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第41話
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少しずつ修理屋のカウンターが近づいてくる。
ショッピングセンターの中を歩いてきたはずなのに、なぜかこの数歩だけが特別に感じられる。
さっきまで笑っていた空気が、静かに落ち着いていく。
足取りは自然とゆっくりになって、心の中でまだ着かないでと願ってしまう。
もうすぐ今日の“特別”が終わってしまう気がして、名残惜しさだけが残った。
自動ドアの前に立つと、センサーが反応してスッと開く。
その音が、まるで終わりの合図みたいに聞こえて、胸の奥が少しだけきゅっとなる。
扉の向こうに広がる店内は、明るくて清潔で、どこか無機質な雰囲気が漂っている。
カウンターの奥には、見慣れたスマホがケースの上にぽつんと置かれているのが見えた。
その姿を確認した瞬間、胸の奥に小さな波が立つ。
あのスマホが壊れたときの焦りや不安が、一気に蘇ってくる。
けれど、今はもうそれを乗り越えたような気がして、少しだけ深く息を吐いた。
「直ってますように」
小さな声でつぶやきながら、カウンターへと歩みを進める。
声に出した瞬間、願いが少しだけ現実に近づいたような気がした。
隣にいる瑞稀の気配を感じながら、心の中で「大丈夫」と自分に言い聞かせる。
スタッフが気づいて、にこやかな笑顔で迎えてくれた。その笑顔に少しだけ安心する。プロの手に任せたとはいえ、やっぱり不安は残っていたから。
「スマホ、無事に修理できました。電源つけてみてください」
丁寧な口調でそう言われて、手渡されたスマホをそっと受け取る。
指先に伝わる冷たい感触が、どこか懐かしい。
画面は新品のように滑らかで、傷ひとつない。
手のひらに収まるその重さが、思っていたよりもずっと安心感をくれる。
まるで、失くしたと思っていた何かが戻ってきたような気がした。
電源ボタンを押すと、ほんの一瞬の沈黙のあと、画面がふわりと光を灯す。
「付いた…中身もそのままだ」
画面に映る見慣れたホーム画面。
アイコンの並びも、壁紙も、通知も、すべてがそのままで。
まるで何もなかったかのように、そこにいてくれた。
胸の奥でふっと緊張がほどける。
思わずスマホを両手で包み込むように持ち直す。
「よかったな」
隣で瑞稀が小さく呟く。
その声には確かな温度があって、やけに優しくて、思わず顔が緩んでしまう。
「うん、ありがとう。一緒に来てくれて」
素直にそう言える空気が、今日のこの時間の中にちゃんとあって、それが嬉しかった。
言葉にするのが少し照れくさいけれど、今ならちゃんと伝えられる気がした。
瑞稀は何も言わずに、ただ「ふっ」と鼻を鳴らすだけだったけれど、その反応もまた瑞稀らしくて、なんだか安心する。
手元には元通りのスマホと、少しだけ近づいた瑞稀との距離が残っている。
ショッピングセンターの中を歩いてきたはずなのに、なぜかこの数歩だけが特別に感じられる。
さっきまで笑っていた空気が、静かに落ち着いていく。
足取りは自然とゆっくりになって、心の中でまだ着かないでと願ってしまう。
もうすぐ今日の“特別”が終わってしまう気がして、名残惜しさだけが残った。
自動ドアの前に立つと、センサーが反応してスッと開く。
その音が、まるで終わりの合図みたいに聞こえて、胸の奥が少しだけきゅっとなる。
扉の向こうに広がる店内は、明るくて清潔で、どこか無機質な雰囲気が漂っている。
カウンターの奥には、見慣れたスマホがケースの上にぽつんと置かれているのが見えた。
その姿を確認した瞬間、胸の奥に小さな波が立つ。
あのスマホが壊れたときの焦りや不安が、一気に蘇ってくる。
けれど、今はもうそれを乗り越えたような気がして、少しだけ深く息を吐いた。
「直ってますように」
小さな声でつぶやきながら、カウンターへと歩みを進める。
声に出した瞬間、願いが少しだけ現実に近づいたような気がした。
隣にいる瑞稀の気配を感じながら、心の中で「大丈夫」と自分に言い聞かせる。
スタッフが気づいて、にこやかな笑顔で迎えてくれた。その笑顔に少しだけ安心する。プロの手に任せたとはいえ、やっぱり不安は残っていたから。
「スマホ、無事に修理できました。電源つけてみてください」
丁寧な口調でそう言われて、手渡されたスマホをそっと受け取る。
指先に伝わる冷たい感触が、どこか懐かしい。
画面は新品のように滑らかで、傷ひとつない。
手のひらに収まるその重さが、思っていたよりもずっと安心感をくれる。
まるで、失くしたと思っていた何かが戻ってきたような気がした。
電源ボタンを押すと、ほんの一瞬の沈黙のあと、画面がふわりと光を灯す。
「付いた…中身もそのままだ」
画面に映る見慣れたホーム画面。
アイコンの並びも、壁紙も、通知も、すべてがそのままで。
まるで何もなかったかのように、そこにいてくれた。
胸の奥でふっと緊張がほどける。
思わずスマホを両手で包み込むように持ち直す。
「よかったな」
隣で瑞稀が小さく呟く。
その声には確かな温度があって、やけに優しくて、思わず顔が緩んでしまう。
「うん、ありがとう。一緒に来てくれて」
素直にそう言える空気が、今日のこの時間の中にちゃんとあって、それが嬉しかった。
言葉にするのが少し照れくさいけれど、今ならちゃんと伝えられる気がした。
瑞稀は何も言わずに、ただ「ふっ」と鼻を鳴らすだけだったけれど、その反応もまた瑞稀らしくて、なんだか安心する。
手元には元通りのスマホと、少しだけ近づいた瑞稀との距離が残っている。
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