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28話 嫉妬
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「どうしたのです、ぼーっとして」
「えっ」
「手元……」
ザールさんに指摘されて自分の手元を見ると、ティーポットに山盛りのドライハーブが乗っかっていた。
「あああ……」
「殿下と何かあったのですか」
「何かって……何も……」
私はしどろもどろになりながら否定した。でもこれじゃあったと言っているようなものだ。
「喧嘩とかではないんですね」
「ええ、それは! はい」
ザールさんはそれだけ確認すると納入された触媒の整理を続けている。なんだか妙な沈黙が、この救護棟に漂った。
「真白さん、手が空いていたら診療棟にこのメモのものを都合してもらってきてくれませんか」
「あ、はい」
ザールさんは手持ちぶさたにしている私にお使いを言いつけた。そうね、ぼーっとしているくらいならその方がいいわね。
私は籠をもって中央の診療棟に向かう。
「あのー……すみません」
私が診療棟に向かうと知らない人たちの視線が一斉に飛んできた。
「あの……救護棟の真白と申します。この触媒の在庫をゆずっていただきたくて……」
「君……があの……?」
「あの?」
私が話しかけた人は戸惑った顔をしてした。
「いや、その……在庫はほら、これだけだ」
押しつけるように薬瓶を渡されて、私は診療棟を追いだされた。なぜこんな仕打ちを、と思いながら来た道を引き返す。
「そうだ、庭園を見ていこう」
くさくさした気分を晴らそうと私はちょっと寄り道をして庭園を眺めに向かった。
「素敵……」
親方の丹精した寄せ植えや植木を眺めていると段々気持ちが落ち着いてくる。名前のわからない小さな白い花を咲かす蔦植物をじっと見ていると後ろから険のある声が飛んできた。
「こんなところにいらっしゃったのね」
「……?」
私が振り返るとそこには一人の美女が立っていた。仕立ての良いドレスに意志の強そうな紫の瞳、銀色の髪は丁寧にカールされている。……いや正確には美女とその他に数人の女性なんだけど。
「あなたが真白、でしょ?」
「はい……そうですけど」
「やっとお会い出来て光栄だわ。私はマーガレット。フレデリック殿下の許嫁よ」
「殿下の!?」
私は心底びっくりして素っ頓狂な声が出てしまった。許嫁って……殿下の口から聞いた事もない。
「そうよ。近頃騎士団の周りをうろちょろしている女がいると聞いていたけれど……」
そう言ってマーガレットは私をじろりと見た。
「こんな貧相とはね」
彼女がそう吐き捨てると、周りの取り巻きの女達はくすくすと顔を見合わせて笑った。やーな感じ。
「何か御用ですか?」
私がそう聞くと、マーガレットは心外だ、とでもいうように首を振った。
「あなたね、騎士団はどこの誰だか分からない馬の骨がうろうろしていい所じゃないのよ? おわかりにならないのかしら」
「マーガレット様、この女は妖しい術を使うそうですよ」
「まあ怖い」
大袈裟に眉をひそめるマーガレット。だが実際私を怖がっている風ではなかった。
「あの、お言葉ですけど私はフレデリック殿下から騎士団の救護棟で働くよう言われたので……」
「だから何よ。身の程知らずっていやあね」
とにかくこの人は私が救護棟で働いている事が気にくわないらしい。正確にはフレデリック殿下の近辺にいるって事かな。私はこれ以上会話をしたってどうしようもないと思って黙って引き返す事にした。
「ちょっと待ちなさいよ!」
無視されたマーガレットが後を追ってくる。
「いい? 早く辞める事ね? そうでないと大変な事になるわよ」
なんで私がこの人の言う事を聞かないと行けないんだろう。私は腹が立ってきてより早足になった。その時だ。
「なーにが大変な事になるって?」
「あ、ブライアンさん」
教練所に差し掛かったあたりで現れたのは大柄な体躯にに赤い髪の男性……ブライアンさんだ。
「もう一回言ってみろ……マーガレット」
「ブ、ブライアン……」
マーガレット嬢は先程の威勢は何処へやら、ブライアンさんの姿を見ると急に慌てだした。
「お前……ここがどこか分かっているのか……?」
「あの……その……ほほほ、失礼しますわね!」
見えない逆毛を立たせるように警戒心を露わにするブライアンさん。か、顔が怖い。その顔を見たマーガレットはしどろもどろになりながら退散した。
「……大丈夫か」
「私は何とも」
少々暴言を吐かれたくらいなので、私はブライアンさんにそう答えた。
「あいつはこの騎士団の近辺は出入禁止なんだ」
「出入禁止……?」
それは穏やかじゃないなと思ってブライアンさんを見上げると、彼はがしがしを頭を掻いた。
「マーガレットは侯爵令嬢なのだが……」
「殿下の許嫁……ですっけ?」
私がそう言うとブライアンさんはブンブンと顔を振った。
「とんでもない! 確かに家格は合っているし年齢もちょうどいいから周りはそう思っていた節があったが……」
「なにがあったんですか」
「彼女達は訓練を見に来てはフレデリック殿下につきまとってな……しかも、ある日……回復魔法も使えないのに救護棟を乗っ取って、出入りの洗濯婦まで追い出して大騒ぎを起こしたのさ。その間兵士はいい迷惑だったな」
あら……それはひどい。
「それまでは騎士団の訓練の見学程度は婦人も許されていたのだけれど、そこから完全に禁止になった。特に元凶のマーガレットは出入り禁止になったのさ」
だからブライアンさん、最初私の事を異常に警戒していたのね。
「大変でしたね」
「ああ……まともに言葉が通じない……本当にああ言う手合いは疲れる……」
