精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第12章 三度目の夏休み

第300話 半月ほど前のこと

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 そう、この孤児院のことが決まるまですごく大変だったの。

 ことの始まりは約半月前、リリちゃんを保護した日の夕方までさかのぼる。
 わたしはミルトさんと共に捕縛した二人組みの男に話を聞きに行ったの。

 わたしが牢の格子越しに姿を現すと、

「おまえ、『白い聖女』か。貴様が俺達をこんな目に合わせたんだな。
 ただじゃ済まねえから覚えておけよ!。」

 いや、こんな目にあわせたと言われても、あなた達は犯罪者でしょう。
 自分達は何をやっても赦されると思っているのかな、この人たちは。

「呆れたわ、あなた達は自分が悪いことをしたと言う自覚がないのね。」

 わたしの後ろに立っていたミルトさんがポツリとこぼした。

「何だ、貴様は?」

「この子の保護者よ。
 あなた達は自覚が無いようだから教えてあげるわ。
 あなた達は、この子に対する殺人未遂、この国への密入国、幼児虐待の罪で牢に入っているの。
 よかったわね、この国は死罪がなくて。
 これだけの悪事を働けば帝国なら間違いなく死罪でしょうね。」

「ふざけるな、何が殺人未遂だ、証拠はあるのか?」

「そういう問答は取調官にでも言って。
 そうそう、あなた達の宿を捜索して証拠物件は押収してあるからね、『クマ殺し』とか。
 わたしはこの子があなた方に聞きたいことがあると言うから連れてきたの。」

 そう、今回のことは結構頭に来ているんだ、あんな小さな子を脅して殺人の道具にしようなんて赦せない。

「ねえ、おじさん達は何でリリちゃんに人殺しをさせようなんて思ったの?」

 証拠物件を押さえられていると聞いて開き直ったのか、男はこう言ったの。

「決まっているじゃねえか、女子供を使った方が相手が油断するじゃねえか。
 こっちは少しでも傷つければ相手をしとめられる毒を持っているんだ。
 何も自分が危ない橋を渡ることないだろうに。」

 返ってきたのは予想した通りの言葉だった。

「じゃあ、おじさん達は普段からスラムで拉致した子供に悪いことをさせているの?」

「おうよ、いくらでも替えが利くし、あんな便利なものはねえぜ。
 なんていったって、スラムに行けば子供なんて幾らでも湧いて出るんだからな。」

 やっぱり、リリちゃんが初めてではないんだ。

「ねえ、子供の足では成功しても失敗しても逃げられないよね。
 悪いことをさせた後、子供達はどうなるの?」

「そんなのは知ったこっちゃねえよ。俺達は首尾を見届けたらサッサとずらかるからな。
 大方、袋叩きにでもされているんじゃないか。」

 清々しいほど下衆な答えが返ったきたよ…。
 まあ、その方がわたしがその後にしたお仕置きに良心の呵責を感じることが無くて良かったのだけど。
 
 その後、わたしは光のおチビちゃんにお願いして男二人を徹底的に浄化してもらったよ。
 すっかり『色なし』になってしまった二人は、わたしのことを「悪魔」とか「人でなし」とかののっしっていたけどそんなの気にしないことにした。


     **********


 二人にお仕置きをした後、わたしはミルトさんの私室で話をしたの。

「ねえ、ミルトさん、あいつらなんであんな酷いことが出来るんだろうね。
 小さな子を人殺しの道具に使うなんて絶対に許したらダメだと思うの。
 わたし、今回はすごく頭にきたんで少し仕返しがしたいのだけどダメかな?」

 わたしがそういうとミルトさんが困った顔をして答えた。

「ターニャちゃん、気持ちはわかるけどそれはいけないことよ。
 人を裁くのは法に拠らないといけないの。
 やられたら、やり返すと言うのは法が治める社会に相容れないものだわ。」

