運命の糸の先に

hayama_25

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第63話

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「ん…頭痛、」

 目を開けた瞬間、鈍い痛みがこめかみを刺した。

 頭の奥がじんじんと響いて、昨日の夜の記憶が霞んでいることに気づく。

 視界がぼやけていて、天井の模様すら曖昧だった。

 体を少しだけ起こそうとしたけれど、重力が何倍にも感じられて、動くのが億劫だった。

 そうだ…昨日、お酒を飲んで。
 仲直りの記念だって、はしゃいで。

 そのまま…そのまま、どうしたんだっけ。

 記憶が、途中で途切れている。
 最後に覚えているのは、瑞稀の声。

「寝るなよ」って、少し困ったような、でも優しい声。

 横を見ると、そこには眠った瑞稀がいた。

 彼の寝顔は穏やかで、呼吸は静かで、まるで時間が止まっているようだった。

 その姿を見た瞬間、胸がぎゅっと締めつけられる。

「え、どうして」

 声が漏れた。
 驚きと戸惑いと、少しの焦りが混ざった声だった。

 どうして瑞稀がここにいるのか。
 どうして、隣で眠っているのか。

 昨日の記憶が曖昧なままでは、何も答えが出てこない。

 その声に反応するように、瑞稀がゆっくりと目を開けた。

 まぶたの動きがゆっくりで、寝起きのぼんやりした表情が、どこか安心感を与えてくれる。

「…おはよう」

 彼の声は低くて、少しだけ掠れていた。

 でも、その一言が、朝の静けさを優しく包み込んだ。

「おはよう。それより、どうして瑞稀がここに?」

 聞きたいけど、聞くのが怖い。

 何か迷惑をかけたんじゃないか。

 何か、取り返しのつかないことをしたんじゃないか。

 そんな不安が、喉の奥に張りついていた。

「お前、昨日のこと覚えてないのか?」

 瑞稀の声は、少しだけ呆れたようで、でも責めるような響きはなかった。

 それが、逆に胸に刺さる。

 覚えていない。
 それが、こんなにも怖いなんて。

 何を言ったのか。
 何をしたのか。
 彼にどう映ったのか。

 全部が、霧の中だった。

「…全く」

 言葉にするのが、こんなにも情けないなんて。

 自分の記憶が、自分の行動が、こんなにも曖昧で。

 彼の前で、何も覚えていないと言うことが、こんなにも恥ずかしいなんて。

 顔が熱くなる。

 でも、それは酔いの残りじゃなく、後悔の熱だった。

「まじか」

 瑞稀は、呆れたように笑った。

「えっと、何か粗相を…」

 言いながら、体を起こす。
 頭がまだ重くて、視界が揺れる。

「暴れるお前を、誰がここま運んできたとでも?」

 その言葉に、記憶の断片が少しだけ蘇る。

 ソファで眠りかけていた自分。
 瑞稀の声。
 腕を引かれる感覚。

 でも、それ以上は思い出せない。

「すみません…えーっと、でも、瑞稀はどうしてここに?」

 言いながら、瑞稀の顔を見つめる。

 彼は、怒っていない。
 でも、何か言いたげな表情をしていた。

 その沈黙が、少しだけ怖かった。

 そして、瑞稀は静かに指さした。

 その指先の先に、自分の手があった。

 そして——

「っ、ごめん」

 瑞稀の服の袖を、しっかり握りしめていた。

 無意識に。
 眠る間際に。
 彼の存在を確かめるように。

 その事実に気づいた瞬間、胸が熱くなった。
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