運命の糸の先に

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第66話

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「このヨーグルト超美味しいんですけど!どこで買ったの」

 口に入れた瞬間、驚きが走った。

 なめらかで、ほんのり甘くて、でもちゃんと酸味もあって、舌の上でとろけるような感覚。

 市販のヨーグルトとは明らかに違う。

 私の知ってるヨーグルトの枠を軽々と超えてきた。

 こんなに美味しいものを、何気なく朝食に出してくるなんて、どこで買ったのか知りたくなるのは当然だった。

 でも、返ってきた言葉は──────

「あーそれも俺が作った」

 その一言に、スプーンを持ったまま固まった。

 え?作った?ヨーグルトって、作れるの?
 ジャムだけじゃなくて、ヨーグルトまで?

 驚きすぎて、言葉が出ない。

 なんかもう、生活レベルが違いすぎる。

 私が朝に食べてるのは、スーパーで買ったプレーンヨーグルトに蜂蜜をかけただけのもの。

 それを「朝ごはん」と呼んでいた自分が、急に恥ずかしくなった。

 瑞稀の“普通”は、私の“特別”だった。

「丁寧な生活しすぎでしょ」

 思わずそう言ってしまった。
 今日から瑞稀の見る目が変わるんですけど。

「サラダにかけても美味いけど」

 瑞稀がそう言いながら、サラダの器を指さす。

 ヨーグルトをサラダに?って一瞬戸惑ったけど、言われた通り、サラダにヨーグルトをかけてみる。

 ちょっと不思議な組み合わせだけど……

「美味しい!」

 口に入れた瞬間、思わず笑顔になった。 

 シャキシャキの野菜に、まろやかなヨーグルトが絡んで、なんとも言えないバランス。

 瑞稀、天才かもしれない。

 こんな朝ごはん、毎日食べたい。

 昨日の夜、彼の袖を握って離さなかった自分に、今なら少しだけ「よくやった」って言える気がする。

「だろ?」

 得意げな顔でそう言う瑞稀。

「どうして今まで私の家で食べてたの?これから瑞稀の家で食べたい!」

 週に4回くらい、曜日も決めずに、気が向いたときに一緒に朝ごはんを食べてた。

 でも、私との時は食パンに砂糖とか、コンフレークとか、そんな朝食ばっかりだったから、

 瑞稀が、私のいない時にこんな丁寧な食事してるなんて、想像もしてなかった。

「別にいいけど」

 瑞稀の返事は、いつも通りそっけない。
 でも、その言葉の奥には、ちゃんと優しさがある。

 来てもいいよって、そう言ってくれてる。
 それだけで、胸がふわっと軽くなる。

「偶に夕食も作ってくれるけど、美味しすぎるんだよな」

 それは、ただの事実の羅列じゃなくて、私の中に積み重なってきた感謝の記憶だった。

 仕事でくたくたになって、食べる気力すらなくて、ベッドに倒れ込んでそのまま寝てしまう。

 そんな日が、何日も続いてた。

 そんな私を見て、瑞稀は何も言わずにキッチンに立ってくれた。

「毎日コンビニ弁当は体に悪い」って、ぶつぶつ言いながら、スマホでレシピを調べて、栄養バランスを考えて、食材を買ってきて。

 瑞稀の料理は、見た目も綺麗で、味ももちろん美味しくて。

 でも、それ以上に、彼の気持ちがこもっていた。

 “食べてほしい”“元気になってほしい”っていう、言葉にしない優しさが、ひと口ごとに伝わってくる。

 その優しさに、何度も救われた。

「繁忙期は死にかけてるもんな」

 瑞稀がぽつりと言う。

 私の仕事が忙しい時期、彼は何も言わずに支えてくれた。

 文句も言わず、ただそばにいてくれた。

 私が弱ってるとき、彼はいつも静かに寄り添ってくれる。

 だからこそ、今こうして笑っていられる。

「これからもお世話になります」

 世話になる気満々かって言われそうな気もするけど、事実だから仕方ない。

「…なら、もういっそのこと俺のとこに住めば?」

 その言葉が耳に届いた瞬間、時間が止まったような気がした。

 瑞稀の声は、いつもより少し低くて、でも確かに真剣だった。

 冗談かもしれない。
 でも、そうは聞こえなかった。 

 彼の目は、私をまっすぐに見ていて、そこにふざけた色はなかった。
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