「じゃあ、法に触れないように仕返しをするのでもダメなの?」

「いったい何をする気なの?」

「リリちゃんに聞いたのだけど、どうもあの二人は大きな組の者なんだって。
 あいつらの仲間がいっぱいいるらしいの。みんな、『色の黒い人』らしいよ。
 だから、連中が集まっている場所を一網打尽に浄化しちゃおうかと思って。
 有害な瘴気を掃うのだから犯罪にはならないよね。
 以前もやってるし、今日もやったよ。」

 わたしがそういうとミルトさんはより困った顔をしてしまった。

「確かに、それは法で禁止はしていないわね。
 でもね、それは今の法で想定していないからなの、今までそんな事できる人がいなかったから。
 倫理的に考えれば真っ黒なことよ、人の能力を奪ってしまうのだから。
 人の能力を奪ってしまうというのは、その人の人生を変えてしまうということよ。
 本来、それはすごく重いことで軽々しくやってはいけないことなの。
 もっとも、今回の二人組みに関しては私も腹に据えかねたので、ターニャちゃんがやらなければわたしがやるつもりだったのだけどね。」

「ミルトさんの言うことは理解できるよ。わたしも軽々しく使うつもりはないの。
 でも、『黒の使徒』の連中のやることは目に余るよ。
 あいつら、自分達が強い魔力を持っているからといって、特権意識丸出しでやりたい放題だもの。
 あんな連中に強い魔法を持たせておくのは危険だと思うの。
 向こうはわたし達の命を狙ってくるのだもの、魔法ぐらい奪ってしまっても良いと思う。
 死ぬ訳でもないし、苦痛を伴うわけでもないよ。」

 わたしの言葉にミルトさんは悩みこんでいたが、やがて観念したように言った。

「そうね、今回ターニャちゃんを狙ってきたのは、『黒の使徒』の末端組織のひとつみたいね。
 見せしめのために、報復してしまいましょうか。
 こちらに手を出したら痛い目を見るのはどちらか教えてあげるのも良いかも知れません。
 ターニャちゃん、今回は目を瞑るけど、くれぐれも危ないことはしないでね。」

 こんな風にハーフェン組に対する報復については理解は得られたのだけど…。


     **********


「ねえ、ミルトさん。
 わたし、思ったのだけど、帝国の彼方此方にあるスラム、やっぱりあれが問題だと思うの。
 『黒の使徒』の連中、スラムをまるで使い捨ての道具の調達先みたいに思っている。
 今回の件もそうだけど、去年の夏に見た瘴気の森の製材所は本当に酷かった。
 人の命をあんなに軽く扱って良い訳がないじゃない。」

「そうね、ヴィクトーリアさんからもスラムをどうすれば良いかよく相談を受けるのよ。
 本来、子供は孤児院で保護し、病気や怪我で働けない人は病院で療養させて、働ける人は職業訓練を施すなどして職場復帰をしてもらうの。
 そういう対策を重ねることでスラムを無くしていかないといけないのね。
 それに、『黒の使徒』みたいなスラムの住人を食い物にする犯罪組織の摘発もしないとね。
 今の帝国の状況、『黒の使徒』が使い捨てにできる労働力を得るための場になっているのは確かに問題よね。」

「今回、初めて知ったの『黒の使徒』の連中、あんな小さな子まで手駒にしているって。
 いっそのことスラムから子供連れ出しちゃえば、連中悔しがるかなって思うの。
 リリちゃんのいたスラム、五十人ぐらいの子供が身を寄せ合って暮らしているんだって、その子たちをスラムから連れ出しちゃおうと思っているんだけどダメかな。」

 その言葉を聞いていたミルトさんが慌てて言った。

「ターニャちゃん、それはダメよ。絶対に許可できないわ。」

 それはいつになく強い口調の不許可発言だったの。
 あれ、わたし、ミルトさんがそんなに慌てるほど拙いこと言ったかな…。

 
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