40 / 43
40話 西の湿地帯
しおりを挟む
「西の湿地帯? ああ、この方向であってるよ。でも、今から向かうのかい?」
「ありがとうございます」
道を行く人に確かめながら私達は魔物討伐の現場を目指した。
『真白、マーガレット。魔力が濃くなってきた』
ふいに手元のリベリオが声をあげた。あと少しでたどり着く。やがて木々がまばらになり、低木が増え、草が生えるだけになった。
「あ、人がいます!」
マーガレットが叫んだ。群青の団服。騎士団のものだ。
「み、みんな……?」
数人の兵士が蹲っている。中には倒れている人もいる。私は馬から降りると彼らに近づいた。マーガレットはさっとフードをかぶる。ああ、マーガレットは現場で騎士団に変装する為にそんな格好してたのね。
「大丈夫ですかっ!?」
「……真白……さん……?」
「どうしてここに……?」
その様子は診療棟に運び込まれた黒の騎士団の兵士とよく似ていた。
「説明はあとでします。じっとして……」
私は彼らに触れてまわった。すると苦しげな様子があっという間におさまる。
「さっきまで動けなかったのに……真白さん、あんたは一体……」
「いいから休んでいてください。行きましょう、マーガレット」
再び馬に乗って進む。私には所々池が見えるただのだだっ広い草むらにしか見えない。数人倒れていた先に騎士団の姿もない。
「マーガレット、魔力が濃くなっているの分かる?」
「うーん……わかりません」
でもあんな風にすぐに体調を崩すくらいの濃い魔力だまりがどこかにあるはずなのだ。
「リベリオ、どこに向かったらいいのかしら」
『ちょっと待て……』
辞典が輝き、リベリオが姿を現した。
「ちょっと、狭い狭い!」
「真白お姉様、私が馬を下りますわ」
マーガレットが馬を下りた。彼女はズボンにブーツを履いているとはいえ、下は足場の悪い泥の中だ。
「マーガレット……」
「いいんです。わたくしのほうが動きやすい格好をしてますし」
『二人とも、あっちに妙な気配がある』
リベリオがすっと指差した。私達はとりあえずそっちの方向に向かう事にした。
「ここ?」
『ああ……』
そこは窪地に出来た大きな水たまりにしか見えない。これが今回の大型魔物を生み出した魔力だまりだと言われても実感がないような。
「なんともないけど……」
『そっちの方がどうかしてるんだ。ほら、マーガレットを見ろ』
リベリオに言われて振り向くと、マーガレットが膝に手をついて俯いていた。
「マーガレット!」
「大丈夫です。ちょっと眩暈がするくらいです。真白お姉様の話を盗み聞きして人より魔力が低ければもうちょっと持つと思ったんですけど……ふがいないですわ」
「いいからこっちに座って」
私は近くの倒木の上に彼女を座らせた。そして彼女の手を握る。
『マーガレットが他の人間より許容量が大きいのは確かだぞ。まあ樹から何代も経ってるんだしかたない』
「もうちょっと労ってあげてよ、リベリオ」
『ここまで連れてきてくれた事には礼を言おう』
確かにそうなんだけど今言う事じゃないよね。そう言いたいのを堪えて彼女の手を握っていると、顔色がじょじょに赤みを取り戻してきた。
「ありがとう、真白お姉様……。あとは早く殿下の元に行ってあげてください」
「……うん」
「私にとって殿下は……」
マーガレットは俯いた。私はその続きを聞くのがちょっと怖くて体を強ばらせた。
「弟みたいなものです」
「……え」
「赤ん坊の頃から一緒の大事な幼馴染みです。だから変な女に殿下が捕まるくらいならうんと邪魔してやろうと思いましたけど……真白お姉様になら殿下を任せられますわ」
マーガレットが私の手を握り返した。
「真白お姉様は殿下が殿下でなくて、ただのフレデリックでもこうしてきっと駆けつけてくれるでしょう?」
「……あたりまえよ。だって殿下は……なんにも持ってない私を助けてくれたもの。お返しするのは当然だわ」
「それだけ……? 本当に?」
マーガレットの紫色の意志の強い瞳が私を捉えている。
「殿下は……とても優しい人。その為に自分を殺して強く強くあろうという人」
「分かってるじゃありませんか」
マーガレットは少し得意気に笑った。
「だから、きっと今も一番危険な所にいるはず。だから私は側にいたい」
「うん」
マーガレットは頷いた。そして立ち上がると馬を引いて元来た道へ戻っていく。
「マーガレット!」
「これ以上は足手まといのようですから! さっきの兵士さんを回収して待機してます」
「わかった! 帰ったらシミそばかす防止のクリームをプレゼントするわ!」
「楽しみにしてます、では!」
馬に跨がったマーガレットがどんどん遠くなっていく。私はしばらくその後ろ姿を見つめていた。
『それじゃ、はじめようか真白』
そんな私の袖をリベリオが引っ張る。
「うん……でも先に殿下のところに行こう。それからでも……」
先に最前線にいるみんなを助ける方が先だと私は思った。
『とりあえずやってみてから、そちらに迎えばいい』
「本当に大丈夫かしら。双方向に辞典の入り口が開いたらどうなるか、分かる?」
『それは……』
「いきなり元の世界に戻されてしまうかもしれない……そうでしょ?」
しかしリベリオはいらだった声を出した。
『でもこの魔力だまりだっていつ消えるかわからないんだ!』
「あっ、ちょっと!」
リベリオは勝手に魔力だまりに向かっていった。私はあわててリベリオの手を掴む。
「あっ!?」
手を掴んだ途端、足元の泥が滑った。よろけたリベリオが私の服を掴む。
『ああっ』
お互いにバランスを崩した私とリベリオは魔力だまりに向かって転げ落ちていった。
「ありがとうございます」
道を行く人に確かめながら私達は魔物討伐の現場を目指した。
『真白、マーガレット。魔力が濃くなってきた』
ふいに手元のリベリオが声をあげた。あと少しでたどり着く。やがて木々がまばらになり、低木が増え、草が生えるだけになった。
「あ、人がいます!」
マーガレットが叫んだ。群青の団服。騎士団のものだ。
「み、みんな……?」
数人の兵士が蹲っている。中には倒れている人もいる。私は馬から降りると彼らに近づいた。マーガレットはさっとフードをかぶる。ああ、マーガレットは現場で騎士団に変装する為にそんな格好してたのね。
