334 / 508
第13章 何も知らない子供に救いの手を
第333話 侍女が色々やっていたらしい
しおりを挟むさて、ザイヒト皇子を帝国へ連れ帰って皇太子に据えようとする動きは、今回は食い止めたと考えて大丈夫だろう。
現在王都に潜伏していた『黒の使徒』は一網打尽にしたと思うし、寮への侵入を手引きしていた侍女は捕縛してしまった。
大使館から新たにザイヒト皇子の侍女として送られてきたのは、ヴィクトーリアさんの派閥である穏健派貴族の娘さんらしい。
『黒の使徒』の諜報員がザイヒト皇子の確保失敗の知らせを帝国にもたらすには早くて二ヶ月掛る。それに、もう一月もすれば王都は雪に閉ざされる、王都に入るのも、王都から出るのも事実上不可能だ。
少なくとも次の雪解けまではザイヒト皇子を連れ出そうという動きはないと思うんだ。
そういう意味では、ケントニス皇子も命を狙われることはないのじゃないかな。
もちろん、『黒の使徒』が切羽詰って、ザイヒト皇子を確保しないままクーデターもどきをするのであれば話は別だけどね。
ただ、解っているのかな、『黒の使徒』は?
ケントニスさんには気の毒だけど、ケントニスさんがもし弑されたとしてもザイヒト皇子には皇太子の座は回ってこないって。
確かに、帝国は男尊女卑の考えが強くて、同じ皇后の子であれば年齢に関係なく男子が女子より皇位継承権が高くなるらしい 。
でも、皇后の子と側妃の子の場合だと、性別に関係なく皇后の子の方が皇位継承権が高いのだって。
それだけ、皇后というのは特別な立場なんだね。これはちゃんと法に定められているみたいなの。
もちろん、『黒の使徒』も知っているはずだと、ヴィクトーリアさんは言うのだけど。
ということは、現在皇位継承権第二位はハイジさん、アーデルハイト第一皇女なんだよね。
そして、ハイジさんの身はこちらにしっかりと護られている。どう見ても勝ち目がないじゃない。
うーん、よくわからない。
ただ、一つ言えるのは、正解はザイヒト皇子を絶対に『黒の使徒』の手に渡さないこと。
それだけは確かみたいね。
**********
「あの侍女だけど、再三『黒の使徒』の本部にザイヒト皇子の保護を要請していたらしいわ。
それこそ、初等部に入学した当初から。」
今、ミルトさんの部屋にヴィクトーリアさんとハイジさんが来て取り調べの中で明らかになったことの情報交換がされている。
ザイヒト皇子の侍女だけど、『黒の使徒』の本部から派遣されてきた人で、幼少の頃からザイヒト皇子に洗脳教育を施した張本人みたい。
それこそ、ザイヒト皇子が三歳くらいのときから常に側に控え、『黒の使徒』の教義に沿った教育を刷り込んできたそうだ。
次代の『黒の使徒』の御輿になってもらうため彼女なりの愛情をザイヒト皇子に注いでいたらしい。
それこそ、わが子のように。
そんな、掌中の珠のように育てたザイヒト皇子が最下位クラスにいることが気に入らなかったようだ。
学園内では中立派のケンフェンドさんが常に側にいるため、目だって学園を批判することはなかったが、頻繁に学園の批判を記した文を『黒の使徒』に送っていたそうだ。
彼女の部屋からそれを示すいろいろなものが見つかったらしい。
今回の『黒の使徒』による学園への侵入事件も、彼女が『黒の使徒』に手引きをしたみたい。
学園内の警備状況、守衛の配置や巡回経路、交代時間などを事細かに記した書類や寮の見取り図にザイヒト皇子の部屋の位置を示したものなどが押収されたようだ。
どうやら、何度でも送れるように原本は手許において写しを『黒の使徒』に送っていたみたいなの。
また、彼女の許にはいつザイヒト皇子を引き取りに行くという連絡が行っていたみたい。
予定の日時に現われないものだから、彼女はやきもきしていたそうだ。
まあ、全部捕まえちゃったからね。
**********
「それで、捕縛した『黒の使徒』の者だけど、三十人以上いたのよ。
どうやら、本気でザイヒト皇子を確保するつもりだったらしくて、殆どがザイヒト皇子を帝国へ連れて行くための護衛とお世話係だったの。」
最初に侵入した三人の後にも、学園の周囲に増員した警備の衛兵が三回三人組の『黒の使徒』を学園に侵入しようとしたところを捕縛している。
これで都合十二人、全部で五十人近い人員を今回の計画に充てていたみたい。
また、すごい数の馬車と物資も用意していたみたい。
ミルトさんが良く目立たないように揃えたものねと感心していたよ。
「馬車も、物資も帝国の民から『黒の使徒』が不当に巻き上げたお金で購入したもの。
全て帝国大使館にお渡ししますわ。
食料品などで日持ちのしない物があれば、王国政府が買い上げしてもいいです。
何らかの形で帝国の民に還元してください。」
