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そういえば、同期入社の技術部門の彼が、夏哉のことを言っていたなぁと思い出す。
『畑中、気をつけたほうがいいよ』
『何が?』
『お前、前にさ、蓬田のやつと付き合っていただろ?』
思い出したくもない過去。
『畑中さ、最近、他部署からも評判がいいじゃん?』
入社して丸二年が経ち、他部署との関係も良好になりつつあった。
品質管理部に仕事の依頼では、指名されるときもある。仕事が認められるのは嬉しい。
『だけど蓬田のやつさ。最近、品質問題が多いみたいで、精神的にキてるっぽいんだよね』
そこで、昔の彼女である私の評判を聞いた彼は、さらに追い詰められていると。
そう、同期の彼は言いたかったようだ。
同期入社となれば、部署は違っても比較される。つまり、仲間でありライバルでもある。そんな関係。
『わかった。肝に銘じておく』
そう言ってその場はごまかした。
ごまかしたし、肝に銘じておいたつもりだった。
だけど夏哉からしたら、私が活躍して他部署の人と仲良くする様子が面白くなかったようだ。
そして今日の新人の歓迎会。
私はOJT担当となったけれど、夏哉は違う。後輩が配属されるのに、彼はその担当に選ばれなかった。
私が新人と仲良くしているのも、彼にとっては面白くないらしい。
放っておいてくれればいいのに、と思う。
そんな彼は、ひとことふたこと、私に何かを言わなければ気が済まなかったのだろう。
それでも影でこそこそ言わず、堂々と言ってくるあたりは褒めてやりたい。
文句があるなら直接言えよ。と、思うタイプの人間だから。
でも、私のモットーは、目には目を、歯には歯を。やられたらやり返す。
だからあの場所で、ヒートアップしてしまった。
結局、二次会には参加せずに、帰ってきたのだ。
だけど、そこからの記憶が曖昧なのは、夏哉のせいで怒りに満ちていたからかもしれない。
「んっ……」
少し窮屈だなと思って、寝返りを打った。
お布団の中のぬくもりが心地よい。次第にあたたかくなる季節ではあるが、朝晩はまだまだ冷え込む。
うつらうつらと夢と現実の世界をいったりきたりしつつも、掛け布団をしっかりと掴んで丸くなる。
「……?!」
さきほどから、布団のぬくもりとは異なるあたたかさを感じていた。
目の前にある物体が信じられず、本当はまだまだまどろんでいたかったが、ぱっと目を見開いた。
「え、と……黒須部門長……? あっ、いた……っ」
昨夜のことを思い出そうとすると、こめかみが痛む。
「昨日、飲み過ぎたのか? そうは見えなかったが……」
しゅるっと音を立てて、彼がベッドから下りた。
「……っ?!」
いくら後ろ姿であっても、彼の一糸報わぬ姿は、寝ぼけている私に強烈すぎた。
だけど、ほどよく引き締まっている臀部から太ももの具合に、視線を奪われてしまう。
目は覚めた。いろんな意味で。
慌てて、布団の中の自分の身体を確認する。いや、少しすぅすぅするなとは思っていた。
「●×■△&……%……」
まぁ、そういうことだった。慌てて周囲を見渡して、手を伸ばして、落ちている下着を拾う。
とにかく、布団から出られるような身支度をしておくべき。
彼がグラスを手にして戻ってきたが、下だけは身に着けていたので、ちょっとだけ胸をなでおろした。
「もしかして、昨日……。飲み過ぎたのか? ほら、りんごジュース。二日酔いにはグレープフルーツがいいらしいのだが、珠美は苦手だろ?」
いろいろと言いたいことはあったが、私はとりあえずそれを受け取った。
『畑中、気をつけたほうがいいよ』
『何が?』
『お前、前にさ、蓬田のやつと付き合っていただろ?』
思い出したくもない過去。
『畑中さ、最近、他部署からも評判がいいじゃん?』
入社して丸二年が経ち、他部署との関係も良好になりつつあった。
品質管理部に仕事の依頼では、指名されるときもある。仕事が認められるのは嬉しい。
『だけど蓬田のやつさ。最近、品質問題が多いみたいで、精神的にキてるっぽいんだよね』
そこで、昔の彼女である私の評判を聞いた彼は、さらに追い詰められていると。
そう、同期の彼は言いたかったようだ。
同期入社となれば、部署は違っても比較される。つまり、仲間でありライバルでもある。そんな関係。
『わかった。肝に銘じておく』
そう言ってその場はごまかした。
ごまかしたし、肝に銘じておいたつもりだった。
だけど夏哉からしたら、私が活躍して他部署の人と仲良くする様子が面白くなかったようだ。
そして今日の新人の歓迎会。
私はOJT担当となったけれど、夏哉は違う。後輩が配属されるのに、彼はその担当に選ばれなかった。
私が新人と仲良くしているのも、彼にとっては面白くないらしい。
放っておいてくれればいいのに、と思う。
そんな彼は、ひとことふたこと、私に何かを言わなければ気が済まなかったのだろう。
それでも影でこそこそ言わず、堂々と言ってくるあたりは褒めてやりたい。
文句があるなら直接言えよ。と、思うタイプの人間だから。
でも、私のモットーは、目には目を、歯には歯を。やられたらやり返す。
だからあの場所で、ヒートアップしてしまった。
結局、二次会には参加せずに、帰ってきたのだ。
だけど、そこからの記憶が曖昧なのは、夏哉のせいで怒りに満ちていたからかもしれない。
「んっ……」
少し窮屈だなと思って、寝返りを打った。
お布団の中のぬくもりが心地よい。次第にあたたかくなる季節ではあるが、朝晩はまだまだ冷え込む。
うつらうつらと夢と現実の世界をいったりきたりしつつも、掛け布団をしっかりと掴んで丸くなる。
「……?!」
さきほどから、布団のぬくもりとは異なるあたたかさを感じていた。
目の前にある物体が信じられず、本当はまだまだまどろんでいたかったが、ぱっと目を見開いた。
「え、と……黒須部門長……? あっ、いた……っ」
昨夜のことを思い出そうとすると、こめかみが痛む。
「昨日、飲み過ぎたのか? そうは見えなかったが……」
しゅるっと音を立てて、彼がベッドから下りた。
「……っ?!」
いくら後ろ姿であっても、彼の一糸報わぬ姿は、寝ぼけている私に強烈すぎた。
だけど、ほどよく引き締まっている臀部から太ももの具合に、視線を奪われてしまう。
目は覚めた。いろんな意味で。
慌てて、布団の中の自分の身体を確認する。いや、少しすぅすぅするなとは思っていた。
「●×■△&……%……」
まぁ、そういうことだった。慌てて周囲を見渡して、手を伸ばして、落ちている下着を拾う。
とにかく、布団から出られるような身支度をしておくべき。
彼がグラスを手にして戻ってきたが、下だけは身に着けていたので、ちょっとだけ胸をなでおろした。
「もしかして、昨日……。飲み過ぎたのか? ほら、りんごジュース。二日酔いにはグレープフルーツがいいらしいのだが、珠美は苦手だろ?」
いろいろと言いたいことはあったが、私はとりあえずそれを受け取った。
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