「大丈夫ですかっ!?」
「……真白……さん……?」
「どうしてここに……?」
その様子は診療棟に運び込まれた黒の騎士団の兵士とよく似ていた。
「説明はあとでします。じっとして……」
私は彼らに触れてまわった。すると苦しげな様子があっという間におさまる。
「さっきまで動けなかったのに……真白さん、あんたは一体……」
「いいから休んでいてください。行きましょう、マーガレット」
再び馬に乗って進む。私には所々池が見えるただのだだっ広い草むらにしか見えない。数人倒れていた先に騎士団の姿もない。
「マーガレット、魔力が濃くなっているの分かる?」
「うーん……わかりません」
でもあんな風にすぐに体調を崩すくらいの濃い魔力だまりがどこかにあるはずなのだ。
「リベリオ、どこに向かったらいいのかしら」
『ちょっと待て……』
辞典が輝き、リベリオが姿を現した。
「ちょっと、狭い狭い!」
「真白お姉様、私が馬を下りますわ」
マーガレットが馬を下りた。彼女はズボンにブーツを履いているとはいえ、下は足場の悪い泥の中だ。
「マーガレット……」
「いいんです。わたくしのほうが動きやすい格好をしてますし」
『二人とも、あっちに妙な気配がある』
リベリオがすっと指差した。私達はとりあえずそっちの方向に向かう事にした。
「ここ?」
『ああ……』
そこは窪地に出来た大きな水たまりにしか見えない。これが今回の大型魔物を生み出した魔力だまりだと言われても実感がないような。
「なんともないけど……」
『そっちの方がどうかしてるんだ。ほら、マーガレットを見ろ』
リベリオに言われて振り向くと、マーガレットが膝に手をついて俯いていた。
「マーガレット!」
「大丈夫です。ちょっと眩暈がするくらいです。真白お姉様の話を盗み聞きして人より魔力が低ければもうちょっと持つと思ったんですけど……ふがいないですわ」
「いいからこっちに座って」
私は近くの倒木の上に彼女を座らせた。そして彼女の手を握る。
『マーガレットが他の人間より許容量が大きいのは確かだぞ。まあ樹から何代も経ってるんだしかたない』
「もうちょっと労ってあげてよ、リベリオ」
『ここまで連れてきてくれた事には礼を言おう』
確かにそうなんだけど今言う事じゃないよね。そう言いたいのを堪えて彼女の手を握っていると、顔色がじょじょに赤みを取り戻してきた。
「ありがとう、真白お姉様……。あとは早く殿下の元に行ってあげてください」
「……うん」
「私にとって殿下は……」
マーガレットは俯いた。私はその続きを聞くのがちょっと怖くて体を強ばらせた。
「弟みたいなものです」
「……え」
「赤ん坊の頃から一緒の大事な幼馴染みです。だから変な女に殿下が捕まるくらいならうんと邪魔してやろうと思いましたけど……真白お姉様になら殿下を任せられますわ」
マーガレットが私の手を握り返した。
「真白お姉様は殿下が殿下でなくて、ただのフレデリックでもこうしてきっと駆けつけてくれるでしょう?」
「……あたりまえよ。だって殿下は……なんにも持ってない私を助けてくれたもの。お返しするのは当然だわ」
「それだけ……? 本当に?」
マーガレットの紫色の意志の強い瞳が私を捉えている。
「殿下は……とても優しい人。その為に自分を殺して強く強くあろうという人」
「分かってるじゃありませんか」
マーガレットは少し得意気に笑った。
「だから、きっと今も一番危険な所にいるはず。だから私は側にいたい」
「うん」
マーガレットは頷いた。そして立ち上がると馬を引いて元来た道へ戻っていく。
「マーガレット!」
「これ以上は足手まといのようですから! さっきの兵士さんを回収して待機してます」
「わかった! 帰ったらシミそばかす防止のクリームをプレゼントするわ!」
「楽しみにしてます、では!」
馬に跨がったマーガレットがどんどん遠くなっていく。私はしばらくその後ろ姿を見つめていた。
『それじゃ、はじめようか真白』
そんな私の袖をリベリオが引っ張る。
「うん……でも先に殿下のところに行こう。それからでも……」
先に最前線にいるみんなを助ける方が先だと私は思った。
『とりあえずやってみてから、そちらに迎えばいい』
「本当に大丈夫かしら。双方向に辞典の入り口が開いたらどうなるか、分かる?」
『それは……』
「いきなり元の世界に戻されてしまうかもしれない……そうでしょ?」
しかしリベリオはいらだった声を出した。
『でもこの魔力だまりだっていつ消えるかわからないんだ!』
「あっ、ちょっと!」
リベリオは勝手に魔力だまりに向かっていった。私はあわててリベリオの手を掴む。
「あっ!?」
手を掴んだ途端、足元の泥が滑った。よろけたリベリオが私の服を掴む。
『ああっ』
お互いにバランスを崩した私とリベリオは魔力だまりに向かって転げ落ちていった。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。
国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。
悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。
雨宮羽那
恋愛
聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。
というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。
そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。
残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます!
モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪
※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる