あやかし夫(予定)の溺愛~真夏の雪

澤谷弥(さわたに わたる)

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 お義母さまのお店を出て、夜風に当たりながら二人で並んで歩く。夜風といっても、じめっとしているから、心地よいとはけして言えない風である。

 恥ずかしいことに、手はしっかりと健太郎さんに握られていた。

「それで、そんなに珈琲が飲みたかったのか?」

 どうやら健太郎さんは、私が先に帰ったのを根に持っているようだった。

「ち、違います……。実は……」

 気のせいかもしれないが、と前置きをしてから、会社を出てから感じた視線について話した。その視線から逃げるために、目に入った珈琲店に足を踏み入れたことまで。

「そういった意味では、正しい判断だったな。おそらくだが、気のせいではないだろう」
「てことは、やはり誰かにつけられていた?」
「そう考えるのが無難だな。言っただろう? あやかしと人間の間に生まれるその子は、狙われる可能性がある、と」
「別に、私もこの子も。無理してあやかし界に入らなくていいですよ。狙われるくらいなら……」

 誰かに狙われるくらいなら、そっと身を引いて、静かに生きたい。

「俺も母もそう思っている一人だが、そういう考えそのものが異端らしい。あやかしにはあやかしの掟があり、人間界には人間界なりのルールがあるからな」

 つまり、掟やルールはきちんと守りましょうということなのか。

「だが、その子の誕生を望んでいるのは、俺や母だけではない。あやかしと人間の間に子が生まれることで、今まで種族を理由に諦めていた者たちの希望になる」
「それって。私にそれだけの力があるからって言ってませんでした? そういう人間であれば、いいってことですよね?」
「そうだ。だが、その力は生まれながらのものなのか? それとも、生まれてから身についたものなのか?」

 そんなことを言われても、実は、私にはその力というものがまったくわからない。

「つまり、タマはこれからのあやかし界にとって、新しい道を切り開くような人間となるわけだ。だけど、変化を嫌うあやかしだっている。そういったものは、タマを狙うだろう。むしろ、タマより弱い者を」

 そっと下腹部を支える。
 そんなあやかし界のごたごたに、この新しい命を巻き込みたくない。

「タマは間違いなく俺の運命だよ。俺の本能がそう告げている。だから、こうやって新しい命を授かったことは、言葉で言い表せないくらい嬉しいんだ。俺たちの間には、種族を越える何かがあったにちがいない」

 私は、健太郎さんの手をぎゅっと握り返した。

「俺とタマの子は、人間とあやかしの関係を変えるような存在になる。だから、その子もタマも、俺が守るから……」

 その言葉に胸が熱くなって「はい」と答えてしまったからだろう。
 次の日から、健太郎さんが同伴出勤を提案してきたのだ。
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