魔法の薬草辞典の加護で『救国の聖女』になったようですので、イケメン第二王子の為にこの力、いかんなく発揮したいと思います

高井うしお

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39話 王城脱出

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 そして家の中がしんと寝静まったのを確認して、私は荷物と辞典を持ってそっと家を出た。方角は西、それくらいしかわからない。道々聞きながら目指す事になるだろう。

 そっと教練場を横切って、王城の門を目指す。しかし……そこはしっかりと閉ざされ、門兵が立っていた。

「これじゃ出られない……」

 どこか他に出口を探そうと振り返った時、私の肩が誰かに叩かれた。

「……しっ」
「え……?」

 その人物はフードをかぶっていて騎士団の団服を着ている。騎士団は総動員で西の湿地帯に向かったのでは……と見上げると、その人はフードをとった。

「マーガレット!」
「お静かに」

 それは団服を着込んだマーガレットだった。え、なんでそんな格好してるの!?

「待ちくたびれましたわ」
「なんで……」
「あの兵士さんが治ってからお姉様……様子がおかしかったので、全部聞いてしまいました!」

 うああああ、変に行動力があるだけに厄介だ。

「真白お姉様が現場に向かうなら、わたくしお手伝いいたしますわ! ……で、誰と喋ってましたの? あの部屋は空き室だったと思いますが」

 ああもう誤魔化しきれない。私はカバンから辞典を引っ張り出した。

「これよ……」
「本?」
「ええ。これはマーガレットの祖先の樹さんが作った辞典で、魔法の力があるの」
「なんと……ご先祖様はそんなものまで……わたくしも喋れませんか、その辞典と」
「えっ……」

 マーガレットの突拍子もない要望に私は思わず声をあげた。どうなんだろう……そもそもリベリオの姿や声は他人に認識できるものなのだろうか。

「リベリオ……どうする……?」

 私は判断が付かなくてリベリオに直接語りかけた。すると辞典が光り出す。

「あら!」
『……静かに』

 光を纏ったリベリオはその姿を現した。そしてマーガレットを見つめる。

『お前が樹の子孫か……似てないな』
「んまあああ! かわいい!」
『静かにしろ!』

 リベリオはかわいいかわいいと連呼しているマーガレットをしかりつけた。

「はい……」

 すぐにしゅんと口を閉じるマーガレット。その姿を見てリベリオは鼻をならした。

「いいの……? リベリオ、姿まで見せてしまって」
『こいつは樹の子孫だろう。言って置きたいことがあってな』
「……?」
『おい、マーガレットとやら。僕は樹の残した遺物だぞ。ちゃんと管理せんか!』
「は、はい。申し訳ございません!」

 そっかそうよね。元々、遠征の荷物に紛れてたって言ってたっけ。

『今後は気を付けろ。あと……さっき手伝うと言ったな』
「はい。正門からこの時間に出るのは無理ですが……この先に秘密の出口があるのですわ」
「なんでそんな事知ってるの……」
「王宮を遊び場にしてきましたから。さ、行きましょう」

 私達はマーガレットに促されてその後をついていった。すると木々や蔦に覆われて分かり憎いところに壁のひび割れがあった。

「……ね?」
「本当だ……これで王城を出られるわ。ありがとうマーガレット」

 その隙間は本当に狭くてなんとか通り抜ける事が出来るくらいだった。男の人は無理ね。

「さて……じゃあ頑張って歩きますか……」
「待って下さいまし……あ、お尻が……」
「マーガレット、まだ付いてくるの?」

 私より色々とメリハリのあるマーガレットが窮屈そうに隙間から出てきた。

「徒歩で向かったら時間がかかりますわ。そちらに馬を用意しております」
「マーガレット……」
「言ったでしょう。わたくし、乗馬はフレデリック殿下より上手でしたのよ!」

 そう言ってひらりとマーガレットは白馬に跨がり、私に手を伸ばした。

「急ぎましょう!」
「は、はい!」

 リベリオは本の姿に戻り、私はマーガレットと一緒に、馬に乗った。

「しっかり掴まっていて下さいまし!」

 マーガレットが馬の腹を蹴り上げると、ぐんぐんと王城が遠くなっていく。

「まずは夜明けまでに王都を離れましょう」
「そうね」

 ……正直マーガレットがいてくれて助かった。ちんたら徒歩で向かっていたら途中で連れ戻されていたかもしれない。
 やがて朝日が昇るまで、私達は一気に道を駆け抜けていった。

「……少し馬を休ませましょう」

 都市を抜けて、木々がまばらに生える街道をしばらく行くと、小川か見えた。マーガレットはそこで馬をとめた。彼女の額には汗が滲んでいる。

「さ、どうぞ」

 手を差し伸べてくれたマーガレットの手を取って馬から降りると膝ががくがくしている。

「大丈夫ですの?」
「馬に乗ったのはじめてで……」
「では少し休憩しましょうね」

 マーガレットは馬に水を飲ませに行った。彼女だって長時間馬を走らせて疲労しているはず。

「リベリオ」

 私はリベリオを呼び出した。

「ハイビスカスとローズヒップをポーションにして」
『分かった』

 以前に兵士さんに疲労回復ドリンクとして振る舞ったハーブをリベリオにポーションにしてもらった。

「マーガレット、これ疲れが取れるから飲んで」
「まあ、ありがとうございます」

 私も瓶の蓋をあけて一気飲みした。馬上で変に力んでいた手足の疲れが吹っ飛んでいく。

「すごい……! これなら宿に泊まらず一気に現場に迎えそうですわね」
「ええ。あんまり多用するのは少し心配だけど……緊急事態だから」
「でもお食事はとらないとですわ」

 マーガレットは馬に積んだ荷物から石の嵌まった水筒を取り出した。

「それは……?」
「旅行用の魔石ポットですの。私、魔力が少ないものですからこういうときは持ち歩いているのですわ」

 マーガレットはカップを出すとそこに中身を注いだ。

「これ……味噌汁……」
「ええ。オハラ家秘伝のレシピですの。ご存じということはやっぱりご先祖様と同じ国の方ですのねぇ」

 味噌汁にパン。へんてこな組み合わせだったけど、お腹も満たされて活力が湧いてきた。

「さー! 行きますかね」
「はい、真白お姉様!」

 私とマーガレットは再び馬に跨がると、西へ向かって走り出した。
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