい。
だから、創世教の信徒を無理に『黒の使徒』に改宗させることは出来なかったそうだ。
今、帝国の民は、創世教の信者と『黒の使徒』の信者が半々くらいだと聞いていいる。
創世教の本部に近い帝国の西部地域は創世教の信者が多く、帝国の発祥の地である帝国の東部地域は『黒の使徒』の信者が多いらしい。
帝国が大陸西部を統一する前は、多くの民間信仰があったが、そういった土着の宗教は『黒の使徒』に徹底的に潰されたんだってハイジさんが言っていた。
そういえば、帝国が大陸の西部地域を統一してから既に十数年を経て、戦争が無くなったのを良いことに『黒の使徒』は勝手に創世教に喧嘩を売っているとハイジさんが苦い顔をしていたね。
戦争が無くなれば、国が創世教に頭を下げて治癒術師を派遣してもらう必要がなくなるので、もう創世教に遠慮する必要がないと『黒の使徒』は勝手に判断しているようだとハイジさんが言っていた。
わたしの説明を黙って聞いていたリタさんだったが、首を傾げている。
わたしの話した内容になにか変なことでもあったのかな。
「わたしが、『黒の使徒』っていったい何者なんだろうと関心を持ったことにも関係するのですが…。
今のターニャちゃんの説明、いえ、アーデルハイト皇女の説明ですか。
それによると帝国は帝国による支配を正当化するために『黒の使徒』を作って利用してきたように聞こえるのです。
でも、歴史的に探っていくと『黒の使徒』という名称は、帝国の成立以前からあるのですよ。
そう、帝国の初代皇帝が最初に歴史の表舞台に出てきたときには、初代皇帝の側に『黒の使徒』の影がチラついているのです。
まるで、『黒の使徒』の方が、大陸西部の統一に初代皇帝を御輿として利用しているような気がしてならなかったのです。
単なる、わたしの思い過ごしでしょうかね。」
リタさんがそう言った時、この前シャッテンを尋問した際にヴィクトーリアさんが言った言葉が頭をよぎった。
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