運命の糸の先に

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第40話

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「私、スマホ壊れてくれてちょっとだけ感謝してるかも」  

 ふざけたようなトーンでそう言ってみる。
 けれど、心の奥では本気だった。

 もし壊れていなかったら、今日みたいな時間はなかったかもしれない。

 瑞稀と並んで歩くこの距離も、笑い合ったあの瞬間も。  

 瑞稀は怪訝そうな顔をこちらに向ける。  

「何だそれ」  

 眉をひそめながら言うけれど、どこかでその言葉を否定しきれていないような気がする。  

「だって、じゃなかったら今日ずっと一緒にいられなかったでしょ?」  

 真正面からの言葉に、瑞稀は何も言い返さなかった。

 けれど、その沈黙は不思議とあたたかかった。

 何も言わないのは、ちゃんと伝わっている証拠だと思う。

 瑞稀は言葉よりも、沈黙で答えるタイプだから。

「…あ、」 

 前方に見えてきた、修理屋のロゴが明るい光を受けてきらりと光る。

 あそこに預けたスマホ。

 さっきまで笑い合っていた空気が、どこか静かなものへと変わっていく。

 あと少しで今日の“特別”が終わってしまうような、そんな名残惜しさが胸に広がる。  

「また暇なとき、付き合ってくれる?」  

 何気ない風を装いながら口にする。

 期待してるのがバレないように、声のトーンを少しだけ軽くしてみる。  

 瑞稀は小さく「……考えとく」とだけ言った。  

 その答えもまた、瑞稀らしくて。

 たぶんそれは、きっと“いいよ”って意味だと分かってしまうから、これ以上の答えはもういらなかった。  

「にしても、ちゃんと直ったかなぁ」  

 もし直っていなかったら、また預けないといけないし、面倒臭い。

 何よりデータが無事かどうかが気がかりだった。  

「直せるって言ってただろ」  

 返ってきた声は、いつも通り淡々としているのに、どこかで安心させようとしてくれてる気がする。

 多分それは気のせいじゃない。  

「そうだよね」  

 小さくうなずきながら、ついスマホのない自分の右手を見つめてしまう。 

 やっぱり、ポケットにないって落ち着かないもんなんだな…

 なんて、そんなことを思っていると、

「ビビりすぎ。直ってなかったら俺が文句言ってやるから」  

 瑞稀がそう付け加える。

 目は合わせないくせに、ぽつんと真顔で言うから、ずるい。

 ほんと、そういうキャラじゃないのに。

 口調は強いくせに、誰よりも面倒見がよくて、黙って隣にいてくれる。

 その言葉ひとつで、不安がすーっと消えていくのが分かる。  

「ふふ。ありがと」  

 さっきまで胸の奥でわだかまっていた小さな緊張が、軽い笑みと一緒にほどけていく。

 瑞稀はふっと目を逸らして、「別に」と短く答える。

 けれど、その声色はさっきよりほんの少しだけ柔らかかった。

 ほんのりとした照れ隠し。

 たぶん本人は気づかれないようにしてるんだろうけど、バレバレだ。

 言葉に出すと照れくさくなるけど、本当は思ってる。

 今日ずっと一緒にいてくれて、ありがとうって。  


 その言葉を胸にしまいながら、修理屋の扉に手をかける。


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