ブライアンさんは遠い目線をしてマーガレットが消えていった方向を見つめていた。
「えっ」
「手元……」
ザールさんに指摘されて自分の手元を見ると、ティーポットに山盛りのドライハーブが乗っかっていた。
「あああ……」
「殿下と何かあったのですか」
「何かって……何も……」
私はしどろもどろになりながら否定した。でもこれじゃあったと言っているようなものだ。
「喧嘩とかではないんですね」
「ええ、それは! はい」
ザールさんはそれだけ確認すると納入された触媒の整理を続けている。なんだか妙な沈黙が、この救護棟に漂った。
「真白さん、手が空いていたら診療棟にこのメモのものを都合してもらってきてくれませんか」
「あ、はい」
ザールさんは手持ちぶさたにしている私にお使いを言いつけた。そうね、ぼーっとしているくらいならその方がいいわね。
私は籠をもって中央の診療棟に向かう。
「あのー……すみません」
私が診療棟に向かうと知らない人たちの視線が一斉に飛んできた。
「あの……救護棟の真白と申します。この触媒の在庫をゆずっていただきたくて……」
「君……があの……?」
「あの?」
私が話しかけた人は戸惑った顔をしてした。
「いや、その……在庫はほら、これだけだ」
押しつけるように薬瓶を渡されて、私は診療棟を追いだされた。なぜこんな仕打ちを、と思いながら来た道を引き返す。
「そうだ、庭園を見ていこう」
くさくさした気分を晴らそうと私はちょっと寄り道をして庭園を眺めに向かった。
「素敵……」
親方の丹精した寄せ植えや植木を眺めていると段々気持ちが落ち着いてくる。名前のわからない小さな白い花を咲かす蔦植物をじっと見ていると後ろから険のある声が飛んできた。
「こんなところにいらっしゃったのね」
「……?」
私が振り返るとそこには一人の美女が立っていた。仕立ての良いドレスに意志の強そうな紫の瞳、銀色の髪は丁寧にカールされている。……いや正確には美女とその他に数人の女性なんだけど。
「あなたが真白、でしょ?」
「はい……そうですけど」
「やっとお会い出来て光栄だわ。私はマーガレット。フレデリック殿下の許嫁よ」
「殿下の!?」
私は心底びっくりして素っ頓狂な声が出てしまった。許嫁って……殿下の口から聞いた事もない。
「そうよ。近頃騎士団の周りをうろちょろしている女がいると聞いていたけれど……」
そう言ってマーガレットは私をじろりと見た。
「こんな貧相とはね」
彼女がそう吐き捨てると、周りの取り巻きの女達はくすくすと顔を見合わせて笑った。やーな感じ。
「何か御用ですか?」
私がそう聞くと、マーガレットは心外だ、とでもいうように首を振った。
「あなたね、騎士団はどこの誰だか分からない馬の骨がうろうろしていい所じゃないのよ? おわかりにならないのかしら」
「マーガレット様、この女は妖しい術を使うそうですよ」
「まあ怖い」
大袈裟に眉をひそめるマーガレット。だが実際私を怖がっている風ではなかった。
「あの、お言葉ですけど私はフレデリック殿下から騎士団の救護棟で働くよう言われたので……」
「だから何よ。身の程知らずっていやあね」
とにかくこの人は私が救護棟で働いている事が気にくわないらしい。正確にはフレデリック殿下の近辺にいるって事かな。私はこれ以上会話をしたってどうしようもないと思って黙って引き返す事にした。
「ちょっと待ちなさいよ!」
無視されたマーガレットが後を追ってくる。
「いい? 早く辞める事ね? そうでないと大変な事になるわよ」
なんで私がこの人の言う事を聞かないと行けないんだろう。私は腹が立ってきてより早足になった。その時だ。
「なーにが大変な事になるって?」
「あ、ブライアンさん」
教練所に差し掛かったあたりで現れたのは大柄な体躯にに赤い髪の男性……ブライアンさんだ。
「もう一回言ってみろ……マーガレット」
「ブ、ブライアン……」
マーガレット嬢は先程の威勢は何処へやら、ブライアンさんの姿を見ると急に慌てだした。
「お前……ここがどこか分かっているのか……?」
「あの……その……ほほほ、失礼しますわね!」
見えない逆毛を立たせるように警戒心を露わにするブライアンさん。か、顔が怖い。その顔を見たマーガレットはしどろもどろになりながら退散した。
「……大丈夫か」
「私は何とも」
少々暴言を吐かれたくらいなので、私はブライアンさんにそう答えた。
「あいつはこの騎士団の近辺は出入禁止なんだ」
「出入禁止……?」
それは穏やかじゃないなと思ってブライアンさんを見上げると、彼はがしがしを頭を掻いた。
「マーガレットは侯爵令嬢なのだが……」
「殿下の許嫁……ですっけ?」
私がそう言うとブライアンさんはブンブンと顔を振った。
「とんでもない! 確かに家格は合っているし年齢もちょうどいいから周りはそう思っていた節があったが……」
「なにがあったんですか」
「彼女達は訓練を見に来てはフレデリック殿下につきまとってな……しかも、ある日……回復魔法も使えないのに救護棟を乗っ取って、出入りの洗濯婦まで追い出して大騒ぎを起こしたのさ。その間兵士はいい迷惑だったな」
あら……それはひどい。
「それまでは騎士団の訓練の見学程度は婦人も許されていたのだけれど、そこから完全に禁止になった。特に元凶のマーガレットは出入り禁止になったのさ」
だからブライアンさん、最初私の事を異常に警戒していたのね。
「大変でしたね」
「ああ……まともに言葉が通じない……本当にああ言う手合いは疲れる……」
ブライアンさんは遠い目線をしてマーガレットが消えていった方向を見つめていた。
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