ミルトさんがそういうと、ヴィクトーリアさんは本当に恐縮していた。
「本来であれば、全て王国に押収されてもなんら問題のないもの。
それを民のために譲ってもらえるということには心から感謝いたします。
必ず、民に還元するようにと大使館の者にはきつく申し付けます。
決して、特権階級の者で止まってしまわないようにと。」
ヴィクトーリアさんが言葉の最後の方で語気を強めて言った。
たしかに、きっちりと釘を刺しておかないと、途中で横領されそうだよね。
大使館の方はヴィクトーリアさんの派閥で心配ないかもしれないけど、帝国国内に入ってからどうなるか解らないものね。
で、おおかたの情報交換が終ったときにヴィクトーリアさんが言った。
「ミルト様、それにターニャちゃん、折り入ってお願いがあるのですけれど。
実は、ザイヒトのことなのですが、悪質な洗脳を行っていた侍女を排除したので再教育を施そうと思うのです。
そのことで少し協力を仰ぎたいのですけれど。」
ヴィクトーリアさんの依頼を聞いてわたしは協力しても良いと思ったのだけど、ミルトさんは少し思案している。
どうやら、これから日程の都合が付くかと考えているらしい。
21
あなたにおすすめの小説
俺のスキルが回復魔『法』じゃなくて、回復魔『王』なんですけど?
八神 凪
ファンタジー
ある日、バイト帰りに熱血アニソンを熱唱しながら赤信号を渡り、案の定あっけなくダンプに轢かれて死んだ
『壽命 懸(じゅみょう かける)』
しかし例によって、彼の求める異世界への扉を開くことになる。
だが、女神アウロラの陰謀(という名の嫌がらせ)により、異端な「回復魔王」となって……。
異世界ペンデュース。そこで彼を待ち受ける運命とは?
赤ん坊なのに【試練】がいっぱい! 僕は【試練】で大きくなれました
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕の名前はジーニアス
優しい両親のもとで生まれた僕は小さな村で暮らすこととなりました
お父さんは村の村長みたいな立場みたい
お母さんは病弱で家から出れないほど
二人を助けるとともに僕は異世界を楽しんでいきます
ーーーーー
この作品は大変楽しく書けていましたが
49話で終わりとすることにいたしました
完結はさせようと思いましたが次をすぐに書きたい
そんな欲求に屈してしまいましたすみません
相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~
ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。
休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。
啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。
異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。
これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜
長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。
コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。
ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。
実際の所、そこは異世界だった。
勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。
奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。
特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。
実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。
主人公 高校2年 高遠 奏 呼び名 カナデっち。奏。
クラスメイトのギャル 水木 紗耶香 呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。
主人公の幼馴染 片桐 浩太 呼び名 コウタ コータ君
(なろうでも別名義で公開)
タイトル微妙に変更しました。
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる