精霊の森に捨てられた少女が、精霊さんと一緒に人の街へ帰ってきた

アイイロモンペ

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第15章 四度目の夏、時は停まってくれない

第461話 やっぱり最後はこれだと思うの

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 長年に亘って蓄積してきた『黒の使徒』の富を一瞬にして失ったことに落胆し、肩を落とす教皇。
 一方で財宝が消え去る瞬間を目撃していた者たちの一部から怒声が上がった。

「ふざけるな!
 我ら『黒の使徒』の幹部に暴行を加えたうえ、財宝を持ち去るだと!
 そんなこと許されると思っているのか!」

「そうだ、そうだ!
 帝国を統べる教皇様に対して縄を打つなどという無礼が赦されるとでも思っているのか!」

「だいたい、おまえら何者だ!
 ここが『黒の使徒』の教団本部と知っての狼藉か!」

 どうやら、この人達は自分が置かれている立場を理解していないらしい。
 問答無用で眠らされて、気付いたら町の広場に縄で縛られて転がされているんだからね。
 状況が理解できなくても仕方がないか。

 しかし、骨折している人もいるようなのによくそんな虚勢が張れるね……、ある意味感心するよ。

「はい、みなさん、注目!」

 わたしは、『黒の使徒』の連中の注目を集めるために出来る限り大きな声を上げた。

「今日、わたし達は『黒の使徒』を壊滅させるためにここに来ました。
 何のためかと言うと、単なる私怨です。
 わたしは二年半ほど前からあなた達に刺客を送られています。
 その都度返り討ちにしたのですが、しつこいのでこちらから『黒の使徒』を潰しに来てみたのです。
 どうですか、やられる立場になった気持ちは?」

 わたしが敢えて挑発気味に話をすると、沸点低い『黒の使徒』の連中から怒声が上がった。
 普段なら聞くに堪えない罵詈雑言も、縄を打たれて転がる者から発せられると逆に気分が晴れる。

 見事な負け犬の遠吠えだもの。

 やれ帝国を統べる『黒の使徒』に歯向かうとは何事だとか、やれ『色なし』は『黒き』者に従っていれば良いのだとか、お決まりの言葉が聞こえたが、わたしは気にせずに話を続けた。

「みなさんが心情的にそれを受け入れたかどうかは知りませんが。
 新皇帝は『黒の使徒』を国教指定を解除しました、既に『黒の使徒』は国教ではありません。
 当然、『色の黒い人』が尊いと言う考え方も破棄されています。
 教皇が権威の拠り所としていたモノも既に全てわたしが処分しました。
 あなた達が市井の人々より優位な立場にいるとする後ろ盾はもう一つも無いのです。
 まずは、それを理解してください。」

 わたしが理解してくださいと言ったところで、素直にそうですかと言う連中ではない。

 案の定、「逆賊ケントニスの言う事に何の意味がある。」「我々『黒の使徒』は建国の時から皇帝の上に立っていたのだそれを覆せる訳がない。」という声が上がった。

 そう、だからこうしてここへ集めたんだ。
 本来であれば、全員眠らしたままで帝都へ運んでしまっても良かったのだ。
 ここに残したのはチョットした意趣返し、『黒の使徒』の終焉を身に染みて感じてもらおうと思って。

「いつまで、そんな虚勢を張っていられるかしらね。
 さっき見てもらったように、『黒の使徒』が貯め込んだ財は全て帝国の国庫に接収されたわ。
 もう『黒の使徒』に残された資産は殆んどないのじゃない。
 次はこれよ。
 シュケーさん、お願いできるかしら。」

 わたしのお願いに、「ええ、じゃあ、やっちゃうね!」とシュケーさんが答えるとほぼ同時にそれは起こった。

 二千年の時を越えて亡霊のように帝国の影で蠢いていた魔導王国の残滓、その象徴とも言える教皇の館。

 その魔導王国時代から受け継がれた豪奢な館、それがガタガタと振動したかと思うとその壁から太い木の枝が突き出してきた。
 枝が二本、三本と増え、枝により突き崩される部分が増えてくると壁が音を立てて崩壊し始めた。

 礼拝堂の時と同じで、館の中で樹木を急成長させたの。
 『黒の使徒』の本部を兼ねる教皇の館は巨大な建物で、礼拝堂の時のような一本の木では到底崩壊させられない。
 館の中ではかなりの数の樹木が成長し、壁のあちこちを突き破って枝が張り出してくる。
 それと共に館は形を維持することが出来なくなり、ガラガラと大きな音を立てて崩れていく。

 その様子を呆然と眺める教皇と『黒の使徒』の面々、少しは懲りただろうか。

 館が崩れ去った後には、瓦礫の間に太い樹木が疎らに生えるちょっとした林が形成された。
 青々と生い茂るその林の樹木に、『黒の使徒』の連中は嫌悪感を露わにした。

 あっ、ここの連中にはこの程度の林でも、瘴気を浄化されているのを感じるのか。
 結構、危ない水準まで瘴気が体に馴染んだ人達がいるみたい。次の世代はヤバかったかも…。


