運命の糸の先に

hayama_25

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第43話

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「さっきぶりですね。こんな所で何してたんですか?」

 声が耳に滑り込んできた瞬間、心臓の奥がゆっくりと締め付けられるように重たくなる。

 表情は笑っているのに、その声色に含まれた軽さが、どこか自分を試すようで、

 油断できない空気を感じる。

 視線をそらせばいいのに、自然と彼女の表情を追ってしまう。

「それはこっちのセリフ。お前…つけて来たんだろ」

 返された言葉が硬質な響きを持って空間を裂いた。

 足元に冷たい風が通り抜けたような感覚に身がすくむ。

 耳元を掠めるその口調に、胸の奥がざらりと波打った。

 そんなわけない。
 だって、そんなのストーカーじゃん。

 なんて思ったけど、口には出せなかった。

 瑞稀はいつも無口で感情を表に出さないのに、今は違う。

 瑞稀が、怒っていたから。

「まさかぁ。どうして私が?」

 笑ってみせるその顔の中に、ほんのわずか、影が差したような気がする。

 形だけの疑問、演技めいた身振り、その裏に潜む意志。

 全てが読み取れてしまいそうで、逆に読み違えてしまいそうで、息の仕方さえ迷う。

 彼女はいつもこうやって、場の空気を操ってきた。

 誰にでも愛想よく振る舞うけれど、その裏で何を考
 えているのかは見えない。

 その曖昧な態度が、今は不安を掻き立てる。

「本気で聞いてるわけじゃないだろうな。お前は、昔からそういう人間だっただろ」

 過去への言及、その指摘の鋭さに、喉の奥がひどく乾いた。

 瑞稀は彼女の“本質”を知っているのかもしれない。

 彼女と別れた理由だって教えてもらってないけど、二人だけの秘密がきっとある。

「えぇ?誰かと勘違いしてるんじゃないですか?」

 動じない表情、滑らかな言葉。
 その強さは、羨ましくもあり、どこか怖くもある。

 過去に何があったのか、どうして瑞稀がそこまで言葉を荒らげたのか。

 その理由が分からないまま、沈黙の中で心が軋む。

 ただその場にいるだけなのに、まるで誰かの決着の場に立ち会っているようで、息を詰めてしまう。

「もういい。お前みたいなやつと話してる時間が無駄。帰るぞ梨華」

 名前を呼ばれた瞬間、胸が音を立てて高鳴る。

 逃げ出したいわけじゃないのに、どこかで助け舟を待っていた自分がいたことに気づいてしまう。

 その一言に込められた感情が、理屈よりも先に心に触れた。

 守られたような、選ばれたような、それでいて、どこか申し訳ないような罪悪感も纏う。

 それはどうしてだろうか。

 それでも、この空気から抜け出せることに、安堵の影が差す。

「え、あ、うん」

 言葉が出た瞬間、自分の声だと思えないほど震えていた。

 足が動くより先に、心がわずかに前のめりになる。

 この場所に留まる理由も、進む理由も、全てがぼやけたまま、ただ瑞稀の背中を追いかけようとする意志だけが先を走る。

「待ってくださいよ。せっかくなのでお茶でも。ね、梨華さん」

 その声には、瑞稀とは違う柔らかさがある。

 けれど、その柔らかさが不気味に響くのはなぜだろう。

 無視もできずに、仕方なく振り返る。

 佳代の瞳がまっすぐこちらを見ていた。
 視線を絡め取られたように動けない。

 彼女の誘いに乗れば、過去も一緒に蘇ってくる気がする。

 でも、その先に何か“知らなければいけない答え”があるような予感もして…。


 分岐点に立たされていることを、身体全体が感じていた。
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