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第十五話 無限の知から選りすぐり、己が歩む地を築く
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「学ぶ目的を学ぶ……?」
私の言ったことが解らなかったらしいラルーチェが、独り言のように呟いた。
いつも質問を口にするウィルでなく、ラルーチェが疑問を口に出したということが、私は嬉しかった。
「学びとは、目的を持ってするものだ。美味しい食事を食べるために、料理について学ぶようにな」
この例え方は少しわかり難かったかったかもしれないと、目の前にいる子供達の表情が曇ったのを見て思った。
私は説明を諦め、本題へと向かうことにした。
「では早速、君達に問おう。君達は、大人になったら何になりたい?」
この子達がこの質問に対する具体的な答えを持っているのならば、今までの会話はほとんど意味が無かったことになる。
だというのに、私が長ったらしく説明したのは、この子達が答えを持ち合わせていないと確信していたからだ。
「多くの人々を助けられるような人材になることです」
予想の外側にあったウィルの答えに私は感心する。この子は私が昨日言った提案を、しっかりと覚えていた。
しかし、その答えは私が求めていたものではない。
「確かに、私はそうなって欲しいと願っているが、ここで訊いているのは君達自身の願いだ。私が言っていたことは気にせず、自分がなりたいものを素直に答えて欲しい」
私は、この子達が自分の将来について考えたことがあるかを知りたかったのだ。もし、考えたことがあるのなら、その将来像に向かって学びの道を歩んでいくのが一番だから。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
再定義した問いに対して、子供達は予想通り沈黙した。無回答というわけではなく、沈黙が答えなのだ。
自分の将来を考えられるのは、明日を生きるために必死になる必要の無い、裕福な人間だけである。生まれてから昨日まで奴隷であったウィルとラルーチェに、そんな余裕があったと思うほど、私は奴隷の実情に関して無知ではない。
「今は答えが出なくても良い。君達は今まで、生きるために必死だったのだから」
明日を迎えられるか分からなかった者が、遠い未来を想像できるはずがないのだ。
「だからこそ、これから考えて欲しいんだ。自分が大人になった時、どんな事をしているのかを」
ここまで話した私は、より具体的な話へと移ることにする。
抽象的な目的を定義しても、具体的な手段を提示しなくては効率的に前へ進めない。幼少から見聞きしたり触れたりして、周囲の自然や大人から様々な知識を吸収していれば、それを元にして自分の将来を考えられるが(私は父の背中と蔵書を見て育った人間だ)、そうでないのなら、いくつかの大まかな将来像を説明し、その中から自分が大人になった時にやりたい事を選んでもらうのが手っ取り早いだろう。
「ひとまず、いくつか例を出そうか」
子供達が頷いたのを確認して、私は空間を指でなぞり、軌跡に文字を浮かび表せる。
技術者、教育者、為政者、開発者、研究者、軍事従事者、農業従事者、商業従事者……将来像のテンプレートとして、職業の名称を書き並べていく。書いているうち、この文字列の意味自体をこの子達は知らないのだから、一つ一つの職業内容を説明しなければならず、それなりに時間を要するということが判明した。
急ごしらえの教育方針に早速見つかった欠陥に対し、文字を書く指を止めて改善案を考え始めた私は、子供達が空中に書かれている文字自体を興味深げに見つめているのに気付いた。
「魔法を間近で見るのは初めてかね?」
この質問に対してコクコクと頷いた子供達を見た私は、少し脱線して魔法について教えようと考え、『魔法現出者』という言葉を、宙に浮かぶ文字列に追加する。
「この文字が、自らの能力で魔法を現出させる者の総称を表している」
魔法道具の登場により、魔法が市民生活と身近になりつつある昨今において、その知識を身に着けておくに越したことはないだろう。
「魔法の原理は至極単純だ。頭の中で思い描いた現象を、頭の外に顕現させているだけでいい」
私の説明を聴いたウィルとラルーチェは、全く納得していないように見える。
しかし、魔法原理の言語化は研究者によって意見が分かれており、先ほど言った以上の共通了解はできていない。私も専門家として意見は持っているが、確証がない以上、まだ自分で考えられるほどの知識を持っていないこの子達に、基礎知識として話すべきではないだろう。
それに、魔法を技術として使用するだけであれば、わざわざ『魔法の深淵』を覗く必要はない。
「これ以上は説明するよりも、体感した方がわかりやすいだろう」
これでも一応、かつては魔法研究の第一人者として弟子を取っていた人間だ。ウィルとラルーチェには手短に、魔法の感覚を掴んでもらうとしよう。
-----------------------
造語解説
『魔法現出者』:自らの考えでもって魔法を現出させる者の総称。