     **********


「わ、儂の館が…、唯一残る魔導王国時代の館が… 
 おまえ達、なんて酷いことをしてくれるのだ。
 儂の一族が綿々と受け継いできた魔導王国の王家の証をことごとく破壊しおって……。
 おまえ達には伝統や格式に対する敬意と言うものがないのか。」

 とうとう教皇が泣き言を言い出した、それでも自分たちが悪いとは思わないのだね。
 まるで、わたし達が極悪非道の人間みたいな言い方、凄く心外なんですけど。


「民の犠牲の上に成り立つ伝統や格式なんて、敬意が払われる訳ないでしょう。
 敬意を払われたいのならば、広く人々に敬愛されるような行動をとらないと。」

 教皇の泣き言を聞いてつい本音を漏らすと教皇は真面目にこんなことを言ったの。

「また、訳の分からないことを言う。何なのだ、この小娘は。
 支配者は畏れ敬われるものであり、愛されるものではないだろうが。
 王国ではいったいどんなトチ狂った教育をしておるのだ。」

 根本からして違っていた……。
 この人、いやこの連中には何を言っても無駄なのだろう、根本からして違うのだから。
 以前、ミルトさんが言っていたけど、価値観が違う人同士が分かり合うのって本当に難しいね。


    **********


「ご覧の通り、『黒の使徒』の本部は文字通り壊滅しました。
 あなた方には、これから帝都で正当な法に基づき裁きを受けてもらいます。
 もう、この町に戻ってくることはないと思ってください。
 あなた方の家はこのまま朽ちさせるのも勿体ないので、ここに捕らわれていた人達に有効利用してもらいます。」

 教皇の館が崩れ去るのを呆然と見ていた『黒の使徒』の連中が、わたしの一言で我に返った。

「ふざけるな、俺達『黒の使徒』を法で裁くだと、なんてバチ当たりな。不遜も甚だしいぞ!」

「俺達が何悪いことをしたと言うのだ!」

「俺達の家をこんなゴミ共に暮れてやるだと、ふざけるのも大概にしろよ!」

 まだそれだけの口を利く元気があるんだ、大したもんだ。
 まあ、そうじゃないと最後のお仕置きのやりがいがないものね。

「ええっと、飢えに苦しむ辺境の住民からなけなしの備蓄食料を巻き上げたり、貧しい人達から寄進やお布施の名目で金品を巻き上げたり、ここで働かされていた人達のように死ぬまで奴隷働きをさせたり。
 どれも、明らかな犯罪でしょう。悪いことだと思わないの?」

 窃盗、恐喝、拉致、隷属的使役どれも立派な犯罪だよ、帝国の法でも。
 他にも、営業妨害、殺人、暴行、傷害、枚挙に暇がないほどあるよね。
 ここにいる人達がそれぞれ何に関与していたかは官憲の調べることだけど。
 少なくてもここ並ぶ幹部連中は手下にそれを指示していたので全ての罪に問われると思うよ。

「ふざけるな、『黒の使徒』は神に選ばれし貴色を纏った者の集まり、いわば神の代理人だ。
 『黒の使徒』の行いは神の行いなのだ、只人がそれに従うのは当たり前だろう。
 『黒の使徒』が命を差し出せと言えば、大人しく差し出せば良いのだ。
 それのどこが罪になるのだ、愚か者め。」

 うん、いつものセリフ、清々しいほどの下衆な言葉、それを言わせたかったんだ。

「そう、その薄汚い『黒い色』があなた達をそんなに傲慢にさせているのよね。
 なんで、女性と子供は眠らせたままにしているのか分かる?
 あなた達にその思い上がった振る舞いの報いを受けてもらうためなの。
 女性や子供には少し惨いかなって思うので寝ている間に済まそうと思って。
 あなた達は正気を保ったまま、その貴色とやらの喪失を体験すれば良いわ。」

 やっぱり、お仕置きの最後は『黒の使徒』の自尊心の源、自分たちが貴色と呼ぶ黒い髪・黒い瞳・褐色の肌それと豊富な魔力、それらを全て取り上げちゃうこと。
 今まで、蔑んできた『色なし』にされちゃうのだから相当な精神的ダメージを受けるはず。
 傲慢な男達は自分の体から魔力が失われていく感触を味わえば良いわ。

 わたしはソールさんにお願いした。

「やっちゃって」

と。
 

     ***********


 わたしの言葉と共にソールさんから発せられた眩い光が、『黒の使徒』の人達を包み込む。
 男達だけではなく、眠っている女性や子供も含めてだよ。

 もう、ザイヒト皇子のおかあさんの様に魔獣を生み出す不幸は起こしてはならないからね。

 ソールさんの光が消え去ったあとには、すっかり白くなってしまった『黒の使徒』の一団があった。

 
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