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*~*~*~*
点滴のおかげか、悪阻も落ちついた私は、なんとか会社に行けるようになった。
健太郎さんと婚約したことは、まだ会社には言っていない。
「……はぁ」
自席で大きくため息をつくと、隣の席の森田さんが心配そうに顔を向ける。
森田さんは、二人の娘の父親で、私の指導係でもあった人だ。たまに、スマホで撮った娘さんの写真を自慢してくる。この四月から、上の娘さんが幼稚園に通い始めたと嬉しそうに笑っていた。
年は私よりも十歳近く上なのだが、森田さんが配属されてから私が配属されるまでの間、新人が配属されなかったのだから、森田さんは私の次に若手社員となる。
「畑中さん、体調悪い? ずっと休んでいたでしょ? 具合悪いなら、無理しないで帰っていいよ」
さすが二児の父親。自分だって、早く帰りたいだろうに。時計の針は、とっくに定時を過ぎた時間を指している。残業時間が一時間、過ぎたところ。
「あ、大丈夫です。ちょっと、疲れてしまって」
「そういうときも、早く帰ったほうがいいよ。明日に響く。最近、気温差も激しいしね」
森田さんがそう言う通り、最近の天気はちょっとおかしい。半袖になるくらいの暑さになる日もあれば、上着を羽織りたくなる朝のときもある。気温差で体調を崩す人も多いと、天気予報でも言っていたくらい。
「では、この評価報告書の確認が終わったら」
せっかくOJT担当者となったのに、悪阻が酷くて三日ほど休んでしまった。土日も挟んだから、実質五日。その間、新人くんの面倒をみてくれたのも森田さん。
森田さんが新人くんに報告書作成の指導をしてくれた。それを確認して、手直しして、提出させるまでは、私が引き継いだ。
「高野くん、覚えがいいから」
新人の高野は、新人歓迎会のときから私になついてきた。年が近いという親近感もあるのだろう。
「あまりこちらから指示しないで、高野くんに考えさせるように指導したほうがいいよ。そうしないと、指示待ち人間ができあがるから」
「それって、森田さんの経験ですか? それとも、私のこと?」
「畑中さんは、指示待ち人間っていうタイプじゃないよね。どちらかというと、暴走車みたいな、突っ走るタイプ。見ていてハラハラはするけれど、畑中さんのおかげで俺も前よりは早く帰れるようになったわけだ」
森田さんのパソコンのファンの音が消えた。
「というわけで、俺はもう帰りたいんだ。娘を風呂にいれなきゃいけないからね」
これはもう、明日は娘さんの自慢話が始まるだろう。
「てことで、俺は帰る。おつかれ」
立ち上がった森田さんは、行き先表示板に『帰宅』のマグネットを自分の名の脇に置いて、フロアを出て行った。
私は、高野くんが作った報告書をもう一度確認する。
点滴のおかげか、悪阻も落ちついた私は、なんとか会社に行けるようになった。
健太郎さんと婚約したことは、まだ会社には言っていない。
「……はぁ」
自席で大きくため息をつくと、隣の席の森田さんが心配そうに顔を向ける。
森田さんは、二人の娘の父親で、私の指導係でもあった人だ。たまに、スマホで撮った娘さんの写真を自慢してくる。この四月から、上の娘さんが幼稚園に通い始めたと嬉しそうに笑っていた。
年は私よりも十歳近く上なのだが、森田さんが配属されてから私が配属されるまでの間、新人が配属されなかったのだから、森田さんは私の次に若手社員となる。
「畑中さん、体調悪い? ずっと休んでいたでしょ? 具合悪いなら、無理しないで帰っていいよ」
さすが二児の父親。自分だって、早く帰りたいだろうに。時計の針は、とっくに定時を過ぎた時間を指している。残業時間が一時間、過ぎたところ。
「あ、大丈夫です。ちょっと、疲れてしまって」
「そういうときも、早く帰ったほうがいいよ。明日に響く。最近、気温差も激しいしね」
森田さんがそう言う通り、最近の天気はちょっとおかしい。半袖になるくらいの暑さになる日もあれば、上着を羽織りたくなる朝のときもある。気温差で体調を崩す人も多いと、天気予報でも言っていたくらい。
「では、この評価報告書の確認が終わったら」
せっかくOJT担当者となったのに、悪阻が酷くて三日ほど休んでしまった。土日も挟んだから、実質五日。その間、新人くんの面倒をみてくれたのも森田さん。
森田さんが新人くんに報告書作成の指導をしてくれた。それを確認して、手直しして、提出させるまでは、私が引き継いだ。
「高野くん、覚えがいいから」
新人の高野は、新人歓迎会のときから私になついてきた。年が近いという親近感もあるのだろう。
「あまりこちらから指示しないで、高野くんに考えさせるように指導したほうがいいよ。そうしないと、指示待ち人間ができあがるから」
「それって、森田さんの経験ですか? それとも、私のこと?」
「畑中さんは、指示待ち人間っていうタイプじゃないよね。どちらかというと、暴走車みたいな、突っ走るタイプ。見ていてハラハラはするけれど、畑中さんのおかげで俺も前よりは早く帰れるようになったわけだ」
森田さんのパソコンのファンの音が消えた。
「というわけで、俺はもう帰りたいんだ。娘を風呂にいれなきゃいけないからね」
これはもう、明日は娘さんの自慢話が始まるだろう。
「てことで、俺は帰る。おつかれ」
立ち上がった森田さんは、行き先表示板に『帰宅』のマグネットを自分の名の脇に置いて、フロアを出て行った。
私は、高野くんが作った報告書をもう一度確認する。
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