『魔法の深淵』:魔法研究における二大テーマの一つ。魔法が内包しているブラックボックスを解析し、魔法という概念を完全に記述しようとする研究。
私の言ったことが解らなかったらしいラルーチェが、独り言のように呟いた。
いつも質問を口にするウィルでなく、ラルーチェが疑問を口に出したということが、私は嬉しかった。
「学びとは、目的を持ってするものだ。美味しい食事を食べるために、料理について学ぶようにな」
この例え方は少しわかり難かったかったかもしれないと、目の前にいる子供達の表情が曇ったのを見て思った。
私は説明を諦め、本題へと向かうことにした。
「では早速、君達に問おう。君達は、大人になったら何になりたい?」
この子達がこの質問に対する具体的な答えを持っているのならば、今までの会話はほとんど意味が無かったことになる。
だというのに、私が長ったらしく説明したのは、この子達が答えを持ち合わせていないと確信していたからだ。
「多くの人々を助けられるような人材になることです」
予想の外側にあったウィルの答えに私は感心する。この子は私が昨日言った提案を、しっかりと覚えていた。
しかし、その答えは私が求めていたものではない。
「確かに、私はそうなって欲しいと願っているが、ここで訊いているのは君達自身の願いだ。私が言っていたことは気にせず、自分がなりたいものを素直に答えて欲しい」
私は、この子達が自分の将来について考えたことがあるかを知りたかったのだ。もし、考えたことがあるのなら、その将来像に向かって学びの道を歩んでいくのが一番だから。
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
再定義した問いに対して、子供達は予想通り沈黙した。無回答というわけではなく、沈黙が答えなのだ。
自分の将来を考えられるのは、明日を生きるために必死になる必要の無い、裕福な人間だけである。生まれてから昨日まで奴隷であったウィルとラルーチェに、そんな余裕があったと思うほど、私は奴隷の実情に関して無知ではない。
「今は答えが出なくても良い。君達は今まで、生きるために必死だったのだから」
明日を迎えられるか分からなかった者が、遠い未来を想像できるはずがないのだ。
「だからこそ、これから考えて欲しいんだ。自分が大人になった時、どんな事をしているのかを」
ここまで話した私は、より具体的な話へと移ることにする。
抽象的な目的を定義しても、具体的な手段を提示しなくては効率的に前へ進めない。幼少から見聞きしたり触れたりして、周囲の自然や大人から様々な知識を吸収していれば、それを元にして自分の将来を考えられるが(私は父の背中と蔵書を見て育った人間だ)、そうでないのなら、いくつかの大まかな将来像を説明し、その中から自分が大人になった時にやりたい事を選んでもらうのが手っ取り早いだろう。
「ひとまず、いくつか例を出そうか」
子供達が頷いたのを確認して、私は空間を指でなぞり、軌跡に文字を浮かび表せる。
技術者、教育者、為政者、開発者、研究者、軍事従事者、農業従事者、商業従事者……将来像のテンプレートとして、職業の名称を書き並べていく。書いているうち、この文字列の意味自体をこの子達は知らないのだから、一つ一つの職業内容を説明しなければならず、それなりに時間を要するということが判明した。
急ごしらえの教育方針に早速見つかった欠陥に対し、文字を書く指を止めて改善案を考え始めた私は、子供達が空中に書かれている文字自体を興味深げに見つめているのに気付いた。
「魔法を間近で見るのは初めてかね?」
この質問に対してコクコクと頷いた子供達を見た私は、少し脱線して魔法について教えようと考え、『魔法現出者』という言葉を、宙に浮かぶ文字列に追加する。
「この文字が、自らの能力で魔法を現出させる者の総称を表している」
魔法道具の登場により、魔法が市民生活と身近になりつつある昨今において、その知識を身に着けておくに越したことはないだろう。
「魔法の原理は至極単純だ。頭の中で思い描いた現象を、頭の外に顕現させているだけでいい」
私の説明を聴いたウィルとラルーチェは、全く納得していないように見える。
しかし、魔法原理の言語化は研究者によって意見が分かれており、先ほど言った以上の共通了解はできていない。私も専門家として意見は持っているが、確証がない以上、まだ自分で考えられるほどの知識を持っていないこの子達に、基礎知識として話すべきではないだろう。
それに、魔法を技術として使用するだけであれば、わざわざ『魔法の深淵』を覗く必要はない。
「これ以上は説明するよりも、体感した方がわかりやすいだろう」
これでも一応、かつては魔法研究の第一人者として弟子を取っていた人間だ。ウィルとラルーチェには手短に、魔法の感覚を掴んでもらうとしよう。
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造語解説
『魔法現出者』:自らの考えでもって魔法を現出させる者の総称。
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