魔法の薬草辞典の加護で『救国の聖女』になったようですので、イケメン第二王子の為にこの力、いかんなく発揮したいと思います

高井うしお

文字の大きさ
28 / 43

28話 嫉妬

しおりを挟む
「どうしたのです、ぼーっとして」
「えっ」
「手元……」

 ザールさんに指摘されて自分の手元を見ると、ティーポットに山盛りのドライハーブが乗っかっていた。

「あああ……」
「殿下と何かあったのですか」
「何かって……何も……」

 私はしどろもどろになりながら否定した。でもこれじゃあったと言っているようなものだ。

「喧嘩とかではないんですね」
「ええ、それは! はい」

 ザールさんはそれだけ確認すると納入された触媒の整理を続けている。なんだか妙な沈黙が、この救護棟に漂った。

「真白さん、手が空いていたら診療棟にこのメモのものを都合してもらってきてくれませんか」
「あ、はい」

 ザールさんは手持ちぶさたにしている私にお使いを言いつけた。そうね、ぼーっとしているくらいならその方がいいわね。
 私は籠をもって中央の診療棟に向かう。

「あのー……すみません」

 私が診療棟に向かうと知らない人たちの視線が一斉に飛んできた。

「あの……救護棟の真白と申します。この触媒の在庫をゆずっていただきたくて……」
「君……があの……?」
「あの?」

 私が話しかけた人は戸惑った顔をしてした。

「いや、その……在庫はほら、これだけだ」

 押しつけるように薬瓶を渡されて、私は診療棟を追いだされた。なぜこんな仕打ちを、と思いながら来た道を引き返す。

「そうだ、庭園を見ていこう」

 くさくさした気分を晴らそうと私はちょっと寄り道をして庭園を眺めに向かった。

「素敵……」

 親方の丹精した寄せ植えや植木を眺めていると段々気持ちが落ち着いてくる。名前のわからない小さな白い花を咲かす蔦植物をじっと見ていると後ろから険のある声が飛んできた。

「こんなところにいらっしゃったのね」
「……?」

 私が振り返るとそこには一人の美女が立っていた。仕立ての良いドレスに意志の強そうな紫の瞳、銀色の髪は丁寧にカールされている。……いや正確には美女とその他に数人の女性なんだけど。

「あなたが真白、でしょ?」
「はい……そうですけど」
「やっとお会い出来て光栄だわ。私はマーガレット。フレデリック殿下の許嫁よ」
「殿下の!?」

 私は心底びっくりして素っ頓狂な声が出てしまった。許嫁って……殿下の口から聞いた事もない。

「そうよ。近頃騎士団の周りをうろちょろしている女がいると聞いていたけれど……」

 そう言ってマーガレットは私をじろりと見た。

「こんな貧相とはね」

 彼女がそう吐き捨てると、周りの取り巻きの女達はくすくすと顔を見合わせて笑った。やーな感じ。

「何か御用ですか?」

 私がそう聞くと、マーガレットは心外だ、とでもいうように首を振った。

「あなたね、騎士団はどこの誰だか分からない馬の骨がうろうろしていい所じゃないのよ? おわかりにならないのかしら」
「マーガレット様、この女は妖しい術を使うそうですよ」
「まあ怖い」

 大袈裟に眉をひそめるマーガレット。だが実際私を怖がっている風ではなかった。

「あの、お言葉ですけど私はフレデリック殿下から騎士団の救護棟で働くよう言われたので……」
「だから何よ。身の程知らずっていやあね」

 とにかくこの人は私が救護棟で働いている事が気にくわないらしい。正確にはフレデリック殿下の近辺にいるって事かな。私はこれ以上会話をしたってどうしようもないと思って黙って引き返す事にした。

「ちょっと待ちなさいよ!」

 無視されたマーガレットが後を追ってくる。

「いい? 早く辞める事ね? そうでないと大変な事になるわよ」

 なんで私がこの人の言う事を聞かないと行けないんだろう。私は腹が立ってきてより早足になった。その時だ。

「なーにが大変な事になるって?」
「あ、ブライアンさん」

 教練所に差し掛かったあたりで現れたのは大柄な体躯にに赤い髪の男性……ブライアンさんだ。

「もう一回言ってみろ……マーガレット」
「ブ、ブライアン……」

 マーガレット嬢は先程の威勢は何処へやら、ブライアンさんの姿を見ると急に慌てだした。

「お前……ここがどこか分かっているのか……?」
「あの……その……ほほほ、失礼しますわね!」

 見えない逆毛を立たせるように警戒心を露わにするブライアンさん。か、顔が怖い。その顔を見たマーガレットはしどろもどろになりながら退散した。

「……大丈夫か」
「私は何とも」

 少々暴言を吐かれたくらいなので、私はブライアンさんにそう答えた。

「あいつはこの騎士団の近辺は出入禁止なんだ」
「出入禁止……?」

 それは穏やかじゃないなと思ってブライアンさんを見上げると、彼はがしがしを頭を掻いた。

「マーガレットは侯爵令嬢なのだが……」
「殿下の許嫁……ですっけ?」

 私がそう言うとブライアンさんはブンブンと顔を振った。

「とんでもない! 確かに家格は合っているし年齢もちょうどいいから周りはそう思っていた節があったが……」
「なにがあったんですか」
「彼女達は訓練を見に来てはフレデリック殿下につきまとってな……しかも、ある日……回復魔法も使えないのに救護棟を乗っ取って、出入りの洗濯婦まで追い出して大騒ぎを起こしたのさ。その間兵士はいい迷惑だったな」

 あら……それはひどい。

「それまでは騎士団の訓練の見学程度は婦人も許されていたのだけれど、そこから完全に禁止になった。特に元凶のマーガレットは出入り禁止になったのさ」

 だからブライアンさん、最初私の事を異常に警戒していたのね。

「大変でしたね」
「ああ……まともに言葉が通じない……本当にああ言う手合いは疲れる……」

 ブライアンさんは遠い目線をしてマーガレットが消えていった方向を見つめていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

処理中です...