婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。

澤谷弥(さわたに わたる)

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プロローグ

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「リューディア」
 モーゼフの部屋の前から離れようとしたとき、隣の部屋からひょっこりと顔を出してきた男性がいた。

「エメレンスさま……」
 その男は、モーゼフの弟であり、このリンゼイ王国第二王子のエメレンス・ファン・リンゼイだった。兄と同じような瞳の色と髪の色をしているが、その髪は長髪の兄とは違って短くしているし、いつも緑色の瞳が見えている。
「兄上は、なんて? 急に君を呼び出すだなんて、何事かと思うよね」

「え、あ、はい……。その、婚約の解消をして欲しいという内容でした」

「えっ」
 驚きのあまりエメレンスからその呟きが漏れた。
「兄上が? 君との婚約を? なぜ? いや、ちょっと待て。場所を変えよう。ボクの部屋ではいろいろとあれだから、そうだ、応接室へ向かおう」

 エメレンスは侍女に声をかけ、応接室に二人分のお茶などを準備するように伝える。
「リューディア。その、大丈夫か?」

 応接室に向かう途中で、エメレンスに声をかけられ、はっと我に返る。

「あ、はい。大丈夫、です」

「だけど。顔色が良くない。本当に兄上は、なんて馬鹿げたことを口にしたのだろうか。すまない。兄に代わって謝罪させて欲しい」

「いえ、お気になさらないでください。エメレンスさまに非はありませんので」

「とりあえず、そこに座ってくれ。すぐにお茶と美味しいお菓子がくるから」
 美味しいという言葉を口にしたときに、エメレンスはにっこりと笑ってくれた。だからリューディアも釣られて笑ってしまう。

「うん。やはり君には笑顔が似合うよ。とても可愛い。このように可愛い女性と婚約を解消したいだなんて、兄上は一体何を考えているのか……」

 そこで侍女がお茶とお菓子を乗せたワゴンを押して部屋に入ってきたため、エメレンスは口を噤む。
 二人の前にお茶とお菓子が並べられた。恐らく侍女は隣の部屋で待機していることだろう。いくら場所が応接室といえども、年頃の男女が二人きりで一部屋にいるのはよろしくない。だから今だって、エメレンスはリューディアと向かい合って座っている。

「それで。兄上はなぜ君との婚約を解消したいと言い出したの? 理由は、聞いた?」

 はい、とリューディアは頷く。

「その……。わたくしがこのように醜いからです。醜いから、眼鏡をかけておりましたが、それすらモーゼフさまはお気に召さなかったようで」

「そうか……。美醜というものは、個人の感覚によるものが大きいからね。ボクは君のことが醜いとは思わない。だけど、他の者は醜いと思うかもしれない。その他の者の一人が、恐らく兄上だったのだろうね」

 リューディアはいつでも可愛いよ、と口にしてくれる異性は、家族以外ではこのエメレンスだけだ。
「リューディア。先ほども言ったように、その美醜感覚っていうのは人それぞれなんだ。だから、君はけしてボク以外の男の前でその眼鏡を外してはいけないよ。また、心にもない言葉で君を傷つける人がいるかもしれないから」

「はい」
 リューディアは眼鏡をくいっと押し上げてから「ありがとうございます」と口にする。
 この眼鏡も、エメレンスからの贈り物である。リューディアの心を守るために、とエメレンスが出会ってすぐに贈り始めたのがきっかけ。そこから、彼女の誕生日には毎年眼鏡を贈っている。もちろん、度などは入っていない伊達眼鏡。眼鏡のデザインも様々。

「君を屋敷まで送っていこう。今日の件を、君の父上にも報告しなければならないからね」

「それは、自分で報告いたします。何もエメレンスさまのお手を煩わせなくても」

「だが、今回はこちら側の非だ。きちんと謝罪したい。本当に、兄上が、申し訳なかった」

 深く頭を下げるエメレンス。

「ですから、エメレンスさまは何も悪くありません。悪いのは、このように醜いわたくしなのです。どうか、頭をあげてください」

 姿が見えなくても、リューディアがあたふたと焦っていることを、エメレンスは気配で感じ取っていた。だから、リューディアは可愛いのだ。なぜこのような可愛らしい女性が兄の婚約者なのか、ということがエメレンスにとってずっと不満に思っていたこと。彼女に見えない表情の下で、にたりとエメレンスが嬉しそうに笑ったことに、もちろんリューディアは気付いていない。
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