魔法の薬草辞典の加護で『救国の聖女』になったようですので、イケメン第二王子の為にこの力、いかんなく発揮したいと思います

高井うしお

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27話 抱擁

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 食堂のテーブルは、いつもより豪華な花やテーブルセンターで飾り付けられていた。

「こちらが前菜です」

 そう言って運ばれてきたのはこの国の一般的なサラダや一口サイズのパイだった。ワインを飲みながらそれを戴いたら次は私の作ったお寿司だ。

「では、殿下には私の国の料理を食べて戴きます。これは私の作ったお寿司です」

 ケーキ型から出されたお寿司。花みたいに並べた具材が綺麗に並んでる。うん、成功成功。私は自分で切り分けて殿下に差し出した。

「これは米……?」
「はい、米を酢と砂糖と塩で味付けしてあります。……お口にあえばいいのですけど」

 殿下は神妙な顔をしながらもお寿司を口にした。ナイフで切り分けている姿がちょっと違和感。

「……どうです」
「うん、おいしいよ。しかし、米をこんな風に調理するのは不思議だな」
「私の国では米は主食なんです。パンみたいに」
「ほう……」

 殿下は魚よりもお米が珍しかったみたい。

「新鮮な魚がいつでも手に入るので、本当は生の魚をそのまま使いますけど今日は火を通しています」

 さて次は天ぷらだ。こちらはコックさんが揚げたてを持ってくる。鯛の天ぷらは皮ごとかりっとさくっと、かき揚げはふんわり空気をはらんでいい揚げ加減だ。

「揚げただけに見えるが……香ばしくて、中の身もふんわりして……」
「一見単純に見える調理法ですが、難しいんですよ。やっぱり料理人はすごいですね。私は作り方を教えただけなのに、私よりおいしく作れるようになったんですよ」
「それは良かった。彼をここの料理人にして正解という事かな」
「ええ、毎日おいしいご飯を作ってくれます、ね?」

 私がコックさんに話しかけると、彼は照れたように帽子を取って一礼した。そして〆のあら汁とキュウリとみょうがの浅漬け。フレデリック殿下は椀を手にして一口飲むと息を吐いた。

「これは……見た目に反して味が濃い……」
「鯛の骨や頭からおいしいエキスが出るんです。さ、口直しに浅漬けもどうぞ」
「この赤いのは……独特の香りだが?」
「これもハーブです。みょうがといって『食べ過ぎるともの忘れが多くなる』なんて言います」
「そ、それは困る!」

 ちょっと焦った素振りのフレデリック殿下がおかしくて私はちょっと笑ってしまった。

「迷信ですよ。胃の活動を活発にしたり、血行を良くしたりします」
「驚くではないか、真白のハーブは良く効くから本気にしたぞ」

 ちょっとすねたような顔をしたフレデリック殿下を見て、私は笑いながら謝った。

「ふふ、ごめんなさい。じゃあ最後のデザートです」

 最後のデザートは……梅ジャムを使ったシャーベット。上に乗ったレモンの皮が彩りを添えているものの緑がかった茶色のそれは正直あまり見た目は良くない。

「これはなんの果実だろう」

 フレデリック殿下はシャーベットを食べながら首をひねっている。

「ほんのりと酸味があって香りがいい」
「これは、庭園のリームの実のジャムで作ったんです」
「あの東屋の横の木か?」
「はい、そのまま食べてもおいしくないのでこうやってジャムにしたり果実酒にしたり……あと漬け物にしたりしています」
「ほお……美しいのは花だけではないという事か」

 フレデリック殿下はじっと手元のシャーベットを見つめて言った。

「……いや、実に楽しかった。異国の料理を食べる機会はそうそうないからな」
「お気に召したら良かったのですが」
「美味しかったよ。ありがとう」

 空色の瞳を細めて微笑んだ殿下の顔を見て、私はほっと胸を撫で降ろした。どうせなら和食を食べて貰いたいと思ったけど、逆に迷惑だったらいたたまれないもん。

「……もう少し、真白の国の事を聞かせてもらってもいいかな」
「ええ、喜んで」

 そうして私と殿下は応接間に場所を移し、食後のお茶とお菓子を戴きながらしばしお喋りをする事にした。

「……それでは全国に声や姿を伝える方法があるのか。それは便利そうだ」
「ええ。文字も。誰でも使えます。……作り方はわかりませんけど」
「他にもなにかないか?」
「うーんと……」

 私は日本の日々の生活について説明していた。殿下は特に音声通話や動画に興味を持ったようだ。こっちにも新聞はあるみたいだけどスピードと手軽さが段違いだもんね。

「あとは火を使わないで調理ができたり……」
「それはなんだか出来そうな気もするな」
「そうですね、魔石タブレットですっけ、あれを使えば?」
「他に? 他に?」

 殿下はまるで子供のようにキラキラした目で私に質問をぶつけた。

「そうですね……魔物がいません」
「そうか」
「でも、地震や台風が多くてどんなに技術が進化してもまだ私達は無力です」
「うん……」
「だけど、そんな時は手を取り合って協力するんです。それにこちらにも騎士団みたいに助けてくれる人達がいます。だから……きっとこの国の人達は騎士団の存在にきっと救われていると思いますよ」

 私がそう言うと、フレデリック殿下の顔がパッと輝いた。

「そうだろうか?」
「ええ。きっと……」

 私設ファンクラブまであるとは言っていいのか悪いのか……。私が心の中で葛藤していると、殿下は急に真面目な顔をして私を見つめた。

「……早く帰りたいだろうに、すまない」
「……はい、あの……」

 私はそれに即答する事が出来なかった。

「でも、こちらでは兵士さんに頼りにしてもらってやりがいがありますし、皆さん親切で……帰る方法もあの魔法の本が探している最中なので私は待つのは平気です」
「そうか……本当に不便はないか?」

 殿下は本当に心配そうにしてくれている。やっぱりとても優しい人だ。

「実はちょっとだけ気になっている事があるんですけど」
「なんだい? 言ってごらん」
「私の前に……ここに来た人がいるんです。私と同じ国から」
「真白と……」
「ええ、三百年くらい前にこちらに来て回復術師として活躍したみたいです。あの本を作ったのはその人だとか」

 気になりながらも、日々の仕事や騎士団の出兵でうやむやになっていた。

「私……その人の事が知りたいんです。どうやってここで生きていったのかを……」
「真白……」

 そうしたら、例え帰れなくてもその人の生き方をお手本にこちらでも生きていける。そんな気がするのだ。そう口にはしなかったけれど、不安な気持ちが伝わったのかもしれない。フレデリック殿下はそっと私の手を握った。

「分かった。調べさせてみるよ」

 そう言って、背中に手を回してフレデリック殿下は私を軽く引き寄せた。

「だから……安心しておくれ」
「は……はい……」

 私は恥ずかしさよりもこの時は安心感の方が勝って、私は殿下の腕の中の温かさにしばらく包まれていた。
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