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第四章(1)
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ゆっくりと浮上する意識の感覚は、目が覚める予兆。それでもあたたかなものに包まれて、心地よい眠りであれば、もう少しこのままでと思ってしまうのは、ある種、人間の本能なのではと思う。
ぬくもりが心地よく、顔をすり寄せると「んっ」とくぐもった声が聞こえた。そして顔をすり寄せてはみたものの、けして肌触りがいいとは思えない。
(いつもと違う……)
シェリルのベッドの上には、このように硬いものは置いていない。
瞼を開けようとしても、ぴったりとくっついていてなかなか目が開かない。目を閉じたまま手を伸ばして、ぬくもりがなんであるかを確認する。
「シェリル……起きたのか?」
「あっ」
その声に驚き、くっついていた瞼がぱっと開いた。
「殿下?」
何度も瞬きをして、目の前にいる人物を確認する。いや、目を閉じたら消えるかもしれないと思ったのだ。
しかし彼はしっかりとここに存在している。
「おはよう、シェリル」
「おはよう、ございます……」
イライアスと目が合ったものの、シェリルはすぐさま顔を逸らす。
(どうして、ここにいるのかしら……?)
なぜイライアスと一緒に寝ていたのか、その理由がわからなかった。
昨夜の状況を思い出そうと、記憶を手繰り寄せる。昨日は、イライアスとシェリルの婚約発表パーティーだった。
(乾杯をして……挨拶をして踊って……そのあとバルコニーに出たのだわ。あ、お兄様に会ったかも?)
ルークは慌てた様子でシェリルを探していた。そのとき、彼はなんと言っていたか。
――先ほどの乾杯酒は、イチゴを使ったお酒だったんだよ。
(あっ……)
思い出しただけで、身体中が羞恥に包まれ、今すぐにでも消え入りたい気分になった。まさしく穴があったら入りたい。
「シェリル、身体の具合は?」
「だだだだだ、大丈夫……です……」
「そうか。よかった……」
イライアスが心から安堵する様子が伝わってきた。
「あ、あ、あの。殿下……その、昨日、わたし……」
聞きたいけど聞きたくないような、そういった葛藤があり、なかなか言葉が出てこない。
するとイライアスは、ぽんぽんと頭をなでてくる。
「昨日のパーティーで、シェリルは体調を崩した。だから早めに戻ってきたのだが……ルークの許可も出たし、俺の部屋に連れてきた」
つまり、この状況をルークも知っているわけだ。身内に知られている事実に、どのような顔をして兄と会ったらいいかわからない。
いくらイライアスとは婚約した間柄であったとしても、関係性を知られるのは恥ずかしいだろう。
「ご迷惑を……おかけしました」
頭からすっぽりと掛布をかぶったシェリルは、消え入るような声でそう言った。
「あれは、俺の失態だ。シェリルがイチゴを食べられないと知っていたのに、事前に料理の内容を確認しておかなかった。俺であれば、それができたのに……。悪かった。どうやら、事前に乾杯酒がかわったようなんだ」
声色から察するに、彼も悔いているのだろう。だが、それはシェリルも同じだ。料理の確認など基本中の基本。ただ、慌ただしい準備の中で、急遽変更になったというのであれば、聞き漏らしたかもしれない。
今回の主役はイライアスとシェリルだったとしても、主催は国王の名になっているため、最終判断は国王がする。
そうやってシェリルも後悔の念にかられていると、掛布の上からイライアスが背をなでてくれたのがわかった。
「いえ……殿下のせいではありません……」
誰のせいでもない。むしろ、こんな変な体質になってしまった自分自身のせいなのだ。
「それで、いつまでそうやって潜っているつもりだ?」
いつまでも顔を出そうとしないシェリルを案じているのか、その声色もどこか不安げなものにかわってくる。
「だ、だ、だって……恥ずかしいので……」
あきれるようなため息が聞こえた。
ぬくもりが心地よく、顔をすり寄せると「んっ」とくぐもった声が聞こえた。そして顔をすり寄せてはみたものの、けして肌触りがいいとは思えない。
(いつもと違う……)
シェリルのベッドの上には、このように硬いものは置いていない。
瞼を開けようとしても、ぴったりとくっついていてなかなか目が開かない。目を閉じたまま手を伸ばして、ぬくもりがなんであるかを確認する。
「シェリル……起きたのか?」
「あっ」
その声に驚き、くっついていた瞼がぱっと開いた。
「殿下?」
何度も瞬きをして、目の前にいる人物を確認する。いや、目を閉じたら消えるかもしれないと思ったのだ。
しかし彼はしっかりとここに存在している。
「おはよう、シェリル」
「おはよう、ございます……」
イライアスと目が合ったものの、シェリルはすぐさま顔を逸らす。
(どうして、ここにいるのかしら……?)
なぜイライアスと一緒に寝ていたのか、その理由がわからなかった。
昨夜の状況を思い出そうと、記憶を手繰り寄せる。昨日は、イライアスとシェリルの婚約発表パーティーだった。
(乾杯をして……挨拶をして踊って……そのあとバルコニーに出たのだわ。あ、お兄様に会ったかも?)
ルークは慌てた様子でシェリルを探していた。そのとき、彼はなんと言っていたか。
――先ほどの乾杯酒は、イチゴを使ったお酒だったんだよ。
(あっ……)
思い出しただけで、身体中が羞恥に包まれ、今すぐにでも消え入りたい気分になった。まさしく穴があったら入りたい。
「シェリル、身体の具合は?」
「だだだだだ、大丈夫……です……」
「そうか。よかった……」
イライアスが心から安堵する様子が伝わってきた。
「あ、あ、あの。殿下……その、昨日、わたし……」
聞きたいけど聞きたくないような、そういった葛藤があり、なかなか言葉が出てこない。
するとイライアスは、ぽんぽんと頭をなでてくる。
「昨日のパーティーで、シェリルは体調を崩した。だから早めに戻ってきたのだが……ルークの許可も出たし、俺の部屋に連れてきた」
つまり、この状況をルークも知っているわけだ。身内に知られている事実に、どのような顔をして兄と会ったらいいかわからない。
いくらイライアスとは婚約した間柄であったとしても、関係性を知られるのは恥ずかしいだろう。
「ご迷惑を……おかけしました」
頭からすっぽりと掛布をかぶったシェリルは、消え入るような声でそう言った。
「あれは、俺の失態だ。シェリルがイチゴを食べられないと知っていたのに、事前に料理の内容を確認しておかなかった。俺であれば、それができたのに……。悪かった。どうやら、事前に乾杯酒がかわったようなんだ」
声色から察するに、彼も悔いているのだろう。だが、それはシェリルも同じだ。料理の確認など基本中の基本。ただ、慌ただしい準備の中で、急遽変更になったというのであれば、聞き漏らしたかもしれない。
今回の主役はイライアスとシェリルだったとしても、主催は国王の名になっているため、最終判断は国王がする。
そうやってシェリルも後悔の念にかられていると、掛布の上からイライアスが背をなでてくれたのがわかった。
「いえ……殿下のせいではありません……」
誰のせいでもない。むしろ、こんな変な体質になってしまった自分自身のせいなのだ。
「それで、いつまでそうやって潜っているつもりだ?」
いつまでも顔を出そうとしないシェリルを案じているのか、その声色もどこか不安げなものにかわってくる。
「だ、だ、だって……恥ずかしいので……」
あきれるようなため息が聞こえた。
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